誰にもなびかないマネージャー
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ひんやりした感覚に目を開けると、牧さんがわたしのおでこに濡れタオルを当てたところだった。
「よかった、起きた」
「寝てました?」
「寝てたというか、頭うって、でもほんの少しだ」
「すみません、わたしとしたことが迂闊で。もっと気を付けないといけなかった」
「大丈夫そうか?」
すすす、と近寄ってきたのは流川くんだった。表情読み取りづらい、思わず正座する。
「すみませんした、大丈夫すか」
「えっと、ほんと何があったかわかんなくて」
「流川がブロックしたボールだったから」
「なるほど。すみません、いつもはこんなことないんですけどね。ほんとに、気にしないで、みなさんも!ほら戻って戻って!あ!お尻痛い!しりもちついたのかな!牧さん見てました?」
「その元気がありゃ大丈夫だ、ほらついてくから、部屋戻って休んどけ」
「牧先生すみません」
「おい!」
牧さんにびょーんと腕を引っ張られて立たされる。大丈夫か、と聞かれて体をあちこち動かしてみるのを、大男たちが心配そうに見守っているのがなんだか面白くて、吹き出してまた牧さんに怒られた。
ーーーーーーーーー
ノックの音がして、あいてまーすと返事をすると宮城さんと三井さんが顔を出した。
「なんだ元気そうじゃねえか」
「あやちゃんたちは?」
「何しに来たんですか」
「流川がお前をぶっ倒したって聞いて」
「うーん、半分くらいは合ってますね」
「頭うったってまじ?」
「たぶん、でも尻餅ついたみたいでおけつのほうが痛いです」
「正直だな」
「ほいこれ見舞い」
「はは、いただきます」
ドアを開けっぱなしにしてくれているあたりはちゃんとしてるのに、三井さんは自分でわたしに渡したコーラを奪って1/3くらいは飲んだ。なんてやつだ。いや不良か。
「ちょっと!なにやってんのあんたたち!」
「アヤちゃん♥️」
「見舞いだ!ワハハ!」
「寄越したもの自分で飲むなんてとんだジャイアンですよ」
「まどか大丈夫なの?悪かったわねうちの子が」
「いえいえ、みての通りですから」
「けつがいてえんだって」
「三井さん、デリカシーとかほんとないんですね」
「そうなのよ、だから前歯のいじりもオッケー」
「なるほどぉ」
ーーーーーーーーーー
「あっ!おいお前流川にぶっ倒されたんだろ!大丈夫か!」
廊下ででっかい声で話しかけてきたのは藤真さんだ。大丈夫です、と返しながら隣でアワアワする花形さんに視線を送る。
「藤真さん、見た目と中身が一致しないって言われません?」
「えっそうか?」
「うん、翔陽ではバレてるからあんまりモテない」
「なるほどぉ」
他校の女子にモテるんだ、と付け加えた花形さんは、頭の上にはてなマークを浮かべている藤真さんをみてため息をついた。
「何はともあれ大丈夫なのか」
「みての通りです。午後休んでたし元気ピンピンです」
「そりゃよかった」
「ふふ、ありがとうございます。休みでよかった」
「そーだな」
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「おい原田大丈夫かよ聞いたぞ~」
「起きてていいのか」
「武藤さん、高砂さん!げんきでーす」
「おーよしよしよかった、一緒に晩飯いこうぜ」
「やったー!」
流川が原田をぶっ倒したと三井が話していて、どう考えても語弊がありそうなので牧に確かめると、要はボールにぶつかっただけで尻餅ついたケツをいちばん痛がっているらしい。
「なんなの、ケツにボールが当たったの?」
「ねーみんな伝言ゲームへたくそすぎません?」
ぶらーん、と左腕を俺が、右腕を高砂がぶら下げて幼児みたいにぶらさげると、あほみたいに喜んで声をあげる。かわいいやつだけどかわいいの方向性がほら、女子高生に向けるやつじゃない。
「先輩たち今日どうしてたんですか?」
「どうってお前、休みだったんだから休んだよ」
「安心の武藤さんだ」
「ばかやろうスーパーサイア人みてーなやつらと同じ事やってられっかよ」
「夕方浜を走ってきたよ、河田に会った」
「どっちのです?」
「どっちも。2人で走ってた」
「それは、よかったです」
「なんかあったのか?」
「んー、秘密でーす」
