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「お疲れ様です!ノティ中将」
「「「お疲れ様です」」」
マリンフォードに降り立ったアルトを海兵達は足並みをキレイ揃えた敬礼で迎える。
「ノティ中将!」
『ああ、ロールクン。お疲れ、そっちの任務は?』
「は!こちらも順当に終えました。損害は軽い負傷者が数人でた程度です」
『そう。それは良かった。ご苦労様』
「いえ!中将の方は激戦区だったと聞いておりましたが……その血は!?」
ロールは驚きの声を上げる。黒い服を着ていたからすぐには気付かなかったが、アルトの服には至るところに血が付いていた。
『?ああ、返り血だ。僕は今から、ペガパンククンのところに行く。センゴクサンに連絡を頼む』
「は!」
ロールはアルトの指示を受け、早速本部の方へ走って行った。
『さて……行くか』
ハァ…っと息を吐いたアルトは、一歩を踏み出した。
マリンフォードの住宅地の裏手、人通りがほとんどない道をアルトは歩く。
『……ハァ……っ』
一歩一歩を慎重に歩くアルト。その右腕はダラリと下がり、指先から伝わった血がポタ…ポタ…と赤い雫を零していた。
その血は返り血などではなく、正真正銘アルトの血。
アルトが担当した地域は任務の中で一番の激戦区だった。
その中でアルトは善戦し、任務は成功。ロールに言ったようにほとんどが返り血だ。
しかし一カ所、ただ一カ所だけ違った。それが右肩なのである。
『……"海楼石"って……本当に力が抜けるんだな』
アルトの肩には海楼石で作られた弾が埋まっていた。海賊が撃って来た銃が盾を越え、アルトの肩を貫いたのだ。
海賊達をなんとか駆逐した後、海賊達がどこからこの海楼石を仕入れ、弾に加工したのか、それを調べるためにペガパンクの下に向かうことにしていた。
『弾、抜いて貰えばよかったかな』
アルトはどこか他人事のように言葉を吐く。
本来ならば軍医を呼んで弾を抜けばよかったのだが、傷ついた部下の治療と海楼石の出所を探る追加任務を優先させたことで、アルト自身の治療という選択肢は頭から消えていた。
『まぁ、あんなとこにいたらきっと彼がうるさいだろうし』
こんな姿を見られたら葉巻からモクモクと煙を出して、怒鳴り散らされるに違いない。
それはごめんだとアルトは心の中で呟いた。
「ひぃ…!!た、助けて」
『!』
そんなアルトの耳に、海兵が悲鳴を上げるのが聞こえる。アルトは眉をひそめた。
「助けて、だァ?海兵が情けねェな、フッフッフッ」
「……し、七武海が海軍に手を出すなんて!!」
海兵は自身に刀を突きつけていた。もちろん自分でした訳ではない、海兵の目の前にいる"七武海"の一人、ドンキホーテ・ドフラミンゴの仕業だ。
「七武海は海兵に手を出さねェと思ったのか。フッフッフッフッフッフッ…!!めでてェ野郎だ。七武海はどこまで言っても"海賊"なんだぜ」
「…!!」
ドフラミンゴは指を動かす。それに合わせて海兵は自身の首に刀を添える。
「おれは、今暇なんだ。軽く死んでくれ」
「!!う、うわぁぁ…!!」
『そこまでだよ、ドフラミンゴ』
「!」
ドフラミンゴは聞き覚えがある声に指の動きを止めた。ゆっくりと声の方を顔を向ける。
そこには左手に銀色の銃を持つアルト。その銃口はドフラミンゴにまっすぐ向けられている。
ドフラミンゴは口は弧を描いた。
「フフッ…フッフッフッ…!!アルトじゃねェか」
『その海兵を解放しろ。今、すぐにだ』
アルトはドフラミンゴをまっすぐ睨みつける。その肩は微かに上下していた。
「フフフフ……!!」
『!』
ドフラミンゴはいやらしく口角を上げると、指を動かす。海兵の腕が刀を振り上げるのがアルトの目に映った。
ヒュン……!!
海兵はドフラミンゴにされるがまま、刀を自身の首に向けて振り下ろした。
ガキィン!!
