己の幕を引く場所
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「………」
新聞を見ていたルージュの手に力が入る。新聞はグシャと抵抗もなくひしゃげた。
ガチャ…!!
『ルージュ、おらんのか?』
「!」
レニーがドアを開ける。ルージュは驚き、振り返った。
『何じゃ、おるではないか。何度もノックをした…』
「レニー…!!」
『!』
ルージュはレニーの胸に飛び込んでくる。
『?…どうしたのじゃ』
「……無事で良かった」
『……』
レニーにギュッと抱き付くルージュの頭を撫でた。
『少し遅くなった。怒っておるか?』
「……怒ってないよ……」
『…そうか。その様子じゃと“報せ”は聞いたようじゃな』
ルージュは頷く。レニーは穏やかな声で言った。
『泣きたければ泣くがいい。誰も見てはおらん』
「大丈夫、」
『?』
「もう、あの人のためにいっぱい泣いたから。これからは笑うって決めたの」
『……』
レニーは頬笑むルージュの頬を優しく拭うとボソッと言った。
『ルージュにこんな顔をさせるとは、あやつは我が八つ裂きにすべきだったか…』
「?」
ルージュはレニーの声が聞こえなかったようで首を傾げる。レニーは何もないと首を横に振った。
『ルージュ、手を貸せ』
そう言うとレニーはルージュの腕に赤い石で出来た腕輪をはめる。
「……これ…」
『今日は約束の日じゃ』
「……」
ルージュは赤い石の腕輪に触れた。
―――5年前。
「レニー、もう出るの?」
『ああ、最近辺りが騒がしいからのォ。ここに近づかんよう片付けて来る』
ローブを羽織ったレニーはルージュの頭を撫でるとそう言った。
「気をつけてね」
『心得ておる。そうじゃ、何か土産はいらんか?』
「お土産?レニーが無事に帰って来てくれるなら、それがいいわ」
『欲のない子じゃな』
レニーは肩をすくめて笑う。
「んー。じゃあ、18の誕生日には帰って来て!」
『18?5年も先じゃが、よいのか?』
「うん。18歳で私とレニーが出会って10年目になるの。だから祝いしましょ!」
『クク……わかった。じゃあプレゼントを買って帰ろう』
「楽しみにしてる!でも、本当に気をつけてね。いってらっしゃい!」
『ああ、行ってくる』
ルージュは出発するレニーに手を振って見送った。
「私が渡したどんぐりの腕輪とは大違いだね」
『あれでも構わんのじゃが…我は作ることが出来んからのォ。それにこの色は主に合うと思うたのじゃ』
レニーはルージュにつけた赤い腕輪を眺めながら言った。ルージュは笑う。
「ありがとう。すごく気に入ったよ!レニーの分は?」
レニーはルージュの手のひらに腕輪をのせる。ルージュはニコッと笑うと、その腕輪をレニーの左手首にはめた。
『主の分だけで構わんと思うたが、腕輪は“友”の印だからな』
「うん!」
二人は笑い合う。ふと、レニーが言った。
『……ところでルージュ』
「?」
『主、見ない内に少し太ったか?』
「!」
レニーはルージュを見下ろしながらさらに首を傾げる。
『“血”のにおいも妙じゃな。主らしくない……』
「フフフ……!!」
ルージュは急にクスクスと笑い出した。
『なんじゃ?』
「さすがのレニーもこれには気づかないんだね」
『??……何のことじゃ?』
「手を貸して」
『……?』
レニーは言われるまま、手を差し出す。ルージュはその手を取ると、自分のお腹にあてた。
「あのね、レニー。ここに私とあの人との“大切な命”がいるの」
『命……“子”か!?主の腹にあやつとの子がいるのか…!?』
「そうだよ」
―――その赤子(ガキ)に驚かされる日が来るかもしれないぜ!
『……してやられたな』
ハァ…とレニーは髪をかきあげ、ため息をつく。あの時ロジャーのにやけ顔が頭を過ぎった。
「レニー…?」
『主らの関係は知っておったが、子までは頭が回らんかったのォ』
「……。喜んでもらえない?」
不安そうなルージュの声、レニーはまたひとつため息をついた。
『なぜそうなる』
「?」
『喜ばない訳なかろう。ルージュが母になったのじゃからな』
「!!」
『あの幼かったルージュに子か……』
レニーはしみじみと言葉にする。ルージュは照れくさそうに笑った。
『ならば、こうしよう』
「?」
何を思いついたのか、レニーはルージュの前で片膝をつく。
ルージュが目を丸くする中、レニーはルージュのお腹に手を置いた。
『聞け、ルージュの子。我はレニー・レニゲイド、吸血鬼じゃ』
「……?」
『主の母と父は我の知己(チキ)。特に母は家族同然、我の愛する子じゃ。―――故に主に約束しよう』
レニーは真剣に、それでいて優しい眼差しをルージュの子へ向ける。
『主が我を頼る時、我は必ず主に力を貸す…!!』
「!!」
『主が望むことを我が誇りに賭け、叶えてやろう。我の力が必要になれば我を探すがよい』
「……レニー…!!」
『ただし、見返りとして主を見守る。承諾は主の母から得よう』
レニーはそう言うと顔を上げた。ルージュと目が合う。
『ルージュ…』
「……レニー」
『我はまだ生きる故、主らの子を見守ることを許してくれぬか?』
「……本当にいいの?」
『ああ。ルージュの愛する子を見守れるならば、我は幸せじゃ』
「ありがとう、レニー…!!」
ルージュの瞳に涙を浮かぶ、ルージュは口元を手で覆った。
『快諾を得たようじゃ。よろしく頼む』
レニーはそう言うと立ち上がる。
『ルージュ。主と主らの子を抱き締めても良いか?』
「……ええ、もちろん」
レニーはルージュに手を伸ばす。そして腹に負担がかからないように気をつけながら、そっと抱き締めた。
『おめでとう、ルージュ。立派な母になるんじゃぞ』
「うん。レニー……ありがとう」
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