郵便屋
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『うわぁ……まっしろだァ』
霧が立ちこめた海から暢気な声がこだまする。
声を出したのはシロ。黒い髪に金色の瞳を持つ少年で、穏やかな雰囲気を他に与える。
今、シロは2・3人が乗れる程度の小型船で霧の中を進んでいた。
(シロ……本当にここで間違いはないのか?)
シロの頭に直接語りかけてくる声。この声の持ち主はクロという名を持つ少年。
クロは現在、シロの“副人格”という立場をとっているもうひとりの存在。
そうシロはシロでもあり、 クロでもある。
またクロはクロでもあり、 シロでもある。
どちらか一方が強大な力を持つわけでなく、互いの欠点を補い合う存在。
彼らは1つの身体に2つの意志を持つ、GLでもとても稀な体質をしている。
そんな2人は“郵便屋”として、世界を巡っていた。
『うん。間違いないよ、クロ。
ここが あの“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク氏がいる“クライガナ島”、“シッケアール王国跡地”だよ』
話ながらシロとクロは深い霧を進む。
島に近づくにつれ、霧が晴れて行くように感じた。
『あ、岸が見えてきたよ!』
(こんな偏狭に世界最強がいるのか……)
『ふふ、本当だねェ~。お得意様になったら大変だねェ~』
(……思ってないだろ)
『んん?そんなことないよ!でもでも世界最強がお得意様ってなんだかカッコイイよね!』
(……はぁ)
シロの暢気な言葉にクロは盛大にため息をついた。
(そんなに歓迎してくれるとは思えねェが…… まぁ、いい。なんとかなるだろ)
『そうそう!楽しく行こう!』
(ああ)
シロは船をシッケアール国に接岸させる。島自体には霧はなかった。
『錨、オッケー!』
(よし。あと一応、動物除けをして置こう。何がいるかわからないしな)
『そうだね!船壊されたらお仕事出来ないし』
シロは船の中から粉を取り出す。それを接岸した船の側に撒いた。
『ようし、準備万端!早速、弟子入りに行くよー!!』
(……)
シロは手紙の入った大きなバックを掲げ、帽子をかぶる。そしてシッケアール国へ入って行った。
【こんにちは、最強の剣士さん】
―――シッケアール国、下町街。
『なんだかボロボロだねェ~』
(戦争でもあったみたいだな)
壊れ、崩壊している家々が視界に入る。無事な家屋はどれだけ見渡しても見つからない。
『……ん~人が住んでそうではないなァ』
(……まさか、センゴクに一枚食わされたってことはないよな?)
シロは歩きながら腕を組み考える。そして首を横に振った。
『でもでも、センゴク氏がボクらにそうする理由が見当たらないよね』
(確かに。…じゃあ、簡単だな)
『?なになに?』
クロの言葉に興味津々のシロ。クロはきっぱりと言った。
(“鷹の目”は変人なんだ!)
『! あははは!! クロ、直球すぎるよ!師匠になるかもしれない人だよ!!』
(だが的外れじゃないってシロも思ってるだろ?)
『はは~まぁね。変わった人なんだろうなァって思う。ねェ、クロ』
(?)
『とりあえず、あのお城を目指そうよ』
シロはこの島で一番高い位置にある城を指差した。
『もし、ミホーク氏がいなくてもお城見学出来るしさ』
(……まぁ、妥当だな)
『よし、きまり!じゃあ…』
(!……待て、シロ!)
『? どうしたの、クロ…』
(!! 来る! 構えろ!!! 後ろだ!)
『――――!!』
――――ガキィィン…!!
シロはとっさに背中に担いでいた弓なりの武器、ブーメランで不意打ちの攻撃をガードした。
『あわわ、危なかった……』
「……キャウ!?」
『え!?お、おさるさん?』
(なんだこいつら……)
不意打ちをして来たのは鎧を着た大きなヒヒ。 ヒヒはギギギ…と力任せに剣で圧してくる。
シロは険しい顔をしながら、なんとか堪えていた。
(ダメだシロ、堪えるな!力技じゃおれ達は敵わない。受け流せ)
『あ、そっか…!!』
気付いたシロはブーメランごとぐるっと身体を回転させ、ヒヒの力を受け流す。 力を受け流されたヒヒはバランスを崩し地面に突っ込んだ。
『ふう……』
(大丈夫か?)
『……う、うん。って!!』
シロは目を疑う。いつの間にヒヒが一匹から十匹くらいまで増えていた。
『おさるさんがいっぱいいる…!!』
(囲まれたか……。シロ、言葉はわかるか?)
『えっと…みんなボクらと“戦いたい”って』
(へェ……世界最強に会う前の肩慣らしって感じか?)
『どうなのかな?でも、こんなたくさんのおさるさん、ボクじゃ厳しいかも……』
(わかった。なら…)
シロは目を瞑る。瞬間、黒い髪からみるみる色素が抜け白い髪に変わり、
開かれた金色の目は先程の穏やかな感じから一転、殺気が漂う厳しい目つきに変わった。
『選手交代だ…』
「「「!」」」
ヒヒは敵の突然の変身に目を丸くする。クロはブーメランの中心にある持ち手を握った。
(がんばれ~、クロ!!)
『ああ、暴れさせてもらう…“刀稈(トウカン)”!!』
パキッとクロはブーメランの真ん中をひねるとブーメランは二つに分かれ、双剣へと姿を変える。
『数で押してくるなら手加減はしない。覚悟しろ!』
カンカン、キン……!!
『……チッ。しつこい!!』
クロはもう何十分もヒヒ格闘していた。
(クロ、逃げよう! みんなを相手にしてらんないよ)
『確かに……けど!!』
ガキィィン…!!
