大学生
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帰りの電車は花巻さんと同じ駅で降りて
駅の近くに住んでる花巻さんとは
二つ目の信号で別れた。
しっかり手をつないでふらふら歩く名前さんは
小さい子供のように頼りない。
「たのしかったねえ」
「そうですね」
「おさけのんだ?」
「はい」
「いーっけないんだ!みせいねんのひと!」
「いつも買ってくるのは名前さんでしょ」
「えー?わたしのせい?」
暗くてひんやりした道に
やっぱりよく響く明るい声
アパートの廊下はもっと響くから
しーっと合図すると
同じようにしーっと繰り返した。
子どもか。
「国見ちゃん寝よう!」
「シャワーくらい浴びたらどうなんですか」
「えー明日でいい」
「…名前さんなんか、タバコのにおいする」
「たばこ?あー、まっつんと一緒だったからね、体育館からね、移動する前に一服してたの、横にいたからかも」
「……シャワー浴びますよ、ほら」
「え?国見ちゃんおこった?」
「…怒ったって言ったらどうするんですか」
ほら、ばんざいして、と言うと
素直に脱がされて風呂場へ。
酔っぱらってるとほんとに子どもだ。
大人しか酒は飲めないのに
飲んだ結果がこうなんてギャグみたいだ。
脱ぎ捨てた名前さんの服からは
やっぱりタバコのにおいがする。
松川さんに嫉妬する気も
気を抜いて先輩たちとべたべたする名前さんと
責める気もないけど。
「わ、国見ちゃん?先使ってよかったのに」
「名前さん絶対さぼるでしょ、俺がちゃんと洗ってあげる。ほら座って」
キョトンとした名前さんは
言われるがまま
なんかあれだ、犬のシャンプーしてる気分だ。
ぜんぜんいやらしい雰囲気にならない。
されるがままの名前さんを
全身ぴかぴかにして
ドライヤーで髪を乾かして。
シャンプーの優しい香りが流れてくる。
「よし」
「いいの?」
「はい」
ぼやっとした顔の名前さんに
水を飲ませて布団に連れていく。
壁の方に押し込んで自分も体を滑り込ませて。
俺、なんでこんなに働いてるんだ。
「タバコは嫌だし香水とかつけてみようかな」
「…えー、せっかく国見ちゃんいいにおいなのに!やだー」
「な!」
「石鹸のにおいかな、いつもいいにおいする」
能天気に腕に抱き着いてきた名前さんを
くるりと組み敷く。
あほっぽいかお、ちょうかわいい。
(あれ、俺も酔ってる?)
「寝るの、やめた」
「え?」
*****
「国見君てさあ」
「はい」
「彼女いるの?」
「え、いますけど」
先輩に誘われて
ファミレスで食べる晩御飯
わいわいがやがやするのは
性格的には苦手だけど
こういう雰囲気は嫌いじゃない。
隣に座っていた4年の先輩が
フライドポテトをつまみながら
こっちをのぞき込む。
「うそ!まじ!どんな人!」
「え、先輩知らないんすか、国見よく学食で妹みたいな女の子連れてるでしょ、あれ彼女だよね」
「ああ、はい」
「えー!どんな人なの?めっちゃ興味ある」
「…高校のバレー部の先輩でふたつ上の、マネージャーだった人です」
「え、あの人先輩やったん!?ふたつ上ってことは3年か」
「はい」
どんな人、と聞かれると
答えに困ってしまう
小さい人
かわいい人
やさしい人
かっこいい人
「あれ国見ちゃん来たの?今日ごはん行くって言ってなかった?」
「もう終わりました」
「そうなん」
「名前さんは?」
「卵があったからね、チャーハン作って食べた」
「残り食べていいですか」
「え、食べてきたんじゃないの?」
「名前さんのチャーハンうまいから」
野球中継を見ながらレポートを書いていたらしい名前さんは
こたつ机の上の資料を床に移動して
俺が皿を置く場所をあける。
「今日カノジョどんな人って聞かれて」
「なんて言ったの」
「高校の時の先輩って言いました」
「え、そういうこと聞かれたの?」
「じゃあ名前さんだったら俺のことなんて言うんですか」
「え?んー、やさしいとか?かわいいとか?いつも眠そうとか?んーと、燃費がいいとか、すごくやさしいとか」
「え、それマジで言ってます?」
「大マジだよ!」
「ハタチを前にしてかわいいって言われても」
「国見ちゃんのことは前からかわいいなって思ってたけど、付き合い始めてから今まで知らなかったとこいっぱい見れてよかったよ。やさしく笑ってくれるところも、ちょっと男の人っぽい顔するところも、いいなって思ったよ」
「やば、殺しに来てるでしょ」
「にんにく入れてるからさ、それ食べて、歯磨きしてきて、それからチューしよう」
「…名前さん、そんな子じゃなかったのに」
「がっかりした?」
「興奮した」
****
国見ごめん、と
花巻さんから電話があってびっくりする。
飲みに行くって言ってたけど
先輩たちとだったのか。
4月といえどもまだ夜は冷える
上着を着こんで家を出た。
「先輩たち、」
「ごめん、ちょっと盛り上がっちゃって」
「また潰れちゃったんですか」
「強いのは止めてたんだけどな」
「名前さんって、大学の飲み会とか一回もこんなになってないんですよ」
「え、そうなの?」
まったく、と
名前さんに俺の上着を着せて
先輩たちに抱えてもらって
小さな体を背負った。
のんべえなところも
自由でのんびりやなところも好きだ。
でもさ、俺も聞かなかったけど。
何も言わずに行く?
