誰にもなびかないマネージャー
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バスケのこととなると朝起きられる幼馴染みと元気いっぱい荷物いっぱい家をでる。合宿に使う湘南少年自然の家はうちの学校から程近い。昨日のうちに先生の車を何往復もさせて必要なものは運んである。今日は湘北のお姉様も参戦してくるし、もうひとり赤木さんという名前もあったので人手はばっちり、わたしはいつも通りのびのび裏方に回ればいいわけだ。
朝のうちに集まってきた神奈川県勢はたいてい顔見知りらしく、すぐに自主練がはじまった。
「おはよう、よろしくね!私彩子」
「お、おねえさま……原田まどかです!よろしくお願いします!」
「あの、赤木晴子です」
「新しくマネージャーになってもらったの。あの赤木先輩の妹よ」
「あかぎ、先輩?」
「そう、引退したけど、センターの」
「えっ、あの…ゴリさん…?」
「そうそう!似てないでしょ」
「それは…似てない…」
「ふふ、よろしくね」
山王が路線バスで来るから、県道のバス停まで迎えに行けと言われて、経験者らしい2人を残して体育館をでる。こういうときに後ろから手をつかんでくるのはもう神さんと決まっている。びっくりもせず振り向いたわたしに神さんはついてく、と予想通りの台詞を寄越す。
「もう、心配しなくても寄り道しないですから!山王の人たちもみんなボーズだし見ればわかります。わたしのことアホな犬だと思いすぎでしょ」
「そういうことじゃ!ないの!」
「なんで怒ってるんですか」
「あのね、毎日会ってる俺たちはともかく、よその人には気を付けるんだよ!近づきすぎちゃだめだよ!」
「わかってますよお。ほら神さんも戻って、得点王がいないと怪しまれますよ」
なかなか食い下がる神さんをむりやり体育館に押し込んで、県道に下る細い坂道を100メートルほどすすむ。浜の照り返しもあり、この辺の日差しは特別に眩しい。ベンチに座るか迷っていると横浜方面からのバスが走ってくるのが見えて、わたしは気を付けをした。バスのなかには坊主頭がいくつも見えて、たぶんどうやら間違いない。降りてきたガタイのいい集団に、山王工業のみなさんですね!と声をかけるとみんな目をぎょっとさせて黙り込んでしまった。
「女子だ…」
「ピョン」
「女子だぞ」
「お前が話せよ」
「無理だ」
ひそひそ話がやまないうちに、一番後ろで眠そうに目を擦っていた一際大きなかわいらしい顔の人が、神奈川の人ですかあ?と呑気に返事をしてくれて安心する。ミキオやるなあと聞こえてきたので彼はミキオだとわかった。あれ?確か誰かの弟じゃなかったか?インターハイのときもうちょっと真剣にみんなの解説聞いておけばよかったなあ。
「海南の原田です。神奈川の人はもう集まってるんですけど、山王さんは長旅ですから、午前中は休んでください。案内しますね。あ、こちら宿泊の手引きです、施設の案内と部屋割りなどが載ってるのでひとり一部お持ちください」
うっすとかアザッスとか言いながら受け取った彼らは、物珍しそうに私を見ている。普段アホな犬扱いされているのでいざ「女子だ」みたいなリアクションされるとそれはそれで困るんだな。
高頭先生なんかより幾分か若そうな先生が堂本と名乗って私の横を歩き始めた。坊主たちは訝しげに少し後ろをついてくる。
「うちは田舎だし工業で女子がほとんどいないんで慣れてないんだ。失礼があれば俺に言ってくれ」
「いえいえ、失礼なのはこっちにもいっぱいいるんで、煮るなり焼くなり好きにしてもらって大丈夫です」
「敗戦相手の湘北にインハイ2位の海南ときいてみんなやる気できてる。よろしく頼む」
「こちらこそ、牧さんが煙でるくらいやる気だしてましたから」
宿泊棟に歩いていくと、下駄箱に靴を脱いで、あっちが食堂です、お風呂はこっち、洗濯はネットにいれて出して、と説明をくっつける。一際ごつごつした人が、海南にマネージャーいるとは知らなかった、と漏らす。
「みんなやめちゃうんですって、あんまりきついから。私は1年で清田信長の幼馴染みです。バスケの経験はないので洗濯と掃除の助っ人です」
「いちねんせいですか?俺もです、心強いなあ」
「1年生!?でっか!すごい!インターハイ見たけど近くで見るとより一層!2メートル?」
「と、10センチです」
「すごお!えっと、ミキオくん」
「あ、河田美紀男です」
「かわた、」
「俺の弟だ」
「ああ!」
なるほどぉ、と二人を見比べる。
「じゃあお昼ごはんのときに、みなさんと合流してもらうので。荷物整理して休憩されててください。コンビニはさっきのバス停の横にあったとこが一番近いです」
ーーーーーーーーーー
じゃあ私はこれで!と廊下を軽やかにかけていった原田を見送って俺たちは顔を見合わせた。
「美紀男すげえな、見直した」
「へ?なんですか?」
「松本、胸見すぎ」
「グッ」
「野辺、脚見すぎ」
「だってお前、」
海南のTシャツに合わせてはいた白のショートパンツ、太ももまでしか長さがない。ほっそりとした、そして俺たちと明らかに違っているラインが顕になっている。ひとつにまとめた髪の毛の下に細いうなじから首が見えて、なんというか。
「女子がいるからよお」
「え?学校にもいますよ」
「いやまあ、いるにはいるけど」
「やっぱあれだ…下心がないから」
「大体沢北は免疫あるだろ!お前なんのために日本のこったべ」
「いや航空会社の都合ですってば…ふつうに不意打ち食らいました…」
「神奈川……こええ……」
俺たちはこの後、綺麗系とかわいい系の更に刺激強めの女子に打ちのめされることをまだしらない。