その姿はまさしく可憐な少女である

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「お嬢ちゃん。ねぇ誰か待ってんの?」

「……」

長い黒髪を花飾りで二つ括り、黒い着物に身を包んだ少女が煉瓦造りの壁沿いに立っていた。少女に声をかけた男の連れが、男に言う。

「こいつ昨日から同じ姿勢ポーズだせ。死んでんじゃねぇの?」

「……」

「あっ、今瞬きしたよ」

「……!」

「うお、動いた」

男達が声を上げる中、動き出した少女は一点を見つめて一歩踏み出す。そしてその幼い手を伸ばした。その手はパシッと茶色の外套を掴む。

「−−−え? 私?」

「……見付けた」

外套を掴まれた太宰は素っ頓狂な声を上げた。瞬間、ゴォォ…っと少女の背から闇が現れる。さすがの太宰も目を見張った。

「……これはまずい」







翌日

「太宰が行方不明ぃ?」

「電話も繋がりませんし、下宿にも帰ってないようで…」

「「「……」」」

慌てる敦。その言葉を聞く国木田、乱歩、賢治は呆れたと言わんばかりの表情を浮かべる。

「また川だろ」
「また土中では?」
「また拘置所でしょ」

「……」

信頼ないんだなぁ…と敦は心の中でため息をついた。だが何かあってはまずいのではという思いもある。

「しかし、先日の一件もありますし……。真逆マフィアに暗殺されたとか……」

「阿呆か。あの男の危機察知能力と生命力は悪夢の域だ。あれだけ自殺未遂を重ねてまだ一度も死んでいない奴だぞ」

国木田はティーカップをテーブルに置く。

「己自身が殺せん奴を、マフィア如きが殺せるものか」

「でも……」

「僕が調べておくよ」

ガチャっと扉が開く音と同時に谷崎の声がする。その音と声に座って茶を嗜んでいた国木田、乱歩、賢治が立ち上がる。敦は声を上げた。

「谷崎さん無事でしたか!」

敦の言葉に笑顔で手を振る谷崎。

「与謝野先生の治療の賜物だな」

谷崎は国木田の言葉にそうですね、と照れたように頭をかく。国木田が眼鏡をクイッと上げた。

「谷崎」

「?」

「何度解体された?」

「!!!」

谷崎の顔が一瞬で青ざめる。そしてがっくりと肩を落とした。

「……四回」

「「「あーー」」」

「?」

四人の反応に怪訝な顔をする敦。谷崎はしゃがみこみガタガタと身体を震わせる。

「敦君、探偵社で怪我だけは絶対しちゃ駄目だよ」

「? でもさんは治療してほしいって言ってましたけど」

「!! 駄目! それは君が、へっ、変態なだけだから!!」

「変態!!?」

「まぁ、確かに変態だね」
「「(うんうん)」」

谷崎が震えながらも怒鳴り、乱歩が同意する。そして国木田と賢治も頷いて同意を示す。

「今回はマフィア相手と知れた時点で逃げなかった谷崎が悪い」

「マズいと思ったらすぐ逃げる。危機察知能力だね。例えば……今から10秒後」

「?」

乱歩が懐中時計を手にニヤッと笑う。





「ふァ〜〜〜〜あ。寝すぎちまったよ」

医務室から与謝野があくびをして出てきた。谷崎がその声に跳ねるように肩を震わせる。

「与謝野さん」

「ああ、新入りの敦だね。どっか怪我はしてないかい?」

「ええ、大丈夫です」

「ちえっ」

「……?」

「ところで、誰かに買出しの荷持ちを頼もうと思ったンだけど……」

与謝野はキョロキョロと辺りを見渡した後、敦に目を向けた。

「アンタしか居ないようだねェ」

「え!!」

敦は部屋をぐるっと見渡した。確かに先ほどまでここに自分以外で四人いたのに…と。しかし姿は忽然と消えていた。

「(危機察知能力って、これ……?)」

「待ち合わせの時間に遅れているから、すぐ出るよ」

「待ち合わせですか!?」

「ああ、アンタも知ってる奴さ」







横浜駅。敦はつかつかと歩く与謝野の背中を追いかける。

「与謝野先生! こっちです〜」

与謝野に向けて手を振る女性の声が聞こえ、敦は顔を上げる。眼前にいるのは、白い髪に白い肌。クリッとしたグレーの瞳を持つ少女だった。
フリルの多い白のワンピースの上にまたまた白い外套に身を包み、白い靴と白いカバンを持つ真っ白な少女が立っていた。その可憐さは周りの男性達がつい二度見してしまう程だ。

