再会
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それは偶然、名前のアパートの近くに来たから
なんとなく向かってみると
駐車場できつく抱き合う男女、じゃなくて
男が女の子を、車との間で抱き締めてて
それは名前の車で
その後ろ姿は高校時代鎬を削った
青葉城西高校及川徹、らしく、そして
地面に落ちた水色のトートバッグは名前の愛用品で
え、これは、止めに入らねば、と
体を動かしかけたところで
名前の腕が及川の背中を
宥めるように撫で始めたから
俺はなんだか居た堪れなくなって
そそくさとその場を立ち去ってしまいましたが
おれってば名前の彼氏なんだから
もっとどーんと出ていってもよかったんだべ…
名前に限って浮気なんてことはないんだけど
相手はあの大王様だし
心の中がもやもやして、
(名前…ぎゅうしたいべ…)
**
「名前ちゃ~ん」
「うわ!くそばかおいかわ!なんでうちに、」
「ねえ、最近どう?」
「え?突然来て近況報告?用事あるなら連絡してよね」
「爽やかクンとは上手くいってる?」
「さわやか?ああスガのこと?相変わらずのんびりやってるよ。ねえ用事あるんでしょ、お茶淹れるし上がっていけば」
「だめ、上がらない」
「…ほんっと、どうしたの急に。はじめちゃん呼ぼうか?」
「…だめ、岩ちゃんにはまだ言わない」
「…何、」
「名前ちゃん」
「ちょっと、放して、やめて、」
「だめ、やめない、聞いて、俺名前ちゃんに、言いたいことがあってきた」
「……なに、言ってみな、ちゃんと聞いてる」
「俺、名前ちゃんが好きだ。昔から、本気だったんだよ」
「…あのさあ、さっきスガのこと自分から聞いてきたじゃない」
「うん、でも、やっぱり気持ちに区切りがつかなくて、ごめん名前ちゃん。だけどね、おれ名前ちゃんが俺を選んでくれたら、絶対に幸せにする、泣かせないし、いっぱい笑顔にするって約束する。だからね名前ちゃん、一生のお願いだから俺のこと選んで」
「…ありがと、あんたのその気持ちはほんとにうれしいけど、ごめんね。私泣くのも笑うのも、スガと一緒がいい。ほんとに、ごめんなさい」
「ほんと、そういうところもすごく好き」
「ごめんね及川、今までたくさん傷つけたね」
「名前ちゃんかっこよすぎ」
ようやく私を解放した及川は
じっと私の方を見て
そうしてうん、と頷いた。
昔からちょっと変な奴だった。
はじめちゃんは及川のことがすごく好きで
及川もはじめちゃんのことが好きだった。
だから二人と一緒にいるのは好きだったし
それから、及川のことも嫌いではなかったけど。
世の中の女の子はこいつに迫られたら
靡かざるを得ないのかもしれないけど。
「…上がってく?」
「ううん、またこんど、岩ちゃんと一緒にくる」
「…うん」
***
『わかった、悪かったな』
「なんではじめちゃんが謝るの?ほんとにお母ちゃんか奥さんみたいね」
『…ムカつくからあとクソ川殴っとくわ』
「そうして、元気出ると思うから」
スガ、スガ、スガ
抱き締めてきた及川からは
ふんわりなんだかいい匂いがして
それからぎゅうっと
体いっぱい抱き着いてくるスガと違って
背中や脇腹に大きな掌の感覚が残っている。
あいつはとてもひねくれた
そしてへんちくりんなやつなんだけど
あの華やかな見た目が災いしてか
妙に女子にモテてしまう、それが
ただのバレーバカでいればよかったはずの及川の
心に少なからずひずみをもたらしている、気がする。
スガ、
(出ない…バイトかな…)
***
二度の着信を無視した。
名前はさっき気付いてないはず
ああ、なんかあったんだ
名前と及川は前から知りあいみたいだし
きっと何か突っぱねられない、なにかがあったんだ。
三度目がないことはわかってる
名前はそういう気配りのある人で
名前、名前、
(ああ、会いたいけどな)
(電話かけらんない、)
(きちゃった、)
***
スガの声が聞きたい
バイトは終わる時間だろうか。
風呂上がりの火照った体で
携帯を手にしたその時、ベルの音に
来客を確認するとそれは
今まさに電話をかけようとしたスガ、その人。
「スガ、いま電話しようとしてて」
「…名前、あがってい?」
「うん」
「どしたの、突然、電話出ないからバイトかなって」
「岩泉から連絡があったんだ。前名前んちで会った時連絡先交換してたんだけどな、初めて電話かかってきたからまじびびったべ」
「え、はじめちゃん?」
「俺ね、実は及川が来てるとこ、見てたんだ」
「う、そ、声かけてよ」
「うん、そうすればよかったんだけど、体が動いて…逃げるみたいになっちゃって」
「…及川とはね、長い付き合いなの。だけど今日はほんとに本気だってわかったし、それからなんだか弱っている様子だった。」
「…そっか」
「あのね、及川が、わたしのことね、泣かせないし、いっぱい笑顔にするって言ってくれたんだけどね、私はいいときもわるいときも、スガと一緒に居たいし、スガが好きなの、及川のことがきらいとか、そういうことじゃなくって、スガが好きなの」
「ありがと名前」
「だけどぎゅうの仕方がね、なんか掌の感じが残ってて、気持ち悪い。スガ、ぎゅうして」
「名前さん、それは殺し文句だべ…」
「ね、きて」
「…名前さん、ぎゅうで止まらなくってもいい?」
「…いいよ」
◎不安は止まり離れられないキスの息