【W7編】 ガレーラカンパニー 入社試験!
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「おお~ すごいのォ!」
『……』
水の都、ウォーターセブン。
今この街の水路を一台のヤガラにカクとルンペンが乗っている。彼らはこの街にある、企業ガレーラカンパニーへ潜入するために訪れていた。
カクは目を輝かせながら街を見渡している。一方のルンペンは後ろの席で分厚い本を読みふけっていた。
「水路の街とは聞いておったが、これほどまでとはのォ」
『……』
「なァ、ルンペン」
『……』
「おい、聞いておるのか!!」
『!』
ガバッとカクは前からルンペンが読んでいた本を取り上げた。ルンペンは不満を隠さない。
『……なんだ?』
「“なんだ?”…じゃなかろう!! せっかく面白い街に来たのに本ばっかり読みよって!」
カクは眉間にしわを寄せてルンペンの声をまねたかと思うと、怒鳴る。ルンペンは、カクにめんどくさそうな目を向ける。
『資料で写真は見た。それに当分ここにいることになるなら、今見る必要はない』
「ブー!! つまらん」
口を尖らせてブーブーいうカク。ルンペンは肩を落とした。
『……お前、これが任務だとわかっているのか……?』
「わかっておる!! じゃが、一般人に化けるなんて初めてなんじゃ。おもしろいじゃろ」
カクはいつもの黒服ではなく、かなりカラフルな格好をしている。歳のせいもあるが、十二分に“一般の青年”となっていた。
『……』
「知っておるか? ブルーノは酒場の店主、ルッチがワシと同じ大工で、カリファが社長秘書じゃ」
『…資料で見た』
「じゃが、ルンペンはあいつらの変装姿を見てなかったじゃろ? おもしろかったぞォ~」
『?』
「特にルッチはのォ!! わしは腹がよじれるかと思うたわ」
ケタケタと笑うカク。ルンペンはあきれ顔で背もたれにもたれると、空を見上げた。
【ガレーラカンパニー 入社試験!】
「おー。ごつい奴らがいっぱいじゃ」
『……』
ヤガラから降り立った2人は、ガレーラカンパニーが月1回行う入社試験の会場へ足を踏み入れる。辺りを見渡すカクとは対照的にルンペンは“受付”と書かれた看板へ足を向けていた。
「! おお、待てルンペン!!」
ルンペンが歩き出しのに合わせて、カクもついて行く。受付には一人の女性が座っていた。
『受付を頼みたいんだが』
「はい。紹介状はお持ちですか?」
ルンペンは紙を差し出した。その紙を受け取ったのは、キリッとした顔つきの社長秘書のカリファだ。
「はい、確かに受け取りました。ルンペンさんはこちらのナンバーを、カクさんはこちらのナンバーをお付けください」
2人はナンバープレートを受け取り、胸につける。
「それにしても、ようもこんなに人が集まったもんじゃなァ」
「毎月これくらいは集まりますよ」
「そうなんか!!?」
「ガレーラカンパニーはそれだけの企業ということです。あと、こちらが各会場の案内となります」
ルンペンとカクのそれぞれに、会場の案内地図が渡される。
「資材班の試験会場は4番。大工班の試験会場は1番です。試験時間は1時ちょうどとなります。遅刻のないようにお願いしますね」
「おう、まかせろ!」
「資材班の方は…」
『……』
カリファは意味ありげにルンペンの目を見て口を動かした。ルンペンは頷くと案内資料を受け取ると機微を返して歩いて行った。
「? ルンペンはマイペースじゃなァ」
カクは帽子に手を置いて、ため息をひとつついた。カリファはそんな2人に微笑んだ。
*
受付を終えたルンペンは、待合室と称された大きな広場の片隅に立っていた。
「おおい、ルンペン! 待たんかー」
『……』
「門下生同士仲良く行動するって話はどうなったんじゃ」
『“仲良く”とは聞いていない』
「あー!! もう、ええわ。まったく、だから人づきあいが悪いって言われるんじゃぞ」
『別に構わない』
「……はぁ。で、カリファはなんて言ったんじゃ?」