「…?」
死を覚悟し、目を固く閉じていた海兵は金属音に驚き目を開ける。
「……あ」
『……っ』
海兵の首と刀の細い空間にアルトの銃が刀を抑える形で存在していた。
ギチギチと刀と銃が擦れあう嫌な金属音が海兵の耳に入ってくる。
「フフフフ……合格だ。アルト」
ドフラミンゴがそう言うと同時に指を開く。途端に力を無くした海兵の腕は刀の重みで下がる。刀は地面に小さな傷をつけた。
『……ハァ』
アルトは息をつくと、表情を変えることなく、海兵に言った。
『大丈夫かい?』
「あ…はい」
『そう』
無事を確認したアルトは海兵に背を向ける。
『じゃあ、持ち場に戻って。ここは引き取るよ』
「…え!?」
『早く行って。……次は守れるかわからないから』
「!…はっ、はい!!」
海兵は慌てて立ち上がると、転けそうになりながら、走って逃げて行った。ドフラミンゴは海兵に興味がなくなったようで、目をアルトに向ける。
「さすが。"無血"の海兵だな、フフフフ」
『……なにそれ』
アルトは一度大きく肩を落とした。呆れた態度だ。もちろんドフラミンゴは気にしない。
「フフフフ…"ゼロ"の数ある異名の由来だ。"無血"なんざァ、本来はデマだが、てめェの場合は本物だ。
なんといっても"盾"の能力者だからな」
『……だからな…』
「だが…さっきの行動はちぃとおかしいよなァ」
『?』
アルトの言葉を切ったドフラミンゴはアルトを下から上になめるように眺める。
「"本来"のてめェなら、あの海兵に"盾"を張り、おれに銃を突きつける」
『……』
「なのにてめェは海兵を自分で庇った。ガラ空きのおれを無視してな」
『……アンタ(七武海)を殺すと、センゴクサンに怒鳴られるからね』
「フフ…フッフッフッ!!本当にそれだけか?」
『!』
ズイッとドフラミンゴはアルトとの間合いを詰める。そして次の瞬間、アルトの右肩を力強く掴むと、壁に叩きつけた。
『……――!』
アルトは奥歯を噛み、あげそうになる声に抑えた。
「…フッフッフッフッフッフッ。悲鳴上げてもいいんだぜ」
『誰が……あげるって?』
アルトは表情を変えずに言う。しかし右肩を掴まれていることでアルトの頭に痛みの警鐘が鳴り響いていた。
「フフフフ…強情は命取りになるぜ。……おっと」
ドフラミンゴはアルトの右肩違和感に眉をひそめる。しかし何かに納得がいったのかニヤリと笑った。
「なるほどなァ…"盾"を使わねェ理由はこれか」
『……ぐっ!!』
握り方を変えたドフラミンゴはグググ…とさらに強くアルトの右肩を握る。
微かにアルトの表情が苦痛に歪んだ。
「フッフッフッ…!!反撃の余裕すらねェようだな」
『……っ』
「なら、このままおれの船でイイコトでもするか?フフフフ…」
ドフラミンゴはアルトの耳元で囁く。アルトは痛みで頭が朦朧としはじめた。
『……は、なせ……死に、たいの?』
「フッフッフッ。こんな姿でどんな言葉を吐こうが、煽ってるようにしか見えねェぜ」
ドフラミンゴはまた肩を強く握る。
『……っ!!』
「フッフッフッ…フフフフ!!」
「―――そいつから離れろ、"七武海"」
ドフラミンゴの背中に"海楼石"入りの十手が突きつけられる。ドフラミンゴは不快そうに振り向いた。
「ああ?」
「それ以上そいつに手を出せば"七武海"の称号は剥奪。即、死刑台行きだ」
スモーカーは白い煙を蒸気機関車のようにモクモクと吹かす。その煙の動きには怒りが表れていた。
「フッフッフッ。なんだ"白猟"か。てめェなんぞでおれを止められるとでも……」
「おれは"前座"だ。まもなく"大参謀"が来る」
「!……ほう、おつるさんか」
ドフラミンゴはそういうとアルトの右肩から手を離す。
「フフフフ……おつるさんに目ェつけられんのは面倒だからな、今日は引いてやるよ」
「?」