逃げ道を作り、そこから出ようと試みるが、新手のヒヒに邪魔をされる。
『チッ…さっきからこれだ。そう簡単には逃がしてくれないらしい』
ギシギシと軋む腕。クロは前に倒れるように身体を回す。
そしてそのままヒヒの剣を横に流すと、自身は地面に双剣を突き刺した。
反動で逆立ちするような姿勢になったクロは上げた両足を膝を曲げ、回転に釣られて前のめりになったヒヒの顎に向けて蹴り上げた。
「キャウキャホー…!!」
ヒヒはバタンと地面に仰向けになって倒れ込む。クロは肩で息をした。
『戦い慣れしすぎだろ…っと!』
クロは逆立ちの体勢から勢いをつけ て、元の態勢に立ち直る。
地面に突き刺した双剣も抜いた。
「キャホ…!!!」
「ウホホホォー!!」
「「「!!」」」
『?』
(ん?)
ヒヒ達が急に慌て出す。
そして仲間内で何か言葉を交わした後、一目散に逃げて行った。
クロとシロは目を丸くする。
『撤退……?』
(“あいつが来た”って…言ってたよ)
『あいつ?』
走る去るヒヒ達に目を向けた後、ヒヒ達が見ていた方角に目をやった。 カツカツと足音が聞こえる。クロは武器を構えた。
「ヒヒ共が何を暴れているかと思えば、人間がいたのか」
『……!』
(……!)
ゆっくりした足取りで海の方からやって来たのは、クロ達が探していた“鷹の目”ジュラキュール・ミホークだ。
『本物か……』
(間違いないね)
「……」
『?なんだ?』
するどい目つきに睨まれたクロは苛立ちを声に出した。
「変わった気配を持つな。いるのは2人だと思ったが……」
『!』
(!)
ミホークの発言にクロとシロは驚いた。
「まぁ、いい。こんなところで何をしている?漂着でもしたのか」
『……さすがは世界最強って感じだな』
「?」
クロは構えを解きながら言った。
『端的に言うと“おれ達”はアンタに用があって来た』
「おれ達……?」
『そう、“おれ達”だ。詳しくはシロが説明する』
クロはそう言うと目を瞑る。途端に白い髪が黒く染まった。
ミホークはするどい目を見開く中、黒い髪のシロは目を開ける。
『はじめまして、ミホーク氏ィ。ボクらを“弟子”にしてください!!』
「……」
(……)
『あれあれ…?無反応??』
シロは首を傾げた。
『クロ、ボク何か間違えたかな…?』
(間違ってはいないが……直球すぎるな)
「……お前が気配の正体か」
完全に気配が変わったことにミホークは眉をひそめる。
『!そう、ミホーク氏の考え通り!ボクらは2人。あ、もっと正確に言うとボクらは2人で1人なんですが!』
「……」
『ちなみにボクがシロ。さっきいたのはクロと言います。ちゃんと覚えてくださいね!』
ニコッと笑うシロ。ミホークは鋭い瞳そのままにシロを見る。
「……ここをどうやって見つけた?」
『センゴク氏に聞きました~』
「……海軍の回し者か」
一気に白けたと言わんばかりに目を背けたミホーク。シロは慌てて補足した。
『違いますよー。海軍はお得意様なんです!ボクらは今日、アナタの“弟子”になりたくて来たわけで……』
「……“弟子”などいらん。帰れ」
『ええェ!?』
ミホークはそう言うとシロの横を通り、城へ歩いていく。
『!!そ、そんな!!待って、ミホーク氏!』
「……」
(!…アイツ、とめるか?)
『ダメだよ、クロ。ボクらはお願いに来たんだよ!』
(チッ……ならどうするんだ?)
『弟子にしてもらえるまで、頼むの』
(無理だって言われたら?)
『無理でも頼むの。だって今のボクらじゃ、“新世界”には入れないもん』
(……わかった。シロに付き合う、好きにしろ)
『ありがとう! クロ!』
シロは胸に手を当てて嬉しそうに声を上げた。
(シロは頑固だからな。とりあえず“鷹の目”を追うぞ)
『うん!!』
シロは遠くなっていくミホークの背中に向けて走り出した。
それから数日。
彼らは毎日、ミホークの家(城)を訪れた。
昼はヒヒ達と戦い、夜寝るときはヒヒが来ない船の中で眠った。
『今日もがんばるぞ~』
(お~~)
シロの意気込んだ声に、クロは疲れた声を出した。
『クロ、大丈夫?』
(ああ)
『ごめんね、夜の見張りを頼んでて』
(別に。昼間のヒヒの相手はお前がしてんだし、おれたまに寝てるから問題はない)
『ありがとう。でも、どうしたらいいかなぁ。もうお願いばかりじゃダメだよね』
ここ何日か頼みこんでいるが、一行に良い返事はもらえていないことに頭を抱えるシロ。
(そうだな……。お願いだけで無理なら、おれ達が弟子になったらいいことあるぞって思わせればいいんじゃないか?)
『ボク達が弟子になったらいいことあるぞ、…か』
(……)
むむーとうなり声をあげるシロ。クロはその声を聞きながら、シロの反応を待った。
『あ!そうだ!!』
シロはぽんっと手を叩く。
(何か思いついたのか?)
『うん!あのね、クロ。料理にしようよ!
つる氏が言ってたじゃん。男の胃袋を掴んだ人が勝ちだって!』
(……お、おい。それは恋愛のことだろ??)
『クロのごはんなら、ミホーク氏絶対気に入るし!!』
(おれの料理って……)
『ボク食べたい!!最近簡易食料ばっかりだし。クロの料理はバラティエの次においしいし!!』
(!!そんな訳ないだろう…)
シロの言葉を否定しつつも、まんざらではない返事を返すクロ。
『あんな立派なお城なら、キッチンもあるよね!』
(ああ、たぶんな。あとは食材がどれくらいあるかだが……)
『よし、じゃあ!ミホーク氏のキッチンに突撃だァ!!』
(おお!って…話変わってないか?)
