敵船現る

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レニーがロジャーの船に乗ることになった日。
レニーは村人達に別れを告げ、村を出る。身支度する程の荷物はないらしく、手ぶらでロジャーの船にやって来た。


『これが主らの船か?』

「ああ、そうだ。これはオーロ・ジャクソン号。トムが作ってくれた最高の船だ!!」

『トム?』

「ウォーターセブンの有能な船大工だ」

レニーの疑問にレイリーが答える。


『あの造船の島か。ふむ……悪くはないな』

レニーは船を眺めながら言う。ロジャーは満足そうに笑った。


「船長!! いいところに!!」

「あん? どうした?」

ロジャー達の声を聞きつけ、オーロ・ジャクソン号からクルーが呼び掛ける。


「それが……ん?」

クルーは黒いフードにすっぽり包まれたレニーを見て止まった。


「船長、その黒フード……まさか!!」

「おう、“吸血鬼”だ! 仲間にしたぜ!!」

「!?」

クルーはレニーを凝視する。しかし、目深にかぶったフードと体を覆うマントで人物像がわからない。


「おい、何やってんだ!! ロジャーには言ったのか??」

船からさらに声が飛んで来た。レニーを見ていたクルーはハッと我に返り、慌ててしゃべった。


「そうだ、船長! 敵船が来るんだ。真っ直ぐこっちに」

「何隻だ?」

「2隻!」

『“旗印”はなんじゃ?』

「……え!?」

レニーは凛とした声で尋ねる。クルーは一瞬驚いた様だったが、すぐに答えた。


「ジョリーロジャーに鎌の絵…」

「“鎌斬りジャガー”だな」

レイリーが旗印から海賊船の情報を引き出す。


『やはりな』

「「「??」」」

一方レニーはため息をつき、めんどくさそうに言葉を濁した。





「なんだ? 知り合いか?」

ロジャーが尋ねる。レニーは首を振った。


『あんな品の欠片もない小僧共なぞ、知り合いにおらぬ。そやつらは主らが来る前に来た海賊と同じ海賊のようじゃ』

「……ってことは、お前狙いか」

『そうじゃな。あやつらは我の首がどうしても欲しいらしい』

「でも、先に来た奴らは追い返したんだろ?」

シャンクスが尋ねる。



『? 追い返してなどおらぬが』

「え…でも船はなかったってレイリーさんが……」

シャンクスの問いにレニーが端的に答える。しかし新たな疑問をバギーが呟いた。レニーはそのことか、と納得しそれから平然とした口調で言う。


『簡単な話じゃ。我が首を狙いに来た小僧共は我が“喰らい”、後に船を破壊したまでのこと』

「「“喰らった”!?」」

「……」

「……だから、“腹は空いてない”か」

シャンクスとバギーが声を揃え、驚く。バギーのそれは悲鳴に近い。腕を組んだレイリーは納得した様に呟いた。その光景にレニーは不快そうに言葉を発する。