「待たせたね」

「大丈夫ですよ。それで潤君の治療は終わりましたか?」

「ああ、全快だよ」

「わぁ! 良かったですー」

与謝野とニコニコと話す少女。敦はその少女を見たことがなかった。少女は立ち尽くす敦に気づく。

「敦さんも一緒なんです?」

「ああ、荷持ちにね」

「あらあら。捕まっちゃったんですね〜」

ふふっと可憐に笑う少女。敦は素直にかわいいなぁと思った。

「でも、あれ? なんで僕を知っているんですか?」

「? 何言ってんだい。昨日アンタ会ってるだろ?」

「へっ?」

「あー…、先生。この姿では会ってないから敦さん分からないと……」

「ああ、そうか。そういやそうだね」

「??」

敦は首を傾げるばかり。そんな敦に少女は一度お辞儀をし、ニコッと笑いかけた。

「昨日ぶりです。敦さん。夢見 です」

「ええ!!?」

敦は大声をあげる。昨日会ったは自分よりも身長が高く、しかも男だ。目の前の可憐な少女とは似ても似つかない。

「えっ…? でも、さんは男の人で……? え、女性? 双子??」

「あはははは。相当混乱しているねェ。ちょっと茶でもしようか。このままだと荷が落とされそうだ」

「いいですね。そこに新しくホットケーキが美味しいカフェが出来たらしいんです。どうですか?」

「いいね、行こうか」

「はい。敦さんも一緒に」

「えっ? えっ?」

少女の姿のに手を引かれ三人でカフェに入った。







「それも“異能”なんですか!!?」

「コラッ! 声が大きい!!」

「あっ、すみません!!」

敦は口を塞いだ。テーブルを挟んで向かい側にいる与謝野に怒られる。はニコニコと笑っていた。
先に飲み物が置かれたテーブルに焼き立てのホットケーキが届く。店員がごゆっくりと席を離れるのを笑顔で見送る。

「そうなんです。私の異能“二次創作”で再現できる異能の一つです」

「“性別を変えることができる”って異能らしい」

「えっと…ちなみに。どちらが本来のさんなんですか…?」

「昨日会った男の方ですよー」

「!」

何から何まで少女の見かけで男だと言われるとなんだか複雑な気分になる敦だが、混乱はやっと収まったようだ。

「でも、なんでそんな格好を? 今日、さんはお休みだって…」

「与謝野先生との“約束”なのです」

「?」

ホットケーキを咀嚼し、コーヒーを飲んでからは鈴のなるような声で答えた。

「実は明日にでも敦さんをお食事に誘おうとしていたのですが、ちょうどいい機会なので、少しお話してもいいですか?」

「構わないよ」
「え…あ、はい」

「ありがとうございます。ええっと、私の異能は“観察・分析・想像”という過程を経て再現となります」

「ああ、太宰さんが言ってましたね」

「そうですね。昨日お話していた通りです」

「えっと、あと観察のためにご飯に行くとか」

「あらあら、すでに御存知いただけているのですね。嬉しいです! 観察といっても敦さんに何かしてほしいとお願いする訳ではありません。ただ側に居させてもらえれば。それが苦手だと苦痛かもしれませんが、大丈夫でしょうか?」

「え、ああ。まぁ同じ社員である以上仕事を一緒にすることもあると思いますし、ご飯も大丈夫です」

「良かったぁ!!」

満面の笑みで笑う。不覚にもいや、普通にかわいい。と敦は思った。

「あと、このお話をさせて頂く際、私ばかりもらうのは申し訳ないので、協力して頂ける方に一つ“約束”をしています」

「約束?」

「見返りって言った方が良いかもねェ」

「?」

「そう。皆さん側からすれば見返り、私からすれば約束になりますね」

「というと?」

「敦さんが私にしてほしいことを1つ言ってください。それは長期に渡るものでも構いません」

「異能を覚えるときはいつもそうしているんですか?」

「いいえ。これは異能とは関係ありません。ただ、私の異能は他者の異能ありきではありますので、素敵な異能を見せていただけることへのお礼という意味でさせていただいています。
あと、この約束は探偵社の皆さんとだけに適用のこと。と、社長から言伝されていますので、心苦しいですが、探偵社の皆さん以外の方へは勝手に観察させていただいています」