別にだからってどうってこともないけど、
「ばーか」
背中があったかい。
俺のつぶやきは夜道に溶けた。
****
就活の進捗なんか、LINEで済ませられることだけど
いろいろ口実作って
こいつらと酒を飲むのが楽しくて。
どこの選考に残ってるとか
どこの面接がクソだったとか
そんな話は尽きない。
「名前は?東京で探してんの?」
「うん、まあね」
「国見はどうすんの?」
「くにみちゃん?どうするって?」
「国見はお前が東京残るって知ってるの?」
「んー、まあしょっちゅうスーツで出かけてるし、こっちで就活してることくらい気づくんじゃない?」
「じゃあ国見もこっち残るんか~」
「え、なんで?」
「だってお前、国見が帰っちゃったらどうすんだよ」
「どうって…ん~…話したことなかったな…どうするんだろう私たちこれから」
「でも国見は2年になったばっかだぞ、あと3年は大学生じゃん」
「3年ねえ…長いような短いような…」
「そのあとのこととか話してないの?」
「そのあとって、」
「………結婚、とか?」
「うわあ…俺らもそんなこと考える歳か」
「け、けっこん」
「あー名前が壊れた。国見に怒られるぞ」
****
こうなっては風呂も歯磨きも明日。
冷えた布団に名前さんを押し込むと
部屋着に着替えて、
俺も布団に潜り込んだ。
***
「…あ?」
カーテンの隙間から入り込む光で
うっすら取り戻した意識が
クリアになる
細い腕が腰に回っていて
呼吸に合わせて体が膨らむのが
伝わってくる。
名前さん、
(やば、早起き最高)
***
「…くにみちゃん、おきてる?」
「うん」
「ん、もうちょっとこのまま」
「…なんかありました?」
「わたしね、就活してるの」
「知ってますよ」
「今ね、東京で仕事探してるの」
「知ってますよ、しょっちゅうスーツで出かけてるじゃないですか」
「そしたらさ、国見ちゃんはあと3年は大学生だから、その間は一緒にいれるよね」
「…それ、どういう意味ですか?」
へそのあたりで結ばれた手をほどいて
くるりと体を反転させると
名前さんは涙目、
鼻水もたらしたブサイクな顔を俺の胸で拭う
「ごめんね、わたしが話してなかったからね。でもこわかったの。ずっと一緒にいたいけど、もし国見ちゃんが私と離れたくなったら、」
「そんなこと言わないでくださいよ」
「国見ちゃんのこと大好きになっちゃったから、縛れない」
「…俺は名前さんが東京のこるなら、俺も残る、絶対残る。俺名前さんのこと大好きなのに、伝わってなかった?」
「そんなことない、ないけど、だから、私なんかこんなに優しくされていいのかなって」
「ばかじゃないんですか、俺は名前さんに縛られたい、できないなら俺が名前さんのこと縛る」
「……ずっと一緒にいたくなっちゃったの」
「うん」
「…わたし、国見ちゃんと結婚したい」
「うん、でもそれ、顔見て聞きたい」
「いや、はずかしいから」
人の胸に顔を埋めたまま
後ろ手に毛布を引き寄せた名前さんは
だんごむしのようだ。
かわいいなって思っていたころとは
とっくに違っていた。
先輩たちが4年になったことも
なんとなく気づいていた。
「じゃあ俺が話すから、聞いて」
「ん」
「ごめんね、不安にさせちゃってほんとに、ごめん。俺は名前さんが就職してもしばらく大学生だけど、頑張ってちゃんと仕事探すから、そんで、俺のお嫁さんになってずっと一緒にいてください」
ダンゴムシがもぞもぞ動いて
朝からどろどろの顔をのぞかせる。
あれ、ダンゴムシって顔とかあったっけ
「…おっぱいないけど、いいの?」
「俺は名前さんがいいの。おっぱいも名前さんのがいい」
「何笑ってるのこの美少年め」
「いや、やっばいほんと、かわいい、名前さん、ほんとかわいい」
「わたしにそんなこと言うのあんたくらいよ」
「…昨日潰れて寝てたの、俺が背負って帰ったの覚えてる?」
「…そうだろうとは思ったよ」
「朝ごはん作るから、お風呂入って歯磨きしてきてください」
「くにみちゃん、ほんと私に甘いよね」
「……名前さん、さっきプロポーズしましたよね」
「…うん?」
「国見名前になるんだから、ちゃんと俺の名前呼んでください。次それ言ったらちゅーしますよ」
「…まじすか…あの…あ、あきら、くん?」
「…やば…今なら逆立ちで走り回れそう」
「……おふろはいってくる…」
(かわい…)
(やば…)
(てゆうか、プロポーズした!?)
大人の男女、おしゃれなレストラン
指輪や花束、そんなもの、何もない
何もないけど、そんなもの
なくたってこんなに幸せになれる。
大人じゃない、だけど
「いーにおいする」
「卵とウインナーやったから」
「パンは?」
「クロワッサン、あとキャラメルラテ入れた」
「…てんっさいじゃん!!」
この人と、一緒にいたらどうだろう。
仕事が大変な時
どこかへ旅行に行くとき
ああ、帰省は一度で済むからいいな
子どもが生まれたら、
歳をとったら、
「名前さん、めっちゃすき」
「…知ってる」
「指輪買お、安いのしか無理だけど。働いたらちゃんとしたの買うから」
「え、今日行く?高いのはいらないよ、その分新婚旅行はずもう」
「どんだけ気が早いんですか」