『主らは何を勘違いしておる。我は“吸血鬼”、我以外の全ての血が我を造る。ならば人を喰らうのは当たり前。主らとは生態系がまったく違うのじゃ』

「「……」」

レニーはそう言うとロジャーの方を向く。


『して、ロジャーよ。先の船は我が預かろう』

「?」

『あやつらの狙いは我。また村が襲われては面倒故、ここで片付けておく』

「“喰う”のか?」

ロジャーの真剣な目にレニーは息をつく。


『……食事は済んだと言ったじゃろ。それにあやつらにはもう我がここにいないことを触れ回ってもらう必要がある』

「そうか! なら任せる!!」

レニーの答えにロジャーはニィと口元に弧を描き、笑った。一同がホッと息をつく。レイリーがふと思い出した様に尋ねた。





「そうだ、レニー

『なんじゃ?』

「今さらだが…お前、“流れる水の上は渡れる”のか?」

『……。主、それは今さらすぎるぞ』

「そうだが…確認だ」

「レイリーさん、何の話?」

シャンクスが尋ねる。レイリーは説明した。


「吸血鬼ってのは“流れる水の上を渡れない”と本で読んだことがあるんだ」

「本当か!!?」

レイリーの言葉にロジャーは驚く。


「お前知らなかったのか?」

「ああ。吸血鬼は太陽がダメなんだろ?」

「それは血を吸われた人間が吸血鬼になったらだ。オリジナルの吸血鬼なら問題はないらしいぞ」

「そうなのか」

ロジャーの発言にレニーはため息をついた。


『主らはそれでよく我を勧誘したな。我が言うのもなんじゃが、もう少し知識と言うものを持て』

「でも、レニーは何も言わなかったじゃねェか」

『主らが聞かなかっただけのこと。我から情報を口にする必要はあるまい』

「……」

「でも、大丈夫なんだろ?」

『……。いや、残念じゃが、“今の我”には不可能じゃ』

「はぁ!? じゃあ、なんでOKしたんだ…っ!!!」

『……』

レニーはフードの奥からギラッとバギーを睨む。


「――!!(怖ェー―――!!!)……ななな…なんで、OKしたのかなぁって……」

バギーはどっと冷や汗をかき、ビビりながら聞きなおす。レニーは睨むのをやめた。


『よかろう。結論から言うと“問題ない”からじゃ』

「問題ない……?」

『“本来の姿”である今の我では流れる水の上は渡れぬ。しかし、我は“霧”や“蝙蝠”に変身出来る故、流れる水の上を飛んで渡ることが可能じゃ。
また流れる水の上でも何かに乗っておれば渡ることも出来る、つまり海上でも船に乗っておれば弊害はないと言うことじゃ』

「“霧”や“蝙蝠”……?」

シャンクスが首を傾げる。レニーはすっとローブから手を出した。


『それは口で説明するよりも見た方が早いじゃろう』

「シシシ。ありがてェ。早速お前の力、見せてくれるのか?」

レニーはロジャーに目を向ける。


『ついでじゃ。――しかと、見ておけ』


フワッ……!!


