誰にもなびかないマネージャー
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7時の朝の集いに参加して朝食を済ませたら練習がはじまる。朝のうちに走っておこうと5時に起きて適当に着替えると、廊下をほっかり美味しそうな匂いが漂う。食堂の方をうかがうと原田が握り飯を山ほど作っているところだった。
「あ、牧さーん!おはようございます」
「おはよう、はやいな」
「炊きたてですよ、どうぞ」
「いいのか、ありがとう」
「藤真さんと花形さんもさっき食べていきました」
「そんで、山王のやつらはなにしてんだ?」
「さあ……」
少し離れたところから、全員集まった山王のやつらが直立で原田のほうをうかがっている。
「うまいぞ、梅干し入ってる。食わないのか」
皿を差し出すと、今度は皿のほうを凝視している。変なやつらだ。
「原田は仕事はちゃんとやるタイプだから心配ないぞ?どーした?」
「女子が握るとこんなに小さいピョン」
「はあ?はは、山王の握り飯はそんなにでかいのか?」
「河田の一合圧縮にぎりが標準だピョン」
「これなら20個くらい食べれそうです」
「おい、朝飯もあるから食いすぎるなよ」
「はいっす!」
にこにこした河田弟が手を出すと、様子を見て他のやつらも食べはじめた。いやおかしいだろ、たかだか握り飯であんな顔になるもんか。
「ありがとな、他のふたりは?」
「湘北チームは先に洗濯行ってもらってます」
「お前大丈夫か?仲良くできるのか?」
「そんな、幼稚園児じゃあるまいし!彩子お姉さまに朝から晩まで可愛がってもらいました」
「ほお?よくわからんがまあいいか」
「牧さん、燃えすぎて7時遅れないでくださいね。洗濯物でたら早めに出してください、あ、山王のみなさんも」
「うっす…」
「ぴょん」
「あのお、俺たちいつも自分でなんでもやってるので、手伝いいれば言ってください」
「ありがとミキオくん、あんたの爪の垢煎じて神奈川県のルーキーたちにも飲ませたいわ」
つい手癖で原田の頭をわしっとなでると、米のかたまりをのせた手の動きを止めて気持ち良さそうに目を細めた。背後で山王の、誰ともわからん唾を飲み込む音がした。
じゃあ俺いくぞ、と背を向けると、山王のやつらもごそごそ動き始めるのがわかる。梅干しと米の塩気と甘味が合わさって、まさに良い塩梅だ。
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ご飯のときは貴重な打ち合わせタイムなので、女子3人でくっついて座る。わたしの向かいで晴子ちゃんとまどかは全然違うタイプだけどそれがなんだかうまくいくらしい。効率重視のまどかがあれこれ挙げるのを、晴子ちゃんは深く考えずにオッケー!と返事をしてしおりにメモしている。と、反対側の空席になっていた方にがちゃんと盆をおいて、清田が座る。
「おーノブじゃん。おはよ、おきれた?」
「たりめーだろ」
「楽しそうだったじゃん、昨日」
「バカ言えよ、パスしねーやつとか信じらんねえ、ワンオンしたがるやつばっかだ」
「あっそ」
雑におしゃべりをしながら、互いの皿をつつきあっている。私は何を見せられてるんだろうか。まどかのおかずの半分以上を清田が食べてしまって、まどかは清田の皿から玉子豆腐とフルーツを取ってしまった。わたしの視線にふたりがほぼ同時に気がついた。
「あ、こいつこー見えて夏弱いんす。迷惑かけたらすんません」
「うるさい、室内だから大丈夫だって」
「は?こないだだって寝込んでただろばか」
「ちょっと疲れただけじゃん大袈裟な」
「えっと、2人は、」
「え?」
桜木花道とやいやいやってるイメージが強かったけど、この子は意外とやさしいところがあるのかもしれない。そんなことよりなんですか?みたいな顔したふたりに、晴子ちゃんも混乱している。
「びっくりするでしょ」
「神」
「じんさん、おはよーございます」
「なんですかびっくりって」
「この2人向かいに住んでるんだ。お互い家入るときピンポンしないもんね。なんなら部屋も勝手にはいるし」
「え?まあたしかに」
なるほど兄弟というか、双子みたいなもんか。じんさん、と嬉しそうな顔もそっくりだった。
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「おーまーえー、見つけた」
「わ、武藤さんお疲れ様です」
休憩に間に合うように、満タンのボトルをどんと届けたら、武藤さんに首根っこつかまれる。身に覚えがなくて首をかしげたらでこぴんをくらった。暴力だ。
「お前昨日どうやって部屋戻ったかおばえてねーのか」
「は?ん?」
「昨日松本と、」
「あ、そうそう、あれ?」
「俺が背負っていったんだからな、感謝しろよ」
「えっ!ありがとうございました!全然覚えてなかった」
「あのなあ、俺がいたから良かったけどな!よそのやつしかいないとこでぼけっとすんなよ」
「武藤さんお母さんですか。松本さんにも謝った方がいいですかね」
「や、いいだろ」
含みをもたせた言い方がなんか気になるけど仕方ない。それならこれで、と空いた方のボトルを回収して早足に流しに向かった。