誰にもなびかないマネージャー
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「神さん、500本は?」
「やりたいけど、ご飯とお風呂の時間もあるし」
「そういうと思って、体育館の鍵借りてます。お風呂も今は他の団体ないから9時半まで入っていいって」
練習おわりにニヤニヤ声をかけてきたまどかちゃんの言葉に、たぶん俺はいますごく情けない顔をしている。嬉しさとか優越感とか、安心感とか。小さな両手を握ってしゃがみこむと、同じようにしゃがんで、きついなら休んでくださいよ、と覗き込んでくる。すきだ、と漏れてしまいそうなのをこらえて、ううん、と返事をしておく。
「まどかちゃんは?」
「ここの軒下に洗濯干すので付き合いますよ。どっちが先に終わるかな」
「ん、ありがと。ご飯行こ」
「はーい」
追い抜かし様に髪の毛をぐしゃぐしゃすると、もう!と怒った声を出して、ゴムを口にくわえてまとめ直す、この仕草がまたたまらなくすきだったりする。うちの自慢のマネージャーで、俺の大好きなまどかちゃんだ。
ーーーーーーーーーーー
まどかちゃん、という声がして視線をやる。
外の水道でボトルの始末をしていたあの子は、結局練習中せかせか動きまわって、ボールにはそれこそ指一本触れてない気がする。だって体育館の中にほとんどいなかったし。そう思っていたら練習のあと真っ先に、海南のやつに駆け寄っていった。あーあいつたしか2年の、なんだっけ。まどかって名前なのか。普通に呼んでたな、なんだ手なんか握って親密か、おもしろくなくて食堂に向かう。
がちゃがちゃした自然の家の食堂は寮の食堂と雰囲気が似ていて落ち着く。原田は海南の選手じゃなくてマネージャーの2人と食べている。洗濯機がどうとか話しているので、夜の動きを打ち合わせてるんだろう。
「沢北、あの子にちょっかい出しすぎピョン」
「だってぇ~海南のやつと仲良さそうにしてておもしろくねーっす~」
「何言ってんだあたりめえだろ」
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体育館が開いていると聞き付けて、藤真さんに花形さん、高砂さんまでやってきた。外からはマネージャーたちの楽しそうなおしゃべりの声が聞こえてくる。何往復もしながら洗濯を干して、じゃあお先に~と声がしたかと思うとまどかちゃんが顔を出す。今300を過ぎたところ、静かに寄ってきていつものように勝手に球拾いをはじめる。場所も違えば他校生もいるのでちょっとどきどきするけど、それくらいで落ちるシュートではない。
「あ!やってる!」
大きな声がして振り向くと、沢北と目があったので、どうやら俺のことを言ってるらしい。
「お前なんて名前」
「おれ?神宗一郎」
「じん、シュートきれーだな」
「はは、高校ナンバーワンに言われると嬉しいね」
「原田、昼間全然ボールさわってないのになんで?」
「え?わたし?毎日やってるからつい習慣で」
「毎日?」
「神さんが毎日居残り500本やる間居残り仕事して、終わったら球拾いして自転車の後ろにのって帰るんですよ、毎日」
「えっ……付き合ってた?」
「は?」
「いや、」
「さわきたさんそういう話好きなタイプの人です?悪いけど私はノーセンキューです」
「なんだ、オレも一応気を遣ったんだけど。ねえねえパスだしてよ」
「言いましたよね、わたしバスケはやったことないって」
「いーからいーから、ワンバンで。ここ一緒に使っていいか」
「おれはいいけどさ、」
「はー、そんなら」
しぶしぶ、とまどかちゃんは沢北にボールを投げはじめた。お世辞にも一定とは言えないボールを、沢北はうまいことキャッチしてシュートしている、ようだ。おれは500を数えてあがるよ、と声をかけると、沢北はもーちょっと、と食い下がった。
「お風呂ゆっくり入りたいんで」
「なあ、もうちょっと。神は戻ってていいよ」
「なんでそうなるかなあ」
だから怖いってば、高校ナンバーワンくん。オレこういうのばちばちやるタイプじゃないのよ牧さんや信長がいるから。
「おかしいなあ、オレ女の子にはモテる方なのに」
「すごい自信だね、羨ましい」
「くっ……たっ……高砂さんたすけてください!!!!」
「うお!は?おお、はいはいはい落ち着け」
「おいお前!こういうのはな!お互いに気が合うことが大事なんだ!オレは男前だろみたいなのは押し付けがましくて良くないぞ、どう見ても嫌がられてる!」
「すごい藤真!ド正論だ、心強い!」
「だいたい男前ってのは花形みたいなやつのことを言うんだ!オレは女だったら花形と付き合いたい」
「おいやめろ!話がややこしくなるだろ!」
