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―――――
――――――――
『……』
(なのに、名前が思い出せない)
「―――?」
『……』
(“あの人”はリコルでも見た人…僕を知っている人……)
「―――中将!」
『!!』
アルトはロールの少し大きな声でハッと我にかえる。ロールは心配そうな顔でアルトを見ていた。
「大丈夫ですか?やはりご気分が…」
『…いや、大丈夫。本当に何もない』
アルトは手を振ってロールの言葉を否定する。そして言った。
『僕は部屋に戻るよ、クザンクンには連絡しておくから』
「……」
ロールは少し考えた後、渋々頷く。
「……わかりました。では、仕事が終わったらお部屋に伺います」
『明日も早いだろ?もうすぐ日付変わるし、休んだ方が……』
「いえ!伺います!!」
『!』
ロールはきっぱりと言う。アルトは肩を竦めた。
『……わかった。なら話し相手にでもなってもらおうかな』
「はい!では私は医師に連絡してから、仕事に戻ります…!!」
『ありがとう』
敬礼するロールにアルトは手を挙げ答える。そして医務室を出た。
海軍本部、アルトの部屋。
『……見張りはいないか』
医務室から部屋に戻ってきたアルトはドアの前にいた見張りがいないのを確認してから中に入る。
そして部屋の明かりをつけることなく部屋の真ん中にあるドア側のソファに座った。
今日は満月らしい。窓から入る青白い光が部屋の中を照らしていた。
腰掛けたソファの前にあるテーブルは綺麗に片づけた後で、今は月明かりで鈍く光っている。
『……クザンクンに言った方がいいのかな。“あの人”のこと』
アルトはそう呟くが、どうしてもその決断が出来なかった。
―――残念だけど、報告出来る様なことはないよ
マリンフォードでそう言った青キジの言葉を思い出す。
『あの時、クザンクンは“何かを隠した”。でも僕も…“隠した”んだ』
――それに…
―――それに?
――いや、“何もない”
『……』
咄嗟に口を閉じたあの時、アルトは船の上でジンベエに言ったあの言葉を思い出していたのだ。
『あの言葉が本当なら、僕はジンベエクンの言う通り、身を滅ぼすだろうな…でも』
確証は何もない。
アルトは背もたれに首を置き、天井を見上げる。
『僕は何者なんだ……』
部屋に静かに響く自分への問い。この問いを何度自分にしただろうか…と、アルトは思った。
そう思うたび、自問自答を繰り返したがアルトは答えを見つけ出せずにいた。いや、正確に言うと“探さなかった”。
(イヤな感じがする……)
探そうとすると、いつもそんな心理に駆られる。自分を知ってしまったら、自分の過去を見つけてしまったら、今ある“大切な何か”を失ってしまう気がしてならなかった。
『……でも、そんなこと言ってられないか。このままだと、クザンクンや皆に迷惑をかけることになるかもしれない』
天井から視線を下ろし、磨かれたテーブルを見る。そこに映る自分の目をじっと睨むように見たアルトは決意を固め、ソファから立ち上がった。
『わかったら、クザンクンに話そう。きっと、わかってくれる』
そう言うと、アルトは執務机にある“白い箱”を手に取った。
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(なのに、名前が思い出せない)
「―――?」
『……』
(“あの人”はリコルでも見た人…僕を知っている人……)
「―――中将!」
『!!』
アルトはロールの少し大きな声でハッと我にかえる。ロールは心配そうな顔でアルトを見ていた。
「大丈夫ですか?やはりご気分が…」
『…いや、大丈夫。本当に何もない』
アルトは手を振ってロールの言葉を否定する。そして言った。
『僕は部屋に戻るよ、クザンクンには連絡しておくから』
「……」
ロールは少し考えた後、渋々頷く。
「……わかりました。では、仕事が終わったらお部屋に伺います」
『明日も早いだろ?もうすぐ日付変わるし、休んだ方が……』
「いえ!伺います!!」
『!』
ロールはきっぱりと言う。アルトは肩を竦めた。
『……わかった。なら話し相手にでもなってもらおうかな』
「はい!では私は医師に連絡してから、仕事に戻ります…!!」
『ありがとう』
敬礼するロールにアルトは手を挙げ答える。そして医務室を出た。
海軍本部、アルトの部屋。
『……見張りはいないか』
医務室から部屋に戻ってきたアルトはドアの前にいた見張りがいないのを確認してから中に入る。
そして部屋の明かりをつけることなく部屋の真ん中にあるドア側のソファに座った。
今日は満月らしい。窓から入る青白い光が部屋の中を照らしていた。
腰掛けたソファの前にあるテーブルは綺麗に片づけた後で、今は月明かりで鈍く光っている。
『……クザンクンに言った方がいいのかな。“あの人”のこと』
アルトはそう呟くが、どうしてもその決断が出来なかった。
―――残念だけど、報告出来る様なことはないよ
マリンフォードでそう言った青キジの言葉を思い出す。
『あの時、クザンクンは“何かを隠した”。でも僕も…“隠した”んだ』
――それに…
―――それに?
――いや、“何もない”
『……』
咄嗟に口を閉じたあの時、アルトは船の上でジンベエに言ったあの言葉を思い出していたのだ。
『あの言葉が本当なら、僕はジンベエクンの言う通り、身を滅ぼすだろうな…でも』
確証は何もない。
アルトは背もたれに首を置き、天井を見上げる。
『僕は何者なんだ……』
部屋に静かに響く自分への問い。この問いを何度自分にしただろうか…と、アルトは思った。
そう思うたび、自問自答を繰り返したがアルトは答えを見つけ出せずにいた。いや、正確に言うと“探さなかった”。
(イヤな感じがする……)
探そうとすると、いつもそんな心理に駆られる。自分を知ってしまったら、自分の過去を見つけてしまったら、今ある“大切な何か”を失ってしまう気がしてならなかった。
『……でも、そんなこと言ってられないか。このままだと、クザンクンや皆に迷惑をかけることになるかもしれない』
天井から視線を下ろし、磨かれたテーブルを見る。そこに映る自分の目をじっと睨むように見たアルトは決意を固め、ソファから立ち上がった。
『わかったら、クザンクンに話そう。きっと、わかってくれる』
そう言うと、アルトは執務机にある“白い箱”を手に取った。
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