クロの言葉もなんのその、シロはごはんごはん~とスキップしながら、城へ向かって行った。
――――シッケアール王国、城内。
「……」
ミホークは城の中で一人静かに新聞に目を通してた。
「?なんだ」
ふと、食べ物の匂いがミホークの鼻をかすめる。
ミホークは新聞を置き、腰を上げるとゆったりとした足取りで食堂に足を進めた。
『あ、ミホーク氏ィ!』
「!」
食堂のドアを開けると開口一番に明るい声が聞こえる。
その声を発した黒髪の少年は20人掛の食卓いっぱいに料理を並べていた。
『ちょうどよかった!ごはんできたから、呼びに行こうと思ってたんだよ~』
「……。貴様ら何をしている?」
半ば呆れながら尋ねたミホーク。シロは首を傾げた。
『何をって、クロがごはんを作って、ボクが運んでるんだよ!』
「……」
話が通じていない、そう感じたミホークは大きくため息をつく。
(おい、シロ。冷めるぞ)
『わわ!ほんとだ!ミホーク氏、急いで急いで!!』
シロはミホークを席に案内すると、急いで自分も席についた。
『はい!じゃあ手を合わせてェ~……いただきまぁす!』
手を合わせて元気のいい声をあげると、シロはごはんを食べ始める。
「……」
ミホークはそんなシロを横目に見ながら、食事に目をやる。
鼻を掠めたおいしそうな匂いの元がこの料理らしい。
とりあえず、箸をとり食べることにした。
「……」
ミホークは次々に口の中に食べ物を放り込む。
シロはそれを見て輝く笑顔を振りまいた。
『ミホーク氏ィ~、おいしいでしょ??』
「……」
『全部クロが作ったんだよ~』
ニコニコと話ながら、シロは一口、また一口と料理を口に運ぶ。
ミホークはその様子を少し眺めていた。
『クロ~おいしいよ!!ごはん食べるの交代しようか??』
(いい。身体の腹が膨れれば問題ないし。後でホットミルク飲むからその分だけ空けていてくれ)
『ミルクあったんだ!よかったねェ』
(まぁな)
「……ふむ」
『?』
ミホークは最後に料理を一口つまむと、箸を置く。
その音に反応したのか、シロは皿からミホークに視線を移した。
「お前達はなぜおれの弟子になりたいのだ?」
『!お、やっと聞いてくれた!!』
「さっさと話さんともう聞かんぞ」
『わわっ!!話すから待ってくださいー!!ってうっ……』
(!シロ!?)
ガチャン…と皿とスプーンが当たる大きな音が食堂に響いた。
シロはのどを詰まらせたのか、慌てた様子で手近にあった水を一気飲みする。
『んん……――――プハーーっ!!』
シロはふぅと息をついた。ミホークは一連の行動を鋭い眼光で見つめるだけ。
(平気か?)
『うん…だいじょぶ』
ナプキンで口を拭いながらシロはクロの言葉に答える。
そしてひとつ咳払いをすると、ミホークに向き直った。
『慌ててごめんなさい。あのね、ミホーク氏。
僕らがあなたの弟子になりたいのは“新世界”に入りたいからなんだ』
「?なぜ、お前達が“新世界”に?」
『これをね、届けたいんだよ』
椅子の側に置いてあった大きなカバンから一枚の手紙を取り出す。
その手紙はミホークに幾分古い印象を与えた。
「手紙?」
『あ!言うの忘れたんですが、ボクら“郵便屋”をしてるんですよ~。
世界中の人達に頼まれたお手紙を届ける仕事を』
「……その行為に何の見返りある?」
『見返り…?んん~みんなの笑顔が見れることかな』
「……」
『わわ!?なんで白けてるの!!?変なこと言ってないよボク!ねェ、クロ』
(……。いいから話の続きをしろ)
なんだか照れているクロ。
シロは、ん?と疑問の顔をしながら、ミホークの手の中にある手紙を指さした。
『ミホーク氏。そのお手紙の中、見てみてほしいんだ』
「中を?」
『うん。見てみてくださいな』
シロに促され、ミホークは手紙をあける。封は閉じられていなかったようだ。
中から一枚のカードを取り出す。そのカードには一文しか書かれていなかった。
“願いを叶えるために、ブルーエッグを探しに行きます”
「“ブルーエッグ”?」
ミホークの呟きにシロは頷く。
『“ブルーエッグ”。とある海にある秘宝らしいんです。
それを見つければ“なんでも願いが叶う”っていう』
「ふん……」
ミホークは興味なさそうに返事をかえした。シロは話を続ける。
『ボク達はそのお手紙を書いた人が渡したかった人を探しているんです』
「……」
『でも、書いた人が誰だかわからなくて、誰に届ければいいのかもわからない。
……だからこれを書いた人にもう一度会って誰に届けたらいいか尋ねたいんです』
「その手掛かりが“ブルーエッグ”か」
『そうだ』
「!」
髪の毛の色素が抜け、目つきの悪い金色の瞳がミホークを見る。
(クロ、どうしたの?)
