高校生
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「及川さんっ!」
「キャーかっこいい~~」
「及川さんこっち向いてくださいー!」
「はいは~い☆みんないつもありがダッ!!!」
「キャー及川さんっ!!」
右腕に力を込める
思い切り投げたボールは
イケメンの後頭部にクリーンヒット
こんなことで晴れるほど
積もり積もった私のストレスは軽くないけど。
「イダイッ!もー名前ちゃんったらバイオレンス!愛が重い!」
「おい主将よう、」
「はい」
「遅刻した上チャラチャラ愛想振り撒きやがっていったいどういう了見だコラ」
「名前ちゃんったらそんなに嫉妬しなくても」
「岩泉ーー!!クソがーー!!」
「ちょ!!しめんそか!」
「おい及川テメエ」
「ぎゃあ」
岩泉から解放されて
名前ちゃんひどいよーと近寄ってくる
クズ野郎の尻に蹴りを入れる。
ギャラリーからはきゃあ及川さんかわいそうとか
黄色い声が絶えず上がっているけど
及川徹という男は
バレーしてなきゃホントにただのクズだ。
生まれてこのかたずっと付き合っている岩泉という男は
なんとも懐が広く根性がある。
及川も及川でどうあがいてもクズなもんで
一周回って根性あるように思えてしまう。なんてクズだ。
「今日名前キレッキレだったな」
「なによ松、なんかもんくある」
「いや褒めてる」
「ちょ!みんななんなの!傷心の主将に優しくしてあげようとかいう気はないわけ!!」
「おいまたふられたのか」
「え、一か月もたってないよね」
「え、及川さんまたふられたんですか」
「国見ちゃんまで!辛辣!」
「おーい及川がまた別れたらしいぞ~」
及川徹という男はクズである
そしてすっごいバレーバカである。
だのにちょっと顔が良くて(私は思わないけどね)
ちょっと外面がいいだけで(私は思わないけどね)
女子から絶大な人気を誇り
そのため彼女が尽きない。
不思議なことに女子の方から告白してきて
別れを告げるのも女子の方である。
蓋をあけてみりゃ及川の頭の中は
バレーと岩泉のことでいっぱいなんだから
それは仕方ないってもんである。
まあ岩泉の方は常識あるし頼りになるし
実質部を率いてるのは岩ちゃん、みたいな空気もあるけど
あいつもあいつで蓋をあけてみりゃ
頭の中はバレーと及川のことでいっぱいなんだけど。夫婦か。
んで、そんな奴らに
チームメイトとして絶大な信頼を置いている
わたしもわたしでどうかと思うけどね。
世の中悟ったような顔した国見ちゃんはもう手遅れとして
金田一はこんなチームのなかで
一体まっすぐ育ってくれるのかしら。
なんとしても立派ならっきょうになってくれたまへよ。
***
夜の部室で国見が日誌をつけている。
部員が当番制で回しているそれとは別のノートを
名前が書いている。
花巻がポケットから出したキャラメルの皮をむくと
名前の口元にすっとさしだす。
名前は躊躇いもせずにそれを口に含む。
眉間の皺とアンバランスだ。
「及川も懲りないよな、毎回毎回」
「だって向こうから寄ってくるんだもん」
「それでふられるのだっていつものことじゃん、学習しろよクソボケ」
「だって~バレーや岩ちゃんと比べられたら俺嘘でも女の子が大事なんて言えないもん」
「へー、名前きいた?」
「じゃあ最初から付き合うなっつのこの女の敵め」
「そっかー女の敵ってことはこの部内の皆さんはもれなく味方ってことだねよかった及川さん安心した」
「おいてめえあんま調子乗ってっと名前さん脱ぐぞ」
「やめときなさい名前ちゃん、脱いでも女の子ってわかんなかったらそれこそ悲しいでしょ」
「…とどめを刺してやる…」
「俺が許す、やれ名前」
「えええ岩ちゃん!!」
どんなに暴れたって
結局小さい名前が及川に敵うはずもなく
小さい子供にするみたいに
持ち上げられてぷらぷら振り回されてる名前は
ありゃマジで怒ってる。
及川も本当に懲りない
三年ともなると
名前が他の女子から嫌がらせをされたりすることも
もう殆どないようだけど
名前だってけっこう大変な思いをしてきた。
そういう意味でどんなに軋んでも
外面ヘラヘラしていられるこいつらは
通じ合うところがあるのかもしれない。
「くそう…放せこのクズめ」
「なんで痛い思いするってわかっててそんなことしないといけないの」
