代わりにはなれないから
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『今日は僕が見張りにつきます』
「そう?じゃあよろしく」
『はい!』
「……」
あいつは満月の夜、いつも率先して見張りにつく。
そして皆が寝息を立て始める頃に、見張り台から横に伸びるマストに現れ空と海を見る。
それがあいつのパターン。
ガチャ…
今日も皆の部屋の電気が消えたのを見計らって、見張り台からドアが開く音が聞こえた。
おれは早くに暗くしたキッチンでその音を聞くと、温めていた水をコーヒーメーカーに注ぐ。
ポタポタと落ちるコーヒーの雫の音を片隅に捉えながら、タバコに火をつける。煙がユラリとキッチンに漂った。
おれは一度、今日みたいな月夜の日にあいつへコーヒーを持って行ったことを思い出す。
*
キィっときしむ綱梯子をのぼりマストに立ったおれは目を見張った。
空を見上げるあいつはシルクハットもバレッタもしてない。
ちょうどよい風がシルバーピンクの髪を靡びかせる。その隙間から紅い瞳が見えた。
その姿は空から舞い降りた……
「おっと、おれは男に何を言うつもりだ」
キッチンでタバコの先を赤くさせながらサンジはクスっと笑う。
それほどあの時の姿が印象的だったと言うことだろう。
しばしば見とれていたおれはふと、あいつが何かを言っているのに気付いた。
「…?」
立ち聞きなんて趣味じゃなかったが、いつもの雰囲気じゃないあいつが気になった。
おれは気配を消して死角になる見張り台の壁に身を寄せる。
あいつの声が聞こえた。
『――貴女に逢いたい』
「!」
『どこに行けば良いのですか…?』
「……(なんて声出してやがんだ)」
切なくて哀しみ声。こんな声をあいつが出すなんて知らなかった。
「クソッ……」
あいつ…ジンには想い人がいるとロビンちゃんが言っていた。話からするとかわいらしいレディだそうだ。
ジンの右目と“声”の能力はそのレディの物。ジンはそれらを何より大切にしている。それは我が船長が麦わら帽子を大切にするのと同じ様に…。
「(しかもそのレディはもうこの世にはいねェときた……)」
ジンの想い人はこの世にはいない。
なのにあいつはなんであんなに…あんな頑ななまでにそのレディを追い求めているのか。
それがわからないとあいつとの距離は縮まらないだろう。
「……チッ。らしくねェな」
おれはタバコに火をつけ、立ち上がる。その距離を少しでも縮めたくて仕方なかった。
「なぁに黄昏てんだ?」
『!?……サンジさん!!』
おれが声をかけたらあいつは慌てた様子で右目に眼帯をつける。
『驚きました。まさかこの距離で気付かないなんて』
「まったくだ。見張りって自覚を持て」
『!』
おれはそう言って、コーヒーを入れた保温容器をジンに投げ渡した。
「コーヒーだ。てめェの好みにしてる」
『!ありがとうございます。嬉しいです』
あいつが笑う。さっきの哀しい声が嘘みたいだ。
「じゃあ、おれは寝るわ」
『はい。遅くまでご苦労様でした』
「……」
『?どうかしましたか……?』
「おれじゃあ……」
『?』
「……いや。やっぱなんもねェ」
*
「はぁ………意気地がねェな」
短くなったタバコの火を灰皿に押し付けながらため息をついた。
――おれじゃあ、その想い人の代わりになれねェのか?