ぼそぼそとルンペンに耳打ちするように尋ねるカク。受付でカリファがルンペンを見ながら、小さく口を動かしていたこと、それにルンペンが頷いていた意味を聞いているようだ。
ルンペンは呆れた目を向ける。
『わからないのか?』
「わからん。わしは“読唇”は出来ん」
『…“資材班の会場に来る”とのことだ』
「!? “ターゲット”がか??」
ルンペンはまばたきで肯定した。それから10分程、ルンペンはカクの無駄話を聞き流していた。
カクもそんな重要な話ではないので、黙って聞いているルンペンに気にすることなく話していた。そして、12時50分。それぞれが会場に向かうことになった。
「じぁあの、ルンペン! 落ちるんじゃないぞ!」
『……、自分の心配をしていろ』
「わしは受かると決まっとる!」
カクはニコッと元気よくほほ笑むと、大工班の試験会場へ向かって行った。
『……フン』
ルンペンは露ほどに心配しない顔でカクを見送ったあと、4番“資材班”の会場へ入っていく。すると、会場内がざわめいた。
『?』
「おい、あいつ参加者だったのか?」
「白衣姿のネェちゃん? 医療班とか??」
「なんで資材班に?? そんな部門ねェよ」
「それに、あいつ男だろ?」
「いやいやそれは…」
『……』
入口付近にたむろしていた屈強な男どもが騒ぐ。その言葉は自分に向けられているモノであるというのは、視線と共にルンペンは十分に理解していた。
ルンペンは眼鏡のフレームに手を触れると、ひとつため息をついた。
「ンマー。何事も実力の世界だ。見かけは関係ないぞ」
「「「!!?」」」
『!』
ルンペンはゆっくりと後ろを振り返る。そこにはアイスバーグと呼ばれる男、ガレーラカンパニーの社長が立っていた。
腕を組んだアイスバーグの姿を見て会場は色めきだった。
「おいおい、あれ! アイスバーグ社長じゃ……」
「なんでここに……?」
「アイスバークさんは本日、資材班の試験を見学されます」
ざわめきをかき消すように大きな声をあげたのは、受付にいたカリファだった。今は片手にノートを携え、アイスバーグの一歩後ろに立っている。
『……』
ルンペンは、驚く素振りも見せず、無表情でアイスバーグを観察した。
この作戦最大のターゲットである男が今、目の前にいる。印象をつけることが求められていると、感じざるおえない。
『……実力で評価いただける、その言葉信じても?』
「おう、もちろんだ。うちは実力者しか雇わない」
ルンペンは微笑んで見せた。アイスバークは一瞬驚きの顔を見せ、そして笑う。
「期待している」
*
「では、資材部の試験を開始します。出されたお題に従い材料を選び、手をあげて下さい。審議中は他の参加者も手を止めても大丈夫です。当社の5人の職人が評価します。
なお、あらかじめ正解となる木はこちらで用意していますが、理由いかんによってはそれ以外も評価点になります。ぜひご自身の実力を存分に発揮して下さい」
資材部の人間が紙を片手に説明する。その側には布に覆われた船があった。皆はあれが課題であることを理解しているのか、目線はそちらを向いている。
『……』
「それでは早速参ります。今回の入社試験課題はこちら!」
ババンッと!!船に掛けられた大きな布が剥がされる。船の側面に大きな穴が空いている。
「見ての通り、ここに大穴が空いています。ここに合う木を指定して下さい。制限時間は1時間。それではスタート!!」
試験を受けるナンバーをつけた人間達は、急いで課題の船の側に走って行く。まず状況を確かめる。その行為は当たり前のものだ。
『……』
そんな中、ルンペンは大きな穴が空いた側面ではなく船の舳先へ向かう。そして1分程そこに立っていたかと思えば、資材の置いてある場所へ歩いて行く。
そんなルンペンの様子をアイスバークは興味津々に見ていた。
「カリファ。あの美人さんの名前は?」
「はい。彼はライク・ルンペン。オウルグループの資材管理を担当していたとのことです。今回船大工の試験を受けているカクと言う青年と同じ門下で、一緒にここを目指しやって来たようです」
