渡り鳥
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カツカツカツ
石が敷き詰められた道を歩く。夜にもかかわらず賑やかな通りだ。
先ほど女性に呼び止められたのをやんわりと断り、細い路地に入る。細い路地の左右には飲み屋が並び、街頭代わりに路地へ明かり分けていた。
いい感じに出来上がっている男達が店の外でわいわい騒ぐのをすり抜け、道よりも下に伸びる階段を降りる。手配書がところどころ貼られた階段の終点には木のドアがあった。
『おや』
麦わら一味の船長、モンキー・D・ルフィの手配書の隣に自分の手配書を見つけた。
何気なく手袋越しにそっと自身の手配書を撫でる。次の時には手配書は姿を消していた。
ギィー……バタン
「いやァ!食った食った~!!おージン!」
『只今、帰りました』
「遅かったじゃねェか」
『すいません。予想以上に好評だったので』
酒場に入ったジンはそう謝罪しながら、ゾロとナミの間の空いていた席に座る。
「本当…!?儲かったの?」
目を輝かせるナミ。ジンはニコッと微笑む。
『ええ、それなりに。……ああ、ありがとうございます、ゾロさん』
ナミに答えているジンにゾロは酒を注ぐ。ジンはそれをゆっくりと飲んだ。
『……しかし、ここの食事代を払うと残りはあまり期待出来ないかもしれません』
ジンは積み重なる皿の山を見て、ちょっと困った顔になる。ナミは肩を落とした。
「はぁ……やっぱり」
「あまり蓄えないの?」
ロビンにコーヒーを出したサンジが席に着きながら尋ねる。ナミはハァ…っと大きくため息をついた。
「ここんとこジンの興行以外身入りがないからねェ。食料調達したらほとんどゼロよ」
「あー。そりゃ参ったなァ……」
「何だよそれ!!おい!船長として言わせてもらうけどなァ、金使いが荒すぎるぞ、おめェら!!」
ゴチン……!!!
「痛ェ!!!」
「「「ほとんどてめェの食事だよ!!」」」
「あれェ~?」
ゾロ、ウソップ、サンジに頭を殴られたルフィは机に突っ伏した。
「だが、切実な問題だ」
「もう、何でもいいからパァ…!!っと金になることないかな~」
「でも見たところここにカジノなんて無さそうだし、次の島にでも期待するしかないんじゃ……」
「……」
ナミはサンジから目を反らし、カウンターにいるマスターに目を向ける。先ほど視線を感じたのだ。
「何か?」
「ううん」
『……』
ギィー…バタン
男が一人、バーに入ってくる。
「ラムを一杯くれ」
男はチリンッとカウンターに金を置き、席に座る。店主はラム酒を入れたカップを置いた。
「サンキュ。ちょっと聞いていいか?この島はハンナバルで間違いねェよな?」
「ああ」
「へっへへへへ」
カチッと男は2枚のコインを店主に見せるようにカウンターに置いた。
「ひ…へへっへ」
「……」
ナミはカウンターに座った男と店主の行動に目を向ける。男は店主の案内でカウンターの中に入っていった。
「こらルフィ出せ~!!」
「なにを?」
「今食ったもんだ!!おれのだぞ!!」
「なっ、なんの話だ」
「出せェ……!!」
ウソップがルフィに怒る。チョッパーも取られたのだろうかケンカを始めた。
そんな中キィィ…と言う音と共にマスターがカウンターに戻ってくる。
「どうしたの、ナミさん?」
「ちょっとね」
「ジン、今入って来た男…」
『海賊でしょう。手配書は見当たりませんが……』
「やっぱりな」
ゾロの言葉にジンは頷いた。ゾロは続ける。
「その海賊がさっき店主と何やら怪しげなやりとりをしてた。そうだろ?」
「二人とも見てたの?」
「と言うより目に入ったってとこだ」
『右に同じくです。ナミさんも気にしていらっしゃいましたし』
「ふふ」
「で、どう思う?」
「どうって?」
「とぼけんな。匂いを嗅ぎつけたんだろ?大好物の金の匂いを」
「金……?」
「何よ、それ私が金の亡者みたいじゃない」
「違うのか?」
「てめェ、ナミさんに何を……」
「正解!私の好物はお金とみかんだもん。見逃す訳ないでしょ」
サンジは肩を諫める。ジンはニコニコと笑った。
「ルフィ、ウソップ、チョッパー!冒険の匂いもしてきてるわ。ケンカしてる場合じゃないわよ」
「「「おおー!」」」
ナミは席を立ち、カウンターに向かう。ナミの言葉を聞いた三人は顔を見合わせ、途端にわーいわーいと歓声をあげた。
「ねェ。私たち慢性的に金欠病なんだけど~一攫千金出来そうな景気のいい話ないかしらねェ?」
ナミはカウンターにいる店主に話しかける。店主はジッとナミを見下ろした。
「ああ、大丈夫!ここの払いくらいはちゃんとあるから。ただちょっとね、面白そうな話がありそうだなァって」
「……」
店主はナミから視線を麦わら一味に向ける。ルフィやウソップ、チョッパーはナミの方を暢気な顔で見ていた。
「ふー…。まだガキじゃねェか」
「でも、立派に海賊やってるのよ」
「気づいてたよ。手配で見覚えがある。金に困ってるのも聞こえてきた。だがな、命を粗末にしたい訳じゃねェんだろ?」
「そうね、それはその通りなんだけどね。洒落になんないくらいもうお金がないのよ」
ナミはカウンター座に腰掛ける。
「ほら、虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うじゃない?」
「ヘヘッ」
ゾロはナミがカウンター席に腰掛けたのを見届けてから、立ち上がった。そして3本の刀を腰に提げる。ジンは脱いでいたシルクハットを再びかぶり、ゾロの隣に立つ。サンジもたばこの火を消した。
『楽しそうですね、ゾロさん』
ジンの言葉にゾロはニヤッと口角を上げる。そしてカウンターに向かいながら呆けているルフィ達の頭を小突いた。
「ほら、いくぞ」
「んあ?」
小突かれたルフィ達は、なんだなんだ?と疑問を顔に出しながらも、席を立つ。
「探してるお宝が早々見つかる訳でもないしねェ。やっぱ、まとまったお金を手に入れようとするとさ、リスクがあったって危ない橋渡んなきゃ無理ってものじゃない?
非合法や裏家業にはもうすっかり慣れっこ。ヤバイ目なんて数え切れないわ。確かに命を粗末にしたい訳じゃないの。けどねェ~金以上に困った問題なのは、今更危険だからなんて理由で簡単に引っ込むような仲間じゃないのよねェ~。特にうちの船長は」
全員がカウンターに揃ったと同時にナミはニコッと小悪魔の笑みで店主に言った。
「という訳で、教えてくださいな♪金の匂いの出所を」
「ふふん。バカと海賊につける薬はねェ。どうしても早死にしてェらしいな」
店主はそういうと、先ほど海賊の男を通したドアを開く。
「ついてきな」
「「イエーイ!」」
交渉成立にルフィとウソップはハイタッチでよろこびを分かちあう。他のクルーも喜んでいた。
キィィィ……
「ん?」
「早く扉閉めろ」
店主の言葉に皆が中に入る。最後に入ったジンが扉を閉めた。
「うわ」
「んん?」
「うひひー!!」
真っ暗になった空間。首を傾げるウソップの隣でルフィは目を輝かせた。
「おい、真っ暗じゃねェか」
「真っ直ぐ進んでいけ」
「ここを??」
「そうすりゃ、目的の場所につく」
「ちょっと待って!!まだ何も教えてもらってないわよ」
「そうだぜ」
「おれはここまでだ。後は行きゃあわかる」
「おう!そうするよ」
「ええい!バカルフィ!!こんなの怪しすぎるぜ!!絶対罠に決まってるって」
「イヤならやめたらいい。その方が、おれも寝覚めはいい」
「!?」
「おれは行くぞ!冒険の匂いがするじゃんか!!」
「ぬぬぬぬ……」
ルフィの発言にウソップは冷や汗をダラダラ流す。
「冒険ねェ……」
「本当に、金になることが待ってるんでしょうね!」
「嘘は言わねェ。ただ詳しくも言えねェ」
「むー……」
店主が言葉をはぐらかす。ナミは眉間にしわを寄せた。
「持病の"穴の中を進んではいけない病"が……」
「あきらめろ、ウソップ。もう船長は行く気満々だ」
「金がないのも事実。行くしかねェだろ」
「なーんかヤな予感がすんだよなァ…」
ゾロとサンジに説得されたウソップはうなだれながらそう呟く。
「この奥に冒険が待ってるのか??」
『そのようですよ、チョッパーくん。楽しみですね』
「おお!楽しみだぞ!」
「まぁ、なんとかなるか。後で考えよ」
「よぉし!!そんじゃ行くぞー!!おれの食費稼ぎに!!」
「いや、そっちの計算かよ!」
ウソップはまたひとつルフィにツッコミを入れた。
ゾロを先頭に暗闇を歩く麦わら一味一行。途中で門番らしい男に2枚のコインを見せるとドアが開いた。
「「「おおー!!」」」
目の前に広がる大きく明るい空間、巨大な酒場のようでそこかしこにいる人々は楽しそうに酒を煽っていた。
ルフィ、チョッパー、ウソップは目を輝かせ、駆け出すとバルコニーの縁に乗り出した。さらに開けた空間にもっと大勢の人が酒を飲んでいるのが見える。
そしてなにより黒い旗…"海賊旗"が至る所に掲げられていた。
「「「ほおー!!」」」
「うほほーなんだいなんだいここは~」
「うはー天井から船が吊してあるぜェ」