3人で並んで夕飯のカレーを食べていると、清田と神が仲良くやってきて最後にひとっぷろ浴びたらしい牧がやってきた。お前心配かけるなよ、などとわいわいやっていると、一応責任を感じているらしい流川がすすっと寄ってきて小さい声で頭大丈夫っすか、と言ったので俺たちは爆笑だ。あの神まで顔をぼろぼろにして震えている。様子をうかがっていたらしい湘北の奴らも爆笑だ。
「るっ……かわくんそれ!心配してるときの言い方じゃないって!喧嘩売ってる!!」
「そうか?」
「おまえ!センスあるな!元々大丈夫じゃないから安心しろ!」
「武藤さん暴言!!」
「やるなルカワ、今のはよかったぞ!」
「のぶ!」
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お風呂からでたところに自販機があるのは理にかなっているけどずるい。どれにしようか迷ったけどやっぱりカルピスだ、炭酸も捨てがたかったけど。
「おっ、おつかれ」
「松本さん!あれ、もう斜め上見なくていいんですか」
「うんなんか、お前には慣れた」
「わっ!じゃあとなり座ります!」
「えっ!やっぱちょっと離れろ!」
「なんでですか、そんなに飢えてるんですか」
「こっちくんな!なんかいい匂いすんだよ!女子の匂い!」
「女子の匂い……?」
「なんなんだよこれ!洗剤とかか?石鹸?」
「えーっ!?みんなと同じ洗剤で洗ってるし…髪の毛も備え付けのリンスインシャンプーだし体もここの石鹸だし…なんですかね、体臭?」
「たい、しゅう………」
「また松本がちょっかいかけてる~」
「のべぇ!いちのぉ!むしろ俺がかけられてる!助けて!」
「だって松本さんが女の子のいい匂いがするとか言うから」
「えっ、お前…」
「やば…沢北の100倍やばいじゃん……」
「服も体も同じもんで洗ってんだから同じ匂いですよ、ほら松本さんもいい匂いする」
「こっち来ないでくれぇ…」
「ほら、野辺さんも一ノ倉さんも同じ匂い」
「そりゃそーだ」
「松本さんさあ、あれですよ、男の匂いって部室とか風呂場とかの何人も蓄積された匂いイメージしてません?うちも部活のあとの部室とかやばいんで」
「あ…そうかも」
「そりゃ男でも女でも10人ばかり集まったらくさいですよ~ほら野辺さんとわたしの匂い嗅ぎ比べて!ほら!」
「この子けっこうやばいと思ってたけどまじで面白いね」
「あれ?野辺意外といい匂い…?」
「ほらぁ!感謝してくださいよ、わたしのおかげで本命の人に変態発言しなくて済むんですからね!よかったじゃないですか」
「た、確かに…」
「やめろよ松本は真面目なんだよ」
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「…ねた」
「こいつ赤ちゃんかなんかなの」
「俺はこれ見るの2回目」
今日何をしてたかの報告をしているうちに、原田は丸まってすやすや眠りはじめた。ほんの数分の出来事だったと思う。前回は海南の武藤が一緒で事なきを得たらしい。誰か来ないかあたりを見回す。
「ちっちぇえな」
「丸まったらこんなにちっちゃくなるのか」
「カバンに入りそう」
「ほんとだな、秋田連れて帰るか」
「バカ言うな、部屋つれてこーぜ」
「お前が抱えろよ」
「えっ………」
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飲み物買ってくると言うと、仙道も腰をあげたので意外に思いながら並んで歩く。合宿に来てから話すようになったけど、魚住さんや田岡先生に惚れ込んでるのがよくわかる。こんなに人間味のあるやつだったんだなあとか感心しているとその仙道が小さい声でおい、と言って足を止めた。
「あれなに」
「へ?」
山王の人が数人ソファを覗き込んでじっとしてる。その中心には、
「おたくの子犬ちゃんだ」
「なんだよそれ」
「お前のって言った方がよかったか」
「んー、それはまだ」
「はは、こえー」
仙道の笑い声が響いて坊主頭がいっせいに振り返る。
「すみませんうちの子が!回収します」
「助かったぁ…」
「背負う?」
「んーなんでこんな丸くなっちゃったのかな、だんごむしじゃん。このまま抱えていきます」
丸まったその形のまま持ち上げると、あったかくて柔らかいのがしっかり腕のなかにおさまる。くそう、5歳どころか赤ちゃんだ。ふんわり牛乳石鹸のいい匂いがする。マネージャーの部屋をノックするとドアを開けた彩子さんにまたあ!?と言われて苦笑いしかできない。ちょっと名残惜しいけどくるんと丸まったままのまどかちゃんをそおっと布団におろした。