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「お前が養う?その子供をか?」
「ええ」
センゴクは眉をひそめ、視線をクザンの足元に向ける。
クセの強そうな黒髪にやや目つきの悪い緑の目。ケガをしたと言う報告通り、小さな頭や身体にぐるぐると白い包帯が巻かれていた。
【はじめまして】
「とりあえずケガが治るまでは医務室の個室を一つ借りたいと思ってます。今日はその許可も含めて報告に来たんですが…」
「ふむ……おつるサンどう思う?」
「……クザン、子供を育てるってのはアンタが思ってるより大変だよ」
センゴクの隣で椅子に腰かけているつるはクザンに言った。
「まぁ……だとは思うんですが、」
「CPに送った方がいいんじゃないか?」
「……いえ。CPに行くにしてもこの怪我じゃ、スパンダが迷惑がるでしょう」
「期間限定ってわけかい」
「え……っと」
つるの言葉に青キジは言葉を濁した。センゴクは視線をアルトに向ける。目が合った。
「……」
『……』
センゴクがじっとアルトは見下ろす。アルトは緊張からか、クザンの服の裾をギュッと掴った。
「……名前は?」
『!……』
「ほらアルト、練習した通りに言ってごらん」
『……』
「……」
『……はじめまして、センゴクげんすい、おつるだいさんぼう。ぼくはノティ・アルトといいます。お世話になります』
「……」
『……うっ……』
アルトはジッとセンゴクを見つめた。センゴクは目を細める。
「……アルトと呼べばいいか?」
『!!あ…うん。はい?』
「アルト、お前はクザンと暮らしたいか?」
『……?』
「こいつは中将だ。世話をみると言っても仕事がある。あまり側にはおれんだろう。それでもいいのか?」
『……』
「……」
クザンは心配そうにアルトを見下ろす。
『……それでも一緒にいたい』
「……!」
「……そうか」
センゴクとつるはため息をついた。しかしその口元はほほ笑んでいて…
「私のことはおつるさんでいいよ」
『!』
「わしもセンゴクさんでいい。子供に元帥と呼ばれるのはなれん。」
「!!いいんですか?」
「その代わり、アルトの養育費はお前の給料から抜くからな」
「当分女遊びは控えなよ」
「うっ……」
クザンは早速のダブルパンチに息を詰まらせた。
「アルト、お前には個室を渡す。ちゃんと医者の言うことを聞いてけがを治すんだよ」
『うん、ありがとう。センゴクサン、おつるサン』
アルトの少しだけ和らいだように見えた顔に、センゴクとつるは笑顔をみせた。
ーーーーーーーーーーーー
「あれは……」
つるはふと足を止める。隣を歩いていたガープは、突然足を止めたつるへ振り返った。
「どうした?おつるちゃん」
「いや…。あそこにクザンの養い子がいるんだよ」
つるは指をさす。その先には包帯を巻いたアルト。本来なら医務室に居るはずだが、なぜか本部を歩いている。
「青二才の養い子ォ?」
「なんだ、クザンはアンタに言ってなかったのかい?」
「聞いとらんな」
「そうなのかい。クザンなら孫が生まれたアンタにいの一番に助けを求めそうだけどね」
「ふん。あの青二才、わしを出し抜こうとしとったんか…ようし!」
「!…ガープ!?」
つるの制止の声も何のその。ガープはズンズンとアルトに向かって行った。
【拳骨のおじいさん】
『えーっと。クザンクンのおへやは……』
本部に来ていたアルトは辺りを見渡す。高い高い天井に襖で仕切られた部屋、目を回しそうだ。
「おい!」
『!』
アルトは声と共に首根っこを掴まれた。そのままふわっと身体が浮きあがる。
『!!?』
地に足がつかないアルトは、目の前にいる人物を注視する。首を傾げた。
『?』
「お前、クザンの養い子らしいな」
『!……おじいさん、クザンクンを知ってるの?』
「おじいさん!?おじさんじゃ!!」
『??』
アルトは頭に"?"を浮かべる。以前もこんなことで怒られた記憶がある。
『なんで怒ってるの?おじいさんはクザンクンの友達なの?』
「クザンクザンと!!知っとるわい。アイツはわしが鍛えたんじゃからなァ!」
『きたえる?……おじいさんはだれなの?』
ゴツン…!!