「ていうか、なんで何~?港に船なんてほとんどいなかったのに……」
「おい、ねェちゃん」
「「「??」」」
ナミ達は声を掛けられ振り向く。
「賭に来たのか?胴元は上の階だぜ」
「胴元?」
「ああん?まさかレースの方に出ようってんじゃねェよな?」
「レース……??」
「やめとけやめとけ、あんな命いくつあっても足らなねェよ」
海賊の男達はどっと笑う。なんのことかわからないナミ達は怪訝な顔をする。
「ああ。確かにここだわ。あんまり久しぶりなんでなかなか思い出せなかったけど…」
ロビンは思い出したっと手を叩いた。
「ええ?なになに?教えて??」
「ずいぶん前に乗っていた海賊船の船長と来たことがあったわ。不定期だけど、何年かに一度レースが行われるのよ―――海賊の海賊による、なんでもありの"デットエンド"レース!!」
「海賊による……?」
「"元ね"。この町は昔海賊だった人ばかりだから」
「「あーそれで」」
「毎度ゴールは違うけど、スタートはいつもここ。ゴール地点のエターナルポースを受け取って進むの。ルールは簡単よ。"真っ先にゴールした者の勝ち"賞金を受け取れる。途中何があっても問題にはならないわ。そう……何があったとしてもね」
「「あんあん……!!」」
ルフィとチョッパーはニコニコとロビンの話に聞き入る。ジンは感心した。
『そんなものがあるのですね』
「にしても、分かりやすいルールだな」
「ああ、この後どうなるかと同じくらいな」
『フフッ……そうですね』
ゾロとサンジのそんな会話にジンはクスクスと笑った。
「ずいぶんと物騒なレースなのねェ。まァ~うちのクルーなら問題ないかなァ。なんかルフィは出たがってるし」
ナミは肩を竦めた。
「ねェ、どんな奴らが参加してるの?」
「あなた知ってる?」
ロビンは話しかけてきた男達に尋ねる。
「なんだよ、本当に出るのか。まぁ、この場にいる奴の3分の1は出る奴らだろうな」
「わぁ~……随分たくさんいるのねェ」
ナミとウソップは妙な笑顔でバルコニーから海賊達を見上げた。
「一番下の方に3番人気がいるぜ」
「あ、下ァ……?」
「デッケェのがいるだろう。巨人族の漁師でボビーとポーゴだよ」
「うわ~巨人族出るんだァ~」
ウソップとナミは笑顔でニコニコと巨人族を見下ろす。
「正面のテラスにはよォ、アーロンのライバルだった二番人気。シャチの魚人ウイリーだ」
「うふふ……魚人族まで」
「あの、アーロンのォ?」
『ウソップさんとナミさん、清々しい笑顔ですね。レースへの期待の高まりでしょうか』
ジンは微笑ましく二人を見る。ゾロは呆れたようにため息をついた。
「いや……そうじゃねェ」
『?』
「あれはたぶん、現実逃避って奴だ」
『ああ……なるほど』
ジンは口元に手を当て笑う。
「ちょっとルフィ!!まだレースに参加するなんて決めてないでしょう!」
グリグリグリと、にやけ顔のルフィのこめかみに押しつける。
「だいだいこんな得体のしれないものに出たって何にもならないじゃないのって……!!」
「シシシ!!」
「「聞けェ!!」」
話に耳を傾けないルフィにナミとウソップは怒鳴りつけた。一方ロビンは海賊に尋ねる。
「ねェ、ちなみに賞金はっていくら?」
「ああん?ああ…今年は確か3億ベリー」
「レース出るわよ!!」
「「「オー!!」」」
「「おおい」」
『フフ……!!』
ナミの掛け声に反応したのはルフィとチョッパーとサンジ。ナミの手のひらを返す言動にウソップとゾロはつっこみを入れた。
数分後。
「ガスパーデ?」
「ええ、そう。二人なら知ってるかなと思って」
受付を終えたナミとサンジがロビンとジンが座っているテーブルに帰ってくると、二人に尋ねた。
「さぁ、聞いたことがあるような、ないような」
「一番人気らしいんだけど、何者なのかしら」
「ジン、あなたは知ってる?」
『……手配書の範囲ですね。これを』
ジンは手のひらを閉じて開く。ポンッと一枚の紙が出てきた。
「"将軍"ガスパーデ……9500万ベリー!?」
「大物だなァ」
ガスパーデの手配書を眺めるナミ、サンジ。ロビンはコーヒーを飲む。
『これ以上の情報は調べてみませんとわかりませんね。お調べしましょうか?』
「そうね、お願いするわ。私も調べてみないと……ってあれ?男共は?」
ナミはいつも騒がしいメンバーがいないことに気づき、左右を見渡す。ロビンは静かに言った。
「ああ。下の階に食事に行ったわよ」
「はぁあああ!!」
ナミは鬼の形相になる。サンジは心臓が止まるくらい驚いて青ざめた。
『ご安心ください。ここの食事は無料だそうです』
「それ聞いたらすっとんで行ったわ」
「あーそう」
鬼の形相から一転、安心した顔になる。サンジもはぁ……と安堵のため息をついた。
デッドエンドレース受付会場内、レストラン。
「あーんぐんぐ。バリバリ」
「……」
ゾロはもりもりと食事をするルフィに呆れたかを向ける。
「おまえ、さっき目一杯食ってなかったかァ??」
「いや、六分目くらいだ」
「まぁ、いいけどよ……」
「明日はレースだぜ。エネルギー溜めとかねェとな」
「ないとな!」
ルフィと同じようにすごい勢いで料理を食べるチョッパーが同意する。
「付き合わなくていいんだぞ」
「え!!?そうなのか!!」
そのチョッパーの頑張りにウソップはストップをかけた。
ガツガツガツガツ……!!
「……!!」
ルフィと同じようにごはんをありったけ口に放り込む人物が、少し離れたテーブルにいた。
その人物……男は黄色いジャージのような服を着て柔らかい髪の色の持つ。左顔に入れ墨が入っていた。
「ゴクゴクゴク……!!」
男は瓶こど酒を飲み、口を荒々しく拭う。その横を料理を持ったウエイターが通った。
「おっ、それうまそうじゃねェか。食うから寄越せよ」
「ダメですよ!!これ向こうのテーブルから頼まれたもので」
「堅ェこと言うなって、あとで持っていきゃ……」
「あ!あれ???」
ウエイターは驚きの声を上げる。男は料理が飛んで行った方へ目を向けた。
「んん……」
男の後ろには一心不乱に料理を食べまくるルフィの姿があった。
「おい!何やってんだ!!はやく食い物持ってこい!!」
「は、はい!!ただ今……!!」
「ん」
急いで新しい料理を持って走るウエイター。男はその料理に手を伸ばす。が……
ニュイーン……
「!!」
伸びてきた手はウエイターの持つ料理を男の目の前からまた取って行った。
「あ、あれあれ??」
ウエイターは自分の両手にあった料理が消えたことに驚き、不思議そうに自分の手をみる。
「おーい!!」
「はいはい!!ただ今~……ああ!!」
もう一人のウエイターの料理も伸ばされた手によりなくなる。
「いやァ~ここはいいなァ。メシがドンドン運ばれてくる」
「ほんと底なしの胃袋だよな……。―――!!!」
ゾロは焦った顔で刀に手をかけた。その行動にルフィは目を丸くする。
「ん?」
ガシャーン……バリバリバリ!!
「「「!」」」
ルフィの頭に男が手を置く。"?"を浮かべたルフィ。男はその置いた手に力を入れ、ルフィをテーブル叩きつけた。
パリン……
「……」
テーブルは真っ二つ。ルフィはそのテーブルの片割れに布団のようにベタンと延びた。
「なんのマネだ……?」
「何のマネ!!?何のマネ!!!!?」
男は凄む。凄まれたウソップと食べた姿勢のまま固まっているチョッパーは、男の一言一言にビクッと震え、全身に冷や汗をだらだらと流していた。
「そら、こっちのセリフだ!!!!」
「言ってる意味わかんねェぞ!!」
男の身勝手な言動に、ゾロも怒鳴り返す。刀には依然手を置いたままだ。
「うるせーやい!!人の食いもん横から手ェ伸ばしてぶんどりやがって!!いくら手が伸びるからってなァ、手が伸び……手が……?」
男は自分の言葉に違和感を感じる。そして怒りを越えた驚きの声を発した。
「今こいつ、手ェ伸びてなかったか!!?」
「「いや、遅ェよ」」
ウソップとチョッパーは男にビシッと冷静なつっこみを入れた。
「よぉし……」
ルフィは、ガシャ……ンとテーブルから立ち上がる。その目には闘志が燃えていた。
「覚悟あんだろな」
「くっ……おまえ、悪魔の実の能力者か」
「だから、どうした」
「おーおーてめェら!!」
「さっきから黙って見てりゃ、人の料理横から盗みやがって!!」
「おれ達が何者かってわかって言ってんのか!!」
「ああん!!」
男は後ろから現れた。海賊たちを睨みつける。その先には悪人面の海賊たちが手に手に武器を持っていた。
「おれ達はガスパーデでの一味だ」
「貴様らおれ達にあやつけといて、無事に済むとは思ってねェよな、ああん!!」
「……」
男は首に巻いていたナプキンを取ると、近くの海賊のカップにつける。ナプキンを濡らした状態で、ガスパーデ海賊団の下っ端の下に歩く。
「レース前の生け贄にしてやるぜ」
「なんだよ、今さら謝ろうってのか??」
「……」
「おい!おまえの相手はまだおれだぞ!!」
カツカツと早足で男に追いついたルフィは男の肩をつかみ、文句を言った。
「フン!!」
バンッ……!!