「オウル? 聞かない名だな」
「はい。調べましたところ、サウスブルーで船の整備を主にしている会社とのこと。…とても優秀との噂です」
「ンマー。もう調べていたのか。ふむ。カリファから見て、彼は良さそうか?」
カリファは眼鏡をクイッとあげ、キリッとした笑みを作る。
「はい。そのように見えます」
「それはより期待できるな」
アイスバーグはニヤリと笑い、ルンペンを追う。歩くルンペンの横を走る他の参加者。
それぞれが木の見聞を始めざわざわとしている中、ルンペンはただただ一点に向けて足を運ぶ。そしてその木に触れ、何かを呟く。
「何をしているんだ?」
「…何でしょうか」
アイスバーグとカリファが首を傾げていると、ルンペンが手をあげる。始まって5分も経っていない。
「おおっと、もう手が上がりました。No.55 ライク・ルンペンさんです。では評価をお願いします」
5人の職人がルンペンの指定した木へ歩み寄る。
「あれは正解ではないな」
「はい…どちらかと言うと見合わないかと」
アイスバーグとカリファは少し離れたところで見守る。一人の職人がルンペンに尋ねた。
「では、この木を選んだ理由を」
『アンタ達がこの木を正解としていないからだ』
「「「!!!」」」
ルンペンの言葉に会場が驚く。
「それが分かっていて選んだのか?」
『ああ。アンタ達が選んだ木は悪くはないが、おれならばこちらを使う』
「その根拠は?」
『大破している部分は側面のアール。通常であればその流れにそう同じ曲がり具合になるであろう年輪の木を使う。アンタ達が選んだものは加工として見合う。しかし、その木は“そこに使われたくないと言っている”』
「「「は…?」」」
「……」
『木同士の反りが合わない。加工はしやすいが、大破している部分と整合性に難がある。つけても馴染まない。
それに比べてこちらの木はそこに使われることを望んでいる。加工する際、通常の切り方では見合わないが、こちらから切れば問題ない』
「…アンタ、さっきから何を言っているんだ? 木同士の反りが合わないとか、使われたくないとか」
『おれは木と会話することができる。そこから言葉を受け、選定している』
「「「……」」」
周りがザワザワと騒めく。その中には失笑とも取れる笑い声が混じっている。
「おいおい、アイツ頭逝ってんじゃねェ?」
「木と会話できるってどこの物語だよ」
「大したことなくね?」
「……」
職人達も顔を見合わせやれやれと言う顔をしている。場が白けかけたその時、アイスバーグが歩み寄った。
「ンマーとりあえず、加工してみな。それで答えがわかるだろう」
*
「――――期待しているとは言ったが、あそこまであっさり合格されるとはなぁ」
『……』
場所は変わって豪華な応接室のソファに座っているルンペンは、楽しげに話すアイスバーグと対面していた。
試験の結果は言うまでもなく、合格。アイスバーグの指示により加工されたその木は見事にお題の船に馴染んだ。またルンペンの指示があった方から切ると加工もしやすく、難ありだと思われていた材料に新たな役割を与えたのだった。結局のところルンペンが頭ひとつもふたつも抜けていた。
「わしも、危なげなく通ったんじゃぞ!」
「ンマー確かに。あまり名を聞かない門下の出だったが、二人とも優秀だ。よろしく頼むぞ」
『ありがとうございます』
「社長。1番ドッグの職長が参りました」
カリファが隣の部屋から、顔を出した。アイスバーグは頷くと、ルンペンとカクに目を向ける。
「合格した中で特にお前達二人には、能力を買って、うちの1番ドッグに入ってもらう」
アイスバーグの言葉に合わせたタイミングで、職長達が入ってくる。アイスバーグの右側に立つとは、金髪を後ろに流し、腰にロープを提げている男。その隣には大柄の男が二人。
そして、アイスバーグの左側に立ったのは、タンクトップに黒いズボン。頭にシルクハットをかぶり、肩に白い鳩が得意気にこちらを見ている。そう、ロブ・ルッチだ。いつもの威厳は閉ざされた口元のみにあるように見える。