高砂さんの影にかくれたまどかちゃんを翔陽のふたりもフォローしてくれたけど、なんかどうやら様子がおかしい。藤真といえば神奈川のバスケ部で知らない奴はいないし女の子にもめちゃめちゃモテるらしいけどなんかどうやらこの人は様子がおかしい。どうしたもんかと首を捻っていると、いいかげんにしなさーい!と身がすくむほどの大きな声が夜の体育館に響いた。湘北のあの子だ、風呂上がりらしくヘアバンドを巻いている。
「もー!お風呂でても戻ってないから心配して来たのよ!沢北、悪いけど今すぐ戻って」
「え~神奈川の女の子オレに当たりきつくない?オレこうみえて創部以来の2枚目って言われてるのに」
「は?3枚目じゃなくて?」
「こら!まどかちゃんシッ」
「は?秋田はあんた以外みんなブサイクとでも思ってるの?こっちは整った顔面には慣れてるのよほら、」
ほら可愛い系、と指差されて、ヒッ、と声を出す。彼女はそのまま藤真のことも指差した。
「だいたいうちには流川がいんのよ、三井先輩も難アリだけど顔はいいし木暮先輩だってああ見えて……まあいいわ、ほらあんたさっさと戻りなさいよ!ハリセン食らうか全キャプテンに言いふらされるかどっちがいいか選ばせてやりましょうか」
ヒッ!と言って走り去った沢北が泣いていたのは気のせいだろうか。圧倒的なマシンガンに俺たちは拍手を送った。どーもどーも、と手を振る彩子さんに、まどかちゃんがぴったりくっつく。そのまま片付けして、体育館を閉めて宿泊棟にぞろぞろ歩く。
「やるな、湘北のマネージャー」
「どーもどーも!うちはバカなやつが多いから慣れてるのよ。バカには容赦なくハキハキいかないと!」
「湘北は治安悪そうだもんね」
「あらひどいわね。うちには赤木先輩がいるんだから、不良が殴り込んできても一発よ」
「こわぁ」
「ほらあんたも風呂入ってきなさい!一日中走り回ってたでしょ」
「ひええ、お姉さますき……」
「よーしよし、彩子お姉さんが可愛がっちゃうぞ!」
「なんか…見てはいけないものを見てる気がする…」
ーーーーーーー
海南の武藤に話しかけられて、廊下のソファに座り込んで話していると、今風呂からでてきたらしい海南の、えーと原田が通りかかる。昼間と同じようにTシャツにショートパンツで、濡れた髪を雑に拭きながら嬉しそうに歩いてくる。
「あ、武藤さんがナンパしてる」
「はあ?」
「インターハイのとき松本さんのことめちゃめちゃ褒めてましたもんね」
「っつーかお前!服を着ろ服を!」
「え?裸に見えるんだったらやばいですよ武藤さん、朝イチ病院行って下さい」
「長いズボンねーのかおまえ!よそのやつがいっぱいいんだぞ!ほら着とけばか」
「へ?夏の寝巻きなんだからこんなもんでしょ、暑い暑い!武藤さんだっていつもパンイチで部室ぶらぶらしてるじゃないですか」
「なんか…これはこれであれだな、なあ松本、どっちがましだと思う?」
保護者のように文句を言って自分の着ていたパーカーをがさっと被せた武藤がオレを振り向く。どっちがましって、これはこれで、袖も余ってるし裾はショートパンツの裾まですっぽりだし、だからよお、これはこれでよお、
「違うんだ………」
「おいどーしたよ」
「勘弁してください…女子がいるだけで緊張するんだ…うちはほぼ男子校だから…」
「女子っつっても五歳みたいなもんだろ」
「武藤さん暴言です、まな板いじりは牧さんに報告ですよ」
「うるせー早く寝ろ五歳!おばけくんぞ!」
「あっ!そういえば松本さん」
パーカーを着たまま、原田は武藤を俺の方に追いつめて体育座りで並んできた。名前を呼ばれて顔をあげる。
「なんなんですかあの沢北ってひと」
「あいつもうなんかやったのか」
「俺は女の子にモテるのになんでお前らそんなリアクションなんだよ的な」
「うわあ」
「あの人自分以外の秋田県民みんな芋だと思ってません?勘違い甚だしいしけっこうアホですよね」
「アホは間違いないな、悪い、うちのが」
「いいんです!彩子お姉さまに成敗されてたんで」
「成敗……あいつ強そうだもんな、湘北の」
「神奈川はやべえ、女子がいっぱいいる」
「秋田にもいるだろ」
そういえばさあ、と練習の話にもどした武藤に付き合っていると、通りかかった野辺がおい、と武藤の横を指差す。
「寝た?」
「あーあ、だから言っただろ5歳だって」
「5歳ってことは、」
「おい起きろ原田、おい」
「よく寝てるなあ」
「あっくそ俺の服によだれ垂らした!しゃーねー連れてくか、マネージャーの部屋どこだ」
「2階のたしか手前だ」
「くっそーほら!だめだ起きん。ちょっと背中に乗せてくれ」
「ヒッ、むり!むりだ触るなんて」
「もー、仕方ねえなあ」
武藤はソファの横にかがむと、うまい具合に腕を引っ張って原田を背中に乗せた。
「お前、平気なの」
「うーん、こいつに下心は湧かねえかな、親戚の小さい子って感じ」
「はー」
「まあ男よりは柔らかいと思うぞ」
「くっ………」