「そんなこと言える訳ねェ……」
この世を去ってもなお、ジンにあんな顔をさせてしまうレディに……
「おれなんかが、勝てるかよ」
だから、おれは今日もあいつの好きなコーヒーを保温容器に注ぎ、それを持ってあいつに会いに行く。
おれを見るとあいつは笑顔を見せるから。
「きっとレディもそれを望むはず」
好きな奴の悲しい顔なんて見たい奴なんていない。
だから少しでもあいつが哀しい顔をしないように…おれはあいつの側にいよう
それがそのレディの代わりにおれがジンに出来ることだと信じて。
fin
「そう?じゃあよろしく」
『はい!』
「……」
あいつは満月の夜、いつも率先して見張りにつく。
そして皆が寝息を立て始める頃に、見張り台から横に伸びるマストに現れ空と海を見る。
それがあいつのパターン。
ガチャ…
今日も皆の部屋の電気が消えたのを見計らって、見張り台からドアが開く音が聞こえた。
おれは早くに暗くしたキッチンでその音を聞くと、温めていた水をコーヒーメーカーに注ぐ。
ポタポタと落ちるコーヒーの雫の音を片隅に捉えながら、タバコに火をつける。煙がユラリとキッチンに漂った。
おれは一度、今日みたいな月夜の日にあいつへコーヒーを持って行ったことを思い出す。
*
キィっときしむ綱梯子をのぼりマストに立ったおれは目を見張った。
空を見上げるあいつはシルクハットもバレッタもしてない。
ちょうどよい風がシルバーピンクの髪を靡びかせる。その隙間から紅い瞳が見えた。
その姿は空から舞い降りた……
「おっと、おれは男に何を言うつもりだ」
キッチンでタバコの先を赤くさせながらサンジはクスっと笑う。
それほどあの時の姿が印象的だったと言うことだろう。
しばしば見とれていたおれはふと、あいつが何かを言っているのに気付いた。
「…?」
立ち聞きなんて趣味じゃなかったが、いつもの雰囲気じゃないあいつが気になった。
おれは気配を消して死角になる見張り台の壁に身を寄せる。
あいつの声が聞こえた。
『――貴女に逢いたい』
「!」
『どこに行けば良いのですか…?』
「……(なんて声出してやがんだ)」
切なくて哀しみ声。こんな声をあいつが出すなんて知らなかった。
「クソッ……」
あいつ…ジンには想い人がいるとロビンちゃんが言っていた。話からするとかわいらしいレディだそうだ。
ジンの右目と“声”の能力はそのレディの物。ジンはそれらを何より大切にしている。それは我が船長が麦わら帽子を大切にするのと同じ様に…。
「(しかもそのレディはもうこの世にはいねェときた……)」
ジンの想い人はこの世にはいない。
なのにあいつはなんであんなに…あんな頑ななまでにそのレディを追い求めているのか。
それがわからないとあいつとの距離は縮まらないだろう。
「……チッ。らしくねェな」
おれはタバコに火をつけ、立ち上がる。その距離を少しでも縮めたくて仕方なかった。
「なぁに黄昏てんだ?」
『!?……サンジさん!!』
おれが声をかけたらあいつは慌てた様子で右目に眼帯をつける。
『驚きました。まさかこの距離で気付かないなんて』
「まったくだ。見張りって自覚を持て」
『!』
おれはそう言って、コーヒーを入れた保温容器をジンに投げ渡した。
「コーヒーだ。てめェの好みにしてる」
『!ありがとうございます。嬉しいです』
あいつが笑う。さっきの哀しい声が嘘みたいだ。
「じゃあ、おれは寝るわ」
『はい。遅くまでご苦労様でした』
「……」
『?どうかしましたか……?』
「おれじゃあ……」
『?』
「……いや。やっぱなんもねェ」
*
「はぁ………意気地がねェな」
短くなったタバコの火を灰皿に押し付けながらため息をついた。
――おれじゃあ、その想い人の代わりになれねェのか?
「そんなこと言える訳ねェ……」
この世を去ってもなお、ジンにあんな顔をさせてしまうレディに……
「おれなんかが、勝てるかよ」
だから、おれは今日もあいつの好きなコーヒーを保温容器に注ぎ、それを持ってあいつに会いに行く。
おれを見るとあいつは笑顔を見せるから。
「きっとレディもそれを望むはず」
好きな奴の悲しい顔なんて見たい奴なんていない。
だから少しでもあいつが哀しい顔をしないように…おれはあいつの側にいよう
それがそのレディの代わりにおれがジンに出来ることだと信じて。
fin