高校生
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走れ、走れ走れ走れ!
「あ!名前ちゃん!」
「げ!なんでよりによってこのグズ野郎が」
「まって俺名前ちゃんに何か悪いことした?」
「うるせえはじめちゃんに心配ばっかかけやがって…あ!はじめちゃん!」
「うお!名前!なんでいんだおまえ!」
「…っすが!」
「は!?」
「はじめちゃん!烏野は!?」
「な~に、名前ちゃんもしかしてあの中のダレかとどーにかなったりしてんの?いいかげん俺と付き合う気にはならないかなー」
「死ね!」
「烏野なら一回戦は勝ってる。今頃二回戦で伊達工とやってんだろ」
「だから!えっと!どうやったら見に行けるの!ねえはじめちゃん!!」
「おおお落ち着け観覧席連れてってやるから!オラ!クソ川お前は自分で戻れ」
「ねー岩ちゃん俺と名前ちゃんの扱いの差!ねえ!」
「はじめちゃ「わかったから行くぞ!」
いつからか
はじめちゃんの家に行くと
遊び道具はバレーボールばかりだった。
私が山なりに投げたボールを
はじめちゃんがスパイクするのが
すごく好きだった。
そしてそこに、時々及川が加わるようになった。
今思えばそれは逆で
いつも一緒の二人のところに
時々私が現れていた、わけだけど。
及川がいる時は私が及川に山なりのボールを投げて
及川がそれを指先だけでふんわり上にあげる
やっぱりスパイクを打つのははじめちゃんだった。
あれ、なんで私こんなこと考えてんだ。
はじめちゃんは当然のように
ラケットが3本はいった私のバッグを担いで
反対の腕で私の腕をつかんで走り出した。
階段を駆け上がる、
重たい扉を押し開けると
人工的な光でちょっとだけ目がくらむ。
「そこだ、もう始まってる」
「ありがとうはじめちゃん…あ、女バレ来た!」
「ん、よかったな。お前まだ予選あんだろーに…ま、いーわ、また予選落ち着いたらウチこいよ」
「はーい!じゃ、はじめちゃんもがんばって」
「おー、サンキュ」
コートに目を遣ったその瞬間だった。
小さな日向が大きく飛んで
相手のコートにボールを叩き込む。
日向に上がったトスは
私がはじめちゃんに投げていたボールと違う
勢いよくまっすぐな軌道を描いた。
「結!」
「名前!え、まさか女テニもう終わり?」
「団体は惜しくも3位でしたが個人戦は明日からです」
「そっかよかった。あたしらは初戦敗退だったよ」
「ん、おつかれ」
「ね、名前」
「ん?」
「出てないよ、アンタの相棒」
「ふぁ?あ、スガ!ほんとだ、なにアイツ補欠?」
「菅原確かセッターだったよなあ…今出てるセッター、たぶん一年生だね」
「…セッターって、たしか、トスあげる人」
「そう、さっきの小さいスパイカーに上げたあの子みたい」
「…あれが、影山…」
「え、名前知ってるの?」
「あ、いや日向、あのチビッコは友達なんだけどね、スガが日向と影山のコンビがすごいんだって、あんまりすごい剣幕で言うもんだから」
「ふーん、」
「でもスガが出ないなんて聞いてない!」
そうだ スガのポジションなんて
そういえば聞いたことがなかった。
どうやらセッターって
コートの上には一人しかいないみたい。
確かにスガはあの中では小柄だし
ばしばしスパイク打つとこって
ちょっと想像つかない、けど!!
あいつのそんな強くて大人なとこ
私はだいすきにはなれない。
コートサイドで声を張り上げるスガは
教室でゆるゆるだらだらしている時と違って
まるで自分が試合をしているみたいに
汗をかいて、大きな身振りで、
***
伊達工業を降してのち
澤村と言葉をかわすスガの
いつもと同じように跳ねた前髪を眺めてると
隣のコートに嫌な気配がして
視線を移すとそこにはグズ野郎こと及川、
それにはじめちゃん、あ、青城。
「名前、あたしら撤収するけどどーする?」
「あたし!この試合見て帰るよ、イトコ出てるんだ」
「そーなんだ!オッケー、じゃあ明日も頑張れよっ」
「さんきゅー!」
「…なんだよあのグズ野郎…」
「あれ、名前」
「あ、おーお前ら、おつかれー、今の試合見てたよ、かっこよかったぞ日向!」
「名前姉!ありがと!」
「ちょっとまて名前、お前なんで居るんだべ、まさか」
「テニスは今日は団体戦だけでさ。まあ惜しいことに3位でIHは逃しちゃったんだけど、明日からがまた勝負なわけ」
「よかった、うっかり負けたのかと思った」
「それよりスガお前!ちょっと顔貸せ!」
「ヤメテその物騒な言い方!」
「行っちゃいましたよスガさん」
「名前も嵐みたいな奴だからなー、ノヤとちょっと似てるかもな、あれで実力はあるんだ、去年はIHに出てる」
「スガさんと名前さんは!どーゆう関係なんですか!」
「んー…なあ旭」