「だから"おじさん"じゃと!!」
『う~……!!!』
「ガープ!下ろしてやりな!」
腰に手を当てたつるがガープの後ろで釘を刺す。拳骨を受け頭を抑えていたアルトは知り合いを見つけて嬉しそうな声を出した。
『おつるサンだ…!』
アルトはつるに助けを求める。つるはガープからアルトを取り上げた。
「アルト、驚かせて悪いね。大丈夫かい?」
『うん!』
「途端に機嫌がよくなりよって!チビがおつるちゃんに色目を使うなんざ百年早…!」
ゴツン…!!
「~……っ」
ガープの頭につるの鉄拳が落とされる。
「ガープ!アンタ、子供に何を言ってるんだい!」
ガープの頭に出来た大きなたんこぶをさする。目が涙目になっていた。
「おつるちゃん、そんな思いっ切り殴らなくても……」
「相手を考えな。アルトはまだ8歳の子供だよ!」
つるは地面に降り立ったアルトの頭を撫でる。
「アルト、アンタも勝手に医務室を出て来たらダメじゃないか」
『……ごめんなさい』
「クザンのところに行くのかい?」
『うん……』
「クザンは今長期任務だよ」
『……うん』
「……なんじゃ、淋しくなったんか?」
『…!!違うよ。そんなんじゃない。ただ、へやが静かだったから』
「それを淋しいというんじゃ」
『!!だから違う!おじいさんは黙っててよ!!』
「なんじゃとー!!」
『!!』
「ガープ!アルトもやめな!」
「『……』」
つるに再度起こられた二人。ガープは振り上げた拳を下ろす。つるはアルトと視線を合わした。
「アルト、任務は仕方ない。わかっているだろう」
『うん……ごめんなさい』
「……」
表情は変わらないものの、落ち込んだようにみえる。ガープはため息をついた。
「仕方ねェな」
「『?』」
「わしが遊んでやろう!」
「『!』」
ガープの部屋。
『これはなぁに?』
「"将棋"じゃ」
『"しょーぎ"…??』
「そうじゃ、今から簡単にルールを説明するから覚えるんじゃぞ」
『う、うん』
「…難しくないかい?」
将棋盤を挟んでいるアルトとガープの真ん中でお茶をすするつる。
「戦術を考える勉強になるじゃろ」
「戦術って……海兵にでもする気かい?」
「それもいいのォ。まぁ、とりあえず覚えたらわしの相手をさせるんじゃ。クザンよりは相手になるかもしれん」
「やっぱり……そっち目当てかい」
つるはハァ……っとため息をついた。
「ようし、後は実践あるのみじゃ!」
『うん』
数分後……
『んん……??なんで負けるの??』
「ぶわっははははは!!百戦錬磨のわしに勝とうなど百万年早いわ!!」
『ムー……』
「子供相手に手加減ってのはないのかね」
「ぶわっははははは!!」
さらに数分後
「!!……むむッ?」
「…!!」
ガープは盤面を睨みつける。つるも目を見張った。
『ガープサンの番だよ!』
「わかっとるわい……ぐぬぬぬ…」
「……(こりゃ、驚いたねェ)」
つるは盤面からアルトに視線を移す。アルトは将棋を指すが初めてで、さっきまでガープに全戦全敗だった。それが今は優勢になっている。
「……」
将棋はただのゲームではない。昔、軍師を育てるためこれを用いたとも言われている程、高等な戦略ゲームだ。
刻一刻と変わる戦況と相手の次の出方を常に予測し、自身を勝利へと導かなければならない。軍師そのものだ。
つまりこの将棋につよい人間は"そういう方面"に強い、または適性があると言うことになる。
つるは時計に目をやった。
「(将棋の説明を聞いてから約1時間。たった1時間でガープをここまで苦しめるとは……この子はもしかして…)」
『まだ~??』
「だー!だまっとらんか!!」
「ガープ。"王手"をかけられる前に負けを認めな」
「おつるちゃん!!?」
『ぼくの勝ち?』
「ああ、アンタの勝ちだよ、アルト」
『やった!』
ゴツン…!!
