【CP9編】狂人

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訓練所廊下

「? どうしたんじゃ??」
「??」

『……』

まるで糸が切れた人形のようにピクリとも動かなくなったルンペンに二人は困惑する。肩を掴むルッチはルンペンの口が微かに動いたのが見えた。


『……―――』

「?」

『……――入るな』

「!」

ルンペンはそう小さく言葉を呟いたと思えば、突然肩掴むルッチの手を払う。咄嗟のことでルッチの反応が遅れる。


「ぐっ!!」

遅れたことを自覚したルッチがさらに気付いた時にはルンペンの後ろにある壁に向け投げられていた。


ドカン!


「……っ」

「ルッチ、大丈夫か!!?」

壁にぶつかる直前に受け身を取ったためルッチは無傷だ。駆け寄って来たカクに大丈夫だと告げると、背を向けるルンペンを見た。


『…――なイト』

「「!!」」

ルンペンから強い覇気が現れる。カクは心臓が握りつぶされてしまうと思う程、ルンペンの覇気に蹴落とされていた。ルッチもその変化に息をのむ。
背を向けていたルンペンはゆっくりと振り返る。その動作はまるで“今”ルッチとカクの存在に気付いたかのようだった。赤い瞳がギラギラと光る。


『…コロサ、ないト』

「「!!?」」

瞬間、視界からルンペンが消える。ルッチはかろうじて目で追えたが次の行動が間に合わない。


「……――っ!!」

「“鉄塊”!!」


ガキィン…!!


「「!?」」

『……』

「ヘヘ…間に合ったか?」

ジャブラはルッチとカクの前に立ち、ルンペンの指銃を鉄のように硬くした身体で受け止めた。そしてジャブラはルンペンの腕を掴む。


『………コロス…コロす…』

ヒュンとまた指銃がジャブラを襲う。しかしその手に髪の毛が巻きついた。


「よよぉい!!」

『!』

ルンペンは目をギラッとクマドリに向ける。クマドリの髪に巻かれたルンペンの指銃はジャブラに届く寸前で止まっていた。ジャブラは鉄塊状態を解かずルンペンのもう片方の腕を掴んだ。


