誰にもなびかないマネージャー
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「今日、夜いいよ、俺ひとりでやるから」
「へ?」
「忙しそうだったし、色々面倒だったし」
「あ、まあ、」
「鍵どうしようか、朝まで預かっても良いし、通るから部屋に届けても」
「じゃあお言葉に甘えて、持ってきてもらっていいですか。誰かはいると思うので」
「わかった」
神さんそれ、犬の撫で方よ、とは言わずに気持ちよくやられておく。やっぱりうちの部員の顔を見ると落ち着く。
言われた通りに昨日より早く部屋に戻ると、先にお風呂を済ませた晴子ちゃんと鉢合わせる。
「あ、お先に!今日は良いの?神さん」
「いいの、昨日面倒なやつに絡まれて」
「えっ、そうだったの!?ごめんね、わたし呑気にしてて」
「いーのいーの、最終的に彩子さんに成敗されてたから」
「あれっまどか、今日はいいの?」
「もー、いいんです、神さんはもともとひとりでやってたんだし」
「そーゆーもん?じゃあいいわ、お風呂行きましょ」
「えっ、一緒に!?」
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ひとつのポジションをとってもいろんなタイプの選手がいるので、なかなかいい刺激になる、と考え事をしながら体を洗っていると、女湯の方から物音がする。全員ビクッとした気がする、そーっと湯船に体を沈めた。
「ほっそ!いいなあ贅肉がなくて」
「や、贅肉ないけど胸も尻もないんで、とんだまな板扱いですよ」
「えっひどい!誰よそんなこと言うのは」
「ノブに決まってるでしょ、こっちも反撃はしますけどね、グーでいきますから」
「物理攻撃の話ね。ハリセンいいわよ」
まだお湯に浸かって3分もたたないうちに、俺たちは全身を真っ赤にして風呂をでる。松本なんかもう顔をおおっている。念願の女子マネージャーとの距離感を正しくつかんでいるのは美紀男だけだと思う。下心があって何が悪い。よれよれになった沢北はお茶もらってきます、と食堂の方に歩いていった。神奈川、なかなか手強い。
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髪の毛を乾かすのに時間がかかると
いう彩子さんを脱衣所に残して食堂でお茶を飲んでいると入口の方からうおっと声がして振り向く。
「電気つければ?」
「いや全然見えるんで」
「おれもお茶ほしい」
「はいどーぞ」
すすす、と近寄ってきた沢北さんの視線が、わたしの体のラインを上下に何往復かした。
「あ、聞いてたんだ」
「は!?」
「沢北さんてほんとバスケ以外ポンコツなんですね、可愛い顔に産んでくれたお母さんに感謝した方がいいですよ」
「なんだそれ」
「じゃ、おやすみなさい」
「お、おい」
「へ?」
沢北さんはわたしの手首をぎゅっと掴んで、掴んだそこをじっとみた。あー神さん、せっかく気を遣ってくれたのにまたつかまりました。
「ほそい」
「沢北さんよりはね」
「なんかちっちゃいだけで可愛いのどうしてだろうな」
「よくわかんないんで放してもらっていいですか」
「んー、や」
「は?」
わたしの手がいたく気に入ったらしいこの坊主は、今度は勝手に手のひらの大きさを比べたり指を絡めたりしはじめた。
「普通に放してもらえません?」
「お前がちっちゃいのが悪いじゃん」
「その理屈で行くといつかつかまりますよ」
「やば、この手ボールつかめるの?」
「だめだ、やっぱバカなんだ」
「え?」
「別に小さいとかなんとかいくらでも思ってもらってけっこうですけど、口に出すのも触るのもアウトでしょ。すごく不快です、放して」
ぶんと腕を振りほどいて、振り返らずにずんずんあるいた。むかつくむかつくむかつく、あの人嫌いだ。ベッドに飛び込んで左右にごろんごろんすると晴子ちゃんがぎょっとしている。
「あいつやばいよ、近寄らない方がいい」
「え?」
「ほら、沢北さん。クレイジーだわ」
「えっ、なんかあった?いざとなったらお兄ちゃんに電話してきてもらうから!」
「そーだった、あんたにはゴリラの守護神がついてるんだった」
「なになに、暑くておかしくなった?」
「あら、どーしたの?」
「彩子さん、まどかが変になっちゃった」
「どーしたどーした!むしゃくしゃしてんの!?よーしお姉さんがコンビニ連れてってあげる」
「ほんとですか?あ、でも神さんが鍵持ってくるから」
「あら、それなら私が受け取っておくわよ」