「「「!!!」」」

レニーは言葉と共に霧散する。黒い霧が現れたと思ったら、それは海を越え、敵船の方へ向かって行った。












「おい、あいつらに連絡は取れねェのか!!」

「はい、船長。かかりもしません」

「船も他の海賊船の一隻しか…って!! あれ、“ゴールド・ロジャー”の船ですよ!!」

「ロジャーだって!!?」

「もしかして、“吸血鬼”と“ロジャー”が戦ってんのかな…?」

「なら勝った方を討ち取れたらおれの名は一気に上がるなァ。シハハハハハ!!!」

高笑いする船の船長“鎌斬りジャガー”。しかし次の瞬間、船一帯が“黒い霧”に包まれた。


「船長、急に霧が!!」

「“黒い霧”…?」

「なんだ?何が起こった!!?」

騒然となる船内。黒い霧に囲まれてまるで昼が一気に夜になった様だ。そんな中、どこからともなく声が降って来た。





『まったく…期待通りの小者ぷりじゃなァ』

「「「??」」」

「だ、誰だ!? どこにいる」

ジャガーが叫ぶ。すると立ち込めていた黒い霧が一ヵ所に集まり、たちまち黒いフードを目深にかぶったレニーが現れた。


「な!? てめェ何者だ!!」

『……』

レニーはため息をつき、フードを取る。その銀髪の若い青年にジャガー達、海賊は目を見開いた。


「スゲェ、美人!!」
「でも、誰だ…??」

『……主らは阿呆か。“我が首”を狙いに来たのであろう? せっかく我から出向いてやったと言うのに“何者だ”とは尋ねるのは解せん』

レニーは自身の白い首に触れながら言う。


「首…!? まさか、お前が“吸血鬼”……!?」

『左様。我が主ら所望の“吸血鬼”じゃ。さぁ、先の者達の様に我の首を取りに来るがよい』

「先の……! おれ達の仲間は、どうしたんだ!!」

海賊達は剣を構え、殺気立つ。


『何をした…? フン…それを我に問うか。“カモ”がネギを背負って自分からやって来たのじゃ。やることは1つじゃろうて』

レニーの口は大きく弧を描く。鋭い犬歯が覗いた。


『数だけで、美味くはなかったがな』

「「「!!!」」」

海賊達が愕然とした。皆、目を見張るばかり。ジャガーがやっとのことで声を出した。


「く…“喰った”のか!? ……あいつら全員…!!?」

『そうじゃ。何か問題でもあったかの?』

「ば、化け物!!」

海賊のひとりが叫んだ。レニーはその海賊に肩を竦める。


『今更なんじゃ。主らが相手にしておるのは“吸血鬼”。見紛うなき化け物ではないか…!』

「「「……っ!!」」」

『……さてと』

「「「?」」」

レニーはローブから手を出す。その手には身の丈程の長く細い刀があった。その刀は柄から鞘まで全て白い。世界に12工しかない最上級大業物の一本、“白刀【陽】”だ。
レニーの黒いローブと相まって【陽】はさらに白さが際立っていた。レニーは流れるように【陽】を鞘から抜く。刀身自体も白く、柔らかく光った。





「白い刀…??」

「あんなほそちょろい刀で何する気だ??」

怪訝な顔を見合わせる海賊達。視線はレニーのもつ刀に注がれる。


『どうした? “彼女”に見惚れたのか。クク…四半世紀も生きぬ小僧共には刺激が強すぎるかのォ』

「「「!!!」」」

レニーはクスクス笑う。ジャガーは小馬鹿にされた怒りから剣を振り上げた。


「ゃ…野郎共!! あいつらの仇を討つぞ!!」

「首を取って名を挙げるんだ!」

「やっちまえ!!」


ウォーー!!


掛け声と共に一斉に襲ってくる海賊達。それらを前にレニーは役者のように語る。


『その短き生の中で我と出逢ったことは……主らにとって運が良いのか悪いのか』

そう言うと、静かに剣を薙いだ。しかし距離があり、海賊達にはかすりもしない。


「「?」」
「当たんねぇよ!!」

フッと通り過ぎた風を尻目にレニーへ剣を振り上げた海賊達。しかし次の瞬間…


スパッ!!


「え!?」
「「「!!!」」」

先頭をきっていた海賊達、全員が突然斬られた。斬られた海賊は訳もわからぬまま血を流し、倒れる。悲鳴やうめき声が上がった。後ろにいた海賊達はそれを見てピタリッと足を止める。


『いちいち喚くでない。まったく…この程度で我の首を取ろうとは舐められたものじゃ』

レニーは流れるように【陽】を隣の海賊船に向けて振るう。


スパンッ………!!


「な!!?」

海賊達は恐ろしい光景を目の当たりにする。今にも折れそうな程、細く長い刀をたった一振り…しかも軽く振り下ろしただけで並走していた仲間の船が木っ端微塵になったのだ。あまりにも静かな剣技に海賊達は閉口する。


『要件を達成するのは一隻で構わんじゃろう。……それにしても』

レニーは不服そうに呟く。


『本来ならばすぐに消す命を生かさねばならぬとは……。まったく我にとっては不合理な話じゃ』

「「「!!!」」」

レニーは破壊した船には見向きもせず、海賊達に言う。海賊達はただただレニーの存在に圧倒されていた。


『しかしまぁ、生かすしかないのであれば……』

海賊が静かな観衆に変わり、独壇場になったレニーはその場にふさわしい余裕の笑みを浮かべる。優雅な動作で【陽】をジャガー達に突き付けた。


『せめてその命尽きるまで“我ら”の存在に怯えてもらおうぞ…!!』


ヒュン……!!


レニーは刀を振り下ろす。瞬間、船は悲鳴に包まれた。
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