「ガープ!!」
嬉しそうな声を上げたアルトはまたもやガープの拳骨に見舞われた。
『……~っ』
「一度勝ったくらいでいい気になるなよ!!」
『!!』
「アンタ負けたからって子供に当たるなんて!!」
「もう一回じゃ!もう一回!!」
「ガープ」
『―――じゃあ、いっぱい勝てばたたかないんだね』
「「!!」」
「アルト!?」
『もう、ガープサンには負けない。たたくのがいやになるくらい、勝つもん!!』
「……いうじゃねェか…」
「……(この子は…)」
ガープはニヤッと口角を上げた。つるは微かに目を細めた。
ーーーーーーーーーーー
【優しい音色】
「アルト、入るぞ」
『!』
ガララッとアルトがいる個室のドアが勢いよく開く。ドアを開けたクザンはゆったりとした足取りで部屋に入って来た。
『クザンクン、おはよー』
「おう。おはよう」
クザンはアルトの頭を撫でる。
『きょう、おしごとは?』
「今日は休みだ」
『やすみ?』
「ああ!だから今日は出掛けるぞ」
『!』
アルトはクザンを見上げる。表情は変わらないが、たぶん驚いているのだろう。
『いいの?』
「今日はおれも一緒だからいいんだ。医者からも許可はもらった」
クザンはそう言うと、手に持っていた子供用の上着をアルトに着せる。そしてベッドから降ろした。
「まぁ、出掛けるってもマリージョアに行くだけなんだが」
『マリージョア…?"てんりゅうびと"がいるとこ?』
「そっ。まぁ海軍が使ってる部屋だから天竜人には会わねェよ」
クザンはアルトの手を引き、歩き出す。その歩調はとてもゆっくりで、小さなアルトでもついて行くことが可能だった。
海軍本部からマリージョアに入る。アルトはキョロキョロと辺りを見渡した。
「なんだ?珍しいか?」
『うん。かいぐんほんぶよりも、ピカピカでギラギラしてる』
「……なるほど、成金趣味って奴か…子供は素直だねェ」
『?』
小さく呟いたクザン。アルトは首をひねった。クザンはなんでもないよ、と苦笑する。
「ああ、アルト。今、来てる道しっかり覚えなさいな」
『?なんでだい?』
「気に入ったらいつでも行けるようにだ。おれが毎回ついて来れるかわからねェしな」
『……?』
アルトはクザンの言葉を全て理解することは出来なかった。手を引くクザンに遅れないよう歩きながら、クザンへ目を向けていた。
進むこと数十分後、マリージョアのとある一室の前でクザンは足を止める。アルトはクザンが止まったのを見て、自身も足を止めた。
「ここだ」
『?』
クザンは鍵を取り出し、ガチャガチャとドアを開けた。
『――!!』
アルトは開いたドアから中を覗く。そこには大きな黒塗りのグランドピアノがあった。
『クザン、クン…!』
「あれ、何かわかるか?」
『ピアノ!』
「正解」
アルトの声が弾んでいた。クザンはつい頬を緩ます。
「ここのピアノは何年も使われてねェらしい。誰も使わねェから好きに使えってさ」
アルトは小走りで部屋の中央にあるグランドピアノに寄っていく。
埃は前もって払われていたようで、ピアノは黒い光沢を放っていた。
『……触っていい?』
「ああ、もちろん。調律もしてもらったから大丈夫なはずだ」
クザンはそう言うとドア近くのイスに腰掛ける。アルトはピアノと同じ色の少し背の高いイスによじ登り、黒いふたを開けた。
『!』
使われていなかったことを示す少し黄ばんだ鍵盤が並ぶ。
アルトは恐る恐る人差し指を鍵盤のひとつに置いた。
―――♪
『!』
―――♪.♪.♪.♪
アルトは目を閉じ、そのピアノの音を確かめるように、懐かしむように、叩く。最後の音が消えた時、アルトは目を開けた。
「どうだ?」
『キレイ……とってもキレイだ』
「……そうか」
クザンはアルトの表情が和らいだのを感じた。今まで無表情だった分、少しの変化がとても大きく見える。
「何か一曲弾くか?」
『ん……ゆっくりだったら弾けると思う』
「じゃあ、弾いてみな。気が済むまで聞いといてやるから」
『…うん!』
アルトは鍵盤の前で大きく深呼吸をした。そして身体が覚えている通りに、鍵盤に10本の指を添える。
―――♪.♪♪♪~~
「……」
アルトは自分の頭ではなく、身体が覚えているメロディーをゆっくりと静かに弾き始めた。
―――♪♪~♪♪~♪~♪♪♪♪~
引いて行くうちに徐々にだが、ペースを掴んで来たようだ。弾き方に余裕が感じられる。
「こりゃ…予想以上じゃないの」
耳を傾けていたクザンは感嘆の声をもらした。アルトが奏でるピアノの音はそこらでよく聞く音ではなく、一音一音が胸に響く――――
「……っ」
アルトの音を聞いてると、何故だか無性に泣きたくなった。クザンは溢れそうな感情を目をつむって抑える。
音がこんなに温かいと感じるとは思わなかった。いや、それだけではなく、アルトの音がどこかで聞いた懐かしい音のような気がしたのかもしれない。
~~~♪♪♪♪~♪♪♪~♪~
♪♪~♪♪♪~♪~♪~♪.
