吸血鬼
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「エース!お前また町で暴れたのかい?町で騒ぎになってるよ!」
「……ちぇ。死ねば良かったのに」
「エース!!!もういくらガープの頼みだからって面倒見切れないよ!」
「……」
ダダンが大げさに肩を落とす。エースはそんなダダンのことなどお構いなしに体育座りで、目の前に広がる海を見ていた。
―――ああん?海賊王に子供がいたらだと?
―――んなもん、処刑だ処刑。バッサリ首を落としてやるぜ
―――おいおい、そんなあっさりじゃつまんねェだろ。ここは恨みの分ナイフでさすってのはどうだ?
―――おいおい、それじゃミンチになっちまうぜ
―――ワハハハハハハハ……!!!
「……――っ」
エースは拳を握りしめる。悔しさと悲しさで胸がいっぱいだった。
"海賊王"の息子、それは名誉でも誇りでもない。ただの汚名だ。
誰に聞いても、答えは同じ。
「なんでおれは生きるんだろうな」
エースは自分がなぜ生を受けたのか、ただそれだけが知りたかった。
【海に憧れて】
「おい、お前。"海賊王"に息子がいたらどう思う?」
明くる日、エースはまた町でそんな質問を投げかけた。
『"海賊王"?ロジャーの小僧にか?』
「?」
返事エースが質問を投げた黒いローブの男は振り返ると、そうエースに尋ね返す。
目深にかぶったフードで顔はうかがえないが、フードからスッと伸びた銀色の髪が綺麗に光ったのを見て、エースは目を見開いた。
「……」
『聞いておるのか?小僧』
「!…あ、ああ。そうだ!!ゴールド・ロジャーに息子がいたらアンタはどうする?」
いつもと違う反応。エースは焦っていた。
『……変なことを聞く小僧じゃな。喜ぶに決まっておろう』
「はぁ?嘘だろ…!!」
エースは怒鳴った。いや、本当は怒鳴るつもりはなかった、ただ胸に宿りはじめた期待を必死に押さえ込みたかったのだ。
フードを目深にかぶった男は言う。
『なぜ、我が主に嘘をつかねばならんのじゃ?』
「!……そんなのおれが知るか……?」
エースは男が後ろを注視しているのに気付いた。その視線の先をみるため自分も後ろを振り返る。
「いましたぜ!アニキ」
「おうおう、探したぞ。ガキ!あの時はよくもやってくれたな」
「……っ」
エースは奥歯をギリッと噛んだ。先日ボコボコにした町のワル達がお礼参りにやってきたのだ。
『……一応聞くが、主の友か?』
「んな訳ねェだろ。この前ボコボコにした奴らだ」
『ほう……』
男は感心した声を出した。エースは路地に転がる鉄パイプを拾い上げる。人数はザッと昨日の倍はいた。
「お前はこいつらの仲間じゃねェよな?」
『フン。このような小僧共が仲間であってたまるか。我の品位が問われるわ』
「……本当なんだな」
『ああ』
「そっか……」
男に背を向けるエースの口元が弧を描く。男はその顔を見て、フードの下で微笑んだ。
エースは振り返らない。
「足止めして悪かったな。こいつらの狙いはおれだ、逃げていいぜ」
『……そのそばかすと優しさは母に似たか』
「?」
男は鉄パイプを構えるエースの肩に手を置く。エースは男を見上げた。
「!」
フードの下にいたのは宝石のような紫の瞳に白い肌に、銀髪の若く整った顔。エースはあまりの綺麗な顔に目を見張る。男はそんなエースに優しい笑顔を見せた。
『だが、厄介事を持って来るところはあやつそっくりじゃ』
「え!?」
『下がっておれ』
男はそう言うとエースをかばうように前に立つ。
「おい、お前!」
エースは男のローブを引っ張った。
「てめェ!!そんなガキをかばうつもりかァ?」
『……喚くな、小僧の声は耳につく』
「ああん!!なんだと!!」
「ふざけた格好しやがって!!フードを取りやがれってんだ!」
『ほう。ではとってやろう』
「おい!取るな!!」
エースは怒鳴った。フードの下から見えた綺麗な顔は、この界隈ではある意味で危険だ。
男はエースの言葉を無視してフードを取った。綺麗な顔が現れる。男達から歓声が上がった。
「ヒュー。べっぴんじゃねェか」
「どんな野郎かと思えば、綺麗な兄ちゃんだとは」
「おい、兄ちゃん。おれ達に大人しくついてくれば、優しく世話してやるぜ」
「そのガキには手を出さねェしな」
ギャハハハハハ…!!と笑う男達。飛びかかろうとしたエースは綺麗な男に頭を抑えられていて動けない。
エースはこの綺麗な男に意外に力があることに驚いた。
『エース、下がっておれ。我は主を食らう気はない』
「え……!」
エースは名を呼ばれたことに驚き、動きを止める。綺麗な男はやけにするどい犬歯が顔を覗かせながら笑った。
『主ら運がよいぞ、我は今日腹が減っておる』
「「「??」」」
エースから男達に目をやった綺麗な男はそんなことを言った。皆目を丸くする中、男は続ける。
『本来ならば主らのような阿呆はミンチにするのも面倒じゃ。だが我は今腹が減っておるからのォ、主らは我の血と肉の一部になることが出来る。誇りに思うがよい』
「おいおい、何言ってんだ。あいつ?」
「"主らは我の血と肉になる"だとよ」
「頭イッてんじゃ………!!」
パサッ……!!