「!」
ガスパーデ海賊団の一人が、問答無用でルフィを撃った。ルフィは撃たれた反動で後ろによろける。
「……ダッ……ッ」
「よせよ」
「ガキが……!!」
ガスパーデ海賊団の海賊はあざけ笑った。一方、男は何かに気づき、ルフィに目を向ける。
「!」
「余所見してんなよ」
「……効かないねェ」
「「!?」」
撃たれたルフィはニヤッと笑う。そして端的に言った。
「ゴムだから」
「!!」
「んんん~……!!ダァ!!」
ヒュン……!!
「「「はあ……!!?」」」
ルフィが撃ち返した銃弾は、会場の壁に穴を開けた。ガスパーデの海賊達は固まる。
「おい!いきなり何すんだ!!びっくりするだろうが!!」
「いや……普通、びっくりでは済まないんだが……」
唖然とする海賊達と男。
「てめェ一体何者だ??」
「おれ?おれはゴムゴムの実を食った……ゴム人間だ!」
ルフィは麦わら帽子をかぶる。そして堂々と言った。そして戦闘モードに入る。
「ゴムゴムの~……"ピストル"!!」
ギュン……!!
「!」
ルフィの拳は男の横を通り抜けると、そのまま海賊へ伸び、3人一気に殴りとばした。海賊達は壁にめり込む。
「どうだにゃるめい!!」
腕を戻したルフィはしてやったりとガッツポーズをした。
「ば、化け物だ~!!」
「悪魔の実の能力者だとォ!!?」
「ガスパーデ様と同じ……!?」
「おい、タンマ!!穏便にだな……」
「バカやろう!!こんなガキ相手になにビビってんだ!!!全員でかかれ!やっちまうぞ!!!」
「「おおー!!」」
一人の海賊の号令で、海賊達が襲ってきた。
「フッ……」
「でェい……!!」
男は不敵な笑みを浮かべた。余所見をしていた男に海賊は刀を振り降ろす。男は濡らしたナプキンでその刀を受けた。
「ヘッ」
「!」
バコン!!とジャンプして男は海賊の顎を蹴りあげた。そしてそのまま後方へ飛ぶ。
バンバンバン……!!
男に向けられた銃弾。男は飛んだ先にあった机を盾にする。ギリギリかわせた銃弾にヒューッと口笛を吹いた。
「……っ」
男は机を盾にしたまま、少し横に移動する。その間にも銃弾の雨が撃ち込まれる。
バンバンバンバン……!!
男はそれを華麗にかわす。かなりの身軽さだ。いつの間にか海賊は男を視界から見失った。
「「「?」」」
自分達の目を疑う海賊達。その海賊達の後ろから男が現れた。
ガン ドン バン……!!
「ありゃ、よっと」
バキ、ドカン……!!
次々に襲って来る海賊達を男は次々に倒して行く。それを楽しそうに観戦していたルフィも喧嘩に参加する。二人の周りにはいつの間にか気絶した海賊が至る所に転がっていた。
「ああ~……来た来た~!!」
ゾロ・ウソップ・チョッパーの下にも海賊達が迫った。ゾロの後ろに隠れている、ウソップとチョッパーは震え上がる。
「ゾロ。発進!」
「おまえ……」
背に隠れて指示を出すウソップにゾロは大きくため息をついた。
「「「「おりゃあああ!!」」」
「……ヘッ」
呆れた表情から一変、悪い顔になる。シャキィィンと三本の刀を抜いた。
「「「!!?」」」
「めんどくせェから動くな」
ゾロはウソップとチョッパーに言う。ゾロは海賊達の剣を三本の刀、すべてで受け止めていた。
「何者だこいつ……!?」
「「ようし、グー!!」」
「そこか!!」
いつの間にか、柱の後ろに隠れたウソップとチョッパー。ゾロの善戦に親指を立て、讃えた。ゾロは2人の逃げ足の早さに驚き、声を上げた。
うりゃあああ……!!
とりゃあああ……!!
キィンキィンっと男は海賊達と刃を交える。しかし大きな得物で男が持っていた刀が砕かれてしまう。バルコニーに追いつめられた男は、中央の船へつながる鎖を掴んだ。
「おらよ」
男はその鎖を巨体の海賊に巻き付けると、下に落とした。その反動でもう片方の鎖があがり出す。男はバルコニーに詰めかける海賊達を身軽な攻撃で蹴ちらしつつ、自身は上がっていく鎖に掴まり上へ上がって行った。
その頃、ナミ達はのどかなティータイムを過ごしている。
「だー……くそ。しつけェな。もうやめにしようぜ」
「野郎!!逃がさねェぞ~!!」
「待ちやがれ~!!!」
「おお~すげーなー!!」
「ルフィ……!?何してんの??」
「なんでもない。ケンカだ」
「そ。迷子にならないでよ」
「おう!」
ナミと話しながらも順調にルフィは上へ上がって行った。ジンはふとルフィのさらに上にいる男に目がいく。
『おや、あの方は……』
「?どうしたの、ジン?」
『……いえ。知人に似た方がいらっしゃったので……』
「?」
「気になるのなら行ってみたらいいんじゃねェか?」
「そうね。ついでにルフィがどっか行っちゃっわないか見といて」
『……わかりました。では行ってみます』
ニコッと笑ったジンは細かな紙となって消えた。
「よう、まだやるか?」
攻防も一通り終わり、船の上には男と海賊、それに登ってきたルフィの3人だけになっていた。
「いや~すげェな!!身が軽いっつうか、見てるだけで楽しかったぞ!」
「そりゃどうも。3000万もの賞金首とお会い出来るとは思ってなかった」
「ひひ。名前は?」
「おれか?おれの名は……」
「おおい!人を無視して何、話し込んでんだよ!!」
「まだやんのか?」
「あたりめェだ!!たかが3000万くらいで偉そうな口利いてんじゃねェ!!おれらのお頭はなァ!!9500万の超大物なんだぞ!」
「うひょー!そらすっげェ!!クロコダイルより上か!」
「その海賊団がコケにされたまま、終わると思ってんのか!!」
「たまにはあるんじゃねェか?ハハハ……!!」
「あるかァ!!」
ズパッ!!と海賊が刀を振るう。ルフィはそれを軽く避けたが、その代わりに船を釣り上げていたロープが3本切れてしまった。
「「あ……」」
「あばよ」
船が傾く。ルフィと海賊はバランスを崩し、真っ逆さまに落ちる。その一方で、男はタンッと傾く船から脱出していた。
「ほんと軽いなァ……っとそれどころじゃねェか」
ルフィは腕を伸ばすと、近くのバルコニーを掴む。男は一歩先にバルコニーの中に降り立った。
「よっと!」
バシン……と海賊を連れ、バルコニーに飛んできたルフィ。着地と同時に海賊からは手を離した。
「そいつまで拾ってきたのかよ。物好きだな」
「ついでだ」
「で、続きでも?」
「ああ。そうだったな!うぉし!行くぞ!!」
「まぁ、いいけどよ。そいつもまだみてェだぜ」
「あん?」
「……おのれェ……!!」
「もういいよ」
ルフィはまだ起きあがってくる海賊を面倒くさそうにみる。
「うるせェなァ……」
「……」
男は奥から聞こえて来る声にニヤッとニヒルな笑みを浮かべた。
声の主は瓶酒を煽る。飲み終えるとその瓶を壁に投げつけた。ガシャン!!っとガラスの割れる音が響く。
よく見ると、このフロアの人間は皆ボロボロになって気絶していた。
「ああ~~~~~!!!」
海賊は顔を真っ青にする。ルフィは海賊や男を見渡した。
「ガ……ガスパーデ将軍……!!?なんでここに……!」
「ガスパーデ?」
「おれ様がここにいちゃあダメなのか?」
フロアの中央にどっしりと腰を据えるガスパーデが、海賊の言葉に対し、尋ねる。海賊は焦った。
「と!とんでもございません!!ただ今日は船の方で飲んでいると聞いてたので」
「いちいちてめェの許可がいるのか?」
「ああ!!いりません!いりません!!失礼しました!どうぞごゆっくりおくつろぎください!」
「一つ聞きてェんだが」
「はい?」
海賊は首を傾げる。ガスパーデはつまらなさそうな顔だ。
「てめェは誰だ?」
「だれっておれのことですか?……いやですよ、おれはほら」
「知らねェな。どこの馬の骨とも知らねェ奴に軽くやられるような奴は、おれの部下にはいねェんだよ」
「あの、これはその……申し訳ございません!!今から殺るつもりで……」
「!」
ルフィは驚く。いつの間にか海賊の男の後ろに、全身に入れ墨が入った大きな男が回り込んでいたのだ。その大男は海賊の肩を掴むとそのままバルコニーの外へ投げ捨てた。
「あああー―――!!!」
バシャーン……!!っと海賊は真っ逆さまに海に落ちる。巨人のボビーとポーゴはさっきからなんだと文句を口にしていた。
「フン……」
大男がガスパーデに一礼をする。それを目にやった後、バルコニーを見た。
「クズめが……」
「「……」」
一通り見ていた男は笑みを携えたまま、一歩ガスパーデに近づく。
「おい、あいつ!ガスパーデじゃねェか?」
「将軍……!!」
周りのフロアの視線が集中する。その注目の的であるガスパーデは相変わらず見下すような視線をルフィと男に向けていた。
「好きに暴れてたじゃねェか。何者だ?」
「おれの名はシュライヤ。賞金稼ぎやってるしがねェどっかの馬の骨だ」
「うっ……シュライヤだって!!?」
「本物か?」
「"海賊処刑人"の異名をもつ最近噂の……!!」
「「「シュライヤ・バスクードか!!?」」」
男、シュライヤはどこからか取り出した帽子をかぶる。
「おまえ、賞金稼ぎだったのか」
「まぁな。ちょっとだけ有名らしい」
「てめェも覚えがあるぜ。3000万とはちと思えねェが、なかなかじゃねェか」
ガスパーデはニヤッと笑った。
「おもしれェ。どうだ?おれの下で働いてみねェか」
「おいおい。おれはあんた等を狩る側の身だぞ」
「こちとらも元海兵だ。腕と度胸があればそれでいい。強ェ奴は好きなのさ」
「そりゃまた剛胆なことで。だってよ、どうする?」
「やだ!!こいつからはクズの臭いがする」
シュシュシュシュシュ……!!
