己の幕を引く場所
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「レニー!レイリー!ちょっといいか?」
「?」
『なんじゃ?』
部屋でチェスをするレニーとレイリーの下へロジャーがやってくる。
何か企む時に出る笑顔を携えるロジャーに二人は目を合わせため息をついた。
「何か企んだのか?」
「おう!よくわかったな!」
『主ほど顔や覇気に感情が出る奴は我は知らん』
「へへっ!!なら話が早ェ」
ロジャーはニンッと笑う。そして言った。
「おれは海軍に行く」
「『!』」
【己の幕を引く場所】
『海軍…じゃと?』
レニーはロジャーの言葉を反復した。突然のことでさすがのレイリーも口を閉ざす。
ロジャーは頷くと、己の言葉を繰り返した。
「ああ。海軍に自首しに行く」
『血迷ったのか?』
「いんや。至って正常だ」
レニーの言葉にロジャーはイタズラっ子のようにはにかむ。レイリーは静かに尋ねた。
「理由(ワケ)を聞かせてくれ」
「そりゃ…なんだ!生きた証って奴を守るためだ!!」
「証?」
『……主は“海賊王”と言う称号を得たではないか。それが証ではないか』
「ああ。海賊王も良かった。だが、おれにはもっと大切なものが出来たんだ」
『それはなんじゃ』
「秘密だ!」
「『……』」
ニンッと嬉しそうに笑うロジャー。レニーはため息をついた。
こうなってはロジャーは手がつけられない。レニーは酒と氷の入ったグラスをカランと揺らしながら、視線をレイリーに向ける。
『レイリー、この馬鹿をどう見る?』
「わかりきったことを聞くんだな、レニー。もう何を言っても無駄だ」
長年の相棒であるレイリーはロジャーの性格を十分に心得ている。ハハハと笑いながら酒をあおった。しかし瞳の奥では厳しい目は隠せない。
レニーは呆れた視線をロジャーに向けた。
『まったく、もの好きな人間じゃな』
ニシシと笑うロジャー。レニーの悪態もレイリーの言葉も全てに優しさが感じられた。
そう、二人はロジャーの思いを受け止めたのだ。
「すぐ立つのか?」
「ああ」
『…ならばさっさと準備をせねばな。レイリー、船は?』
「島の裏だ。食料を積めばいつでも出航出来る」
「!?」
レニーとレイリーの言葉にロジャーは目を丸くする。
「なんだお前ら見送ってくれるのか?」
『馬鹿者。主一人では海軍まで着けぬじゃろうが』
「……」
「“最後まで付き合う”そう言ったろ。おれ達は元々そういうつもりだ」
「……。シッシッシッ!!お前ら最高だな!!」
『フン。今更じゃな』
「まったくだ」
コンッとレニーはグラスを置く。三人の間に一時の静寂が訪れた。
「フッ…」
『ククッ…』
「シシッ…」
静寂が続く空間で肩を震わせる三人。そして大きく口を開いた。
「『「ハハハハハハハ!!」』」
一時の静寂をぶち壊し、三人はドッと笑う。誰が冗談を言った訳でもないのに、心底おかしいというように笑っていた。
ひとしきり笑った三人は船の準備について話す。出発は夕方となった。
『……して、ロジャー。主はこのことをルージュには言ったのか?』
「いや、まだだ」
「……」
ロジャーは頭をポリポリとかきながら、少し寂しい目を見せる。レニーはそんなロジャーを見下ろした。
『ならば早く言って来い』
「!」
『…あの子は別れの辛さをよく知っておる。故に悲しみは深い。――だが、決してその悲しみから逃げぬ強い子じゃ』
「……」
『じゃから安心して早めに言うといてやれ。あの子にも時間は必要じゃ』
レニーはそう言うとロジャーに背を向けドアに向かう。
ロジャーはレニーの背中に言葉を投げた。
「レニー。お前はルージュを本当に大切にしてるんだな」
『……。あの子は我にとって最愛の子。大切以外の何物でもないわ』
そう言い家を出て行くレニー。レイリーはその後を追いドアへ歩く。そして家の敷居を跨ぐ寸前で振り返った。
「先に船へ行く。お前は出発前に来い。ちゃんと話してな」
「ああ、ありがとう。相棒!」
レイリーは手をあげロジャーに答えると、外に出て行った。
夕方、裏の海岸。
「見送りありがとうな、ルージュ」
「世話になった」
ルージュは首を横に振る。いつもの通り、笑顔だった。
「4人で暮らせてとても楽しかったわ。来てくれてありがとう…!!」
「船を出そう」
『ああ。ルージュ、約束の日に帰る』
「うん。気をつけてね」
レイリーとレニーは先に甲板に上がる。二人の姿が見えなくなった後、ロジャーは一歩踏み出した。
「ルージュ」
「!」
ロジャーはルージュを強く抱き締める。
「お前は最高の女だ。きっとスゲー奴が生まれくる!」
「!……うん。私もそう思うよ」
ルージュはそう言うと右手をロジャーの背中に回し、左手は優しく命の宿った自身の腹を撫でた。
「さよならは言わねェぜ」
「うん」
「―――派手なことしに行って来る!」
「うん。いってらっしゃい…!!」
「……」
ルージュは出航する船の背を見守る。
「……大丈夫だよ」
優しく腹を撫で、ルージュは呟いた。それはまるで自分に言い聞かせるようだ。
「……あなたのお父さんはとても優しい……人、ね」
ルージュの頬に一筋の涙が伝う。それは静かでとても美しくものだった。