今喋っていた男が服を残して消えた。一同は目を見張る。
「「「え…!?」」」
「おい、ジロウはどこに行ったんだ??」
男達にざわめきが走った。綺麗な男は口を拭う。視線は一気に綺麗な男に集中した。
「お、おい!てめェ!!」
『なんじゃ?』
「なんじゃじゃねェ!!何しやがってんだ!」
『……言うたであろう喰らったんじゃ』
「「「!!!」」」
「喰らっただァ……??」
「化け物か!!?」
『そうじゃ』
「「「はぁ!!?」」」
綺麗な男の同意に一同は耳を疑った。綺麗な男はしれっと答える。
『我は"吸血鬼"、主ら人間から見れば"化け物"にあたる』
「きゅ…吸血鬼!?」
「そんなおとぎ話みたいな……あ!!」
男達の一人が、何かに思い当たったようだ。目を大きく見開き、全身から血の気が引く。皆がその男に怪訝な顔を向けていると、綺麗な男は男達に手の平を向けた。
「まさか……!!"海賊王"の船にいた、"吸血鬼"レニー・レニゲイト!!!」
「!!」
『誉めてやろう。我が名を思い出せたことを』
パサァァ……!!
『怒るな、エース』
「……フン」
路地から場所を海の見える丘に移したエース達。
しかしエースはそっぽを向いたまま。レニーは木にもたれかかりながら面倒くさそうに眉をひそめた。
「……あいつの仲間……」
エースはチラッと男に目をやる。この男は自分を"吸血鬼"レニー・レニゲイトだと名乗った。
ガープから話を聞いていた本物の吸血鬼。海賊王の船に居たらしいが、本物がこんなに綺麗だとは思わなかった。
だが、同時にエースは存在を否定しなかったレニーが大嫌いな父親の仲間だというのが少なからずショックだった。
「なんでおれの名を知ってんだ」
『主の母から聞いた』
「おふくろ…!?」
エースはつい振り返る。木の下に腰掛けていたレニーは頷く。
『左様。我はロジャーの仲間ではあったが、それよりも前から家族として主の母、ルージュと暮らしておった。ロジャーの小僧なぞ、ルージュに比べればなんてことはない』
「……"家族"!?じゃあおふくろは"吸血鬼"なのか」
レニーは肩を落とす。
『……んな訳なかろう。我は吸血鬼だがルージュはただの人間じゃ』
「じゃあ、家族だなんて!」
『"血"の繋がりだけが家族ではない。主とガープとて"血"は繋がらぬが家族じゃろう?』
「!」
エースはギュと拳を握ると、目を反らすとポツリと言った。
「……じじいは仕方なくおれの面倒をみてるだけだ」
『ほう、あやつがそう言ったのか?』
「言ってねェよ」
エースは背を向ける。レニーはその背に向かって言った。
『なら、勝手に決めるな。思い込みは視界を曇らせる』
「んだと!!」
エースはカッとなる。立ちあがってレニーに怒鳴った。
「おれに説教すんじゃねェ!!お前におれの何がわかんだよ!!」
『……』
「存在をゆるされねェ、おれの気持ちがわかるか!!」
『―――自惚れるなよ、小僧』
「!!」
レニーの紫の瞳がギラギラと光る。反射的にエースは後ずさった。
『現状に甘え、誰かが手を伸ばしてくれるのを待つのは、甘えた小僧の浅はかな考えじゃ』
「!!……なんだと!!」
『主の母、ルージュは主を産むことに"己の全て"を賭けた。海軍の視線をかいくぐり、ただただ主の無事を祈った』
レニーは立ち上がる。そして立ち尽くすエースの肩に手を置いた。
『ルージュが求めた"この世に主を生かすこと"、それは成された。主の父、ロジャーでさえ"それ"をやってのけた。
さすれば次は"主自身"が何かを求め、行動するべきではないのか…!!』
「……!!」
『"海賊王の息子"が嫌ならば、主が"海賊王"になればよい。もちろん全てを捨ててもよいじゃろう。
その"自由"こそがこの海に、この世界に平等に与えられた唯一ものじゃ』
「…自由……」