「なるほど…」

「“約束”はすぐには思いつかないと思います。なので決まってからで構いません。私の観察が終わってからでも約束は有効です」

「んんー確かに難しいですね。あ、皆さんとはどんな約束をしてるんですか?」

「そうですね、例えば与謝野先生とは“買い物行くときは女性になって一緒に楽しむ”とか」

「この姿かわいいだろ? 今日は久々にの服も選ぶからね」

「はーい」

「(さっきの約束ってそういうことか…)」

「あと、乱歩さんは“遠征先ではお菓子を必ず買うこと”、国木田さんは“真面目に仕事をする”こと、ですかね」

「あははは。国木田らしい」

「多分、タイミングですね。私が太宰さんの真似をしたあとだったので、国木田さん大分お疲れでしたから」

「なるほど……。少し考えてもいいですか?」

「ええ。もちろん!」

「じゃあ、話もついたようだし、買い物行こうかね」

「はい!」







「ま、まだ購うんですか?」

「落とすンじゃないよ?」

「ふふふ」

「落としたら……」
「……」

与謝野の意味深な笑みにああはは……と敦は笑う。両手いっぱい、しかも頭の上まで荷物がある。いつ落としてもおかしくない。敦は気を配りながら、歩く。
ふとその横を黒い着物の少女がすれ違った。少女と敦が視線が合う。しかし少女はすぐに視線を外した。
それを不思議そうに敦を見ていると、通りすがりの人とぶつかる。弾みで一番上に置いていたレモンの入った袋をはじめ荷物が次々と地面に落ちた。

「この給金泥棒が、早く迎えを寄越せ!」

高価そうな服を纏った男が、携帯電話越しに怒鳴っている。地面を蹴るように男が足をあげると、その下にレモンが転がり、男はそれを踏んでしまった。

「ウォウッ!?」

「あーあー」
「うわっ。大丈夫ですか!」

「どうしてくれる! 欧州職人の特別誂えだぞ!」

「す、すみません。ホントに……」

大袈裟に転んだ男は、慌てて立ち上がるとそう怒鳴った。敦は慌てて謝るが顔は引きつっていた。そんな中、与謝野が跪く。

「御容赦を。お怪我は?」

パンパンと男のズボンの裾の汚れを払う。そして笑顔で尋ねた。

「五月蝿い!!」
「与謝野先生!!」

男が与謝野を蹴る。それに驚いたが与謝野に近づこうとした。しかし与謝野はそれを手で制す。男はそんな機微を知ることもなく、怒鳴りつける。

「女の癖に儂を誰だと思ってる! 貴様らの勤め先など電話一本で潰してーーー」

「女の癖に?」

男は与謝野を見下しながら、指をさす。与謝野はその指された指へ手を伸ばすと、手袋越しに握りつぶした。

「そいつは恐れ入ったねェ。女らしくアンタの貧相な××を踏み潰して××してやろうか?」

「……ッ」

ゾッとするような言葉を聞き、男が固まった。与謝野がこちらを振り返る。

「はい」
「!」

クイっと首を動かした与謝野に頷き、は敦に荷物を渡すと立ち上がる。敦も頷き三人はその場を後にした。





改札の前に着いた所で携帯が震える。は鞄から携帯を取り出した。

「あれ? 国木田さんです。出ますね」

は二人に了承をとり、電話に出る。

「はい、です。あ、そうなんです。今女性で…はい、どうされましたか? ええ…与謝野先生と敦さんと。ああ、多分荷物を持たれてたからだと……少しお待ちいただけますか?」

は電話から耳を話すと、二人の方に向く。

「国木田さんからこの近くの会社へ書類を取りに行く様に言われました。敦さんの携帯にも連絡したそうですが、気がつかなかったみたいで。
その荷物で行くのは大変でしょうから私が向かおうと思います。良いでしょうか?」

「一通り回れたから構わないけど、アンタは非番なのにいいのかい?」

「ええ、構いません。与謝野先生と敦さんは戻られますよね?」

「そうだね」

はわかりましたと、携帯に再び耳を当てる。

「国木田さん、お待たせしました。敦さんは荷持ちされてますので、私が行きます。この姿でも大丈夫でしょうか? はい。住所は…ああ、わかります。じゃあ国木田さんのお名前を出して、佐藤さんですね。承知しました。では預かりましたら社によります。
? はい。……ああ、潤君! お久しぶりです。昨日はお疲れのようでしたので、お声がけできてなくて…。いえいえ。
はい。え? ああ、太宰さんですか。昨日は食事をしてそのまま別れましたが…。あらあらまた入水でしょうか。お探ししますか?………はい、分かりました。こちらもこの辺りみてから帰ります。では」

は電話を切る。荷物を整えた敦は頭を下げた。

さんすみません。お休みの日に」

「構いませんよ。すぐそばの会社さんでした。それに今日は敦さんと周れてとっても楽しかったです」

「!! あ、ぼっ僕も楽しかったです」

「ふふ。また行きましょう。与謝野先生! 帰ったら服着ますね」

「ああ。次はナオミも一緒に女子会だね」

「喜んで♪」

そんな話をしながら与謝野と敦を駅まで見送り、は国木田の仕事のため駅へ背を向ける。

「(太宰さん、どこに行ったのでしょうか。早速あの件で、調査を?)」

は歩きながら、考える。しかし神出鬼没の彼の行方を探すのは中々難しいことも知っている。なので、はひとまず国木田の仕事から片付けようと足を進めた。
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