『ミルクが飲みたくなっただけだ。話はおれが続けるぞ』
(うん)
立ち上がり、キッチンへ足を運ぶクロ。
あらかじめ鍋に入れていたミルクに火をかける。
『……おれ達は、その手掛かりを世界に手紙を届けながら探していた』
しばらくしてから火を止め、温めたミルクをカップに注いだ。
それをふーふーと冷ましながら飲む。
「……」
『そして噂を聞いたんだ。“ブルーエッグ”は“新世界”にあるってな』
「それを探しに行くのか」
『ああ、そうだ』
「なぜ?」
『なぜ??変なことを聞くんだな』
「?」
クロは残りのミルクをぐいっと飲み干した。
『ただ、シロとおれがそうしたいからそうするんだ』
そう言うと、クロは目をつぶる。髪が黒くなった。
『おお!?もういいの??』
(ああ、満足だ)
『そっかそっか。あ、ミホーク氏、驚かせてごめんなさい』
ペコっとシロは頭を下げる。
『でもね、その人を探すことが、僕らにまったく利益がないことでもないんですよ』
「ほう?」
『ボクらは“2人で1人”なのは何度か話してるけど、
実はこの手紙はボクらが2人とも“2人で1人”だと理解した時から、ボクらの側にあったんだ。
でもね、ボクらは2人ともこの手紙の主を知らない。
ボクらを知っているかもしれないその人を――――そしてなぜこの手紙を託されたかも……
これはボクらがボクらであるルーツを探す手掛かりになる気がするんだ』
(……)
「……」
『だからね、ミホーク氏。ボクらはこの手紙の人を、そしてその手紙を届けたかった人を、本気で探したいんだ。
だから、“新世界”に行けるように鍛えてほしいんです』
「……」
『……』
シロは大きく頭を下げた。そのまま目をつぶってミホークの返答を待つ。
ドキドキは副人格のクロにまで伝染していた。
「……フッ」
(『…?』)
「酔狂な奴らだな」
(……)
『!…へへ。ありがとう!』
(褒め言葉なのか?)
シロはニヘらと口元をゆるめる。ミホークは手紙をシロに差し出した。
「……おれには価値がわからん」
『!……』
ミホークの言葉に顔をあげ、手紙を受け取ったシロはシュンと肩を落とす。
「……だが、おれとの約束を守るならば考えてやってもいい」
『!……本当!?』
シロは一気に嬉しそうな顔になり、期待の目でミホークを見た。
「ああ」
(約束…?おい、シロ。約束の内容聞いてから返事し…)
『――――約束するよ!』
(!シロ!!?)
『で!ミホーク氏ィ、約束てなぁに?』
「おれとの約束とは“おれの言うことを必ず守ることだ”」
(!待て!シロ!!)
『なんだ、簡単じゃん。いいよ♪』
(あ……)
ミホークはニヤッと口角をあげる。
「じゃあ早速だが、この食事を終えたら部屋の掃除と海軍からの手紙の類を処理しろ」
『いいよ!お掃除に手紙の整理ね………ってあれれ?』
シロは首を傾げる。クロはため息をついた。
『クロクロ、何だか不思議な展開だよ?』
(ハァ……シロ、お前乗せられたんだぞ)
『え?』
(今の1分間でおれ達はあいつの使用人になったんだよ)
『え…、ええー――!!?』
シロは驚きの声を上げる。ミホークは大きな声で笑った。
『うう…っ。ひどいよ、ミホーク氏ィ……』
「何がひどいんだ……?嫌ならば出て行け、おれは引き留めん」
『……ううっ』
(チッ……)
『!』
黒い髪の色素が抜け、白い髪になった。クロが主人格になったのだ。
『おい、“鷹の目”!ちゃんと稽古をつけんだろうな!!
シロを騙してただの小間使いにするってんなら、おれが許さねェからな』
(ヒューヒュー♪クロカッコイイ!!)
『こら、シロ。茶化すな』
クロは殺気を抜き出しにミホークを睨む。ミホークは興味津々に2人の変貌ぶりを見ていた。
「クロか…。今日はよく出てくるな」
『ここで黙ってたらよくねェのはわかるからな!!』
(……ん?あれ、でもよく聞くとボクが小間使いになるの…??)
『当たり前だろ。今日の仕事に関しては、シロのいつも早とちりのせいだからな』
(…うっ、ごめんなさい。でもでも、クロ。ミホーク氏はいい人だよ!
だってボクらのことをちゃんと認識して“呼んで”くれてるじゃないか)
『……っ』
「……。クロ、ケンカは終わったか?」
『!……』
腕を組み立っているミホークはクロに尋ねた。
クロは不機嫌そうにミホークをじっと見る。
(クロ?)
『……そんなこと、わかってるさ』
『わわ…!?』
髪が一気に黒くなった。
『クロ~?』
(寝る。後はシロの好きにしたらいい。さっきも言ったけど、今言われた雑用はシロがしろよ)
『ええ!?』
(じゃあな、おやすみ)
『う、うん。おやすみィ~』
(……)
「……」
『あ!ごめんね、ミホーク氏。ケンカは終わったよ!』
「1つの身体に2人の人格……、変わった暇つぶしができたと思えばいい」
『うっ…、ミホーク氏。何気にひどいよね』
「で、クロはどうしたのだ?」
『ん?ああ♪寝たよ。クロは毎日たくさん寝るんだ』
「……ほう」
『あ!あのね、ミホーク氏!
クロ、嫌がってないからね!
クロもミホーク氏を尊敬してるのは確かだから!』
「……わかっていると言っておこう」
『ありがとう!』
そしてシロは一息深呼吸をすると、ミホークに笑顔で言った。
『改めまして。ミホーク氏、よろしくお願いします!』
「フッ」
ミホークは小さく笑う。
そして残りの食事を平らげると、シロは“約束“通り掃除に手紙の整理を行った。
――――この出会いはゾロがバーソロミュー・くまに飛ばされてやってくる少し昔の話である。
end
***********
これが【郵便屋】で初期の想定としているミホークとの出会いです。手紙を絡めた話のつもりですが、どうでしょう?