カクは、かすかに肩を揺らす。どうやら笑いを堪えているようだ。ルンペンは、ただ現状を見ているだけ。カクの様子をみて、金髪がルッチを見る。
「おい、ルッチ。てめェ笑われてるぞ」
「違うっぽ。お前が笑われているんだっぽ」
白いハトのハットリがニヒルに笑う。カクが吹き出した。
「ワハハハッ!! ハトがしゃべりよった!!」
『……』
「ほらやっぱり、てめェのことだったじゃねェか!!」
「うるさいっぽー」
「ワハハハハハ……!!」
『……カク』
「いや、だっての。ハトがしゃべるのが珍しくてじゃな……!!」
絶対違う理由で笑っているのだが、なんとか取り繕うカク。ルッチの目の奥が相当ギラギラしているのをカクは気付いていないようだ。
「ンマー。左がパウリーで、右がロブ・ルッチだ。もちろん他にもいるが…、コイツ等が教育係であり、お前達の仲間だ。仲良くしろよ」
「アイスバーグさんが言うなら仕方ねェ、まぁ、よろしく頼むぜ」
「おう、よろしくの」
「よろしくだっぽ」
『……』
ルンペンは目で会釈をする。
「アイスバークさん、ひとついいですか?」
「なんだ?」
パウリーが手を上げる。
「なんで、今回女を採用したんです?」
「は?」
「「「!?」」」
パウリーの言葉にルッチ・カク・カリファが一瞬顔を引きつらせる。
「ンマー…、…ルンペンは男だぞ?」
「ええ!!!?」
『……』
「ルンペン、ルンペン! ここは冷静に…」
『…別に気にしていない。俺は実力でここいるんだからな』
「「「!」」」
ルンペンは、3人の心配をよそに至って普通に答えた。パウリーは驚きの声をあげる。
「なんて口の聞き方だ……!」
「今のはパウリーが悪いっぽ」
ルッチの肩に乗るハットリが呆れるような目でパウリーを見ながら喋る。パウリーはうるせェ!!と怒鳴るだけだった。
「まぁ、ひとまず顔合わせはいいだろう。二人とも明日から期待しているぞ」
「おう!」
『はい』
ルンペンのW7での暮らしがスタートした。
『……』
水の都、ウォーターセブン。
今この街の水路を一台のヤガラにカクとルンペンが乗っている。彼らはこの街にある、企業ガレーラカンパニーへ潜入するために訪れていた。
カクは目を輝かせながら街を見渡している。一方のルンペンは後ろの席で分厚い本を読みふけっていた。
「水路の街とは聞いておったが、これほどまでとはのォ」
『……』
「なァ、ルンペン」
『……』
「おい、聞いておるのか!!」
『!』
ガバッとカクは前からルンペンが読んでいた本を取り上げた。ルンペンは不満を隠さない。
『……なんだ?』
「“なんだ?”…じゃなかろう!! せっかく面白い街に来たのに本ばっかり読みよって!」
カクは眉間にしわを寄せてルンペンの声をまねたかと思うと、怒鳴る。ルンペンは、カクにめんどくさそうな目を向ける。
『資料で写真は見た。それに当分ここにいることになるなら、今見る必要はない』
「ブー!! つまらん」
口を尖らせてブーブーいうカク。ルンペンは肩を落とした。
『……お前、これが任務だとわかっているのか……?』
「わかっておる!! じゃが、一般人に化けるなんて初めてなんじゃ。おもしろいじゃろ」
カクはいつもの黒服ではなく、かなりカラフルな格好をしている。歳のせいもあるが、十二分に“一般の青年”となっていた。
『……』
「知っておるか? ブルーノは酒場の店主、ルッチがワシと同じ大工で、カリファが社長秘書じゃ」
『…資料で見た』
「じゃが、ルンペンはあいつらの変装姿を見てなかったじゃろ? おもしろかったぞォ~」
『?』
「特にルッチはのォ!! わしは腹がよじれるかと思うたわ」
ケタケタと笑うカク。ルンペンはあきれ顔で背もたれにもたれると、空を見上げた。
【ガレーラカンパニー 入社試験!】
「おー。ごつい奴らがいっぱいじゃ」
『……』
