ユレルココロ
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――――――……。
『……』
「――――アルト」
『?』
「キミの名前を、考えたの。“アザリル”は……みんなに、呼んでもらえる名前じゃ、なかった……から」
『……』
「……名前をつけるなんて、はじめて…だったから、迷ったんだけど」
僕はどんな顔で彼女を見ていたのだろう。
彼女はうつ伏せの身体を起こし、右手を伸ばしてきた。
その赤く染まった手が僕の左ほほに届くと、くしゃっと笑う。
「イヤだったかな?」
『……』
僕は首を横に振った。彼女の身体から“赤い何か”が少しずつ流れ出している。
白い髪の先端と白衣のところどころに“赤”が広がっていくのが見えた。
「そう、よかった。実は、少し前から考えてたんだ。もっと早く……呼んであげればよかったね……」
『エ、ア……』
僕は彼女の名を呼び、手に握った。
彼女はそんな僕の手をやさしく握りかえしてくれた。
「なあに? アルト」
『エアは、ここからいなくなるの……?』
そう言った僕の声は、震えていた。
「……うん。そうだね」
エアは僕の問いに静かに、そう答えた。こうしている間にも
彼女の心音が少しずつ静かになっていくのを感じる。
「悲しまなくて、いいんだよ。キミは、十分に悲しんでくれたんだから」
それは、ついさっきのことだった。
突然現れた黒い服を着た男達。“古代兵器を出せ!”とエアに怒鳴り、手を上げたようとしていた。
僕は彼女の側に行こうとしたが、腕を黒い服の男に掴まれて動けなかった。
男の“心音(コトバ)”は僕を盾にすれば、彼女が“古代兵器”の居場所を吐くと思っていることを告げていた。
僕は目の前の男達が“捜しているモノ”を知っているかもしれない。
もし不正解だとしても、それでエアが守れるなら、そうすべきだと思った。でも、
―――兵器なんかじゃない
エアの“心音(コトバ)”はそう言っていた。
僕は、“それ”が兵器なのだと思っていた。でも違うという。
他に何かそれに当たるものがあるのか、考えたけどわからない。
わからないわからないわからない
僕はエアに教わったことを思い出そうとした。
でも、悔しさと悲しさに満たされたエアの感情が流れ込んでくる。
―――こんなハズじゃなかった。こんなはずじゃ…
『エア……?』
僕は、ただただ、エアを見るしかなかった。
僕の腕をつかむ男の“心音(コトバ)”がこう告げた。
“この女、もう用無しだな。始末して兵器を手に入れる”
言葉の意味はわからなかった。
でも、男の“心音(コトバ)”から、エアに何かが起こるのはわかった。
『―――――――――――イヤだ』
「?」
そしてそれがよくないことであることだけはわかった。
『イヤだ……イヤだ』
「あん、なんだ?? このガキ」
『…だ、………イヤだ』
「ダメ!! 落ち着いて!!“アルト”」
エアの声を最後に、目の前が真っ黒になった。
目を開けているのに、エアの姿が見えなくなる。
『エア……?』
彼女を呼んだ。でもいない。自分が発する声以外何も聞こえない。
イヤだ。イヤだ。イヤだ。
僕はなぜかこの感情を知っていた。
だから、イヤだった。この感情を感じることがイヤだった。
『もう…誰も、僕の前からいなくならないで』
そう願って、どれくらい時間が経ったのか、感覚がないまま、急に視界が広がる。
暗闇から抜け出した瞳が移した世界はさっきの景色よりも、“壊れていた”。
僕の手を掴んでいた男達は“胸”を抑えながら、床に倒れ動かなくなっている。
腕を解放された僕は、エアの下に駆け寄ることができた。
エアはさっきと同じところにいた。腰から下が瓦礫に埋もれている以外は何も変わっていない。
―――いや、違う。変わっていた。
エアから“赤い何か”が流れている。僕に名をつけたエアの手が頬に触れる。その手は温かった。
「アルト、覚えていて……。キミの持つ“共鳴振動”は、キミの命も削ってしまう。
使えば使うだけ、命を縮めるの。だから…」
ゴホッとエアは“赤い何か”を吐いた。手が左ほほから離れる。
「エア!」
別の声が耳に飛び込んできてら僕は振り返った。
いつの間に“帰って来た”のだろうか、黒い影がエアの側に寄り添う。
その影はエアの身体の上に乗ったがれきに手を掛けた。
「帰って、きて…くれたんだね」
「待ってろ。今、助ける」
影はエアの言葉を遮る。しかしエアは首を横に振った。
「…必要ない、私はもう、ダメだから」
「! そんなこというなよ、姉さん!!」
影は怒鳴り、泣いていた。
涙を流していた訳ではなかったが、心が泣いていた。
「ソプラ……キミに、頼みたいことが…あるんだ」