弟子なのか、小間使いなのか……それは今後の展開で判明するのかなw
ゾロが兄弟子ということで、残り一作はその話を書くつもりですww
霧が立ちこめた海から暢気な声がこだまする。
声を出したのはシロ。黒い髪に金色の瞳を持つ少年で、穏やかな雰囲気を他に与える。
今、シロは2・3人が乗れる程度の小型船で霧の中を進んでいた。
(シロ……本当にここで間違いはないのか?)
シロの頭に直接語りかけてくる声。この声の持ち主はクロという名を持つ少年。
クロは現在、シロの“副人格”という立場をとっているもうひとりの存在。
そうシロはシロでもあり、 クロでもある。
またクロはクロでもあり、 シロでもある。
どちらか一方が強大な力を持つわけでなく、互いの欠点を補い合う存在。
彼らは1つの身体に2つの意志を持つ、GLでもとても稀な体質をしている。
そんな2人は“郵便屋”として、世界を巡っていた。
『うん。間違いないよ、クロ。
ここが あの“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク氏がいる“クライガナ島”、“シッケアール王国跡地”だよ』
話ながらシロとクロは深い霧を進む。
島に近づくにつれ、霧が晴れて行くように感じた。
『あ、岸が見えてきたよ!』
(こんな偏狭に世界最強がいるのか……)
『ふふ、本当だねェ~。お得意様になったら大変だねェ~』
(……思ってないだろ)
『んん?そんなことないよ!でもでも世界最強がお得意様ってなんだかカッコイイよね!』
(……はぁ)
シロの暢気な言葉にクロは盛大にため息をついた。
(そんなに歓迎してくれるとは思えねェが…… まぁ、いい。なんとかなるだろ)
『そうそう!楽しく行こう!』
(ああ)
シロは船をシッケアール国に接岸させる。島自体には霧はなかった。
『錨、オッケー!』
(よし。あと一応、動物除けをして置こう。何がいるかわからないしな)
『そうだね!船壊されたらお仕事出来ないし』
シロは船の中から粉を取り出す。それを接岸した船の側に撒いた。
『ようし、準備万端!早速、弟子入りに行くよー!!』
(……)
シロは手紙の入った大きなバックを掲げ、帽子をかぶる。そしてシッケアール国へ入って行った。
【こんにちは、最強の剣士さん】
―――シッケアール国、下町街。
『なんだかボロボロだねェ~』
(戦争でもあったみたいだな)
壊れ、崩壊している家々が視界に入る。無事な家屋はどれだけ見渡しても見つからない。
『……ん~人が住んでそうではないなァ』
(……まさか、センゴクに一枚食わされたってことはないよな?)
シロは歩きながら腕を組み考える。そして首を横に振った。
『でもでも、センゴク氏がボクらにそうする理由が見当たらないよね』
(確かに。…じゃあ、簡単だな)
『?なになに?』
クロの言葉に興味津々のシロ。クロはきっぱりと言った。
(“鷹の目”は変人なんだ!)
『! あははは!! クロ、直球すぎるよ!師匠になるかもしれない人だよ!!』
(だが的外れじゃないってシロも思ってるだろ?)
『はは~まぁね。変わった人なんだろうなァって思う。ねェ、クロ』
(?)
『とりあえず、あのお城を目指そうよ』
シロはこの島で一番高い位置にある城を指差した。
『もし、ミホーク氏がいなくてもお城見学出来るしさ』
(……まぁ、妥当だな)
『よし、きまり!じゃあ…』
(!……待て、シロ!)
『? どうしたの、クロ…』
(!! 来る! 構えろ!!! 後ろだ!)
『――――!!』
――――ガキィィン…!!
シロはとっさに背中に担いでいた弓なりの武器、ブーメランで不意打ちの攻撃をガードした。
『あわわ、危なかった……』
「……キャウ!?」
『え!?お、おさるさん?』
(なんだこいつら……)
不意打ちをして来たのは鎧を着た大きなヒヒ。 ヒヒはギギギ…と力任せに剣で圧してくる。
シロは険しい顔をしながら、なんとか堪えていた。
(ダメだシロ、堪えるな!力技じゃおれ達は敵わない。受け流せ)
『あ、そっか…!!』
気付いたシロはブーメランごとぐるっと身体を回転させ、ヒヒの力を受け流す。 力を受け流されたヒヒはバランスを崩し地面に突っ込んだ。
『ふう……』
(大丈夫か?)
『……う、うん。って!!』
シロは目を疑う。いつの間にヒヒが一匹から十匹くらいまで増えていた。
『おさるさんがいっぱいいる…!!』
(囲まれたか……。シロ、言葉はわかるか?)
『えっと…みんなボクらと“戦いたい”って』
(へェ……世界最強に会う前の肩慣らしって感じか?)
『どうなのかな?でも、こんなたくさんのおさるさん、ボクじゃ厳しいかも……』
(わかった。なら…)
シロは目を瞑る。瞬間、黒い髪からみるみる色素が抜け白い髪に変わり、
開かれた金色の目は先程の穏やかな感じから一転、殺気が漂う厳しい目つきに変わった。
『選手交代だ…』
「「「!」」」
ヒヒは敵の突然の変身に目を丸くする。クロはブーメランの中心にある持ち手を握った。
(がんばれ~、クロ!!)
『ああ、暴れさせてもらう…“刀稈(トウカン)”!!』
パキッとクロはブーメランの真ん中をひねるとブーメランは二つに分かれ、双剣へと姿を変える。
『数で押してくるなら手加減はしない。覚悟しろ!』
カンカン、キン……!!
『……チッ。しつこい!!』
クロはもう何十分もヒヒ格闘していた。
(クロ、逃げよう! みんなを相手にしてらんないよ)
『確かに……けど!!』
ガキィィン…!!