高速で大男が近づいてくる。ルフィは目で追うことしか出来ない。大男が後ろに回って来た衝撃でルフィの帽子が飛ぶ。
「あ、帽子!!」
ルフィは叫んだ……が次の瞬間、大男の腕についている刃の爪が首に当てられた。
「……っ」
「フッ……フフフフフ。イキがいいのは構わねェが、あんまりなめた口は聞くなよ。命を落とすぜ……ッ!」
皮肉ったはずのガスパーデは目を疑った。大男が爪を突きつけていたルフィはみるみる体の色素がなくなり白くなっていくのが目に入ったのだ。
「!なんだ??」
「!」
シュライヤも大男も目を丸くする。真っ白になったルフィはさらにパラパラと"紙"の破片になり、消えていった。
『このようなにぎやか場所で興を削ぐ行為は、なさらない方がよろしいかと』
「「「!」」」
バルコニーから声が聞こえ、3人は振り向く。バルコニーの縁に立つジンは小脇にルフィを抱えていた。
「ジン!」
『事情はわかりませんが、危ないところでしたね、ルフィさん。間に合ってよかったです』
ジンはルフィをおろすと、自分もガスパーデ達がいるフロアに降り立った。
「ありがとな!ジン」
『どう致しまして』
「おまえ……!!」
「まさか、本物か?」
シュライヤもガスパーデも目を見開く。信じられない様子だった。ジンはシルクハットを軽くあげ、会釈する。
『申し遅れました。僕はクロスロード・ジン。以後、お見知りおきを』
「「「!!」」」
「おおい、聞いたか!?あいつ、"渡り鳥"クロスロード・ジンだ……!!」
「あれが、"5億"の賞金首……!!」
「なんでそんな大物がこんなとこに……!!」
「ガスパーデよりも何倍も上だぞ」
別フロアでもジンの登場にどよめきが走っていた。
ガスパーデは、ニヤリと笑う。
「てめェが噂の"渡り鳥"か」
『ええ。そう呼ばれています。はじめして、"将軍"ガスパーデさん』
「わからねェな。まさかこんな女みてェな奴が、政府が血眼になって探している5億の賞金首とはな……。3000万のそいつとは、どういうつながりだ?」
ガスパーデが尋ねる。ジンはガスパーデに目を向ける。
『さて……。この海ではたくさんのきっかけがあるものですので、ルフィさんとのきっかけもそのひとつに過ぎません』
「ほう……じゃあ、今もきっかけのひとつになるんじゃねェか?。そいつの下をやめておれの下にこないか?」
『申し訳ありませんが、お断り致します。ルフィさんのお言葉、一理あるかと思いますので』
「!!」
大男はその言葉に腹を立てジンに襲いかかる。
「!!」
大男、ニードルスは大きな爪でジンに襲いかかった。が、その鼻先にはジンの手が伸ばされていた。
「!」
ニコッと笑うジン。伸ばした手をパチンッと指を鳴らすと、ポンッと一輪の花が現れた。
『お酒は楽しく呑むものですよ』
「!!……」
「ニードルス、やめねェか!」
「……」
ガスパーデの命令に手を止める。
「いいだろう。気が向いたら船に来な」
ガスパーデは立ち上がると3人に背を向けた。ニードルスは戸惑いながらも、ガスパーデの後を追うように後退を始める。
そのニードルスの足下にはルフィの麦わら帽子だ。ルフィはカッと怒鳴った。
「その帽子を踏むんじゃねェ……!!」
「「!!」」
ルフィの怒りようにニードルスとシュライヤは目を丸くする。ルフィはズンズンと帽子へ足を進めた。
「どけ!!触れるな!!!おれの宝だぞ!!」
「その帽子が宝?」
「これはな、シャンクスから預かった大事な帽子なんだ」
「シャンクス!?あの大海賊の!!?」
「ああ」
「シャンクスに"渡り鳥"……おまえ、ただの海賊じゃねェな」
「いや、ふつうの海賊だよ。幻の大秘宝ワンピースを探してる。あ~でも"海賊王"の称号を手に入れたら普通じゃなくなるか」
「……」
『フフッ……!!』
ルフィの言葉にジンは優しく微笑んだ。
「うははははは!!でけェ口叩くじゃないねェか。この海でそのセリフを吐くことの意味をわかってんのか?」
「別に。おれがなるってそう決めたんだんだから、そのために戦って死ぬんだったら、そりゃそれだ」
「大ボラ吹きのルーキーが」
ガスパーデはコートを翻し、出て行く。
「あれ?」
いつの間にかガスパーデの側に帰っていたニードルスはドアを閉める。二人はこの場を去ってしまった。
シュライヤはルフィを見る。
「やりあう気分じゃなくなったな。この続きはまた今度。それでいいだろ?」
その言葉にルフィはニヤッと口角をあげた。
「おう」
「今度は首狙いで行くからな」
そうルフィに言い残し、カツカツカツと歩いていくシュライヤ。その背中をルフィとジンは目だけで見送っていた。
「それにしてもジン、どうしたんだ?」
『いえ。大したようではありませんよ』
「?」
ジンはシルクハットをなおしながら、ニコッと笑った。
―――街
「……何の用だ?」
『おや、気が付いていましたか。さすが"処刑人"シュライヤ・バスクードさん』
「フン。わざと気付かせたんだろ」
『そうではありませんよ』
スッとシュライヤの隣に現れたジンは何事もなかったかのようにシュライヤの隣を歩く。
『お久しぶりです』
「なんでてめェがここにいるんだ」
『いてはいけませんか?』
「……っ」
『ふふ、すいません。いじわるですね。でも本当にたまたまなのですよ。ルフィさん達がここに立ち寄っただけです』
「そうかよ……っと!!」
「わっ!!」
「…おっと」
シュライヤの足に男の子がぶつかる。
『大丈夫ですか?……!』
ジンは男の子に声を掛ける。その時に男の子が銃を抱きしめているのに気付いた。
『坊や……』
「……!!」
男の子は数歩後ずさりをすると、走って行ってしまった。
「『……』」
「ありゃ、死ぬな」
『……』
シュライヤはそれだけ言うと、帽子を深くかぶった。
「そうだ言い忘れてたが」
『?』
「……あの時は助かった」
『いえ、お気になさらずに…。しかし貴方の本当のターゲットは"ガスパーデ"さんだったのですね』
「……!」
『すいません。少し気になりまして』
「……。そうだとしてもてめェには関係ねェ」
『…ええ。関係はないでしょう。でも……』
「?なんだ?」
ジンは目をそらす。シュライヤは怪訝な顔をした。
『憎しみは何も生みません』
「……その言葉、ありがたく受け取っておく。だが、おれは止まらねェよ」
『そうですか……では、ご武運を』
ジンはシルクハットを取り、お辞儀をした。シュライヤは手をそれに答えると暗闇の中、消えて行った。
『……戻りましょう、ゴーイングメリー号に』
ジンはキビを返し、船に戻って行く。
この夜が明ければ、海賊の海賊によるデットエンドの幕が開く―――!!
to be Continue……?