『……ハァ』
最後の一音を奏で終わったアルトは両手を鍵盤から自身の膝に落とした。額からつぅーと一筋の汗が流れ、大きく肩で息をして呼吸を整える。
「良かったぞ、アルト」
『!』
顔を上げたアルトにクザンはニコッと微笑んだ。
『……ほんとに?』
「ああ。アルトはどうだったんだ?」
『……たのしかった。弾いてるとき、ここがポカポカしたんだ』
アルトは胸に手を置く。そしてニコッと子供らしい、明るい笑顔をみせた。クザンは目を見張る。
「これはここの鍵だ」
クザンは首から提げれるようにひもを通した鍵をアルトに差し出した。アルトはクザンと鍵を交互に見る。そして、クザンの手から鍵を受け取った。
「ありがとう、アルト」
『?なんでクザンクンがありがとうなの?』
アルトは首を傾げる。クザンは頭をポリポリとかいた。
「さあ、なんでかな…」
『?』
クスクスと笑うクザン。そんなクザンは自身を見上げるアルトの頭を優しく撫でた。
fin
***********
アルトと初めまして3連戦でした。
センゴクもおつるさんもガープもみんなアルトがかわいいのですw
「ええ」
センゴクは眉をひそめ、視線をクザンの足元に向ける。
クセの強そうな黒髪にやや目つきの悪い緑の目。ケガをしたと言う報告通り、小さな頭や身体にぐるぐると白い包帯が巻かれていた。
【はじめまして】
「とりあえずケガが治るまでは医務室の個室を一つ借りたいと思ってます。今日はその許可も含めて報告に来たんですが…」
「ふむ……おつるサンどう思う?」
「……クザン、子供を育てるってのはアンタが思ってるより大変だよ」
センゴクの隣で椅子に腰かけているつるはクザンに言った。
「まぁ……だとは思うんですが、」
「CPに送った方がいいんじゃないか?」
「……いえ。CPに行くにしてもこの怪我じゃ、スパンダが迷惑がるでしょう」
「期間限定ってわけかい」
「え……っと」
つるの言葉に青キジは言葉を濁した。センゴクは視線をアルトに向ける。目が合った。
「……」
『……』
センゴクがじっとアルトは見下ろす。アルトは緊張からか、クザンの服の裾をギュッと掴った。
「……名前は?」
『!……』
「ほらアルト、練習した通りに言ってごらん」
『……』
「……」
『……はじめまして、センゴクげんすい、おつるだいさんぼう。ぼくはノティ・アルトといいます。お世話になります』
「……」
『……うっ……』
アルトはジッとセンゴクを見つめた。センゴクは目を細める。
「……アルトと呼べばいいか?」
『!!あ…うん。はい?』
「アルト、お前はクザンと暮らしたいか?」
『……?』
「こいつは中将だ。世話をみると言っても仕事がある。あまり側にはおれんだろう。それでもいいのか?」
『……』
「……」
クザンは心配そうにアルトを見下ろす。
『……それでも一緒にいたい』
「……!」
「……そうか」
センゴクとつるはため息をついた。しかしその口元はほほ笑んでいて…
「私のことはおつるさんでいいよ」
『!』
「わしもセンゴクさんでいい。子供に元帥と呼ばれるのはなれん。」
「!!いいんですか?」
「その代わり、アルトの養育費はお前の給料から抜くからな」
「当分女遊びは控えなよ」
「うっ……」
クザンは早速のダブルパンチに息を詰まらせた。
「アルト、お前には個室を渡す。ちゃんと医者の言うことを聞いてけがを治すんだよ」
『うん、ありがとう。センゴクサン、おつるサン』
アルトの少しだけ和らいだように見えた顔に、センゴクとつるは笑顔をみせた。
ーーーーーーーーーーーー
「あれは……」
つるはふと足を止める。隣を歩いていたガープは、突然足を止めたつるへ振り返った。
「どうした?おつるちゃん」
「いや…。あそこにクザンの養い子がいるんだよ」