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「?」
『なんじゃ?』
部屋でチェスをするレニーとレイリーの下へロジャーがやってくる。
何か企む時に出る笑顔を携えるロジャーに二人は目を合わせため息をついた。
「何か企んだのか?」
「おう!よくわかったな!」
『主ほど顔や覇気に感情が出る奴は我は知らん』
「へへっ!!なら話が早ェ」
ロジャーはニンッと笑う。そして言った。
「おれは海軍に行く」
「『!』」
【己の幕を引く場所】
『海軍…じゃと?』
レニーはロジャーの言葉を反復した。突然のことでさすがのレイリーも口を閉ざす。
ロジャーは頷くと、己の言葉を繰り返した。
「ああ。海軍に自首しに行く」
『血迷ったのか?』
「いんや。至って正常だ」
レニーの言葉にロジャーはイタズラっ子のようにはにかむ。レイリーは静かに尋ねた。
「理由(ワケ)を聞かせてくれ」
「そりゃ…なんだ!生きた証って奴を守るためだ!!」
「証?」
『……主は“海賊王”と言う称号を得たではないか。それが証ではないか』
「ああ。海賊王も良かった。だが、おれにはもっと大切なものが出来たんだ」
『それはなんじゃ』
「秘密だ!」
「『……』」
ニンッと嬉しそうに笑うロジャー。レニーはため息をついた。
こうなってはロジャーは手がつけられない。レニーは酒と氷の入ったグラスをカランと揺らしながら、視線をレイリーに向ける。
『レイリー、この馬鹿をどう見る?』
「わかりきったことを聞くんだな、レニー。もう何を言っても無駄だ」
長年の相棒であるレイリーはロジャーの性格を十分に心得ている。ハハハと笑いながら酒をあおった。しかし瞳の奥では厳しい目は隠せない。
レニーは呆れた視線をロジャーに向けた。
『まったく、もの好きな人間じゃな』
ニシシと笑うロジャー。レニーの悪態もレイリーの言葉も全てに優しさが感じられた。
そう、二人はロジャーの思いを受け止めたのだ。
「すぐ立つのか?」
「ああ」
『…ならばさっさと準備をせねばな。レイリー、船は?』
「島の裏だ。食料を積めばいつでも出航出来る」
「!?」
レニーとレイリーの言葉にロジャーは目を丸くする。
「なんだお前ら見送ってくれるのか?」
『馬鹿者。主一人では海軍まで着けぬじゃろうが』
「……」
「“最後まで付き合う”そう言ったろ。おれ達は元々そういうつもりだ」
「……。シッシッシッ!!お前ら最高だな!!」
『フン。今更じゃな』
「まったくだ」
コンッとレニーはグラスを置く。三人の間に一時の静寂が訪れた。
「フッ…」
『ククッ…』
「シシッ…」
静寂が続く空間で肩を震わせる三人。そして大きく口を開いた。
「『「ハハハハハハハ!!」』」
一時の静寂をぶち壊し、三人はドッと笑う。誰が冗談を言った訳でもないのに、心底おかしいというように笑っていた。
ひとしきり笑った三人は船の準備について話す。出発は夕方となった。
『……して、ロジャー。主はこのことをルージュには言ったのか?』
「いや、まだだ」
「……」
ロジャーは頭をポリポリとかきながら、少し寂しい目を見せる。レニーはそんなロジャーを見下ろした。
『ならば早く言って来い』
「!」
『…あの子は別れの辛さをよく知っておる。故に悲しみは深い。――だが、決してその悲しみから逃げぬ強い子じゃ』
「……」
『じゃから安心して早めに言うといてやれ。あの子にも時間は必要じゃ』
レニーはそう言うとロジャーに背を向けドアに向かう。
ロジャーはレニーの背中に言葉を投げた。
「レニー。お前はルージュを本当に大切にしてるんだな」
『……。あの子は我にとって最愛の子。大切以外の何物でもないわ』
そう言い家を出て行くレニー。レイリーはその後を追いドアへ歩く。そして家の敷居を跨ぐ寸前で振り返った。
「先に船へ行く。お前は出発前に来い。ちゃんと話してな」
「ああ、ありがとう。相棒!」
レイリーは手をあげロジャーに答えると、外に出て行った。
夕方、裏の海岸。
「見送りありがとうな、ルージュ」
「世話になった」
ルージュは首を横に振る。いつもの通り、笑顔だった。
「4人で暮らせてとても楽しかったわ。来てくれてありがとう…!!」
「船を出そう」
『ああ。ルージュ、約束の日に帰る』
「うん。気をつけてね」
レイリーとレニーは先に甲板に上がる。二人の姿が見えなくなった後、ロジャーは一歩踏み出した。
「ルージュ」
「!」
ロジャーはルージュを強く抱き締める。
「お前は最高の女だ。きっとスゲー奴が生まれくる!」
「!……うん。私もそう思うよ」
ルージュはそう言うと右手をロジャーの背中に回し、左手は優しく命の宿った自身の腹を撫でた。
「さよならは言わねェぜ」
「うん」
「―――派手なことしに行って来る!」
「うん。いってらっしゃい…!!」
「……」
ルージュは出航する船の背を見守る。
「……大丈夫だよ」
優しく腹を撫で、ルージュは呟いた。それはまるで自分に言い聞かせるようだ。
「……あなたのお父さんはとても優しい……人、ね」
ルージュの頬に一筋の涙が伝う。それは静かでとても美しくものだった。
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