高校生
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前、そのぶらさがってるのって、」
「もしかしなくてもクソ川ですけどね」
「どうしたの及川くん」
「寝不足なんだってよ。ったくメンタル乱れて体調悪くすんのいい加減にしてほしいんだけど今日は岩泉じゃなくて私の気分なんだと」
「へえ…」
「まあ私が嫌いじゃないデオドラントだから許してやる」
「名前って及川くんにすっごいひどいけどすっごい甘いよね」
「岩泉には負けるけどね」
「誰に負けるって」
「お、副主将!たのんますよコイツなんとかしてよ」
「知らん、あれだろひと肌恋しいんだろ、俺はごつごつしてていやだっつってた」
「抱き枕扱いかよ」
多分寝ているらしい
ぐったりした及川くんに
椅子の上で抱き締められる形で
プリンを食べる名前と
様子を見に来たらしい岩泉くんは
なんでもないように乱暴に会話をしているけど
名前はさっきからずっと
なるべく眠りやすいように
何も言わずに及川くんの大きな体を
顔色一つ変えずに支えている。
「及川くんってさ」
「ん?」
「愛されてるよねー」
「お前…俺たちの話聞いてたのか?」
「うん」
「あれ?そういう話したっけ」
「及川がクズって話はしたと思うけど」
「ごめん、毎日の挨拶の微細な変化をいちいち記憶してなくて」
****
「ぷっ」
「えっ」
「あ、ごめんきんだいち、」
「え?」
「ぶっ…」
「え、オレなんか笑われるようなことしました?」
「いやごめんこれは私の問題だ、」
「…はあ…」
「名前さん俺の顔見ては吹き出してんだけどなんなんだろ」
「…季節の問題デショ」
「は?」
(スーパーにらっきょ漬けセットが大売出しされていたとは言えません)
****
「名前はさあ」
「あ?」
「なんで何もないところで転ぶんだ」
「わかんないんだけど最近やばいんだよね。階段踏み外したりとかしょっちゅうでさ」
「え、それやばいじゃん」
「そう、そんでぐあっ!!」
「…こんなかんじ?」
「…そう」
「とりあえず怪我なくて良かったな」
「いや足首の内側を強打してちょっと擦り剥けてる。こーゆうの地味に痛いんだよなー」
「へえ…とりあえず大怪我されたら困るから気をつけろよ」
「おうよ、どっかの主将さんと一緒にされちゃ困るからな」
(…こっちの気も知らず…)
*******
「うわー及川ヒゲはえとる…」
「俺だけじゃないもーん」
「国見ちゃんまでジョリってるよ」
「なんすかジョリってるって」
「そーゆう名前ちゃんは通常運転ですね」
「まあ身支度も特に何もないもんね、髪の毛ひっくくるくらい」
「…名前さんってけっこう美人なんですね」
「げ!国見ちゃんが名前ちゃんに媚売ってる~」
「いやだってクラスの女子とか体育の後とか化粧直してますからね、本当はどんな顔なのかなって思うじゃないですか」
「あーまあ女子更衣室なんかシャレにならない感じするけどね」
「わー、名前の顔柔らかい」
「そーゆうマッキーはばっちりジョリっとるね」
「ちゃんと整えていくから期待しといて」
「あはは」
「…ふーん」
確かに女の子
確かに仲間
確かに一緒に過ごしてきたけど
なんだか不思議な気分、合宿の朝
****
及川さんのオーバーワーク癖は
中学の頃から薄ら気付いていたけれど
周りの体力が追い付いている今、高校生
合宿の午後、
普段よりうんと
上級生との基礎体力の差を感じる時間帯
俺は手を抜いている部分もあるし
金田一や影山ほどじゃないが
体力はある方だと思ってはいるけれど。
「国見ちゃんちょっと」
「…はい?」
この人もそう
熱気あふれる体育館で
実は動き続けている名前さんが
控えめな声で俺の名前を呼ぶ。
腕をひかれて体育館を出ると
促されて庇の下に座る。
渡されたボトルの中身をのどに流し込み
身体を倒すと項に氷を当てられる。
「ごめんね、これも先輩の務めだから」
「…すんま、せん」
「大丈夫、去年は矢巾もヘバってたし、気にすることないよ。国見ちゃんはまだまだこれからだから」
「…っす」
「あーあ、せっかくサラサラ髪なのにベタベタだねえ」
「お互いさまっしょ」
「まーね」
間違っても勘違いはしない
名前さんは及川さんや岩泉さんと同じ
俺の部活の先輩である。
冷えたコンクリートに頬を当てる。
目を閉じているうちに
名前さんは何度も俺の髪や頬を撫でた。
体育館から聞こえるスキール音やボールの鈍い音が
頭の奥に低く響いて染みこんだ。
「くにみちゃん」
「はぁい」
「あっついね」
「んー…」
「応援してるよ」
「…っす」
****
「岩泉ちょっと」