つるは指をさす。その先には包帯を巻いたアルト。本来なら医務室に居るはずだが、なぜか本部を歩いている。
「青二才の養い子ォ?」
「なんだ、クザンはアンタに言ってなかったのかい?」
「聞いとらんな」
「そうなのかい。クザンなら孫が生まれたアンタにいの一番に助けを求めそうだけどね」
「ふん。あの青二才、わしを出し抜こうとしとったんか…ようし!」
「!…ガープ!?」
つるの制止の声も何のその。ガープはズンズンとアルトに向かって行った。
【拳骨のおじいさん】
『えーっと。クザンクンのおへやは……』
本部に来ていたアルトは辺りを見渡す。高い高い天井に襖で仕切られた部屋、目を回しそうだ。
「おい!」
『!』
アルトは声と共に首根っこを掴まれた。そのままふわっと身体が浮きあがる。
『!!?』
地に足がつかないアルトは、目の前にいる人物を注視する。首を傾げた。
『?』
「お前、クザンの養い子らしいな」
『!……おじいさん、クザンクンを知ってるの?』
「おじいさん!?おじさんじゃ!!」
『??』
アルトは頭に"?"を浮かべる。以前もこんなことで怒られた記憶がある。
『なんで怒ってるの?おじいさんはクザンクンの友達なの?』
「クザンクザンと!!知っとるわい。アイツはわしが鍛えたんじゃからなァ!」
『きたえる?……おじいさんはだれなの?』
ゴツン…!!
「だから"おじさん"じゃと!!」
『う~……!!!』
「ガープ!下ろしてやりな!」
腰に手を当てたつるがガープの後ろで釘を刺す。拳骨を受け頭を抑えていたアルトは知り合いを見つけて嬉しそうな声を出した。
『おつるサンだ…!』
アルトはつるに助けを求める。つるはガープからアルトを取り上げた。
「アルト、驚かせて悪いね。大丈夫かい?」
『うん!』
「途端に機嫌がよくなりよって!チビがおつるちゃんに色目を使うなんざ百年早…!」
ゴツン…!!
「~……っ」
ガープの頭につるの鉄拳が落とされる。
「ガープ!アンタ、子供に何を言ってるんだい!」
ガープの頭に出来た大きなたんこぶをさする。目が涙目になっていた。
「おつるちゃん、そんな思いっ切り殴らなくても……」
「相手を考えな。アルトはまだ8歳の子供だよ!」
つるは地面に降り立ったアルトの頭を撫でる。
「アルト、アンタも勝手に医務室を出て来たらダメじゃないか」
『……ごめんなさい』
「クザンのところに行くのかい?」
『うん……』
「クザンは今長期任務だよ」
『……うん』
「……なんじゃ、淋しくなったんか?」
『…!!違うよ。そんなんじゃない。ただ、へやが静かだったから』
「それを淋しいというんじゃ」
『!!だから違う!おじいさんは黙っててよ!!』
「なんじゃとー!!」
『!!』
「ガープ!アルトもやめな!」
「『……』」
つるに再度起こられた二人。ガープは振り上げた拳を下ろす。つるはアルトと視線を合わした。
「アルト、任務は仕方ない。わかっているだろう」
『うん……ごめんなさい』
「……」
表情は変わらないものの、落ち込んだようにみえる。ガープはため息をついた。
「仕方ねェな」
「『?』」
「わしが遊んでやろう!」
「『!』」
ガープの部屋。
『これはなぁに?』
「"将棋"じゃ」
『"しょーぎ"…??』
「そうじゃ、今から簡単にルールを説明するから覚えるんじゃぞ」
『う、うん』
「…難しくないかい?」
将棋盤を挟んでいるアルトとガープの真ん中でお茶をすするつる。
「戦術を考える勉強になるじゃろ」
「戦術って……海兵にでもする気かい?」
「それもいいのォ。まぁ、とりあえず覚えたらわしの相手をさせるんじゃ。クザンよりは相手になるかもしれん」
「やっぱり……そっち目当てかい」
つるはハァ……っとため息をついた。