レニーはエースの肩から手をのけると、海の方へ歩く。そして振り返った。
『主がどう生きるか、我には関係ない。だが、我は命ある限り"それ"を見守るとあの子に約束した』
「!」
『今、我が手を貸すのはここまでじゃ。側におれぬが、主を見守っておる』
「……お前…!!」
『レニーじゃ。お前ではない』
「レニー……レニーはおれが生まれてきてよかったって本当に思うのか?」
エースは拳を強く握りしめて尋ねる。レニーはその言葉に今まで一番の笑顔を見せた。
『当たり前であろう。主は、我にとって大切な子じゃ』
「!!」
「おーい!エース!!」
茂みの奥からガープの声が聞こえる。エースは振り返った。
「じじい?」
『ガープか。奴に会うのは面倒じゃ、我は退散しよう』
「え!?もう、行くのか??」
『ああ』
「また、会える…?」
エースはレニーに尋ねる。名残惜しそうだ。
『フッ……主が望むなら必ずまた出逢える。この海でな』
「海で……」
『待っておるぞ、エース』
レニーの身体がみるみる黒い霧となる。
「レニー!!」
『忘れるな、我が名はレニー・レニゲイト。いつまでも主の味方だ』
「待ってくれ!!」
「エース、何大声を出しとるんじゃ……って!!」
黒い霧が舞った。そして海へ飛んで行く。
「ありゃ……レニーか」
「……」
エースは黒い霧が消えた海を、じっと見ていた。
fin
***********
まだ、サボにもルフィにも出逢っていない一番すさんでいた頃に、レニーと出逢っていたらという設定で書きました。
海に憧れる要因の一つがレニーだったらいいなぁって思いました。
「……ちぇ。死ねば良かったのに」
「エース!!!もういくらガープの頼みだからって面倒見切れないよ!」
「……」
ダダンが大げさに肩を落とす。エースはそんなダダンのことなどお構いなしに体育座りで、目の前に広がる海を見ていた。
―――ああん?海賊王に子供がいたらだと?
―――んなもん、処刑だ処刑。バッサリ首を落としてやるぜ
―――おいおい、そんなあっさりじゃつまんねェだろ。ここは恨みの分ナイフでさすってのはどうだ?
―――おいおい、それじゃミンチになっちまうぜ
―――ワハハハハハハハ……!!!
「……――っ」
エースは拳を握りしめる。悔しさと悲しさで胸がいっぱいだった。
"海賊王"の息子、それは名誉でも誇りでもない。ただの汚名だ。
誰に聞いても、答えは同じ。
「なんでおれは生きるんだろうな」
エースは自分がなぜ生を受けたのか、ただそれだけが知りたかった。
【海に憧れて】
「おい、お前。"海賊王"に息子がいたらどう思う?」
明くる日、エースはまた町でそんな質問を投げかけた。
『"海賊王"?ロジャーの小僧にか?』
「?」
返事エースが質問を投げた黒いローブの男は振り返ると、そうエースに尋ね返す。
目深にかぶったフードで顔はうかがえないが、フードからスッと伸びた銀色の髪が綺麗に光ったのを見て、エースは目を見開いた。
「……」
『聞いておるのか?小僧』
「!…あ、ああ。そうだ!!ゴールド・ロジャーに息子がいたらアンタはどうする?」
いつもと違う反応。エースは焦っていた。
『……変なことを聞く小僧じゃな。喜ぶに決まっておろう』
「はぁ?嘘だろ…!!」
エースは怒鳴った。いや、本当は怒鳴るつもりはなかった、ただ胸に宿りはじめた期待を必死に押さえ込みたかったのだ。
フードを目深にかぶった男は言う。
『なぜ、我が主に嘘をつかねばならんのじゃ?』
「!……そんなのおれが知るか……?」
エースは男が後ろを注視しているのに気付いた。その視線の先をみるため自分も後ろを振り返る。
「いましたぜ!アニキ」
「おうおう、探したぞ。ガキ!あの時はよくもやってくれたな」
「……っ」
エースは奥歯をギリッと噛んだ。先日ボコボコにした町のワル達がお礼参りにやってきたのだ。