ドフラミンゴはそういうと手のひらの血をスモーカーに見せながらニタニタと笑みを浮かべ、その場から去って行った。
「……(えらく簡単に引いたな)ノティ、てめェらしくねェな、あんな野郎にやられっ放しとは」
スモーカーはドフラミンゴの背を見送ると、振り返った。アルトは呟く。
『なんで、来る…かな』
「ああ?なんだ?」
『別に…。ところで、おつるサンは、もう、来てるのかい?』
「いや。来ねェよ。ハッタリだ。」
『!珍しいな。キミもそんな手を、使う、のか……』
「"七武海には手を出すな"。そうお前がおれに言ったからだ」
『ああ…そうか。なら…いい、や……』
「!?おい!」
アルトはグラッと傾く。それをスモーカーは支えた。
「何フラフラしてんだ……って!?」
右肩に触れたスモーカーはビチャッとした液体の感触と、力が抜ける違和感に自身の左手を見た。白い手袋が真っ赤に染まっている。
「!」
『……右肩には、触らない方が、いいよ。"海楼石"があるから』
「海楼石?何でそんなもんを」
『……怒るから、言わない』
「……」
『僕、ペガパンククンのとこに…行かないと』
「ああ?なんで?」
『……弾の解析。彼に、連絡したら、現品が見たいって……』
「弾を抜いてからで良かっただろう?」
『……それは、僕も思った』
「……」
スモーカーは自分に寄りかかるアルトに眉を下げる。普段のアルトならそれくらいの判断はするだろう。
だが、この若い中将は見かけに寄らず他者を優先する傾向がある。今日怪我人が多数出たとロールから聞いていたスモーカーは、いつものように強くは出れなかった。
『なんで、キミはここに…いるの?』
「?……なんでって。お前が仕事でもう本部に戻ったとロール少将から聞いた。だから、おれも本部に戻ろうとこの裏道を歩いてたんだ」
『……へェ』
アルトは目を瞑り、スモーカーの話に耳を傾ける。
「そうしたら、地面には血痕があるのを見つけてな。それをたどって来たら血相を変えた海兵に出くわして……」
『……』
「……って聞いてんのか?」
『……』
「おい……!!」
目を瞑ったアルトはスモーカーの声に反応しなかった。ふと地面に目をやると、小さな血だまりがアルトの右手の真下に出来ている。スモーカーの眉間のしわが一層深く刻まれた。
「おい、アルト!しっかりしろ!アルト!!!」
『……。怒ってる?』
「ああ゛?」
『ハァ……怒ってる』
アルトはペガパンクの研究所に備え付けられた医務室のベットの上にいた。
頭がぼーっとしてるようで、焦点を合わせるのに時間がかかる。
「調子は?」
『…ん?ああ、妙に身体が軽い。…海楼石、無くなったからかな?』
「馬鹿か。てめェは血を流し過ぎだ」
『あ~……なるほど。だから、頭がぼーっとするのか』
「……ハァ」
スモーカーは大きくため息をつく。死にかけたことにアルトは気付いてないらしい。
「もういい、寝てろ。輸血が終わらねェと動けねェしな」
『キミは……どうするの?』
「あ?」
『いや、あの…もう、行くのかなって…』
アルトはゆっくりと瞬きをしながら尋ねる。
「……寝てろ」
『あ……ちょっ』
スモーカーはアルトの目を掌で、覆う。アルトを寝かしつける時にスモーカーがよくやる手。
アルトは人の温もりを感じると大人しくなるらしい。
『……ごめ、ん。……』
「……」
『……』
スースーと寝息が聞こえる。スモーカーは掌を離した。
「なんで謝んだ、馬鹿野郎」
スモーカーは眠るアルトの頭を撫でる。そのスモーカーの顔は誰にも見たことない優しい顔だ。
スモーカーは撫でる手を止めると、辺りを見渡す。だれもいないのを確認すると、静かにアルトの額に口付けを落とした。
【無茶をするキミへ】
fin