「後で聞く! だから少し待っ……」
「―――“アルト”をお願い」
「アルト……?」
「私の息子、やっとね…名前をプレゼントできたの」
「!……」
影が僕を見下ろす。エアは少し無理をして影を見上げた。
「キミになら……」
「待てよ……」
エアの言葉を切った影は、“いつもとは違う”厳しい口調で言った。
その心は、少し前にエアが抱いていた悔しいと悲しいの思いで占められていた。
「おれは、“ソプラ”じゃない」
「……」
「おれは……」
「知ってる、よ」
「なっ!」
僕は影の心臓が大きく鳴るような、振動を感じた。エアは笑う。
「だって……ソプラは…キミのように、ハァ…強くは、なかった…もの」
「まさか、“見つけた”のか……」
「うん。本当に、なんとなくだけど、……ね」
「!」
クセの強い黒髪に、緑の瞳をもつ影は心底驚いていた。
エアは、少しずつ乱れていく息を、紡ぐように言葉を発する。
「“悪魔…の実”、なんだよね。…キミは、それでボクの記憶を“隠した”」
「……」
「お願い……。その、“能力(チカラ)”で、アルトを守って。キミの……」
「やめろ! おれは、政府の人間で……アンタらを監視してだんだ。
“アザリル”が古代兵器だって確証を得たら、アンタを殺して、奪うつもりだった!!」
「…でも、違うと、わかって…くれた」
「!」
「“古代兵器”、なんかじゃ…ないって」
「……」
影は僕を見下ろした。その顔は、僕もよく知るソプラと名乗る人間のいつもの表情だった。
「キミが誰で…なぜ“ソプラ”として、生きてきたのか、理解はできない」
「……」
「でも、キミなら…を……“兵器”に…なんて、しない。
ボクの知るキミは、そうして…くれる」
エアはそう言いながら、僕に再び手を伸ばした。
僕はその手に自分の両手を差し出す。
『……エア』
「アルト。彼と、ここから、出るんだよ。そこで、いろんな…世界を見て」
『行かないで』
「大丈夫。世界は……怖く、ない。とても、キレイな…ものだから」
エアの心が少しずつ消えていく。音を立てず、静かに消えていく。
『ヤだ、イヤだ……行かないで、エア!!』
「!」
僕はとっさに叫んだ。エアは一瞬驚いた顔を見せる。
そして次の瞬間に光を失いつつある瞳が、今まで一番の笑顔になった。
「アルト、愛してる。 "ーーーーーー"!」
・
『……』
「――――アルト」
『?』
「キミの名前を、考えたの。“アザリル”は……みんなに、呼んでもらえる名前じゃ、なかった……から」
『……』
「……名前をつけるなんて、はじめて…だったから、迷ったんだけど」
僕はどんな顔で彼女を見ていたのだろう。
彼女はうつ伏せの身体を起こし、右手を伸ばしてきた。
その赤く染まった手が僕の左ほほに届くと、くしゃっと笑う。
「イヤだったかな?」
『……』
僕は首を横に振った。彼女の身体から“赤い何か”が少しずつ流れ出している。
白い髪の先端と白衣のところどころに“赤”が広がっていくのが見えた。
「そう、よかった。実は、少し前から考えてたんだ。もっと早く……呼んであげればよかったね……」
『エ、ア……』
僕は彼女の名を呼び、手に握った。
彼女はそんな僕の手をやさしく握りかえしてくれた。
「なあに? アルト」
『エアは、ここからいなくなるの……?』
そう言った僕の声は、震えていた。
「……うん。そうだね」
エアは僕の問いに静かに、そう答えた。こうしている間にも
彼女の心音が少しずつ静かになっていくのを感じる。
「悲しまなくて、いいんだよ。キミは、十分に悲しんでくれたんだから」
それは、ついさっきのことだった。
突然現れた黒い服を着た男達。“古代兵器を出せ!”とエアに怒鳴り、手を上げたようとしていた。
僕は彼女の側に行こうとしたが、腕を黒い服の男に掴まれて動けなかった。
男の“心音(コトバ)”は僕を盾にすれば、彼女が“古代兵器”の居場所を吐くと思っていることを告げていた。
僕は目の前の男達が“捜しているモノ”を知っているかもしれない。
もし不正解だとしても、それでエアが守れるなら、そうすべきだと思った。でも、
―――兵器なんかじゃない
エアの“心音(コトバ)”はそう言っていた。
僕は、“それ”が兵器なのだと思っていた。でも違うという。
他に何かそれに当たるものがあるのか、考えたけどわからない。
わからないわからないわからない
僕はエアに教わったことを思い出そうとした。
でも、悔しさと悲しさに満たされたエアの感情が流れ込んでくる。
―――こんなハズじゃなかった。こんなはずじゃ…
『エア……?』
僕は、ただただ、エアを見るしかなかった。
僕の腕をつかむ男の“心音(コトバ)”がこう告げた。