『……一応聞くが、主の友か?』
「んな訳ねェだろ。この前ボコボコにした奴らだ」
『ほう……』
男は感心した声を出した。エースは路地に転がる鉄パイプを拾い上げる。人数はザッと昨日の倍はいた。
「お前はこいつらの仲間じゃねェよな?」
『フン。このような小僧共が仲間であってたまるか。我の品位が問われるわ』
「……本当なんだな」
『ああ』
「そっか……」
男に背を向けるエースの口元が弧を描く。男はその顔を見て、フードの下で微笑んだ。
エースは振り返らない。
「足止めして悪かったな。こいつらの狙いはおれだ、逃げていいぜ」
『……そのそばかすと優しさは母に似たか』
「?」
男は鉄パイプを構えるエースの肩に手を置く。エースは男を見上げた。
「!」
フードの下にいたのは宝石のような紫の瞳に白い肌に、銀髪の若く整った顔。エースはあまりの綺麗な顔に目を見張る。男はそんなエースに優しい笑顔を見せた。
『だが、厄介事を持って来るところはあやつそっくりじゃ』
「え!?」
『下がっておれ』
男はそう言うとエースをかばうように前に立つ。
「おい、お前!」
エースは男のローブを引っ張った。
「てめェ!!そんなガキをかばうつもりかァ?」
『……喚くな、小僧の声は耳につく』
「ああん!!なんだと!!」
「ふざけた格好しやがって!!フードを取りやがれってんだ!」
『ほう。ではとってやろう』
「おい!取るな!!」
エースは怒鳴った。フードの下から見えた綺麗な顔は、この界隈ではある意味で危険だ。
男はエースの言葉を無視してフードを取った。綺麗な顔が現れる。男達から歓声が上がった。
「ヒュー。べっぴんじゃねェか」
「どんな野郎かと思えば、綺麗な兄ちゃんだとは」
「おい、兄ちゃん。おれ達に大人しくついてくれば、優しく世話してやるぜ」
「そのガキには手を出さねェしな」
ギャハハハハハ…!!と笑う男達。飛びかかろうとしたエースは綺麗な男に頭を抑えられていて動けない。
エースはこの綺麗な男に意外に力があることに驚いた。
『エース、下がっておれ。我は主を食らう気はない』
「え……!」
エースは名を呼ばれたことに驚き、動きを止める。綺麗な男はやけにするどい犬歯が顔を覗かせながら笑った。
『主ら運がよいぞ、我は今日腹が減っておる』
「「「??」」」
エースから男達に目をやった綺麗な男はそんなことを言った。皆目を丸くする中、男は続ける。
『本来ならば主らのような阿呆はミンチにするのも面倒じゃ。だが我は今腹が減っておるからのォ、主らは我の血と肉の一部になることが出来る。誇りに思うがよい』
「おいおい、何言ってんだ。あいつ?」
「"主らは我の血と肉になる"だとよ」
「頭イッてんじゃ………!!」
パサッ……!!
今喋っていた男が服を残して消えた。一同は目を見張る。
「「「え…!?」」」
「おい、ジロウはどこに行ったんだ??」
男達にざわめきが走った。綺麗な男は口を拭う。視線は一気に綺麗な男に集中した。
「お、おい!てめェ!!」
『なんじゃ?』
「なんじゃじゃねェ!!何しやがってんだ!」
『……言うたであろう喰らったんじゃ』
「「「!!!」」」
「喰らっただァ……??」
「化け物か!!?」
『そうじゃ』
「「「はぁ!!?」」」
綺麗な男の同意に一同は耳を疑った。綺麗な男はしれっと答える。
『我は"吸血鬼"、主ら人間から見れば"化け物"にあたる』
「きゅ…吸血鬼!?」
「そんなおとぎ話みたいな……あ!!」
男達の一人が、何かに思い当たったようだ。目を大きく見開き、全身から血の気が引く。皆がその男に怪訝な顔を向けていると、綺麗な男は男達に手の平を向けた。
「まさか……!!"海賊王"の船にいた、"吸血鬼"レニー・レニゲイト!!!」
「!!」
『誉めてやろう。我が名を思い出せたことを』
パサァァ……!!