***************
デッドエンド前半戦でした。
レースに入ると活躍するのがほとんどルフィになってしまうので、とりあえず前半だけにしてみました。楽しんで頂けたら幸いです。
石が敷き詰められた道を歩く。夜にもかかわらず賑やかな通りだ。
先ほど女性に呼び止められたのをやんわりと断り、細い路地に入る。細い路地の左右には飲み屋が並び、街頭代わりに路地へ明かり分けていた。
いい感じに出来上がっている男達が店の外でわいわい騒ぐのをすり抜け、道よりも下に伸びる階段を降りる。手配書がところどころ貼られた階段の終点には木のドアがあった。
『おや』
麦わら一味の船長、モンキー・D・ルフィの手配書の隣に自分の手配書を見つけた。
何気なく手袋越しにそっと自身の手配書を撫でる。次の時には手配書は姿を消していた。
ギィー……バタン
「いやァ!食った食った~!!おージン!」
『只今、帰りました』
「遅かったじゃねェか」
『すいません。予想以上に好評だったので』
酒場に入ったジンはそう謝罪しながら、ゾロとナミの間の空いていた席に座る。
「本当…!?儲かったの?」
目を輝かせるナミ。ジンはニコッと微笑む。
『ええ、それなりに。……ああ、ありがとうございます、ゾロさん』
ナミに答えているジンにゾロは酒を注ぐ。ジンはそれをゆっくりと飲んだ。
『……しかし、ここの食事代を払うと残りはあまり期待出来ないかもしれません』
ジンは積み重なる皿の山を見て、ちょっと困った顔になる。ナミは肩を落とした。
「はぁ……やっぱり」
「あまり蓄えないの?」
ロビンにコーヒーを出したサンジが席に着きながら尋ねる。ナミはハァ…っと大きくため息をついた。
「ここんとこジンの興行以外身入りがないからねェ。食料調達したらほとんどゼロよ」
「あー。そりゃ参ったなァ……」
「何だよそれ!!おい!船長として言わせてもらうけどなァ、金使いが荒すぎるぞ、おめェら!!」
ゴチン……!!!
「痛ェ!!!」
「「「ほとんどてめェの食事だよ!!」」」
「あれェ~?」
ゾロ、ウソップ、サンジに頭を殴られたルフィは机に突っ伏した。
「だが、切実な問題だ」
「もう、何でもいいからパァ…!!っと金になることないかな~」
「でも見たところここにカジノなんて無さそうだし、次の島にでも期待するしかないんじゃ……」
「……」
ナミはサンジから目を反らし、カウンターにいるマスターに目を向ける。先ほど視線を感じたのだ。
「何か?」
「ううん」
『……』
ギィー…バタン
男が一人、バーに入ってくる。
「ラムを一杯くれ」
男はチリンッとカウンターに金を置き、席に座る。店主はラム酒を入れたカップを置いた。
「サンキュ。ちょっと聞いていいか?この島はハンナバルで間違いねェよな?」
「ああ」
「へっへへへへ」
カチッと男は2枚のコインを店主に見せるようにカウンターに置いた。
「ひ…へへっへ」
「……」
ナミはカウンターに座った男と店主の行動に目を向ける。男は店主の案内でカウンターの中に入っていった。
「こらルフィ出せ~!!」
「なにを?」
「今食ったもんだ!!おれのだぞ!!」
「なっ、なんの話だ」
「出せェ……!!」
ウソップがルフィに怒る。チョッパーも取られたのだろうかケンカを始めた。
そんな中キィィ…と言う音と共にマスターがカウンターに戻ってくる。
「どうしたの、ナミさん?」
「ちょっとね」
「ジン、今入って来た男…」
『海賊でしょう。手配書は見当たりませんが……』
「やっぱりな」
ゾロの言葉にジンは頷いた。ゾロは続ける。
「その海賊がさっき店主と何やら怪しげなやりとりをしてた。そうだろ?」
「二人とも見てたの?」
「と言うより目に入ったってとこだ」
『右に同じくです。ナミさんも気にしていらっしゃいましたし』
「ふふ」
「で、どう思う?」
「どうって?」
「とぼけんな。匂いを嗅ぎつけたんだろ?大好物の金の匂いを」
「金……?」
「何よ、それ私が金の亡者みたいじゃない」
「違うのか?」
「てめェ、ナミさんに何を……」
「正解!私の好物はお金とみかんだもん。見逃す訳ないでしょ」
サンジは肩を諫める。ジンはニコニコと笑った。
「ルフィ、ウソップ、チョッパー!冒険の匂いもしてきてるわ。ケンカしてる場合じゃないわよ」
「「「おおー!」」」
ナミは席を立ち、カウンターに向かう。ナミの言葉を聞いた三人は顔を見合わせ、途端にわーいわーいと歓声をあげた。
「ねェ。私たち慢性的に金欠病なんだけど~一攫千金出来そうな景気のいい話ないかしらねェ?」
ナミはカウンターにいる店主に話しかける。店主はジッとナミを見下ろした。
「ああ、大丈夫!ここの払いくらいはちゃんとあるから。ただちょっとね、面白そうな話がありそうだなァって」
「……」
店主はナミから視線を麦わら一味に向ける。ルフィやウソップ、チョッパーはナミの方を暢気な顔で見ていた。
「ふー…。まだガキじゃねェか」
「でも、立派に海賊やってるのよ」
「気づいてたよ。手配で見覚えがある。金に困ってるのも聞こえてきた。だがな、命を粗末にしたい訳じゃねェんだろ?」
「そうね、それはその通りなんだけどね。洒落になんないくらいもうお金がないのよ」
ナミはカウンター座に腰掛ける。
「ほら、虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うじゃない?」
「ヘヘッ」
ゾロはナミがカウンター席に腰掛けたのを見届けてから、立ち上がった。そして3本の刀を腰に提げる。ジンは脱いでいたシルクハットを再びかぶり、ゾロの隣に立つ。サンジもたばこの火を消した。
『楽しそうですね、ゾロさん』
ジンの言葉にゾロはニヤッと口角を上げる。そしてカウンターに向かいながら呆けているルフィ達の頭を小突いた。
「ほら、いくぞ」
「んあ?」
小突かれたルフィ達は、なんだなんだ?と疑問を顔に出しながらも、席を立つ。
「探してるお宝が早々見つかる訳でもないしねェ。やっぱ、まとまったお金を手に入れようとするとさ、リスクがあったって危ない橋渡んなきゃ無理ってものじゃない?
非合法や裏家業にはもうすっかり慣れっこ。ヤバイ目なんて数え切れないわ。確かに命を粗末にしたい訳じゃないの。けどねェ~金以上に困った問題なのは、今更危険だからなんて理由で簡単に引っ込むような仲間じゃないのよねェ~。特にうちの船長は」
全員がカウンターに揃ったと同時にナミはニコッと小悪魔の笑みで店主に言った。
「という訳で、教えてくださいな♪金の匂いの出所を」
「ふふん。バカと海賊につける薬はねェ。どうしても早死にしてェらしいな」
店主はそういうと、先ほど海賊の男を通したドアを開く。
「ついてきな」
「「イエーイ!」」
交渉成立にルフィとウソップはハイタッチでよろこびを分かちあう。他のクルーも喜んでいた。
キィィィ……
「ん?」
「早く扉閉めろ」
店主の言葉に皆が中に入る。最後に入ったジンが扉を閉めた。
「うわ」
「んん?」
「うひひー!!」
真っ暗になった空間。首を傾げるウソップの隣でルフィは目を輝かせた。
「おい、真っ暗じゃねェか」
「真っ直ぐ進んでいけ」
「ここを??」
「そうすりゃ、目的の場所につく」
「ちょっと待って!!まだ何も教えてもらってないわよ」
「そうだぜ」
「おれはここまでだ。後は行きゃあわかる」
「おう!そうするよ」
「ええい!バカルフィ!!こんなの怪しすぎるぜ!!絶対罠に決まってるって」
「イヤならやめたらいい。その方が、おれも寝覚めはいい」
「!?」
「おれは行くぞ!冒険の匂いがするじゃんか!!」
「ぬぬぬぬ……」
ルフィの発言にウソップは冷や汗をダラダラ流す。
「冒険ねェ……」
「本当に、金になることが待ってるんでしょうね!」
「嘘は言わねェ。ただ詳しくも言えねェ」
「むー……」
店主が言葉をはぐらかす。ナミは眉間にしわを寄せた。
「持病の"穴の中を進んではいけない病"が……」
「あきらめろ、ウソップ。もう船長は行く気満々だ」
「金がないのも事実。行くしかねェだろ」
「なーんかヤな予感がすんだよなァ…」
ゾロとサンジに説得されたウソップはうなだれながらそう呟く。
「この奥に冒険が待ってるのか??」
『そのようですよ、チョッパーくん。楽しみですね』
「おお!楽しみだぞ!」
「まぁ、なんとかなるか。後で考えよ」
「よぉし!!そんじゃ行くぞー!!おれの食費稼ぎに!!」
「いや、そっちの計算かよ!」
ウソップはまたひとつルフィにツッコミを入れた。
ゾロを先頭に暗闇を歩く麦わら一味一行。途中で門番らしい男に2枚のコインを見せるとドアが開いた。
「「「おおー!!」」」
目の前に広がる大きく明るい空間、巨大な酒場のようでそこかしこにいる人々は楽しそうに酒を煽っていた。
ルフィ、チョッパー、ウソップは目を輝かせ、駆け出すとバルコニーの縁に乗り出した。さらに開けた空間にもっと大勢の人が酒を飲んでいるのが見える。
そしてなにより黒い旗…"海賊旗"が至る所に掲げられていた。
「「「ほおー!!」」」
「うほほーなんだいなんだいここは~」