逃げ道を作り、そこから出ようと試みるが、新手のヒヒに邪魔をされる。
『チッ…さっきからこれだ。そう簡単には逃がしてくれないらしい』
ギシギシと軋む腕。クロは前に倒れるように身体を回す。
そしてそのままヒヒの剣を横に流すと、自身は地面に双剣を突き刺した。
反動で逆立ちするような姿勢になったクロは上げた両足を膝を曲げ、回転に釣られて前のめりになったヒヒの顎に向けて蹴り上げた。
「キャウキャホー…!!」
ヒヒはバタンと地面に仰向けになって倒れ込む。クロは肩で息をした。
『戦い慣れしすぎだろ…っと!』
クロは逆立ちの体勢から勢いをつけ て、元の態勢に立ち直る。
地面に突き刺した双剣も抜いた。
「キャホ…!!!」
「ウホホホォー!!」
「「「!!」」」
『?』
(ん?)
ヒヒ達が急に慌て出す。
そして仲間内で何か言葉を交わした後、一目散に逃げて行った。
クロとシロは目を丸くする。
『撤退……?』
(“あいつが来た”って…言ってたよ)
『あいつ?』
走る去るヒヒ達に目を向けた後、ヒヒ達が見ていた方角に目をやった。 カツカツと足音が聞こえる。クロは武器を構えた。
「ヒヒ共が何を暴れているかと思えば、人間がいたのか」
『……!』
(……!)
ゆっくりした足取りで海の方からやって来たのは、クロ達が探していた“鷹の目”ジュラキュール・ミホークだ。
『本物か……』
(間違いないね)
「……」
『?なんだ?』
するどい目つきに睨まれたクロは苛立ちを声に出した。
「変わった気配を持つな。いるのは2人だと思ったが……」
『!』
(!)
ミホークの発言にクロとシロは驚いた。
「まぁ、いい。こんなところで何をしている?漂着でもしたのか」
『……さすがは世界最強って感じだな』
「?」
クロは構えを解きながら言った。
『端的に言うと“おれ達”はアンタに用があって来た』
「おれ達……?」
『そう、“おれ達”だ。詳しくはシロが説明する』
クロはそう言うと目を瞑る。途端に白い髪が黒く染まった。
ミホークはするどい目を見開く中、黒い髪のシロは目を開ける。
『はじめまして、ミホーク氏ィ。ボクらを“弟子”にしてください!!』
「……」
(……)
『あれあれ…?無反応??』
シロは首を傾げた。
『クロ、ボク何か間違えたかな…?』
(間違ってはいないが……直球すぎるな)
「……お前が気配の正体か」
完全に気配が変わったことにミホークは眉をひそめる。
『!そう、ミホーク氏の考え通り!ボクらは2人。あ、もっと正確に言うとボクらは2人で1人なんですが!』
「……」
『ちなみにボクがシロ。さっきいたのはクロと言います。ちゃんと覚えてくださいね!』
ニコッと笑うシロ。ミホークは鋭い瞳そのままにシロを見る。
「……ここをどうやって見つけた?」
『センゴク氏に聞きました~』
「……海軍の回し者か」
一気に白けたと言わんばかりに目を背けたミホーク。シロは慌てて補足した。
『違いますよー。海軍はお得意様なんです!ボクらは今日、アナタの“弟子”になりたくて来たわけで……』
「……“弟子”などいらん。帰れ」
『ええェ!?』
ミホークはそう言うとシロの横を通り、城へ歩いていく。
『!!そ、そんな!!待って、ミホーク氏!』
「……」
(!…アイツ、とめるか?)
『ダメだよ、クロ。ボクらはお願いに来たんだよ!』
(チッ……ならどうするんだ?)
『弟子にしてもらえるまで、頼むの』
(無理だって言われたら?)
『無理でも頼むの。だって今のボクらじゃ、“新世界”には入れないもん』
(……わかった。シロに付き合う、好きにしろ)
『ありがとう! クロ!』
シロは胸に手を当てて嬉しそうに声を上げた。
(シロは頑固だからな。とりあえず“鷹の目”を追うぞ)
『うん!!』
シロは遠くなっていくミホークの背中に向けて走り出した。
それから数日。
彼らは毎日、ミホークの家(城)を訪れた。
昼はヒヒ達と戦い、夜寝るときはヒヒが来ない船の中で眠った。
『今日もがんばるぞ~』
(お~~)
シロの意気込んだ声に、クロは疲れた声を出した。
『クロ、大丈夫?』
(ああ)
『ごめんね、夜の見張りを頼んでて』
(別に。昼間のヒヒの相手はお前がしてんだし、おれたまに寝てるから問題はない)
『ありがとう。でも、どうしたらいいかなぁ。もうお願いばかりじゃダメだよね』
ここ何日か頼みこんでいるが、一行に良い返事はもらえていないことに頭を抱えるシロ。
(そうだな……。お願いだけで無理なら、おれ達が弟子になったらいいことあるぞって思わせればいいんじゃないか?)
『ボク達が弟子になったらいいことあるぞ、…か』
(……)
むむーとうなり声をあげるシロ。クロはその声を聞きながら、シロの反応を待った。
『あ!そうだ!!』
シロはぽんっと手を叩く。
(何か思いついたのか?)
『うん!あのね、クロ。料理にしようよ!
つる氏が言ってたじゃん。男の胃袋を掴んだ人が勝ちだって!』
(……お、おい。それは恋愛のことだろ??)
『クロのごはんなら、ミホーク氏絶対気に入るし!!』
(おれの料理って……)
『ボク食べたい!!最近簡易食料ばっかりだし。クロの料理はバラティエの次においしいし!!』
(!!そんな訳ないだろう…)
シロの言葉を否定しつつも、まんざらではない返事を返すクロ。
『あんな立派なお城なら、キッチンもあるよね!』
(ああ、たぶんな。あとは食材がどれくらいあるかだが……)
『よし、じゃあ!ミホーク氏のキッチンに突撃だァ!!』
(おお!って…話変わってないか?)