************
もっと白馬の王子様みたいなノリでも良かったですかね;;でも、スモーカーはこっそり優しいんだろうなぁって気がしますw
「「「お疲れ様です」」」
マリンフォードに降り立ったアルトを海兵達は足並みをキレイ揃えた敬礼で迎える。
「ノティ中将!」
『ああ、ロールクン。お疲れ、そっちの任務は?』
「は!こちらも順当に終えました。損害は軽い負傷者が数人でた程度です」
『そう。それは良かった。ご苦労様』
「いえ!中将の方は激戦区だったと聞いておりましたが……その血は!?」
ロールは驚きの声を上げる。黒い服を着ていたからすぐには気付かなかったが、アルトの服には至るところに血が付いていた。
『?ああ、返り血だ。僕は今から、ペガパンククンのところに行く。センゴクサンに連絡を頼む』
「は!」
ロールはアルトの指示を受け、早速本部の方へ走って行った。
『さて……行くか』
ハァ…っと息を吐いたアルトは、一歩を踏み出した。
マリンフォードの住宅地の裏手、人通りがほとんどない道をアルトは歩く。
『……ハァ……っ』
一歩一歩を慎重に歩くアルト。その右腕はダラリと下がり、指先から伝わった血がポタ…ポタ…と赤い雫を零していた。
その血は返り血などではなく、正真正銘アルトの血。
アルトが担当した地域は任務の中で一番の激戦区だった。
その中でアルトは善戦し、任務は成功。ロールに言ったようにほとんどが返り血だ。
しかし一カ所、ただ一カ所だけ違った。それが右肩なのである。
『……"海楼石"って……本当に力が抜けるんだな』
アルトの肩には海楼石で作られた弾が埋まっていた。海賊が撃って来た銃が盾を越え、アルトの肩を貫いたのだ。
海賊達をなんとか駆逐した後、海賊達がどこからこの海楼石を仕入れ、弾に加工したのか、それを調べるためにペガパンクの下に向かうことにしていた。
『弾、抜いて貰えばよかったかな』
アルトはどこか他人事のように言葉を吐く。
本来ならば軍医を呼んで弾を抜けばよかったのだが、傷ついた部下の治療と海楼石の出所を探る追加任務を優先させたことで、アルト自身の治療という選択肢は頭から消えていた。
『まぁ、あんなとこにいたらきっと彼がうるさいだろうし』
こんな姿を見られたら葉巻からモクモクと煙を出して、怒鳴り散らされるに違いない。
それはごめんだとアルトは心の中で呟いた。
「ひぃ…!!た、助けて」
『!』
そんなアルトの耳に、海兵が悲鳴を上げるのが聞こえる。アルトは眉をひそめた。
「助けて、だァ?海兵が情けねェな、フッフッフッ」
「……し、七武海が海軍に手を出すなんて!!」
海兵は自身に刀を突きつけていた。もちろん自分でした訳ではない、海兵の目の前にいる"七武海"の一人、ドンキホーテ・ドフラミンゴの仕業だ。
「七武海は海兵に手を出さねェと思ったのか。フッフッフッフッフッフッ…!!めでてェ野郎だ。七武海はどこまで言っても"海賊"なんだぜ」
「…!!」
ドフラミンゴは指を動かす。それに合わせて海兵は自身の首に刀を添える。
「おれは、今暇なんだ。軽く死んでくれ」
「!!う、うわぁぁ…!!」
『そこまでだよ、ドフラミンゴ』
「!」
ドフラミンゴは聞き覚えがある声に指の動きを止めた。ゆっくりと声の方を顔を向ける。
そこには左手に銀色の銃を持つアルト。その銃口はドフラミンゴにまっすぐ向けられている。
ドフラミンゴは口は弧を描いた。
「フフッ…フッフッフッ…!!アルトじゃねェか」
『その海兵を解放しろ。今、すぐにだ』
アルトはドフラミンゴをまっすぐ睨みつける。その肩は微かに上下していた。
「フフフフ……!!」
『!』
ドフラミンゴはいやらしく口角を上げると、指を動かす。海兵の腕が刀を振り上げるのがアルトの目に映った。
ヒュン……!!
海兵はドフラミンゴにされるがまま、刀を自身の首に向けて振り下ろした。
ガキィン!!