「うはー天井から船が吊してあるぜェ」
「ていうか、なんで何~?港に船なんてほとんどいなかったのに……」
「おい、ねェちゃん」
「「「??」」」
ナミ達は声を掛けられ振り向く。
「賭に来たのか?胴元は上の階だぜ」
「胴元?」
「ああん?まさかレースの方に出ようってんじゃねェよな?」
「レース……??」
「やめとけやめとけ、あんな命いくつあっても足らなねェよ」
海賊の男達はどっと笑う。なんのことかわからないナミ達は怪訝な顔をする。
「ああ。確かにここだわ。あんまり久しぶりなんでなかなか思い出せなかったけど…」
ロビンは思い出したっと手を叩いた。
「ええ?なになに?教えて??」
「ずいぶん前に乗っていた海賊船の船長と来たことがあったわ。不定期だけど、何年かに一度レースが行われるのよ―――海賊の海賊による、なんでもありの"デットエンド"レース!!」
「海賊による……?」
「"元ね"。この町は昔海賊だった人ばかりだから」
「「あーそれで」」
「毎度ゴールは違うけど、スタートはいつもここ。ゴール地点のエターナルポースを受け取って進むの。ルールは簡単よ。"真っ先にゴールした者の勝ち"賞金を受け取れる。途中何があっても問題にはならないわ。そう……何があったとしてもね」
「「あんあん……!!」」
ルフィとチョッパーはニコニコとロビンの話に聞き入る。ジンは感心した。
『そんなものがあるのですね』
「にしても、分かりやすいルールだな」
「ああ、この後どうなるかと同じくらいな」
『フフッ……そうですね』
ゾロとサンジのそんな会話にジンはクスクスと笑った。
「ずいぶんと物騒なレースなのねェ。まァ~うちのクルーなら問題ないかなァ。なんかルフィは出たがってるし」
ナミは肩を竦めた。
「ねェ、どんな奴らが参加してるの?」
「あなた知ってる?」
ロビンは話しかけてきた男達に尋ねる。
「なんだよ、本当に出るのか。まぁ、この場にいる奴の3分の1は出る奴らだろうな」
「わぁ~……随分たくさんいるのねェ」
ナミとウソップは妙な笑顔でバルコニーから海賊達を見上げた。
「一番下の方に3番人気がいるぜ」
「あ、下ァ……?」
「デッケェのがいるだろう。巨人族の漁師でボビーとポーゴだよ」
「うわ~巨人族出るんだァ~」
ウソップとナミは笑顔でニコニコと巨人族を見下ろす。
「正面のテラスにはよォ、アーロンのライバルだった二番人気。シャチの魚人ウイリーだ」
「うふふ……魚人族まで」
「あの、アーロンのォ?」
『ウソップさんとナミさん、清々しい笑顔ですね。レースへの期待の高まりでしょうか』
ジンは微笑ましく二人を見る。ゾロは呆れたようにため息をついた。
「いや……そうじゃねェ」
『?』
「あれはたぶん、現実逃避って奴だ」
『ああ……なるほど』
ジンは口元に手を当て笑う。
「ちょっとルフィ!!まだレースに参加するなんて決めてないでしょう!」
グリグリグリと、にやけ顔のルフィのこめかみに押しつける。
「だいだいこんな得体のしれないものに出たって何にもならないじゃないのって……!!」
「シシシ!!」
「「聞けェ!!」」
話に耳を傾けないルフィにナミとウソップは怒鳴りつけた。一方ロビンは海賊に尋ねる。
「ねェ、ちなみに賞金はっていくら?」
「ああん?ああ…今年は確か3億ベリー」
「レース出るわよ!!」
「「「オー!!」」」
「「おおい」」
『フフ……!!』
ナミの掛け声に反応したのはルフィとチョッパーとサンジ。ナミの手のひらを返す言動にウソップとゾロはつっこみを入れた。
数分後。
「ガスパーデ?」
「ええ、そう。二人なら知ってるかなと思って」
受付を終えたナミとサンジがロビンとジンが座っているテーブルに帰ってくると、二人に尋ねた。
「さぁ、聞いたことがあるような、ないような」
「一番人気らしいんだけど、何者なのかしら」
「ジン、あなたは知ってる?」
『……手配書の範囲ですね。これを』
ジンは手のひらを閉じて開く。ポンッと一枚の紙が出てきた。
「"将軍"ガスパーデ……9500万ベリー!?」
「大物だなァ」
ガスパーデの手配書を眺めるナミ、サンジ。ロビンはコーヒーを飲む。
『これ以上の情報は調べてみませんとわかりませんね。お調べしましょうか?』
「そうね、お願いするわ。私も調べてみないと……ってあれ?男共は?」
ナミはいつも騒がしいメンバーがいないことに気づき、左右を見渡す。ロビンは静かに言った。
「ああ。下の階に食事に行ったわよ」
「はぁあああ!!」
ナミは鬼の形相になる。サンジは心臓が止まるくらい驚いて青ざめた。
『ご安心ください。ここの食事は無料だそうです』
「それ聞いたらすっとんで行ったわ」
「あーそう」
鬼の形相から一転、安心した顔になる。サンジもはぁ……と安堵のため息をついた。
デッドエンドレース受付会場内、レストラン。
「あーんぐんぐ。バリバリ」
「……」
ゾロはもりもりと食事をするルフィに呆れたかを向ける。
「おまえ、さっき目一杯食ってなかったかァ??」
「いや、六分目くらいだ」
「まぁ、いいけどよ……」
「明日はレースだぜ。エネルギー溜めとかねェとな」
「ないとな!」
ルフィと同じようにすごい勢いで料理を食べるチョッパーが同意する。
「付き合わなくていいんだぞ」
「え!!?そうなのか!!」
そのチョッパーの頑張りにウソップはストップをかけた。
ガツガツガツガツ……!!
「……!!」
ルフィと同じようにごはんをありったけ口に放り込む人物が、少し離れたテーブルにいた。
その人物……男は黄色いジャージのような服を着て柔らかい髪の色の持つ。左顔に入れ墨が入っていた。
「ゴクゴクゴク……!!」
男は瓶こど酒を飲み、口を荒々しく拭う。その横を料理を持ったウエイターが通った。
「おっ、それうまそうじゃねェか。食うから寄越せよ」
「ダメですよ!!これ向こうのテーブルから頼まれたもので」
「堅ェこと言うなって、あとで持っていきゃ……」
「あ!あれ???」
ウエイターは驚きの声を上げる。男は料理が飛んで行った方へ目を向けた。
「んん……」
男の後ろには一心不乱に料理を食べまくるルフィの姿があった。
「おい!何やってんだ!!はやく食い物持ってこい!!」
「は、はい!!ただ今……!!」
「ん」
急いで新しい料理を持って走るウエイター。男はその料理に手を伸ばす。が……
ニュイーン……
「!!」
伸びてきた手はウエイターの持つ料理を男の目の前からまた取って行った。
「あ、あれあれ??」
ウエイターは自分の両手にあった料理が消えたことに驚き、不思議そうに自分の手をみる。
「おーい!!」
「はいはい!!ただ今~……ああ!!」
もう一人のウエイターの料理も伸ばされた手によりなくなる。
「いやァ~ここはいいなァ。メシがドンドン運ばれてくる」
「ほんと底なしの胃袋だよな……。―――!!!」
ゾロは焦った顔で刀に手をかけた。その行動にルフィは目を丸くする。
「ん?」
ガシャーン……バリバリバリ!!
「「「!」」」
ルフィの頭に男が手を置く。"?"を浮かべたルフィ。男はその置いた手に力を入れ、ルフィをテーブル叩きつけた。
パリン……
「……」
テーブルは真っ二つ。ルフィはそのテーブルの片割れに布団のようにベタンと延びた。
「なんのマネだ……?」
「何のマネ!!?何のマネ!!!!?」
男は凄む。凄まれたウソップと食べた姿勢のまま固まっているチョッパーは、男の一言一言にビクッと震え、全身に冷や汗をだらだらと流していた。
「そら、こっちのセリフだ!!!!」
「言ってる意味わかんねェぞ!!」
男の身勝手な言動に、ゾロも怒鳴り返す。刀には依然手を置いたままだ。
「うるせーやい!!人の食いもん横から手ェ伸ばしてぶんどりやがって!!いくら手が伸びるからってなァ、手が伸び……手が……?」
男は自分の言葉に違和感を感じる。そして怒りを越えた驚きの声を発した。
「今こいつ、手ェ伸びてなかったか!!?」
「「いや、遅ェよ」」
ウソップとチョッパーは男にビシッと冷静なつっこみを入れた。
「よぉし……」
ルフィは、ガシャ……ンとテーブルから立ち上がる。その目には闘志が燃えていた。
「覚悟あんだろな」
「くっ……おまえ、悪魔の実の能力者か」
「だから、どうした」
「おーおーてめェら!!」
「さっきから黙って見てりゃ、人の料理横から盗みやがって!!」
「おれ達が何者かってわかって言ってんのか!!」
「ああん!!」
男は後ろから現れた。海賊たちを睨みつける。その先には悪人面の海賊たちが手に手に武器を持っていた。
「おれ達はガスパーデでの一味だ」
「貴様らおれ達にあやつけといて、無事に済むとは思ってねェよな、ああん!!」
「……」
男は首に巻いていたナプキンを取ると、近くの海賊のカップにつける。ナプキンを濡らした状態で、ガスパーデ海賊団の下っ端の下に歩く。
「レース前の生け贄にしてやるぜ」
「なんだよ、今さら謝ろうってのか??」
「……」
「おい!おまえの相手はまだおれだぞ!!」
カツカツと早足で男に追いついたルフィは男の肩をつかみ、文句を言った。
「フン!!」
バンッ……!!