“この女、もう用無しだな。始末して兵器を手に入れる”
言葉の意味はわからなかった。
でも、男の“心音(コトバ)”から、エアに何かが起こるのはわかった。
『―――――――――――イヤだ』
「?」
そしてそれがよくないことであることだけはわかった。
『イヤだ……イヤだ』
「あん、なんだ?? このガキ」
『…だ、………イヤだ』
「ダメ!! 落ち着いて!!“アルト”」
エアの声を最後に、目の前が真っ黒になった。
目を開けているのに、エアの姿が見えなくなる。
『エア……?』
彼女を呼んだ。でもいない。自分が発する声以外何も聞こえない。
イヤだ。イヤだ。イヤだ。
僕はなぜかこの感情を知っていた。
だから、イヤだった。この感情を感じることがイヤだった。
『もう…誰も、僕の前からいなくならないで』
そう願って、どれくらい時間が経ったのか、感覚がないまま、急に視界が広がる。
暗闇から抜け出した瞳が移した世界はさっきの景色よりも、“壊れていた”。
僕の手を掴んでいた男達は“胸”を抑えながら、床に倒れ動かなくなっている。
腕を解放された僕は、エアの下に駆け寄ることができた。
エアはさっきと同じところにいた。腰から下が瓦礫に埋もれている以外は何も変わっていない。
―――いや、違う。変わっていた。
エアから“赤い何か”が流れている。僕に名をつけたエアの手が頬に触れる。その手は温かった。
「アルト、覚えていて……。キミの持つ“共鳴振動”は、キミの命も削ってしまう。
使えば使うだけ、命を縮めるの。だから…」
ゴホッとエアは“赤い何か”を吐いた。手が左ほほから離れる。
「エア!」
別の声が耳に飛び込んできてら僕は振り返った。
いつの間に“帰って来た”のだろうか、黒い影がエアの側に寄り添う。
その影はエアの身体の上に乗ったがれきに手を掛けた。
「帰って、きて…くれたんだね」
「待ってろ。今、助ける」
影はエアの言葉を遮る。しかしエアは首を横に振った。
「…必要ない、私はもう、ダメだから」
「! そんなこというなよ、姉さん!!」
影は怒鳴り、泣いていた。
涙を流していた訳ではなかったが、心が泣いていた。
「ソプラ……キミに、頼みたいことが…あるんだ」
「後で聞く! だから少し待っ……」
「―――“アルト”をお願い」
「アルト……?」
「私の息子、やっとね…名前をプレゼントできたの」
「!……」
影が僕を見下ろす。エアは少し無理をして影を見上げた。
「キミになら……」
「待てよ……」
エアの言葉を切った影は、“いつもとは違う”厳しい口調で言った。
その心は、少し前にエアが抱いていた悔しいと悲しいの思いで占められていた。
「おれは、“ソプラ”じゃない」
「……」
「おれは……」
「知ってる、よ」
「なっ!」
僕は影の心臓が大きく鳴るような、振動を感じた。エアは笑う。
「だって……ソプラは…キミのように、ハァ…強くは、なかった…もの」
「まさか、“見つけた”のか……」
「うん。本当に、なんとなくだけど、……ね」
「!」
クセの強い黒髪に、緑の瞳をもつ影は心底驚いていた。
エアは、少しずつ乱れていく息を、紡ぐように言葉を発する。
「“悪魔…の実”、なんだよね。…キミは、それでボクの記憶を“隠した”」
「……」
「お願い……。その、“能力(チカラ)”で、アルトを守って。キミの……」
「やめろ! おれは、政府の人間で……アンタらを監視してだんだ。
“アザリル”が古代兵器だって確証を得たら、アンタを殺して、奪うつもりだった!!」
「…でも、違うと、わかって…くれた」
「!」
「“古代兵器”、なんかじゃ…ないって」
「……」
影は僕を見下ろした。その顔は、僕もよく知るソプラと名乗る人間のいつもの表情だった。
「キミが誰で…なぜ“ソプラ”として、生きてきたのか、理解はできない」
「……」
「でも、キミなら…を……“兵器”に…なんて、しない。
ボクの知るキミは、そうして…くれる」
エアはそう言いながら、僕に再び手を伸ばした。
僕はその手に自分の両手を差し出す。
『……エア』
「アルト。彼と、ここから、出るんだよ。そこで、いろんな…世界を見て」
『行かないで』
「大丈夫。世界は……怖く、ない。とても、キレイな…ものだから」
エアの心が少しずつ消えていく。音を立てず、静かに消えていく。
『ヤだ、イヤだ……行かないで、エア!!』
「!」
僕はとっさに叫んだ。エアは一瞬驚いた顔を見せる。
そして次の瞬間に光を失いつつある瞳が、今まで一番の笑顔になった。
「アルト、愛してる。 "ーーーーーー"!」
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