「ん」
「トーナメント表出ててさ」
「おお」
「みんなに見せる前に教えとくね」
「何をだ」
「3回戦で烏野にあたるよ」
「…そうか」
「…やっぱ余計だった?」
「いや、ありがとな。」
「頼むね岩ちゃん」
「…そっちもな」
烏野。
及川がいなかったとはいえ
練習試合で負けた相手だ。
その練習試合をすることになったのは
北川第一の後輩ちゃんが入学したことが
直接の原因らしかった。
及川徹は影山くんを物凄く意識している。
岩泉の態度だっておかしかった。
同じチームでギクシャクしていたらしい
国見と金田一よりも
ヘラヘラ笑っている及川の方が
ずっと不自然だったのだ。
及川の悪い癖が出る可能性は
充分に高くある。
****
「へえ、トビオちゃんと当たるのは3回戦か」
「あ、言うと思った」
IH予選のトーナメント表を
名前ちゃんがホワイトボードに貼りだす。
ウシワカと当たるのは
準決勝か決勝ってわかってたし
今年は決勝で当たることになった。
つい気になるのは、先日再会を果たした
あのクソ可愛い後輩のこと。
名前ちゃんの予想通り、みたいな声に続いて
岩ちゃんの蹴りが入る。
おかしい、ここは頑張ろうなとか
こないだの雪辱果たすぞとか
そういう場面じゃないんでしょうかね。
「おいてめえまた忘れてんだったら一発と言わず何度でもブチ込んでやるからな」
「なにを!ぶっそうな!」
「ねーえ、トビオトビオって言うけど当たるのはトビオくん一人じゃなくて烏野ってチームでしょ。そんで戦うのも及川じゃなくって青城ってチームだよ」
「名前ちゃん…」
「お前はヘラヘラ笑ってられるくらいでいるのが一番いいと思う」
*****
「何読んでるんだよ」
「野球の漫画。このマネージャーがよお…かーわいーんだ…」
「へー」
「まっつんも読む?俺全巻持ってるし貸すべ」
「んー、悲しくなるからいいわ」
「は?」
まずナイスバディってのが間違ってるだろ
そんで上目づかいでタオルなんて
渡されたこともないし
俺たちが着替え中でも平気で部室に入ってくるし
力持ちだし岩泉ゆずりの乱暴だし
「ああ、そっかまっつんとこはマネージャーいるんだっけ」
「そうそう、強烈なの。こんなの見るとギャップしかないわ」
「どうなのマネージャーって」
「え?まあすごいよあいつ」
「ナニが?どのへんが?」
「…運動量とか…視野の広さとか…」
「あ、そっち」
「毎日一緒だしお前が思うみたいな夢も希望もないよ」
「へえ…」
****
「あ」
「あれ、名前さん」
「えー矢巾と金田一って面白い組み合わせ」
「お疲れっす」
「なになにアイスの買い食い?かわいーね」
「そういう名前さんこそ」
「私はからあげだもーん」
スポーツバッグをかけた名前さんは
俺たちの手からアイスをさらうと
あっという間に会計を済ませてしまいまった。
額をびしっとはたかれる
大きな声でお礼を言うと
満足げに笑った名前さんは
大きなチキンに大きな口でかぶりついた。
「うげっ鶏の汁垂れた!」
「ああもうほらタオル!」
****
「名前」
「なに」
「及川今日はどうしたの」
「知らね。マジきもちわるいんだけど」
「名前ちゃんいいにおいする…」
「ゲーなにお前匂いフェチだったの」
「匂いフェチだとしてもその矛先が名前に向くってのがおかしいだろ」
「これ及川ファンだったら卒倒する状況だろ」
「あたしはどうやってこのクズ野郎を卒倒させるか考えてるけどね」
「誰がうまいこと言えと」
「アッ!!」
「なに突然」
「え、なんだよこっちくんなよ」
部室に入ると及川が
名前を後ろから抱き締めて
首元に顔をうずめて何やら匂いを嗅いでいる。
なんだとうとうおかしくなったか
よく名前も顔色一つ変えずにいると思っていたところ
及川はふらりと名前から離れると
今度は俺の脇腹に抱き着いた。
「岩ちゃんもいい匂い~」
「…そうか窒息死が望みか」
「でも確かに名前はいい匂いするかも」
「えー…ああ洗濯の洗剤かシャンプーだろうなあ」
「んーなんか赤ちゃんみたいなにおい」
「私岩泉んちの洗剤のにおいすきなんだけどなー、なんかフルーティーな感じで」
「ふっ!?」
「まじかよ……ホントだなんかいい匂いだ…どうなのフルーティーな岩泉って」
「ちなみに及川さんは爽やかなシトラスミントの香りだよっ!みんな存分に嗅いでいいんだからね!」
「てめえにゃ聞いてねえよ」
「予想通り過ぎて何とも思わん」
「なんでー!すれ違った時にいい匂いするように及川さん努力してるんだよ~」
ところでどさくさにまぎれてか
及川の掌がちょうど名前の胸に当たっていることについては
言及した方がいいのでしょうか。