「!」
ガスパーデ海賊団の一人が、問答無用でルフィを撃った。ルフィは撃たれた反動で後ろによろける。
「……ダッ……ッ」
「よせよ」
「ガキが……!!」
ガスパーデ海賊団の海賊はあざけ笑った。一方、男は何かに気づき、ルフィに目を向ける。
「!」
「余所見してんなよ」
「……効かないねェ」
「「!?」」
撃たれたルフィはニヤッと笑う。そして端的に言った。
「ゴムだから」
「!!」
「んんん~……!!ダァ!!」
ヒュン……!!
「「「はあ……!!?」」」
ルフィが撃ち返した銃弾は、会場の壁に穴を開けた。ガスパーデの海賊達は固まる。
「おい!いきなり何すんだ!!びっくりするだろうが!!」
「いや……普通、びっくりでは済まないんだが……」
唖然とする海賊達と男。
「てめェ一体何者だ??」
「おれ?おれはゴムゴムの実を食った……ゴム人間だ!」
ルフィは麦わら帽子をかぶる。そして堂々と言った。そして戦闘モードに入る。
「ゴムゴムの~……"ピストル"!!」
ギュン……!!
「!」
ルフィの拳は男の横を通り抜けると、そのまま海賊へ伸び、3人一気に殴りとばした。海賊達は壁にめり込む。
「どうだにゃるめい!!」
腕を戻したルフィはしてやったりとガッツポーズをした。
「ば、化け物だ~!!」
「悪魔の実の能力者だとォ!!?」
「ガスパーデ様と同じ……!?」
「おい、タンマ!!穏便にだな……」
「バカやろう!!こんなガキ相手になにビビってんだ!!!全員でかかれ!やっちまうぞ!!!」
「「おおー!!」」
一人の海賊の号令で、海賊達が襲ってきた。
「フッ……」
「でェい……!!」
男は不敵な笑みを浮かべた。余所見をしていた男に海賊は刀を振り降ろす。男は濡らしたナプキンでその刀を受けた。
「ヘッ」
「!」
バコン!!とジャンプして男は海賊の顎を蹴りあげた。そしてそのまま後方へ飛ぶ。
バンバンバン……!!
男に向けられた銃弾。男は飛んだ先にあった机を盾にする。ギリギリかわせた銃弾にヒューッと口笛を吹いた。
「……っ」
男は机を盾にしたまま、少し横に移動する。その間にも銃弾の雨が撃ち込まれる。
バンバンバンバン……!!
男はそれを華麗にかわす。かなりの身軽さだ。いつの間にか海賊は男を視界から見失った。
「「「?」」」
自分達の目を疑う海賊達。その海賊達の後ろから男が現れた。
ガン ドン バン……!!
「ありゃ、よっと」
バキ、ドカン……!!
次々に襲って来る海賊達を男は次々に倒して行く。それを楽しそうに観戦していたルフィも喧嘩に参加する。二人の周りにはいつの間にか気絶した海賊が至る所に転がっていた。
「ああ~……来た来た~!!」
ゾロ・ウソップ・チョッパーの下にも海賊達が迫った。ゾロの後ろに隠れている、ウソップとチョッパーは震え上がる。
「ゾロ。発進!」
「おまえ……」
背に隠れて指示を出すウソップにゾロは大きくため息をついた。
「「「「おりゃあああ!!」」」
「……ヘッ」
呆れた表情から一変、悪い顔になる。シャキィィンと三本の刀を抜いた。
「「「!!?」」」
「めんどくせェから動くな」
ゾロはウソップとチョッパーに言う。ゾロは海賊達の剣を三本の刀、すべてで受け止めていた。
「何者だこいつ……!?」
「「ようし、グー!!」」
「そこか!!」
いつの間にか、柱の後ろに隠れたウソップとチョッパー。ゾロの善戦に親指を立て、讃えた。ゾロは2人の逃げ足の早さに驚き、声を上げた。
うりゃあああ……!!
とりゃあああ……!!
キィンキィンっと男は海賊達と刃を交える。しかし大きな得物で男が持っていた刀が砕かれてしまう。バルコニーに追いつめられた男は、中央の船へつながる鎖を掴んだ。
「おらよ」
男はその鎖を巨体の海賊に巻き付けると、下に落とした。その反動でもう片方の鎖があがり出す。男はバルコニーに詰めかける海賊達を身軽な攻撃で蹴ちらしつつ、自身は上がっていく鎖に掴まり上へ上がって行った。
その頃、ナミ達はのどかなティータイムを過ごしている。
「だー……くそ。しつけェな。もうやめにしようぜ」
「野郎!!逃がさねェぞ~!!」
「待ちやがれ~!!!」
「おお~すげーなー!!」
「ルフィ……!?何してんの??」
「なんでもない。ケンカだ」
「そ。迷子にならないでよ」
「おう!」
ナミと話しながらも順調にルフィは上へ上がって行った。ジンはふとルフィのさらに上にいる男に目がいく。
『おや、あの方は……』
「?どうしたの、ジン?」
『……いえ。知人に似た方がいらっしゃったので……』
「?」
「気になるのなら行ってみたらいいんじゃねェか?」
「そうね。ついでにルフィがどっか行っちゃっわないか見といて」
『……わかりました。では行ってみます』
ニコッと笑ったジンは細かな紙となって消えた。
「よう、まだやるか?」
攻防も一通り終わり、船の上には男と海賊、それに登ってきたルフィの3人だけになっていた。
「いや~すげェな!!身が軽いっつうか、見てるだけで楽しかったぞ!」
「そりゃどうも。3000万もの賞金首とお会い出来るとは思ってなかった」
「ひひ。名前は?」
「おれか?おれの名は……」
「おおい!人を無視して何、話し込んでんだよ!!」
「まだやんのか?」
「あたりめェだ!!たかが3000万くらいで偉そうな口利いてんじゃねェ!!おれらのお頭はなァ!!9500万の超大物なんだぞ!」
「うひょー!そらすっげェ!!クロコダイルより上か!」
「その海賊団がコケにされたまま、終わると思ってんのか!!」
「たまにはあるんじゃねェか?ハハハ……!!」
「あるかァ!!」
ズパッ!!と海賊が刀を振るう。ルフィはそれを軽く避けたが、その代わりに船を釣り上げていたロープが3本切れてしまった。
「「あ……」」
「あばよ」
船が傾く。ルフィと海賊はバランスを崩し、真っ逆さまに落ちる。その一方で、男はタンッと傾く船から脱出していた。
「ほんと軽いなァ……っとそれどころじゃねェか」
ルフィは腕を伸ばすと、近くのバルコニーを掴む。男は一歩先にバルコニーの中に降り立った。
「よっと!」
バシン……と海賊を連れ、バルコニーに飛んできたルフィ。着地と同時に海賊からは手を離した。
「そいつまで拾ってきたのかよ。物好きだな」
「ついでだ」
「で、続きでも?」
「ああ。そうだったな!うぉし!行くぞ!!」
「まぁ、いいけどよ。そいつもまだみてェだぜ」
「あん?」
「……おのれェ……!!」
「もういいよ」
ルフィはまだ起きあがってくる海賊を面倒くさそうにみる。
「うるせェなァ……」
「……」
男は奥から聞こえて来る声にニヤッとニヒルな笑みを浮かべた。
声の主は瓶酒を煽る。飲み終えるとその瓶を壁に投げつけた。ガシャン!!っとガラスの割れる音が響く。
よく見ると、このフロアの人間は皆ボロボロになって気絶していた。
「ああ~~~~~!!!」
海賊は顔を真っ青にする。ルフィは海賊や男を見渡した。
「ガ……ガスパーデ将軍……!!?なんでここに……!」
「ガスパーデ?」
「おれ様がここにいちゃあダメなのか?」
フロアの中央にどっしりと腰を据えるガスパーデが、海賊の言葉に対し、尋ねる。海賊は焦った。
「と!とんでもございません!!ただ今日は船の方で飲んでいると聞いてたので」
「いちいちてめェの許可がいるのか?」
「ああ!!いりません!いりません!!失礼しました!どうぞごゆっくりおくつろぎください!」
「一つ聞きてェんだが」
「はい?」
海賊は首を傾げる。ガスパーデはつまらなさそうな顔だ。
「てめェは誰だ?」
「だれっておれのことですか?……いやですよ、おれはほら」
「知らねェな。どこの馬の骨とも知らねェ奴に軽くやられるような奴は、おれの部下にはいねェんだよ」
「あの、これはその……申し訳ございません!!今から殺るつもりで……」
「!」
ルフィは驚く。いつの間にか海賊の男の後ろに、全身に入れ墨が入った大きな男が回り込んでいたのだ。その大男は海賊の肩を掴むとそのままバルコニーの外へ投げ捨てた。
「あああー―――!!!」
バシャーン……!!っと海賊は真っ逆さまに海に落ちる。巨人のボビーとポーゴはさっきからなんだと文句を口にしていた。
「フン……」
大男がガスパーデに一礼をする。それを目にやった後、バルコニーを見た。
「クズめが……」
「「……」」
一通り見ていた男は笑みを携えたまま、一歩ガスパーデに近づく。
「おい、あいつ!ガスパーデじゃねェか?」
「将軍……!!」
周りのフロアの視線が集中する。その注目の的であるガスパーデは相変わらず見下すような視線をルフィと男に向けていた。
「好きに暴れてたじゃねェか。何者だ?」
「おれの名はシュライヤ。賞金稼ぎやってるしがねェどっかの馬の骨だ」
「うっ……シュライヤだって!!?」
「本物か?」
「"海賊処刑人"の異名をもつ最近噂の……!!」
「「「シュライヤ・バスクードか!!?」」」
男、シュライヤはどこからか取り出した帽子をかぶる。
「おまえ、賞金稼ぎだったのか」
「まぁな。ちょっとだけ有名らしい」
「てめェも覚えがあるぜ。3000万とはちと思えねェが、なかなかじゃねェか」
ガスパーデはニヤッと笑った。
「おもしれェ。どうだ?おれの下で働いてみねェか」
「おいおい。おれはあんた等を狩る側の身だぞ」
「こちとらも元海兵だ。腕と度胸があればそれでいい。強ェ奴は好きなのさ」
「そりゃまた剛胆なことで。だってよ、どうする?」
「やだ!!こいつからはクズの臭いがする」
シュシュシュシュシュ……!!