クロの言葉もなんのその、シロはごはんごはん~とスキップしながら、城へ向かって行った。
――――シッケアール王国、城内。
「……」
ミホークは城の中で一人静かに新聞に目を通してた。
「?なんだ」
ふと、食べ物の匂いがミホークの鼻をかすめる。
ミホークは新聞を置き、腰を上げるとゆったりとした足取りで食堂に足を進めた。
『あ、ミホーク氏ィ!』
「!」
食堂のドアを開けると開口一番に明るい声が聞こえる。
その声を発した黒髪の少年は20人掛の食卓いっぱいに料理を並べていた。
『ちょうどよかった!ごはんできたから、呼びに行こうと思ってたんだよ~』
「……。貴様ら何をしている?」
半ば呆れながら尋ねたミホーク。シロは首を傾げた。
『何をって、クロがごはんを作って、ボクが運んでるんだよ!』
「……」
話が通じていない、そう感じたミホークは大きくため息をつく。
(おい、シロ。冷めるぞ)
『わわ!ほんとだ!ミホーク氏、急いで急いで!!』
シロはミホークを席に案内すると、急いで自分も席についた。
『はい!じゃあ手を合わせてェ~……いただきまぁす!』
手を合わせて元気のいい声をあげると、シロはごはんを食べ始める。
「……」
ミホークはそんなシロを横目に見ながら、食事に目をやる。
鼻を掠めたおいしそうな匂いの元がこの料理らしい。
とりあえず、箸をとり食べることにした。
「……」
ミホークは次々に口の中に食べ物を放り込む。
シロはそれを見て輝く笑顔を振りまいた。
『ミホーク氏ィ~、おいしいでしょ??』
「……」
『全部クロが作ったんだよ~』
ニコニコと話ながら、シロは一口、また一口と料理を口に運ぶ。
ミホークはその様子を少し眺めていた。
『クロ~おいしいよ!!ごはん食べるの交代しようか??』
(いい。身体の腹が膨れれば問題ないし。後でホットミルク飲むからその分だけ空けていてくれ)
『ミルクあったんだ!よかったねェ』
(まぁな)
「……ふむ」
『?』
ミホークは最後に料理を一口つまむと、箸を置く。
その音に反応したのか、シロは皿からミホークに視線を移した。
「お前達はなぜおれの弟子になりたいのだ?」
『!お、やっと聞いてくれた!!』
「さっさと話さんともう聞かんぞ」
『わわっ!!話すから待ってくださいー!!ってうっ……』
(!シロ!?)
ガチャン…と皿とスプーンが当たる大きな音が食堂に響いた。
シロはのどを詰まらせたのか、慌てた様子で手近にあった水を一気飲みする。
『んん……――――プハーーっ!!』
シロはふぅと息をついた。ミホークは一連の行動を鋭い眼光で見つめるだけ。
(平気か?)
『うん…だいじょぶ』
ナプキンで口を拭いながらシロはクロの言葉に答える。
そしてひとつ咳払いをすると、ミホークに向き直った。
『慌ててごめんなさい。あのね、ミホーク氏。
僕らがあなたの弟子になりたいのは“新世界”に入りたいからなんだ』
「?なぜ、お前達が“新世界”に?」
『これをね、届けたいんだよ』
椅子の側に置いてあった大きなカバンから一枚の手紙を取り出す。
その手紙はミホークに幾分古い印象を与えた。
「手紙?」
『あ!言うの忘れたんですが、ボクら“郵便屋”をしてるんですよ~。
世界中の人達に頼まれたお手紙を届ける仕事を』
「……その行為に何の見返りある?」
『見返り…?んん~みんなの笑顔が見れることかな』
「……」
『わわ!?なんで白けてるの!!?変なこと言ってないよボク!ねェ、クロ』
(……。いいから話の続きをしろ)
なんだか照れているクロ。
シロは、ん?と疑問の顔をしながら、ミホークの手の中にある手紙を指さした。
『ミホーク氏。そのお手紙の中、見てみてほしいんだ』
「中を?」
『うん。見てみてくださいな』
シロに促され、ミホークは手紙をあける。封は閉じられていなかったようだ。
中から一枚のカードを取り出す。そのカードには一文しか書かれていなかった。
“願いを叶えるために、ブルーエッグを探しに行きます”
「“ブルーエッグ”?」
ミホークの呟きにシロは頷く。
『“ブルーエッグ”。とある海にある秘宝らしいんです。
それを見つければ“なんでも願いが叶う”っていう』
「ふん……」
ミホークは興味なさそうに返事をかえした。シロは話を続ける。
『ボク達はそのお手紙を書いた人が渡したかった人を探しているんです』
「……」
『でも、書いた人が誰だかわからなくて、誰に届ければいいのかもわからない。
……だからこれを書いた人にもう一度会って誰に届けたらいいか尋ねたいんです』
「その手掛かりが“ブルーエッグ”か」
『そうだ』
「!」
髪の毛の色素が抜け、目つきの悪い金色の瞳がミホークを見る。
(クロ、どうしたの?)