『怒るな、エース』
「……フン」
路地から場所を海の見える丘に移したエース達。
しかしエースはそっぽを向いたまま。レニーは木にもたれかかりながら面倒くさそうに眉をひそめた。
「……あいつの仲間……」
エースはチラッと男に目をやる。この男は自分を"吸血鬼"レニー・レニゲイトだと名乗った。
ガープから話を聞いていた本物の吸血鬼。海賊王の船に居たらしいが、本物がこんなに綺麗だとは思わなかった。
だが、同時にエースは存在を否定しなかったレニーが大嫌いな父親の仲間だというのが少なからずショックだった。
「なんでおれの名を知ってんだ」
『主の母から聞いた』
「おふくろ…!?」
エースはつい振り返る。木の下に腰掛けていたレニーは頷く。
『左様。我はロジャーの仲間ではあったが、それよりも前から家族として主の母、ルージュと暮らしておった。ロジャーの小僧なぞ、ルージュに比べればなんてことはない』
「……"家族"!?じゃあおふくろは"吸血鬼"なのか」
レニーは肩を落とす。
『……んな訳なかろう。我は吸血鬼だがルージュはただの人間じゃ』
「じゃあ、家族だなんて!」
『"血"の繋がりだけが家族ではない。主とガープとて"血"は繋がらぬが家族じゃろう?』
「!」
エースはギュと拳を握ると、目を反らすとポツリと言った。
「……じじいは仕方なくおれの面倒をみてるだけだ」
『ほう、あやつがそう言ったのか?』
「言ってねェよ」
エースは背を向ける。レニーはその背に向かって言った。
『なら、勝手に決めるな。思い込みは視界を曇らせる』
「んだと!!」
エースはカッとなる。立ちあがってレニーに怒鳴った。
「おれに説教すんじゃねェ!!お前におれの何がわかんだよ!!」
『……』
「存在をゆるされねェ、おれの気持ちがわかるか!!」
『―――自惚れるなよ、小僧』
「!!」
レニーの紫の瞳がギラギラと光る。反射的にエースは後ずさった。
『現状に甘え、誰かが手を伸ばしてくれるのを待つのは、甘えた小僧の浅はかな考えじゃ』
「!!……なんだと!!」
『主の母、ルージュは主を産むことに"己の全て"を賭けた。海軍の視線をかいくぐり、ただただ主の無事を祈った』
レニーは立ち上がる。そして立ち尽くすエースの肩に手を置いた。
『ルージュが求めた"この世に主を生かすこと"、それは成された。主の父、ロジャーでさえ"それ"をやってのけた。
さすれば次は"主自身"が何かを求め、行動するべきではないのか…!!』
「……!!」
『"海賊王の息子"が嫌ならば、主が"海賊王"になればよい。もちろん全てを捨ててもよいじゃろう。
その"自由"こそがこの海に、この世界に平等に与えられた唯一ものじゃ』
「…自由……」
レニーはエースの肩から手をのけると、海の方へ歩く。そして振り返った。
『主がどう生きるか、我には関係ない。だが、我は命ある限り"それ"を見守るとあの子に約束した』
「!」
『今、我が手を貸すのはここまでじゃ。側におれぬが、主を見守っておる』
「……お前…!!」
『レニーじゃ。お前ではない』
「レニー……レニーはおれが生まれてきてよかったって本当に思うのか?」
エースは拳を強く握りしめて尋ねる。レニーはその言葉に今まで一番の笑顔を見せた。
『当たり前であろう。主は、我にとって大切な子じゃ』
「!!」
「おーい!エース!!」
茂みの奥からガープの声が聞こえる。エースは振り返った。
「じじい?」
『ガープか。奴に会うのは面倒じゃ、我は退散しよう』
「え!?もう、行くのか??」
『ああ』
「また、会える…?」
エースはレニーに尋ねる。名残惜しそうだ。
『フッ……主が望むなら必ずまた出逢える。この海でな』
「海で……」
『待っておるぞ、エース』
レニーの身体がみるみる黒い霧となる。
「レニー!!」
『忘れるな、我が名はレニー・レニゲイト。いつまでも主の味方だ』
「待ってくれ!!」
「エース、何大声を出しとるんじゃ……って!!」
黒い霧が舞った。そして海へ飛んで行く。
「ありゃ……レニーか」
「……」
エースは黒い霧が消えた海を、じっと見ていた。
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まだ、サボにもルフィにも出逢っていない一番すさんでいた頃に、レニーと出逢っていたらという設定で書きました。
海に憧れる要因の一つがレニーだったらいいなぁって思いました。