「ナイス晴子ちゃん、プリンでいい?」
「えー、お肉ついちゃう」
「あんだけ働いてるんだから大丈夫よ、でっかいやつにしましょ」
よーし行くわよ、とわたしの腕を引っ張って、彩子さんは下駄箱と反対の方に歩いていく。3つとなりの部屋のドアの前まで来ると、みーついさーん!と大きな声を出した。
「おう彩子、どーした」
「コンビニ行くんでついてきてください」
「は?お前俺にたかろうとしてんな」
「違いますよ、女子に夜道を歩かせるんですか」
「はあ!?しゃーねーな、俺もアイス買お」
「アヤちゃん!三井さんよわっちいから役に立たないって!俺もついてく!」
「お、リョータも元気そうね。ほらまどかいくわよ!」
晴子ちゃんもしかり、湘北の人はなんかからっとしている。沢北さんとは大違いだ。
赤木と木暮が受験勉強でどうの、桜木のリハビリがこうのと、話題もつきない。
「湘北っててっきり治安悪いんだと思ってましたけど、三井さんみたいな人もいるんですね」
「へ?」
「はあ!?」
「なーに言ってんのあんた、三井さんが一番治安悪いっての」
「……へ!?」
「おい彩子!」
「ロン毛の不良だったもんね、前歯ないし」
「おい!もう差したし!そもそも俺の歯折ったのてめーだろ宮城ィ」
「俺のこと屋上で囲んでボコったのそっちでしょーが」
「えっ!?どういうことですか!?三井さん不良なんですか?」
「向いてなかったんだよあんた」
「桜木花道の友達と赤木先輩にぼこぼこにされて改心したのよ」
「水戸も容赦なかったけど赤木の平手はまじでアゴ飛んでいったかと思ったわ」
「えっ、全然わかんない…けどそうか、三井さんヨレヨレのイメージ強いの、ぐれてたからですか」
「そーだよ!わりーかよ、えーっと海南の、」
「原田です」
「原田!覚えたぞこのやろー!」
「わ!ひどい!武藤さんよりひどい!」
坂道から県道に出たところで、三井さんはわたしの頭を容赦なくぐちゃぐちゃにした。なにするんですか、と怒るとゲラゲラ笑いながら背中をバシバシ叩かれた。ロン毛の不良のくだり、どこまでマジなのか全然わからないけど、湘北高校がやばいのはよくわかった。
ワーワー言ってる三井さんたちについてコンビニに入ると、どれがいいんだ、と訊かれた。明るいところで見上げると顎のところに傷跡が見える。さっきの話と関係あるんだろうか。
「や、そんな、私は、」
「やったー、三井先輩のおごりね!まどか選ばないならあんたの分もわたしがきめるわよ」
「えっ!まって!」
とっとと会計を済ませてくれた三井さんは、コンビニをでると外のゴミ箱に袋を捨てて座り込んだ。本物のヤンキー座りだ。
「で?なにイライラしてんだ?」
「沢北さんが」
「さわきた?」
「貧相なのはわかってますけどあんなに露骨に胸とか尻とかじろじろ見られたら気分悪いし、ちっちゃくて可愛いとか言い始めて手え握られてすごいむかつきました」
「えっ?あいつアホっぽいけどそんなことすんの?」
「そりゃあひでえな、呼び出すか?」
「やめときなよ、あんたなんか返り討ちだよ」
「でもお前よお、やばそうになったら早めに逃げろよ。彩子みてーにハリセン持ち歩けば?」
「それがいい、プレゼントしましょう」
「アヤちゃん」
「マネージャーはうちからも来てるからな、変なことしたら許さん」
「なに言ってるの三井先輩、私は疑わしきはぶっ叩くし晴子ちゃんのバックには赤木先輩がいんのよ」
「たしかに」
げらげら笑ってアイスを食べて帰路に着く。いっぱい笑ったからかもやもやが晴れてよく眠れそうだ。
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ノックをしたら、予想に反して顔を出したのは赤木さんだった。
「まどかちゃんは?」
「彩子さんとコンビニに。たぶん宮城先輩も一緒だと思うので大丈夫ですよ。鍵のこともきいてます」
「あ、そう。じゃあこれ、渡してもらっていいかな」
「はい、たしかに」
真ん丸な目でじっと見上げてくる赤木さん、兄妹似てなさすぎだ、親の顔がみてみたいよ。
「どうかした?」
「昨日何かあったんですか?」
「あー、まあやっぱよそのやつがいると勝手が違ってね。でもおたくのお姉さんがうまくまとめてくれたから」
「それならよかった」
「…お兄さんげんき?」
「ふふ、似てないって思ってるでしょ」
「ばれたか」
「似てるって思われても困るので」
「それならよかった」
おやすみなさい、と言われて同じように返す。そういえば今日沢北体育館に来なかったけど、大丈夫だったかな。