高速で大男が近づいてくる。ルフィは目で追うことしか出来ない。大男が後ろに回って来た衝撃でルフィの帽子が飛ぶ。
「あ、帽子!!」
ルフィは叫んだ……が次の瞬間、大男の腕についている刃の爪が首に当てられた。
「……っ」
「フッ……フフフフフ。イキがいいのは構わねェが、あんまりなめた口は聞くなよ。命を落とすぜ……ッ!」
皮肉ったはずのガスパーデは目を疑った。大男が爪を突きつけていたルフィはみるみる体の色素がなくなり白くなっていくのが目に入ったのだ。
「!なんだ??」
「!」
シュライヤも大男も目を丸くする。真っ白になったルフィはさらにパラパラと"紙"の破片になり、消えていった。
『このようなにぎやか場所で興を削ぐ行為は、なさらない方がよろしいかと』
「「「!」」」
バルコニーから声が聞こえ、3人は振り向く。バルコニーの縁に立つジンは小脇にルフィを抱えていた。
「ジン!」
『事情はわかりませんが、危ないところでしたね、ルフィさん。間に合ってよかったです』
ジンはルフィをおろすと、自分もガスパーデ達がいるフロアに降り立った。
「ありがとな!ジン」
『どう致しまして』
「おまえ……!!」
「まさか、本物か?」
シュライヤもガスパーデも目を見開く。信じられない様子だった。ジンはシルクハットを軽くあげ、会釈する。
『申し遅れました。僕はクロスロード・ジン。以後、お見知りおきを』
「「「!!」」」
「おおい、聞いたか!?あいつ、"渡り鳥"クロスロード・ジンだ……!!」
「あれが、"5億"の賞金首……!!」
「なんでそんな大物がこんなとこに……!!」
「ガスパーデよりも何倍も上だぞ」
別フロアでもジンの登場にどよめきが走っていた。
ガスパーデは、ニヤリと笑う。
「てめェが噂の"渡り鳥"か」
『ええ。そう呼ばれています。はじめして、"将軍"ガスパーデさん』
「わからねェな。まさかこんな女みてェな奴が、政府が血眼になって探している5億の賞金首とはな……。3000万のそいつとは、どういうつながりだ?」
ガスパーデが尋ねる。ジンはガスパーデに目を向ける。
『さて……。この海ではたくさんのきっかけがあるものですので、ルフィさんとのきっかけもそのひとつに過ぎません』
「ほう……じゃあ、今もきっかけのひとつになるんじゃねェか?。そいつの下をやめておれの下にこないか?」
『申し訳ありませんが、お断り致します。ルフィさんのお言葉、一理あるかと思いますので』
「!!」
大男はその言葉に腹を立てジンに襲いかかる。
「!!」
大男、ニードルスは大きな爪でジンに襲いかかった。が、その鼻先にはジンの手が伸ばされていた。
「!」
ニコッと笑うジン。伸ばした手をパチンッと指を鳴らすと、ポンッと一輪の花が現れた。
『お酒は楽しく呑むものですよ』
「!!……」
「ニードルス、やめねェか!」
「……」
ガスパーデの命令に手を止める。
「いいだろう。気が向いたら船に来な」
ガスパーデは立ち上がると3人に背を向けた。ニードルスは戸惑いながらも、ガスパーデの後を追うように後退を始める。
そのニードルスの足下にはルフィの麦わら帽子だ。ルフィはカッと怒鳴った。
「その帽子を踏むんじゃねェ……!!」
「「!!」」
ルフィの怒りようにニードルスとシュライヤは目を丸くする。ルフィはズンズンと帽子へ足を進めた。
「どけ!!触れるな!!!おれの宝だぞ!!」
「その帽子が宝?」
「これはな、シャンクスから預かった大事な帽子なんだ」
「シャンクス!?あの大海賊の!!?」
「ああ」
「シャンクスに"渡り鳥"……おまえ、ただの海賊じゃねェな」
「いや、ふつうの海賊だよ。幻の大秘宝ワンピースを探してる。あ~でも"海賊王"の称号を手に入れたら普通じゃなくなるか」
「……」
『フフッ……!!』
ルフィの言葉にジンは優しく微笑んだ。
「うははははは!!でけェ口叩くじゃないねェか。この海でそのセリフを吐くことの意味をわかってんのか?」
「別に。おれがなるってそう決めたんだんだから、そのために戦って死ぬんだったら、そりゃそれだ」
「大ボラ吹きのルーキーが」
ガスパーデはコートを翻し、出て行く。
「あれ?」
いつの間にかガスパーデの側に帰っていたニードルスはドアを閉める。二人はこの場を去ってしまった。
シュライヤはルフィを見る。
「やりあう気分じゃなくなったな。この続きはまた今度。それでいいだろ?」
その言葉にルフィはニヤッと口角をあげた。
「おう」
「今度は首狙いで行くからな」
そうルフィに言い残し、カツカツカツと歩いていくシュライヤ。その背中をルフィとジンは目だけで見送っていた。
「それにしてもジン、どうしたんだ?」
『いえ。大したようではありませんよ』
「?」
ジンはシルクハットをなおしながら、ニコッと笑った。
―――街
「……何の用だ?」
『おや、気が付いていましたか。さすが"処刑人"シュライヤ・バスクードさん』
「フン。わざと気付かせたんだろ」
『そうではありませんよ』
スッとシュライヤの隣に現れたジンは何事もなかったかのようにシュライヤの隣を歩く。
『お久しぶりです』
「なんでてめェがここにいるんだ」
『いてはいけませんか?』
「……っ」
『ふふ、すいません。いじわるですね。でも本当にたまたまなのですよ。ルフィさん達がここに立ち寄っただけです』
「そうかよ……っと!!」
「わっ!!」
「…おっと」
シュライヤの足に男の子がぶつかる。
『大丈夫ですか?……!』
ジンは男の子に声を掛ける。その時に男の子が銃を抱きしめているのに気付いた。
『坊や……』
「……!!」
男の子は数歩後ずさりをすると、走って行ってしまった。
「『……』」
「ありゃ、死ぬな」
『……』
シュライヤはそれだけ言うと、帽子を深くかぶった。
「そうだ言い忘れてたが」
『?』
「……あの時は助かった」
『いえ、お気になさらずに…。しかし貴方の本当のターゲットは"ガスパーデ"さんだったのですね』
「……!」
『すいません。少し気になりまして』
「……。そうだとしてもてめェには関係ねェ」
『…ええ。関係はないでしょう。でも……』
「?なんだ?」
ジンは目をそらす。シュライヤは怪訝な顔をした。
『憎しみは何も生みません』
「……その言葉、ありがたく受け取っておく。だが、おれは止まらねェよ」
『そうですか……では、ご武運を』
ジンはシルクハットを取り、お辞儀をした。シュライヤは手をそれに答えると暗闇の中、消えて行った。
『……戻りましょう、ゴーイングメリー号に』
ジンはキビを返し、船に戻って行く。
この夜が明ければ、海賊の海賊によるデットエンドの幕が開く―――!!
to be Continue……?
***************
デッドエンド前半戦でした。
レースに入ると活躍するのがほとんどルフィになってしまうので、とりあえず前半だけにしてみました。楽しんで頂けたら幸いです。