「ようし、後は実践あるのみじゃ!」
『うん』
数分後……
『んん……??なんで負けるの??』
「ぶわっははははは!!百戦錬磨のわしに勝とうなど百万年早いわ!!」
『ムー……』
「子供相手に手加減ってのはないのかね」
「ぶわっははははは!!」
さらに数分後
「!!……むむッ?」
「…!!」
ガープは盤面を睨みつける。つるも目を見張った。
『ガープサンの番だよ!』
「わかっとるわい……ぐぬぬぬ…」
「……(こりゃ、驚いたねェ)」
つるは盤面からアルトに視線を移す。アルトは将棋を指すが初めてで、さっきまでガープに全戦全敗だった。それが今は優勢になっている。
「……」
将棋はただのゲームではない。昔、軍師を育てるためこれを用いたとも言われている程、高等な戦略ゲームだ。
刻一刻と変わる戦況と相手の次の出方を常に予測し、自身を勝利へと導かなければならない。軍師そのものだ。
つまりこの将棋につよい人間は"そういう方面"に強い、または適性があると言うことになる。
つるは時計に目をやった。
「(将棋の説明を聞いてから約1時間。たった1時間でガープをここまで苦しめるとは……この子はもしかして…)」
『まだ~??』
「だー!だまっとらんか!!」
「ガープ。"王手"をかけられる前に負けを認めな」
「おつるちゃん!!?」
『ぼくの勝ち?』
「ああ、アンタの勝ちだよ、アルト」
『やった!』
ゴツン…!!
「ガープ!!」
嬉しそうな声を上げたアルトはまたもやガープの拳骨に見舞われた。
『……~っ』
「一度勝ったくらいでいい気になるなよ!!」
『!!』
「アンタ負けたからって子供に当たるなんて!!」
「もう一回じゃ!もう一回!!」
「ガープ」
『―――じゃあ、いっぱい勝てばたたかないんだね』
「「!!」」
「アルト!?」
『もう、ガープサンには負けない。たたくのがいやになるくらい、勝つもん!!』
「……いうじゃねェか…」
「……(この子は…)」
ガープはニヤッと口角を上げた。つるは微かに目を細めた。
ーーーーーーーーーーー
【優しい音色】
「アルト、入るぞ」
『!』
ガララッとアルトがいる個室のドアが勢いよく開く。ドアを開けたクザンはゆったりとした足取りで部屋に入って来た。
『クザンクン、おはよー』
「おう。おはよう」
クザンはアルトの頭を撫でる。
『きょう、おしごとは?』
「今日は休みだ」
『やすみ?』
「ああ!だから今日は出掛けるぞ」
『!』
アルトはクザンを見上げる。表情は変わらないが、たぶん驚いているのだろう。
『いいの?』
「今日はおれも一緒だからいいんだ。医者からも許可はもらった」
クザンはそう言うと、手に持っていた子供用の上着をアルトに着せる。そしてベッドから降ろした。
「まぁ、出掛けるってもマリージョアに行くだけなんだが」
『マリージョア…?"てんりゅうびと"がいるとこ?』
「そっ。まぁ海軍が使ってる部屋だから天竜人には会わねェよ」
クザンはアルトの手を引き、歩き出す。その歩調はとてもゆっくりで、小さなアルトでもついて行くことが可能だった。
海軍本部からマリージョアに入る。アルトはキョロキョロと辺りを見渡した。
「なんだ?珍しいか?」
『うん。かいぐんほんぶよりも、ピカピカでギラギラしてる』
「……なるほど、成金趣味って奴か…子供は素直だねェ」
『?』
小さく呟いたクザン。アルトは首をひねった。クザンはなんでもないよ、と苦笑する。
「ああ、アルト。今、来てる道しっかり覚えなさいな」
『?なんでだい?』
「気に入ったらいつでも行けるようにだ。おれが毎回ついて来れるかわからねェしな」
『……?』
アルトはクザンの言葉を全て理解することは出来なかった。手を引くクザンに遅れないよう歩きながら、クザンへ目を向けていた。
