再会
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「彼氏とね、忙しくてなかなか会えなくって、昨日久しぶりだったのに喧嘩しちゃった」
「わかるわかる、やっぱこうさ、こっちの不安をわかってほしいってもんよね」
「そう、包容力!」
昨晩は結局スガが泊まって
朝ものんびりしたせいで
お弁当が作れなかったので
同僚とランチにでかけた。
(包容力、ねえ)
名前は向日葵みたいで夏が良く似合う、と
スガに言われたのはいつだったっけ。
私が向日葵なら太陽は貴様か、なんて
(シュールか。)
「そういえば岩泉さんのそういう話聞いたことないけど、どうなの」
「え、どうって」
「彼氏とか、いる?」
「あ、えっと、はい、まあ」
「うそーヤダ隅に置けないね」
「どんくらい付き合ってるの?」
「えっと、昨日から?」
「ぎゃー!めっちゃタイムリー」
「えー相手どんな人?」
「岩泉さんってスポーツマンだもんね、もしかしてテニスしてる人?」
「えっと、高校の同級生なんですけど、元バレー部で今は普通に学生してます」
「同級生かー、私も昔さあ、」
***
昨日あの後
一区切りついて酒を飲んで
ぽかぽかしたはいいものの
スガはとても家に帰れる状態じゃなくて
泊まって帰ることになった。
軽くシャワーを浴びて
箪笥から引っ張り出した大きいTシャツ
一組しかない布団に潜りこむと
スガは私の身体に腕を回して
すよすよ眠ってしまった。
名前の隣で安心してたい。
スガはそういったけど
私だってスガの隣で安心してたい。
風呂上がりのスガはぽかぽかして
それからいい匂いがする。
久しぶりに会ったのがウソみたいに
そして関係を変えようとしているのもウソみたいに
私たちは静かに眠りについた。
例えばキスとか、もっと先のこととか、
そういうタイミングが来るのかもしれないけど
スガと一緒だと思えばなんてことはない。
いつかの及川のような
見透かすような刺すような目を
スガはしない、し
あ、はじめちゃんに報告しよう。
***
久々に従妹がメールを寄越したと思えば
烏野のセッターと
付き合い始めたという報告だった。
頭に浮かんだのは幼馴染の顔
ああこれでやっと及川も
名前から卒業できるか、なんて。
「はじめちゃーん!」
「おー名前!元気そーだな」
「はじめちゃんこそ」
「アイツ来てないのか?」
「んーん、お鍋の番頼んできた」
「へえ」
久々に一緒にご飯どう?と
嬉しそうな返信があったから
名前の家の最寄りまで来ると
水色の車が前に止まった。
「及川にはまだ言ってねえぞ」
「なんであいつに報告しなきゃなんないの」
「まーそうなんだけどさ」
名前が引っ越すときに
手伝いに来た以来だ
コンクリートの階段を
名前のサンダルがぽてぽてと叩く。
「ただいまー」
「お、岩泉だ、どーも」
「おす、お前エプロン似合うな」
「なにその挨拶!しかもそうだよね、あんたたち知りあいなんだよね」
「いやでもホントちょっと試合したくらいで」
「懐かしいな、及川が悔しがってたよ、お前が影山を変えたって」
「え?あー懐かしいなあ、でもそれ勘違いだって」
「わーもうめっちゃ花咲いてる!ご飯もってくからお酒出して飲んでな」
「オカンかお前は」
「えー?でもこの煮物はおばちゃんにならったんだけど」
「それでこの匂いか」
手洗いして来いと名前に軽く蹴られる
居間に進むと菅原が座布団を引っ張って
俺の居場所を作ったところだった。
「高校の頃は違う違うって言い張ってたから、まさかこんなことになるとは思いもしなかったわ」
「やーオレもそうなんだけどさー」
「わたしもだってば!」
「名前おっきいこえだすなって」
「スガだけはじめちゃんとしゃべってずーるいー!」
「いやお前があっちいけって言ったんだべ」
「だってー!」
「うん、お前らがめっちゃ仲良いのはわかったわ」
「だーれが、はじめちゃんとグズ川には負けるわ」
「待て俺アイツと仲良くなった覚えなんていっこもないぞ」
「え!?それでいてあの阿吽の呼吸!?」
「スガ真に受けるなって。年中いちゃついてんだからやんなるっての」
「いやまじで、俺バレーボール以外で及川を味方だと思ったことないから」
「うわあ爽快…」
「私と及川がもめるときもはじめちゃんゼッタイ私の味方だったもん」
「懐かしいな、今日アイツも声かければよかったか」
「ヤダよ及川、絶対スガにやなこと言うもん、あいつ性格悪いもん」
「ああ、それは、たしかに」
菅原と名前の会話には
特に甘ったるい雰囲気もなく
俺たちの昔話を中心に
飯がどんどん進んでいく。
そういえば名前は昔から
うちの母親の料理を好んでいたけど
いつの間に作り方習ってたんだ。
「あーお腹いっぱい、ねむい、おやすみ」
「ちょ!名前!?」
暫く黙り込んでいたかと思うと
両手で目をごしごしこすって
名前はベッドで丸まって
眠ってしまった。
取り残された俺たちは
困った顔を突き合わせる。
とりあえず食器を洗って
もといた場所に腰を下ろす。
「名前小さいし、菅原くらいなら入るだろ」
「いやちょっとはずかしいんだけど。俺も下で寝るわ」
「あー酒飲んでなきゃオレ帰るんだけどな」
「ほんと」
「あ、俺この座布団貰うわ。ほらなんならちょっと名前寄せるぞ。ほれ、ここ。別に変な目で見やしねえよ、俺も昔は一緒に寝ることしょっちゅうだったし」
「高校の頃しょっちゅうイトコの話聞いてたけどまさかそれが青城の岩泉とは思ってなかったね」
「俺も、爽やかクンがまさか名前と腐れ縁だった上付き合うことになるとは少しも思ってなかったわ」
はは、軽く笑いながら
ベッドに腰掛けて名前を壁側に追いやり始めた
菅原を横目に、座布団を集結させる。
確か高校生の頃にも
名前と一緒に寝たことがあった。
ああ、たしかあの時及川が。
あの時の言葉をよく覚えてる
名前が及川か俺かを選ばないといけない状況になったら
全力で俺の嫁にするって
そんな状況起こりえないとわかっていたとはいえ
俺は迷いもなく、なんか恥ずかしい。
わかってはいたけど
俺が心配していたようなことに
ならなくて、よかった、まあ。
菅原が現れた時の
及川の焦りといったらなかった。
それは試合の途中もだったし
名前の隣に奴がいたことが
突然明らかになった時もだった。
身体をこっちに向けている菅原の腹に
熟睡している名前の腕が回る。
パーソナルエリアの狭い名前にとって
菅原に触れることなんて
ハードルは無いようなもんだろう。
菅原はというと
動揺もせずにふわりと笑うから
「もっと浮ついてるかと思ってた」
「岩泉ほどじゃないけど、俺も名前とは長いんだ」
「それ、大丈夫なのか?」
「わかんない、何も変わらないから」
「まあ名前に負けずお前も根性ありそうだし頑張れよ」
「うん、なにを頑張るのかよくわからないけど」
「そーだな」
◎なんかなかよくなれそうだな