ヤガラから降り立った2人は、ガレーラカンパニーが月1回行う入社試験の会場へ足を踏み入れる。辺りを見渡すカクとは対照的にルンペンは“受付”と書かれた看板へ足を向けていた。
「! おお、待てルンペン!!」
ルンペンが歩き出しのに合わせて、カクもついて行く。受付には一人の女性が座っていた。
『受付を頼みたいんだが』
「はい。紹介状はお持ちですか?」
ルンペンは紙を差し出した。その紙を受け取ったのは、キリッとした顔つきの社長秘書のカリファだ。
「はい、確かに受け取りました。ルンペンさんはこちらのナンバーを、カクさんはこちらのナンバーをお付けください」
2人はナンバープレートを受け取り、胸につける。
「それにしても、ようもこんなに人が集まったもんじゃなァ」
「毎月これくらいは集まりますよ」
「そうなんか!!?」
「ガレーラカンパニーはそれだけの企業ということです。あと、こちらが各会場の案内となります」
ルンペンとカクのそれぞれに、会場の案内地図が渡される。
「資材班の試験会場は4番。大工班の試験会場は1番です。試験時間は1時ちょうどとなります。遅刻のないようにお願いしますね」
「おう、まかせろ!」
「資材班の方は…」
『……』
カリファは意味ありげにルンペンの目を見て口を動かした。ルンペンは頷くと案内資料を受け取ると機微を返して歩いて行った。
「? ルンペンはマイペースじゃなァ」
カクは帽子に手を置いて、ため息をひとつついた。カリファはそんな2人に微笑んだ。
*
受付を終えたルンペンは、待合室と称された大きな広場の片隅に立っていた。
「おおい、ルンペン! 待たんかー」
『……』
「門下生同士仲良く行動するって話はどうなったんじゃ」
『“仲良く”とは聞いていない』
「あー!! もう、ええわ。まったく、だから人づきあいが悪いって言われるんじゃぞ」
『別に構わない』
「……はぁ。で、カリファはなんて言ったんじゃ?」
ぼそぼそとルンペンに耳打ちするように尋ねるカク。受付でカリファがルンペンを見ながら、小さく口を動かしていたこと、それにルンペンが頷いていた意味を聞いているようだ。
ルンペンは呆れた目を向ける。
『わからないのか?』
「わからん。わしは“読唇”は出来ん」
『…“資材班の会場に来る”とのことだ』
「!? “ターゲット”がか??」
ルンペンはまばたきで肯定した。それから10分程、ルンペンはカクの無駄話を聞き流していた。
カクもそんな重要な話ではないので、黙って聞いているルンペンに気にすることなく話していた。そして、12時50分。それぞれが会場に向かうことになった。
「じぁあの、ルンペン! 落ちるんじゃないぞ!」
『……、自分の心配をしていろ』
「わしは受かると決まっとる!」
カクはニコッと元気よくほほ笑むと、大工班の試験会場へ向かって行った。
『……フン』
ルンペンは露ほどに心配しない顔でカクを見送ったあと、4番“資材班”の会場へ入っていく。すると、会場内がざわめいた。
『?』
「おい、あいつ参加者だったのか?」
「白衣姿のネェちゃん? 医療班とか??」
「なんで資材班に?? そんな部門ねェよ」
「それに、あいつ男だろ?」
「いやいやそれは…」
『……』
入口付近にたむろしていた屈強な男どもが騒ぐ。その言葉は自分に向けられているモノであるというのは、視線と共にルンペンは十分に理解していた。
ルンペンは眼鏡のフレームに手を触れると、ひとつため息をついた。
「ンマー。何事も実力の世界だ。見かけは関係ないぞ」
「「「!!?」」」
『!』
ルンペンはゆっくりと後ろを振り返る。そこにはアイスバーグと呼ばれる男、ガレーラカンパニーの社長が立っていた。
腕を組んだアイスバーグの姿を見て会場は色めきだった。
「おいおい、あれ! アイスバーグ社長じゃ……」
「なんでここに……?」
「アイスバークさんは本日、資材班の試験を見学されます」
ざわめきをかき消すように大きな声をあげたのは、受付にいたカリファだった。今は片手にノートを携え、アイスバーグの一歩後ろに立っている。