「…?」
死を覚悟し、目を固く閉じていた海兵は金属音に驚き目を開ける。
「……あ」
『……っ』
海兵の首と刀の細い空間にアルトの銃が刀を抑える形で存在していた。
ギチギチと刀と銃が擦れあう嫌な金属音が海兵の耳に入ってくる。
「フフフフ……合格だ。アルト」
ドフラミンゴがそう言うと同時に指を開く。途端に力を無くした海兵の腕は刀の重みで下がる。刀は地面に小さな傷をつけた。
『……ハァ』
アルトは息をつくと、表情を変えることなく、海兵に言った。
『大丈夫かい?』
「あ…はい」
『そう』
無事を確認したアルトは海兵に背を向ける。
『じゃあ、持ち場に戻って。ここは引き取るよ』
「…え!?」
『早く行って。……次は守れるかわからないから』
「!…はっ、はい!!」
海兵は慌てて立ち上がると、転けそうになりながら、走って逃げて行った。ドフラミンゴは海兵に興味がなくなったようで、目をアルトに向ける。
「さすが。"無血"の海兵だな、フフフフ」
『……なにそれ』
アルトは一度大きく肩を落とした。呆れた態度だ。もちろんドフラミンゴは気にしない。
「フフフフ…"ゼロ"の数ある異名の由来だ。"無血"なんざァ、本来はデマだが、てめェの場合は本物だ。
なんといっても"盾"の能力者だからな」
『……だからな…』
「だが…さっきの行動はちぃとおかしいよなァ」
『?』
アルトの言葉を切ったドフラミンゴはアルトを下から上になめるように眺める。
「"本来"のてめェなら、あの海兵に"盾"を張り、おれに銃を突きつける」
『……』
「なのにてめェは海兵を自分で庇った。ガラ空きのおれを無視してな」
『……アンタ(七武海)を殺すと、センゴクサンに怒鳴られるからね』
「フフ…フッフッフッ!!本当にそれだけか?」
『!』
ズイッとドフラミンゴはアルトとの間合いを詰める。そして次の瞬間、アルトの右肩を力強く掴むと、壁に叩きつけた。
『……――!』
アルトは奥歯を噛み、あげそうになる声に抑えた。
「…フッフッフッフッフッフッ。悲鳴上げてもいいんだぜ」
『誰が……あげるって?』
アルトは表情を変えずに言う。しかし右肩を掴まれていることでアルトの頭に痛みの警鐘が鳴り響いていた。
「フフフフ…強情は命取りになるぜ。……おっと」
ドフラミンゴはアルトの右肩違和感に眉をひそめる。しかし何かに納得がいったのかニヤリと笑った。
「なるほどなァ…"盾"を使わねェ理由はこれか」
『……ぐっ!!』
握り方を変えたドフラミンゴはグググ…とさらに強くアルトの右肩を握る。
微かにアルトの表情が苦痛に歪んだ。
「フッフッフッ…!!反撃の余裕すらねェようだな」
『……っ』
「なら、このままおれの船でイイコトでもするか?フフフフ…」
ドフラミンゴはアルトの耳元で囁く。アルトは痛みで頭が朦朧としはじめた。
『……は、なせ……死に、たいの?』
「フッフッフッ。こんな姿でどんな言葉を吐こうが、煽ってるようにしか見えねェぜ」
ドフラミンゴはまた肩を強く握る。
『……っ!!』
「フッフッフッ…フフフフ!!」
「―――そいつから離れろ、"七武海"」
ドフラミンゴの背中に"海楼石"入りの十手が突きつけられる。ドフラミンゴは不快そうに振り向いた。
「ああ?」
「それ以上そいつに手を出せば"七武海"の称号は剥奪。即、死刑台行きだ」
スモーカーは白い煙を蒸気機関車のようにモクモクと吹かす。その煙の動きには怒りが表れていた。
「フッフッフッ。なんだ"白猟"か。てめェなんぞでおれを止められるとでも……」
「おれは"前座"だ。まもなく"大参謀"が来る」
「!……ほう、おつるさんか」
ドフラミンゴはそういうとアルトの右肩から手を離す。
「フフフフ……おつるさんに目ェつけられんのは面倒だからな、今日は引いてやるよ」
「?」
ドフラミンゴはそういうと手のひらの血をスモーカーに見せながらニタニタと笑みを浮かべ、その場から去って行った。
