青根くん
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「青根くん!おつかれ!」
(…!)
最近あいつらは仲がいい
名前が部活を見に来て
夜まで残ってて一緒に帰ったりしている
名前が勇気を出して青根の掌を
ぎゅっと掴んだりしているのも知ってる
おもしろい、し、ほほえましい。
まあ俺は一回失敗もしてるし
ちょっと大人しく見守っておこうと思う。
***
「青根くん、好きな食べ物はなんですか」
「…栗きんとん…」
「お、それは新たな情報!わたしはねえ、枝豆とするめいかが好きなの、おつまみメニューだよ」
(ブン)
口数の少ない自分に
名前が質問をして、答える
そうすると名前のことも教えてもらえる
名前の掌が自分の掌を掴んでいるのが
くすぐったくて、痛くないように気を付けながら
自分のそれで包み込んでみる、嫌がられない。
「青根くんの手はなんか、硬いねえ、強そう。鉄壁だもんね」
(こくり)
「試合近いんだっけ、インターハイの予選だよね、5月の終わりくらい?」
「…6月、はじめ」
「そっか、じゃあ私しばらく見に行かないね、それで、試合見に行ってもいい?」
(こくり)
「青根くん出る?」
(こくり)
「にろちゃんももに先輩もでる?」
(こくり)
「じゃあ応援してるね」
手の、汗が、すごい。
***
いつもにろちゃんに振り回されて
お母さんみたいなもに先輩が
相手のペースに飲まれないよう
チームのみんなを落ち着かせてる
(…すごい…)
(青根くん…くまさんみたい…)
(にろちゃんもかっこいい…)
相手の攻撃はすっごい派手で
なんだか翻弄されている感に
焦ってしまっていたけれど
青根くんが慣れ、にろちゃんが食いつき
そして相手のエースはあのちびちゃんではなく
大柄な3番のひと、だったみたいで
(いいなあ、スポーツっていい)
結果負けちゃったわけなんだけど
すごいよって
かっこよかったよって
どんな顔で言ったらいいかわからなくって
こっそり逃げるみたいに駅に走って。
あの靴の擦れる音とか
ボールを叩く大きな音とか
仲間を鼓舞する声とか
(メール、とか)
(でもちゃんと会いたい)
**
「あ、」
「おはようにろちゃん、青根くん」
「おはよ名前」
(ブン)
反射的につかんだ名前の腕に
名前も青根も不思議そうな顔をしている。
「名前、」
「昨日はお疲れ様、二人ともかっこよかったよ、わたしなんかびっくりしちゃった」
「うん」
「ごめんね、きっと二人は色んな気持ちがあると思うけど、私こんなありきたりなことしか言えなくって」
「…青根ごめん、名前借りるね」
「にろちゃん?どうしたの?」
そこはいつか名前が拗ねて逃げ込んだ
金属加工実習室に続く渡り廊下
「俺ね、最後のあのボールとれなくって」
「うん、最後までおっかけてたね」
「俺にしてはイイ反応だったんだよ、あれ以上早く動けてたらマジ奇跡だったと思うんだけどさ」
「うん」
「ドラマとかだったらあそこでキセキがくるんだけどな」
「…うん、そうだよね」
「あの一球だ、俺ぜったい、一生忘れらんないよ」
「うん」
「センパイらも泣いてて、そんで、俺らにマジで期待してて、」
「…うれしい?」
「少しある、先輩らのことはなんだかんだ好きだったしソンケーしてる。だから先輩らが、自分たちは不作とか、お前らのお陰とか言うといたたまれないし、そんなこと言うなって思う」
「くやしい?」
「うん、くやしい、悲しいし、ムカつくし、もうセンパイらと毎日バレーできなくなるって、俺らが先に立ってやってくって、想像つかねー」
「…きっと、そうだろうね」
「…ごめん名前、ちょっとぎゅってしていい」
「ん、いいこいいこ」
「名前」
「うん」
「マネージャーなって」
「…んー、わたしでもバレーのルールも知らないの」
「そっか~」
顔を拭われて初めて
涙が出ていることに気が付く
名前のポケットから出てきたのは
花柄の可愛いハンドタオルで
いつも作業の時に首に巻いてる白いタオルとは違う
女の子らしい持ち物が
なんだか微笑ましく感じられる
「青根もあれでけっこう独占欲あるんだ」
「なんで青根くんが出てくるの」
「さっき振り返ったら捨て犬みたいな顔してた」