『ミルクが飲みたくなっただけだ。話はおれが続けるぞ』
(うん)
立ち上がり、キッチンへ足を運ぶクロ。
あらかじめ鍋に入れていたミルクに火をかける。
『……おれ達は、その手掛かりを世界に手紙を届けながら探していた』
しばらくしてから火を止め、温めたミルクをカップに注いだ。
それをふーふーと冷ましながら飲む。
「……」
『そして噂を聞いたんだ。“ブルーエッグ”は“新世界”にあるってな』
「それを探しに行くのか」
『ああ、そうだ』
「なぜ?」
『なぜ??変なことを聞くんだな』
「?」
クロは残りのミルクをぐいっと飲み干した。
『ただ、シロとおれがそうしたいからそうするんだ』
そう言うと、クロは目をつぶる。髪が黒くなった。
『おお!?もういいの??』
(ああ、満足だ)
『そっかそっか。あ、ミホーク氏、驚かせてごめんなさい』
ペコっとシロは頭を下げる。
『でもね、その人を探すことが、僕らにまったく利益がないことでもないんですよ』
「ほう?」
『ボクらは“2人で1人”なのは何度か話してるけど、
実はこの手紙はボクらが2人とも“2人で1人”だと理解した時から、ボクらの側にあったんだ。
でもね、ボクらは2人ともこの手紙の主を知らない。
ボクらを知っているかもしれないその人を――――そしてなぜこの手紙を託されたかも……
これはボクらがボクらであるルーツを探す手掛かりになる気がするんだ』
(……)
「……」
『だからね、ミホーク氏。ボクらはこの手紙の人を、そしてその手紙を届けたかった人を、本気で探したいんだ。
だから、“新世界”に行けるように鍛えてほしいんです』
「……」
『……』
シロは大きく頭を下げた。そのまま目をつぶってミホークの返答を待つ。
ドキドキは副人格のクロにまで伝染していた。
「……フッ」
(『…?』)
「酔狂な奴らだな」
(……)
『!…へへ。ありがとう!』
(褒め言葉なのか?)
シロはニヘらと口元をゆるめる。ミホークは手紙をシロに差し出した。
「……おれには価値がわからん」
『!……』
ミホークの言葉に顔をあげ、手紙を受け取ったシロはシュンと肩を落とす。
「……だが、おれとの約束を守るならば考えてやってもいい」
『!……本当!?』
シロは一気に嬉しそうな顔になり、期待の目でミホークを見た。
「ああ」
(約束…?おい、シロ。約束の内容聞いてから返事し…)
『――――約束するよ!』
(!シロ!!?)
『で!ミホーク氏ィ、約束てなぁに?』
「おれとの約束とは“おれの言うことを必ず守ることだ”」
(!待て!シロ!!)
『なんだ、簡単じゃん。いいよ♪』
(あ……)
ミホークはニヤッと口角をあげる。
「じゃあ早速だが、この食事を終えたら部屋の掃除と海軍からの手紙の類を処理しろ」
『いいよ!お掃除に手紙の整理ね………ってあれれ?』
シロは首を傾げる。クロはため息をついた。
『クロクロ、何だか不思議な展開だよ?』
(ハァ……シロ、お前乗せられたんだぞ)
『え?』
(今の1分間でおれ達はあいつの使用人になったんだよ)
『え…、ええー――!!?』
シロは驚きの声を上げる。ミホークは大きな声で笑った。
『うう…っ。ひどいよ、ミホーク氏ィ……』
「何がひどいんだ……?嫌ならば出て行け、おれは引き留めん」
『……ううっ』
(チッ……)
『!』
黒い髪の色素が抜け、白い髪になった。クロが主人格になったのだ。
『おい、“鷹の目”!ちゃんと稽古をつけんだろうな!!
シロを騙してただの小間使いにするってんなら、おれが許さねェからな』
(ヒューヒュー♪クロカッコイイ!!)
『こら、シロ。茶化すな』
クロは殺気を抜き出しにミホークを睨む。ミホークは興味津々に2人の変貌ぶりを見ていた。
「クロか…。今日はよく出てくるな」
『ここで黙ってたらよくねェのはわかるからな!!』
(……ん?あれ、でもよく聞くとボクが小間使いになるの…??)
『当たり前だろ。今日の仕事に関しては、シロのいつも早とちりのせいだからな』
(…うっ、ごめんなさい。でもでも、クロ。ミホーク氏はいい人だよ!
だってボクらのことをちゃんと認識して“呼んで”くれてるじゃないか)
『……っ』
「……。クロ、ケンカは終わったか?」
『!……』
腕を組み立っているミホークはクロに尋ねた。
クロは不機嫌そうにミホークをじっと見る。
(クロ?)
『……そんなこと、わかってるさ』
『わわ…!?』
髪が一気に黒くなった。
『クロ~?』
(寝る。後はシロの好きにしたらいい。さっきも言ったけど、今言われた雑用はシロがしろよ)
『ええ!?』
(じゃあな、おやすみ)
『う、うん。おやすみィ~』
(……)
「……」
『あ!ごめんね、ミホーク氏。ケンカは終わったよ!』
「1つの身体に2人の人格……、変わった暇つぶしができたと思えばいい」
『うっ…、ミホーク氏。何気にひどいよね』
「で、クロはどうしたのだ?」
『ん?ああ♪寝たよ。クロは毎日たくさん寝るんだ』
「……ほう」
『あ!あのね、ミホーク氏!
クロ、嫌がってないからね!
クロもミホーク氏を尊敬してるのは確かだから!』
「……わかっていると言っておこう」
『ありがとう!』
そしてシロは一息深呼吸をすると、ミホークに笑顔で言った。
『改めまして。ミホーク氏、よろしくお願いします!』
「フッ」
ミホークは小さく笑う。
そして残りの食事を平らげると、シロは“約束“通り掃除に手紙の整理を行った。
――――この出会いはゾロがバーソロミュー・くまに飛ばされてやってくる少し昔の話である。
end
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これが【郵便屋】で初期の想定としているミホークとの出会いです。手紙を絡めた話のつもりですが、どうでしょう?
弟子なのか、小間使いなのか……それは今後の展開で判明するのかなw
ゾロが兄弟子ということで、残り一作はその話を書くつもりですww
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