進むこと数十分後、マリージョアのとある一室の前でクザンは足を止める。アルトはクザンが止まったのを見て、自身も足を止めた。
「ここだ」
『?』
クザンは鍵を取り出し、ガチャガチャとドアを開けた。
『――!!』
アルトは開いたドアから中を覗く。そこには大きな黒塗りのグランドピアノがあった。
『クザン、クン…!』
「あれ、何かわかるか?」
『ピアノ!』
「正解」
アルトの声が弾んでいた。クザンはつい頬を緩ます。
「ここのピアノは何年も使われてねェらしい。誰も使わねェから好きに使えってさ」
アルトは小走りで部屋の中央にあるグランドピアノに寄っていく。
埃は前もって払われていたようで、ピアノは黒い光沢を放っていた。
『……触っていい?』
「ああ、もちろん。調律もしてもらったから大丈夫なはずだ」
クザンはそう言うとドア近くのイスに腰掛ける。アルトはピアノと同じ色の少し背の高いイスによじ登り、黒いふたを開けた。
『!』
使われていなかったことを示す少し黄ばんだ鍵盤が並ぶ。
アルトは恐る恐る人差し指を鍵盤のひとつに置いた。
―――♪
『!』
―――♪.♪.♪.♪
アルトは目を閉じ、そのピアノの音を確かめるように、懐かしむように、叩く。最後の音が消えた時、アルトは目を開けた。
「どうだ?」
『キレイ……とってもキレイだ』
「……そうか」
クザンはアルトの表情が和らいだのを感じた。今まで無表情だった分、少しの変化がとても大きく見える。
「何か一曲弾くか?」
『ん……ゆっくりだったら弾けると思う』
「じゃあ、弾いてみな。気が済むまで聞いといてやるから」
『…うん!』
アルトは鍵盤の前で大きく深呼吸をした。そして身体が覚えている通りに、鍵盤に10本の指を添える。
―――♪.♪♪♪~~
「……」
アルトは自分の頭ではなく、身体が覚えているメロディーをゆっくりと静かに弾き始めた。
―――♪♪~♪♪~♪~♪♪♪♪~
引いて行くうちに徐々にだが、ペースを掴んで来たようだ。弾き方に余裕が感じられる。
「こりゃ…予想以上じゃないの」
耳を傾けていたクザンは感嘆の声をもらした。アルトが奏でるピアノの音はそこらでよく聞く音ではなく、一音一音が胸に響く――――
「……っ」
アルトの音を聞いてると、何故だか無性に泣きたくなった。クザンは溢れそうな感情を目をつむって抑える。
音がこんなに温かいと感じるとは思わなかった。いや、それだけではなく、アルトの音がどこかで聞いた懐かしい音のような気がしたのかもしれない。
~~~♪♪♪♪~♪♪♪~♪~
♪♪~♪♪♪~♪~♪~♪.
『……ハァ』
最後の一音を奏で終わったアルトは両手を鍵盤から自身の膝に落とした。額からつぅーと一筋の汗が流れ、大きく肩で息をして呼吸を整える。
「良かったぞ、アルト」
『!』
顔を上げたアルトにクザンはニコッと微笑んだ。
『……ほんとに?』
「ああ。アルトはどうだったんだ?」
『……たのしかった。弾いてるとき、ここがポカポカしたんだ』
アルトは胸に手を置く。そしてニコッと子供らしい、明るい笑顔をみせた。クザンは目を見張る。
「これはここの鍵だ」
クザンは首から提げれるようにひもを通した鍵をアルトに差し出した。アルトはクザンと鍵を交互に見る。そして、クザンの手から鍵を受け取った。
「ありがとう、アルト」
『?なんでクザンクンがありがとうなの?』
アルトは首を傾げる。クザンは頭をポリポリとかいた。
「さあ、なんでかな…」
『?』
クスクスと笑うクザン。そんなクザンは自身を見上げるアルトの頭を優しく撫でた。
fin
***********
アルトと初めまして3連戦でした。
センゴクもおつるさんもガープもみんなアルトがかわいいのですw