「このやろ…なんちって、両手がふさがってる間にやれ岩泉!」
「よっしゃ」
「え!?」
***
「名前さんって」
「なあにくにみちゃん」
「ほんっと美味しそうに物食べますよね」
「え?」
「なのでこれあげます」
「…塩キャラメル?」
「気に入ってるんです」
「へえ、国見ちゃんっぽいかも」
「なんですかポイって」
「いや、ただのキャラメルじゃなくって塩ってとこが」
「そうです?」
名前さんは掌の上のキャラメルの包みと
俺の顔を交互に見ると
さっと包装を剥いで口に放り込む。
口元がもぞもぞ動いたあと
頬が上がって目が下がる。
高校生になって二週間
推薦が決まってから練習には出ていたから
名前さんと顔見知りになって二か月余り
下心抜きにこれはけっこう可愛いと思う。
「ほらね。だからもう一個あげときます」
「本当?ありがと国見ちゃん」
「いえ、え、もう食べるんですか」
「んー、あいよ」
「む、ありがとうございます?」
「おいしい?」
「おいしいから好きなんですよ」
「じゃあ国見ちゃんはもうちょっと美味しそうな顔して食べなよ」
「無茶ぶりしないでくださいよ」
「悪い、冗談じょうだん。くにみちゃんあんまり可愛いからかまいたくなっちゃうの」
二個目の包装を剥いた名前さんは
細い指先でそれをつまみ上げると
呆気にとられる俺の口元に押し付けてきた。
抵抗する理由もないので
そのまま塩キャラメルを口に含むと
柔らかい指先が唇をかすめたけど
名前さんの方はそんなこと少しも気にしちゃいない。
「変な人ですね、俺可愛くないって言われることの方が多いですけど」
「まあね、真っ直ぐで可愛いって言えば金田一の方だけど」
「189の大男ですけど」
「まああたしからすればこんだけ大きければどいつも同じよ」
「はあ、そうですか」
「やっぱ国見ちゃんは可愛い、及川が目をかけるのもわかるよ」
「ありがとう、ございます」
「よし、じゃあちょっと体育館出てくるね。あ、塩キャラメルごちそうさま」
「いいえ」
小さな掌が俺の額を軽く叩いて
大きな笑顔一つ残して走っていく
入学前からレギュラーの練習に混ぜてもらうのに
些か驚きや不安があったところを
実はたくさんフォローされていたことが
だんだんわかってきた。
及川さんはバケモノのような人だから
名前さんが言うように俺に目をかけてくれているにしても
なんだか安心感はなかったし
誰かに甘えたり頼ったりするのは柄じゃないけど
名前さんがいてくれるのは心強いし
近くにいるのは嫌じゃない。
****
「え、烏野?なんでまた」
「影山っつってな、中学の後輩がいんだよ」
「中学の後輩ってことは国見ちゃんと金田一の友達?」
「トモダチかどーかは俺は知らねえがな」
「どう、名前ちゃん烏野の情報なんか持ってない?」
「え、マネージャーが超絶クールビューティーとか」
「え!なにそれ!」
「おい岩泉見たか今の及川の顔」
「練習試合の日は金属バットでも用意しとくかな」
「え?え?」
****
「ハッwwwおいかわくんまじざまあwww」
「ちょっとおヒドイよ名前ちゃん俺何かした?ピンチサーバーで大活躍だったじゃんあー捻挫してなければなーセッターとしてトビオちゃんのことぶちのめしたいんだけど、まあ楽しみは後に取っとくってことで~」
「なに言ってんの、マネちゃんに声かけてガン無視されてたじゃん」
「なっ…!!」
「ちがっ!あれは!きっと聞こえてなくって!」
「負け惜しみとは醜いぞ及川」
「そーだそーだ」
「ってゆーか烏野のマネさん超だいじにされてたんだけどー!!あんたたち私に優しくしようとかいつもありがとうとかそういう気はないわけ~」
「烏野のマネは絶対そういうこと言わないだろ」
「そりゃあ黙っててもあんだけ愛されてればね」
「それで?名前ちゃんは烏野の選手に声かけられたりしなかったの?」
「だって烏野の皆さんは自分とこのマネさんしか眼中にないもん。どっかのチャラ川くんとはちがうんですよーだ」
「あーあ名前が傷ついたって」
「及川お前のせいだぞ」
「俺たちみんな名前にはいつも感謝してるしこんなできたマネはなかなかいないと思ってんだけどな、やっぱ主将がこれじゃ名前もそうなるわな」
「え、なにこの俺が悪いみたいな雰囲気」
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