「……(えらく簡単に引いたな)ノティ、てめェらしくねェな、あんな野郎にやられっ放しとは」
スモーカーはドフラミンゴの背を見送ると、振り返った。アルトは呟く。
『なんで、来る…かな』
「ああ?なんだ?」
『別に…。ところで、おつるサンは、もう、来てるのかい?』
「いや。来ねェよ。ハッタリだ。」
『!珍しいな。キミもそんな手を、使う、のか……』
「"七武海には手を出すな"。そうお前がおれに言ったからだ」
『ああ…そうか。なら…いい、や……』
「!?おい!」
アルトはグラッと傾く。それをスモーカーは支えた。
「何フラフラしてんだ……って!?」
右肩に触れたスモーカーはビチャッとした液体の感触と、力が抜ける違和感に自身の左手を見た。白い手袋が真っ赤に染まっている。
「!」
『……右肩には、触らない方が、いいよ。"海楼石"があるから』
「海楼石?何でそんなもんを」
『……怒るから、言わない』
「……」
『僕、ペガパンククンのとこに…行かないと』
「ああ?なんで?」
『……弾の解析。彼に、連絡したら、現品が見たいって……』
「弾を抜いてからで良かっただろう?」
『……それは、僕も思った』
「……」
スモーカーは自分に寄りかかるアルトに眉を下げる。普段のアルトならそれくらいの判断はするだろう。
だが、この若い中将は見かけに寄らず他者を優先する傾向がある。今日怪我人が多数出たとロールから聞いていたスモーカーは、いつものように強くは出れなかった。
『なんで、キミはここに…いるの?』
「?……なんでって。お前が仕事でもう本部に戻ったとロール少将から聞いた。だから、おれも本部に戻ろうとこの裏道を歩いてたんだ」
『……へェ』
アルトは目を瞑り、スモーカーの話に耳を傾ける。
「そうしたら、地面には血痕があるのを見つけてな。それをたどって来たら血相を変えた海兵に出くわして……」
『……』
「……って聞いてんのか?」
『……』
「おい……!!」
目を瞑ったアルトはスモーカーの声に反応しなかった。ふと地面に目をやると、小さな血だまりがアルトの右手の真下に出来ている。スモーカーの眉間のしわが一層深く刻まれた。
「おい、アルト!しっかりしろ!アルト!!!」
『……。怒ってる?』
「ああ゛?」
『ハァ……怒ってる』
アルトはペガパンクの研究所に備え付けられた医務室のベットの上にいた。
頭がぼーっとしてるようで、焦点を合わせるのに時間がかかる。
「調子は?」
『…ん?ああ、妙に身体が軽い。…海楼石、無くなったからかな?』
「馬鹿か。てめェは血を流し過ぎだ」
『あ~……なるほど。だから、頭がぼーっとするのか』
「……ハァ」
スモーカーは大きくため息をつく。死にかけたことにアルトは気付いてないらしい。
「もういい、寝てろ。輸血が終わらねェと動けねェしな」
『キミは……どうするの?』
「あ?」
『いや、あの…もう、行くのかなって…』
アルトはゆっくりと瞬きをしながら尋ねる。
「……寝てろ」
『あ……ちょっ』
スモーカーはアルトの目を掌で、覆う。アルトを寝かしつける時にスモーカーがよくやる手。
アルトは人の温もりを感じると大人しくなるらしい。
『……ごめ、ん。……』
「……」
『……』
スースーと寝息が聞こえる。スモーカーは掌を離した。
「なんで謝んだ、馬鹿野郎」
スモーカーは眠るアルトの頭を撫でる。そのスモーカーの顔は誰にも見たことない優しい顔だ。
スモーカーは撫でる手を止めると、辺りを見渡す。だれもいないのを確認すると、静かにアルトの額に口付けを落とした。
【無茶をするキミへ】
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もっと白馬の王子様みたいなノリでも良かったですかね;;でも、スモーカーはこっそり優しいんだろうなぁって気がしますw