『……』
ルンペンは、驚く素振りも見せず、無表情でアイスバーグを観察した。
この作戦最大のターゲットである男が今、目の前にいる。印象をつけることが求められていると、感じざるおえない。
『……実力で評価いただける、その言葉信じても?』
「おう、もちろんだ。うちは実力者しか雇わない」
ルンペンは微笑んで見せた。アイスバークは一瞬驚きの顔を見せ、そして笑う。
「期待している」
*
「では、資材部の試験を開始します。出されたお題に従い材料を選び、手をあげて下さい。審議中は他の参加者も手を止めても大丈夫です。当社の5人の職人が評価します。
なお、あらかじめ正解となる木はこちらで用意していますが、理由いかんによってはそれ以外も評価点になります。ぜひご自身の実力を存分に発揮して下さい」
資材部の人間が紙を片手に説明する。その側には布に覆われた船があった。皆はあれが課題であることを理解しているのか、目線はそちらを向いている。
『……』
「それでは早速参ります。今回の入社試験課題はこちら!」
ババンッと!!船に掛けられた大きな布が剥がされる。船の側面に大きな穴が空いている。
「見ての通り、ここに大穴が空いています。ここに合う木を指定して下さい。制限時間は1時間。それではスタート!!」
試験を受けるナンバーをつけた人間達は、急いで課題の船の側に走って行く。まず状況を確かめる。その行為は当たり前のものだ。
『……』
そんな中、ルンペンは大きな穴が空いた側面ではなく船の舳先へ向かう。そして1分程そこに立っていたかと思えば、資材の置いてある場所へ歩いて行く。
そんなルンペンの様子をアイスバークは興味津々に見ていた。
「カリファ。あの美人さんの名前は?」
「はい。彼はライク・ルンペン。オウルグループの資材管理を担当していたとのことです。今回船大工の試験を受けているカクと言う青年と同じ門下で、一緒にここを目指しやって来たようです」
「オウル? 聞かない名だな」
「はい。調べましたところ、サウスブルーで船の整備を主にしている会社とのこと。…とても優秀との噂です」
「ンマー。もう調べていたのか。ふむ。カリファから見て、彼は良さそうか?」
カリファは眼鏡をクイッとあげ、キリッとした笑みを作る。
「はい。そのように見えます」
「それはより期待できるな」
アイスバーグはニヤリと笑い、ルンペンを追う。歩くルンペンの横を走る他の参加者。
それぞれが木の見聞を始めざわざわとしている中、ルンペンはただただ一点に向けて足を運ぶ。そしてその木に触れ、何かを呟く。
「何をしているんだ?」
「…何でしょうか」
アイスバーグとカリファが首を傾げていると、ルンペンが手をあげる。始まって5分も経っていない。
「おおっと、もう手が上がりました。No.55 ライク・ルンペンさんです。では評価をお願いします」
5人の職人がルンペンの指定した木へ歩み寄る。
「あれは正解ではないな」
「はい…どちらかと言うと見合わないかと」
アイスバーグとカリファは少し離れたところで見守る。一人の職人がルンペンに尋ねた。
「では、この木を選んだ理由を」
『アンタ達がこの木を正解としていないからだ』
「「「!!!」」」
ルンペンの言葉に会場が驚く。
「それが分かっていて選んだのか?」
『ああ。アンタ達が選んだ木は悪くはないが、おれならばこちらを使う』
「その根拠は?」
『大破している部分は側面のアール。通常であればその流れにそう同じ曲がり具合になるであろう年輪の木を使う。アンタ達が選んだものは加工として見合う。しかし、その木は“そこに使われたくないと言っている”』
「「「は…?」」」
「……」
『木同士の反りが合わない。加工はしやすいが、大破している部分と整合性に難がある。つけても馴染まない。
それに比べてこちらの木はそこに使われることを望んでいる。加工する際、通常の切り方では見合わないが、こちらから切れば問題ない』