「クマドリそのまま抑えてろよ!!!」

『ゼンブ……ケ、ス…』

「ギャハハ!! 今日もイってやがんな、ルンペン!―――いいぞ、ブルーノ!!」

「“空気扉エアドア”」

「「!?」」

パカッとルンペンの後ろの空間がドアのように開いた。 その扉からはブルーノが現れる。そしてブルーノは後ろから手を伸ばし、ルンペンの目を隠した。


『……っ』

ルンペンは抵抗するようにギシギシと掴まれた腕を振り払おうとする。ジャブラは腕を無理やり抑えながらルンペンに話し掛けた。


「おい、ルンペン!!いい加減にしやがれ!! 初日から仲間を怖がらせてんじゃねェよ!!」

「そうだ。落ち着くんだ、ルンペン

「よよい!! ルンペン~~~~!!」

ブルーノやクマドリも声を掛ける。ルッチはルンペンから漂う覇気が鎮静化していくのを感じた。


『……じゃ…ブラ、ブルー…ノ………』

「そうだ。やっと起きたか、馬鹿野郎」

『……ああ』

ルンペンの言葉にブルーノはジャブラを見る。ジャブラは頷いた。ブルーノはそれを受け、ルンペンから手を引く。
赤い瞳は豹変する前の静かなものに戻っていた。


『……被害は?』

「おれの鉄塊の偉大さが証明された」

「チャパパパ! ジャブラ、それは被害じゃないぞ」

「わぁってる!! 冗談だ狼牙!!ってかフクロウ!てめェなんで止めに入らねェんだよ!!」

「チャパパパパ」

『……』

ジャブラはルンペンの腕を解放するとフクロウに怒鳴る。ルンペンはルッチ達に目を向けた。


『……巻き込んで悪かったな』

「!? だ、大丈夫じゃ!!」

「さっきのは何だ?」

『あいつらは“狂人”と呼んでいる』

「? “狂人”??」

『知りたければ教える。……お前の仲間と言う幻想もなくなるだろう』








『――……と言うわけだ』

「「……“狂人化”」」

ルンペンから話を聞いた二人は目をまるくする。


『これでわかっただろう。お前らのいう“仲間”なんて言葉は……』

「いや、仲間だ」

『!?』

「「「!!」」」

ルッチの言葉に皆目を丸くした。カクが首を傾げる。


「ルッチ?」

「その素質は確かに危険でもあるが、“CP9おれたち”には必要な要素でもある。選出は間違っていない」

『……』

「要は、“狂人化”したら今みたいに止めれたらいいんだろ? ジャブラ、どうやって止めたんだ?」

「ああ!? 馴れ馴れしい野郎だな」

「答えろ」

「チッ……簡単なこった。コイツの“視界”を塞ぎゃいい」

「視界?」

ジャブラの言葉にブルーノが付け加える。


ルンペンは“視界内殺人鬼”と言われている。視界に入るもの全てが殺す標的になる」

「!!」

「だから―――“…入るな”か」

ルッチは腕を組み、納得した声を出した。


『おれを扱うのは至難だぞ』

「ギャハハハ!! 自分で言ってりゃ世話ねェな」

ジャブラは豪快に笑う。ルンペンはため息をついた。


『……黙れ、馬鹿ジャブラ』

「ああん!!? てめェ!止めてやったのにその言いぐさはねェだ狼牙!!!」

『……フン。お前に止められるなんて屈辱だ』

「あー!! てめェ!!」

「……」

「無視すんな!!」

ルンペンとジャブラの攻防にカクは目をキラキラさせる。


「二人共仲がいいのォ~」

「『よくない(ねェ)!!』」

「おお…息がぴったりじゃ」

「チャパパパパ。ジャブラとルンペンは同い年でずっと一緒に訓練して来たんだ。おれ達の中でも一番付き合いが長いのだ」

「ルッチ! カク!!」

「カリファ?」

名を呼ばれ振り返るとカリファと長官、そしてカリファの父が歩いて来ていた。


「何か問題でもあったのか?」

「「「……」」」

長官の言葉に皆が口をつぐむ。ルンペンは口を開いた。


『さっき、“狂…”』
「何もありません」

「「『!?』」」

ルンペンの言葉を遮りルッチが言った。ルンペンは目を見張る。カリファの父はルッチに尋ねた。


「本当か?」

「ええ」

『……』

「今、新生CP9として交流をはかっていました。明日から皆で訓練を行います」

「そうか!! そりゃよかった。なら仲良くやれよ!」

「はい」

「よし、じゃあおれは仕事に戻る。行くぞ」

「はっ」

長官とカリファの父が去って行く。それを見送った後、ルンペンはルッチを見る。


『……なんのつもりだ?』

「言葉通りだ。なんの問題もない」

『答えになってない』

ルンペンは冷たい口調で問い詰める。ルッチはそんなルンペンに真剣な目を向け、答えた。


ルンペン、最強のCP9にはお前が必要なんだ」

『?』

「おれ達の“正義”は最強でなければいけない」

『……』

「ここにいるものは選ばれた者達だ。おれ達は期待通り、いや期待以上の諜報員にならないといけない」

『……それにおれがいると?』

「そうだ。ルンペン、お前は現在のCP9で最強といえる素質を持ってる。それをおれ達のために生かしてもらう」

『……“狂人”が最強の素質だと? お前らは何を勘違いして……』

「勘違いじゃねェ」

『!?』

「“おれ達”がそれを証明してやる」

ルッチはニヤッと笑う。自信が満ち溢れている笑みだ。


『…!!』

ルンペンはそんなルッチの言葉になぜか“希望”を感じた。それは生まれて初めて感じたもので、ルンペンが“闇”で生きる理由として最も大切な言葉のひとつとして心に刻まれることとなる。
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