「うん、なんていうか、当然のように仲良いけど付き合ってないというか」
「あっけらかんとしてるもんな。下心がないからあの距離感なんだろうな、パッと見イチャイチャしてるけど」
「はい」
「え、なにそれオレのだったの」
「やっぱスガにはいちごみるくが似合うな」
「なんだそれ、ねえそっちひとくち」
「ん」
「名前なんでそんなひどい顔してんだべ」
「そうか貴様がそれを訊くか」
「なんで突然その口調なの」
「スガってそんなに自分に塩塗り込むタイプだった?」
「日向と影山、よかったろ」
「うん、でも、スガが出ないなんて聞いてない」
「…でもオレは諦めないし、今日だって出る気だった」
「うん、ごめん」
「今日勝ててうれしいけど、俺のトスで勝ちたかった」
「…よかった」
「名前明日からも試合だよな」
「今のとこね、明後日もお休みする予定」
「さすが名前、強気」
俺がただ
名前の弟分の日向と
影山のコンビを
披露したかっただけなのに
名前は俺が出てないことに対して
俺が思っている以上に
驚きを感じてる、みたいで
(やわらかく、突きつけられる)
抹茶オレをすすりながら
俺の隣にしゃがみ込んだ名前は
眉間に皺を寄せて
たぶんこれは
適度に乱暴な言葉を探している顔。
「戻ろ」
「ん、はじめちゃんの雄姿焼き付けるわ」
****
「スガ、名前」
「悪い澤村、積もる文句がたまってて」
「気が済んだ?」
「うん、お陰様で」
「名前姉!」
「ひなた!もーなんなのお前まじかっこよかったんだけど!ねえあの影山ってなんなのまじびびったわ!このやろう!」
「名前、明日も試合じゃないのか?帰らなくていい?」
「あ、イトコが青城にいてね、久しぶりに見ようと思って」
「イトコ…って!岩泉ってあの岩泉!?」
「そー、はじめちゃん!あ、ほらまた決まった、グズ川とはじめちゃんは小学校からずっと一緒なんだ」
「名前さん、及川とも知り合いなんすか」
「うん、はじめちゃんちには昔からしょっちゅう遊びに行ってるし」
グズ川よりはじめちゃんの方が
うんとかっこいい、と豪語する
名前の頬が赤くなっているのは
今日、仙台がとてもいい天気だから。
つい掌で触れると
思いのほか火照っているものだから
使いかけの濡れタオルを
日焼けて黒光る顔に押し付ける。
「なに」
「痛くないの?顔」
「ぜーんぜん。あースガは白いから、急に焼けたら痛むだろうね」
「…ほんとに付き合ってないんですか」
「何の話よツンツン頭!お前めっちゃこぼれ球拾ってたな見惚れたぞ」
「ああああああざっす!」
「だってあのスパイクの降ってくる感じってさ、スマッシュどころじゃないよね、しかもあたしたちはラケット握ってるしさ、」
「いやでもテニスはボールが小さいじゃないっすか!…じゃなくって!」
「なんか新鮮だねえ、こうイチイチつっこまれると」
「そーだなあ、普段もう放っとかれてるべ」
「なんかこう、居心地良いんだよねスガってさ、ゆるっとなんでも許してくれるし」
「いや名前の顔見たら力抜けるしね」
「お前に言われたくない…っあ!はじめちゃん決めた!」
「…ホント、滑らかな連携だな」
「はじめちゃんはねー、グズ川のこと大好きなの。誰よりあいつのこと信頼してるし、尊敬してるし、だいすきなのよ。傍目には腐れ縁のはじめちゃんが及川の世話してるみたいに見えるけどね、実はそれだけじゃないの」
「あれ、名前さん思いのほか落ち着いてますね」
「お前なあ、名前一応インハイ出てるんだぞ?走るのも打つのも全部一人でやるスポーツ、バカでできるわけないだろ」
名前の肩には
練習中着ている
タンクトップの日焼跡が
くっきり残っている。
足首の靴下跡もしかり。
そしてガッチリ筋肉のついた太ももには
ハーフパンツとスコートの
二段階の日焼けがある。
別に裸を覗いたわけではなく
この日焼けも名前は当然のように
受け入れてネタにして見せびらかしているわけだ。
私パンダだって気づいたって
真顔で告げられたときが
きっと人生最大のハトマメ顔だと確信してる。
「オレらバスで学校戻るけど名前乗るか?」
「あ、あたしチャリで直帰やけー!じゃあな、予選終わったらまた学校でね」
右の掌で
背中を思い切り叩かれる。
さすが剛腕、いたいばか。
名前は肩にかけた
大きなラケットバッグを
チャリの荷台部分にのっけると
なかなかなスピードで漕ぎはじめる。
(…かっこいー)
「名前、膝擦り剥いてたな」
「ほんとワイルドだべ、手当くらいすればいいのに」
「あーホント、旭の女々しさがちょっとうつればいいんだけどな」
「やっぱし西谷と気が合いそうだなあ」
「いいのか?そんなこと言ってて」
「あれ、大地が今更そんなこと言い出すとは思わんかった」
「ん、わるいわるい」
◎走れ、あいにいく!