「…アンタ、さっきから何を言っているんだ? 木同士の反りが合わないとか、使われたくないとか」
『おれは木と会話することができる。そこから言葉を受け、選定している』
「「「……」」」
周りがザワザワと騒めく。その中には失笑とも取れる笑い声が混じっている。
「おいおい、アイツ頭逝ってんじゃねェ?」
「木と会話できるってどこの物語だよ」
「大したことなくね?」
「……」
職人達も顔を見合わせやれやれと言う顔をしている。場が白けかけたその時、アイスバーグが歩み寄った。
「ンマーとりあえず、加工してみな。それで答えがわかるだろう」
*
「――――期待しているとは言ったが、あそこまであっさり合格されるとはなぁ」
『……』
場所は変わって豪華な応接室のソファに座っているルンペンは、楽しげに話すアイスバーグと対面していた。
試験の結果は言うまでもなく、合格。アイスバーグの指示により加工されたその木は見事にお題の船に馴染んだ。またルンペンの指示があった方から切ると加工もしやすく、難ありだと思われていた材料に新たな役割を与えたのだった。結局のところルンペンが頭ひとつもふたつも抜けていた。
「わしも、危なげなく通ったんじゃぞ!」
「ンマー確かに。あまり名を聞かない門下の出だったが、二人とも優秀だ。よろしく頼むぞ」
『ありがとうございます』
「社長。1番ドッグの職長が参りました」
カリファが隣の部屋から、顔を出した。アイスバーグは頷くと、ルンペンとカクに目を向ける。
「合格した中で特にお前達二人には、能力を買って、うちの1番ドッグに入ってもらう」
アイスバーグの言葉に合わせたタイミングで、職長達が入ってくる。アイスバーグの右側に立つとは、金髪を後ろに流し、腰にロープを提げている男。その隣には大柄の男が二人。
そして、アイスバーグの左側に立ったのは、タンクトップに黒いズボン。頭にシルクハットをかぶり、肩に白い鳩が得意気にこちらを見ている。そう、ロブ・ルッチだ。いつもの威厳は閉ざされた口元のみにあるように見える。
カクは、かすかに肩を揺らす。どうやら笑いを堪えているようだ。ルンペンは、ただ現状を見ているだけ。カクの様子をみて、金髪がルッチを見る。
「おい、ルッチ。てめェ笑われてるぞ」
「違うっぽ。お前が笑われているんだっぽ」
白いハトのハットリがニヒルに笑う。カクが吹き出した。
「ワハハハッ!! ハトがしゃべりよった!!」
『……』
「ほらやっぱり、てめェのことだったじゃねェか!!」
「うるさいっぽー」
「ワハハハハハ……!!」
『……カク』
「いや、だっての。ハトがしゃべるのが珍しくてじゃな……!!」
絶対違う理由で笑っているのだが、なんとか取り繕うカク。ルッチの目の奥が相当ギラギラしているのをカクは気付いていないようだ。
「ンマー。左がパウリーで、右がロブ・ルッチだ。もちろん他にもいるが…、コイツ等が教育係であり、お前達の仲間だ。仲良くしろよ」
「アイスバーグさんが言うなら仕方ねェ、まぁ、よろしく頼むぜ」
「おう、よろしくの」
「よろしくだっぽ」
『……』
ルンペンは目で会釈をする。
「アイスバークさん、ひとついいですか?」
「なんだ?」
パウリーが手を上げる。
「なんで、今回女を採用したんです?」
「は?」
「「「!?」」」
パウリーの言葉にルッチ・カク・カリファが一瞬顔を引きつらせる。
「ンマー…、…ルンペンは男だぞ?」
「ええ!!!?」
『……』
「ルンペン、ルンペン! ここは冷静に…」
『…別に気にしていない。俺は実力でここいるんだからな』
「「「!」」」
ルンペンは、3人の心配をよそに至って普通に答えた。パウリーは驚きの声をあげる。
「なんて口の聞き方だ……!」
「今のはパウリーが悪いっぽ」
ルッチの肩に乗るハットリが呆れるような目でパウリーを見ながら喋る。パウリーはうるせェ!!と怒鳴るだけだった。
「まぁ、ひとまず顔合わせはいいだろう。二人とも明日から期待しているぞ」
「おう!」
『はい』
ルンペンのW7での暮らしがスタートした。