「わたしじゃなくてにろちゃんでしょ」
「そーだなー、青根俺のこともだいすきだからなー」
「そうよ、にろちゃんの今までのこと、私は想像するしかできないけど、青根くんはにろちゃんのそばにずっといるでしょ」
「俺さあ、名前と青根が結婚して子どもができたら孫みたいに可愛がっちゃうな」
「にろちゃんってけっこう妄想壁ひどいよね」
少し遅れて教室に戻ってきたにろちゃんは
まだちょっと目が赤かったけど
おろおろしている青根くんの顔を見ると
やっぱり落ち着いた、みたいだった
****
3年間は本当にあっという間で
伊達工業はなんとインターハイ出場を掴み
そしてなんと全国ベスト16。
そんな熱が冷めやらないとはいえ
それが昨日のようなまま薄まらないとはいえ
淡々と時間は過ぎ、
春高の予選を最後にみんなは引退、
そして私たちは卒業を迎える。
厳つい工業高校生が
胸にピンクのリボンをつけているのは
なんだかギャグみたいなんだけど
私の前に立ちふさがった青根くんは
いつにない困った顔をしている
「す、」
「…青根くん?」
「……これ」
「わ…かすみそう、かわいい、くれるの?」
(ブン)
「ありがとう青根くん、すっごいうれしい」
「………名前」
「っ!なあに?」
「…………ありがとう、三年間」
「そんな、あたしの方こそ、いくらお礼言ったってたりないよ」
「…すき、だ」
「!!」
見上げる、思わず、
ちゃんと目が合うのが
優しくて誠実な青根くんのすきなところ
「あのさ、それはさ、さよならはしないでいいってこと?」
(ブン)
「まだ一緒に居てもいいってこと?」
「……名前が」
「うん」
「………いやじゃなければ…ずっと」
「っ!」
****
「え、一緒に暮らしてる!?どういうこと!?」
「うん、にろちゃん遊びにおいでよ」
「名前仕事は!?」
「実家のお手伝いと近所のバイク屋さんと掛け持ちしてるの、私の改造口コミで人気みたいでモテてるのよ」
「おま…暴走族に人気とかどうなのよ」
「うちのアパートぼろなんだけどね、猫がいてね、最近仲良しなの」
「おお…お前ららしい…」
「それでね、にろちゃんにお尋ねしたいことというのがね」
「ハア!?三か月一緒に住んで手ェ出してないの!?」
「しっ声が大きい!」
「どーゆうことなの…高校の頃はおかずを回した仲なのに」
「ほんと?わたし青根くんいつのまにかホモになってたんじゃないかと思って心配してたんだけど」
「それはない、ない」
「それならいっか」
「よくないだろ俺たとえ名前でも一緒に住んだら襲っちゃう自信あるよ」
「なんか今聞き捨てならないこといっぱい言われた気がする」
****
畳に敷いたお布団に
電気を消してもぐりこむ
大体私たちは日中肉体労働をしているので
くったり疲れて眠り込むわけで
(にろちゃんのばか)
「青根くん、つかれた~」
「…ん…」
青根くんは体は大きいもののお行儀はよく
寝相も私よりよほどよく。
脇腹にしがみつくと
少し体が強張るのがわかった
「青根くん、おやすみ」
「…おやすみ」
***
「はあああああああああ!?」
「にろちゃん声大きい、胎教によくないので気を付けてください」
「…おお…じゃなくって!いつのまに籍入れてたの」
「んっと、年明け」
(ブン)
「赤ちゃん生まれるってどーゆうことなの!」
「そ、そーゆう、こと?」
(ブン!)
「なんかもうお前らマイペースにもほどがあんだろ…名前のお腹すっごいおっきいな」
「もう再来月には生まれる予定だからね。あー蹴ってる、ちびちゃん、にろおじちゃんですよー」
「…っ!お、おなか、さわらせてほしい…!」
(ブン)
「いーよ、今この辺蹴ってる」
「………あ、ほんと、すごい!赤ちゃんいるんだ、ここに」
「どーしよ、にろちゃん絶対あたしたちよりとんでもない親バカになるよ」
「あったりまえ…お前な、俺青根のことも名前のことも大好きだからな、子どもなんか生まれたら世界で一番大事に決まってるだろ」
「にろちゃん…」
つくづく思う
俺は一生こいつらに
振り回され続けちゃうような、気がする
青根の無表情も
太陽のような名前も変わらないまま、
「俺もそろそろ彼女ほしいなあ」
「にろちゃんって見た目に反して全然チャラくないもんねー」
(ブン)
「うっさい」