誰にもなびかないマネージャー
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せっかく休みなんだし7時に間に合えばいいよね、と3人で相談していたので、6時半頃にゆっくりからだを起こす。さっさと着替えて顔を洗って、ゆっくり歩いて広場に向かう。牧さんとミキオくんはすれすれに駆け込んできたので本当に走りにいったんだろう。目が合うとにかっと笑ってくれた。少しでも気持ちが晴れたならいいけど。ラジオ体操や挨拶を済ませて解散になったので彩子さんに駆け寄ろうとしたら、名前をぶっきらぼうに呼ばれて振り返る。
「河田さん!おはようございます」
「沢北にきいた」
「え?あの人伝聞できるんですか?」
私が本気でビックリした顔をみて、ふは、と笑った。
「美紀男が世話になった」
「ふふ、兄ちゃんのことがだいすきって言ってました」
「さっき久しぶりに、一緒に練習しようって言われた」
「よかったですね!」
「牧にも面倒かけたべ」
「あー、牧さんは可愛い子とか面白い子がいると放っとけないんですよ、癖です癖」
「原田」
「はい?」
「ありがとな」
「どういたしまして」
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「河田、休みだからってナンパとはいい度胸ピョン」
「深津さんけっこうそこ厳しいですよね」
「う、」
「すげえ、深津を黙らせるのはなかなかだべ」
「え?そうですか?」
「沢北にきいたピョン、卵雑炊食べそびれたピョン」
「なんだあの人ただのお喋りじゃん」
「間違いねえ」
「仲良くなったピョン」
「なんかいざとなったらグーパンでも目潰しでもきめてよさそうな人だと思ったらもう平気です」
「河田にやられ慣れてるから存分にやれピョン」
喋りながら食堂についてしまって、そのまま流れでお盆を手に取ると、3人で並んで座る。どこにいってもうわっ深津だ…みたいなびびられ方をされて生きてきたのでこの無遠慮は新鮮だ。まあでも同じチームに牧がいるんだからある程度慣れてるんだろう。お前進まねえな、という河田の声に、原田の皿をみると俺たちはおかわりのご飯を食べ始めているのに半分も減っていない。
「夏はあんまり。いつもノブに流してるんですけどあいつもう行っちゃったみたいなんで」
「そんなもんか?もったいねーからこっちさ寄越せ」
「いやいやさすがによその先輩に」
「もったいねーべ」
「えー、じゃあお言葉に甘えて」
「おめえベーコンも食わねえのか!?」
「びっくりポイントそこです?ほんとは大好きなんですけど油っぽいし。夏はほんとに、あんまりです」
「何なら食えるんだ、果物やる。玉子豆腐も食え」
「やったーやさしい!うれしいです」
「河田も大概お兄ちゃんだピョン」
「はっ?は、たしかにな」
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「晴子ちゃん、流川練習してるわよ」
「あやこさん、そそそそそそんな、」
「流川くん気迫増してますね、予選のときも凄かったけど」
「あんたの相棒は思ってたより静かね」
「んー、ノブはまあ、バスケのことだけはバカじゃないんで。ほら晴子ちゃん行ってきなよ、あとはやっとく」
「そんな、行ってなにするのよう他の人たちもいるのに」
「なんかセンドーさんと仲いいね、流川くん」
「牧に沢北、そうそうたるメンツだわ。いってらっしゃい」
「えーっ!ハードル上げないでくださいよお」
「どーせ休みなんだし、外からこっそり見てれば?向こうの軒下は?ついてってあげる!」
「まどかは度胸ありすぎ!」
晴子ちゃんの腕を引っ張って、体育館の入り口のほうに向かって小走りで行ったら、シューズ引っ掻けてやってきた神さんと鉢合わせた。
「えっととりあえず、ごめん赤木さん」
「ひどいです神さん、わたしのことなんだと思ってるの」
「よく頑張ってると思ってたけど、休みだからってよその子引っ張り回してるなんて」
「だって晴子ちゃんが」
「はるこちゃんが?」
「ちょっと!まどか!神さんもあの、えっとわたし、」
「ふ、流川?」
「ヒェ」
「けっこうわかりやすいよね、まーでも流川バスケはすごいけど、他のことにはてんで鈍いね」
「そ、そんなぁ、」
「ほら~ばればれじゃん!いくよ!」
「えーまどかちゃん、球拾い手伝ってよ」
「あら、珍しいですね。気が向いたら」
「ん、待ってる」
思惑どおり反対の軒下は日陰な上に洗濯物が棚引いて、マネージャーが居座る言い訳には十分だ。かごの中にドリンクボトルとタオルをいくらかつめて晴子ちゃんに押し付けると、がんばって!と乱暴に言い残して神さんのシュートに駆け寄った。
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「はーるっこちゃー、あ………」
500本おわって、神さんに先帰っててと言った時に、ぐるりと見回してももう晴子ちゃんの姿は見えなくなっていた。反対の軒下に顔を出すと、つんつんした頭が横たわっている。
「せんどうさん」
「んー」
間延びした弱々しい返事に、濡れタオルを絞って首のところにのせる。さんきゅー、という声もよれよれだ。
「みんなやる気やべー、牧さんなぜかいるし、るかわに、きたざわに」
「さわきたね」
「え?」
「え?」
仙道さんはからだを起こしてわははと笑った。なんてすっとぼけた人なんだろう。
「さすが、海南の子犬ちゃんはしっかりしてる」
「ほめられた気がしないな…」
「もいちゃんも褒めてたよ」
「もいちゃん?」
「田岡先生、茂一だからもいちゃん」
「ふ、かわいい」
「だろ、最近娘に臭いって言われるって落ち込んでるの」
「… せんどうさん、どうして東京からわざわざ」
「んー、もいちゃん丁度いいんだよな、遅刻しても帰れとか言わないし、でもちゃんと怒ってくれる」
「なるほど、うちじゃ考えられないやつだ」
「そうそう。見学行った時に魚住さんもぼろぼろでさあ、なんかでもここにしようと思ったんだよなあ」
「へー」
「原田は?なんでマネージャーやってんの?」
「わたしの前の人がやめちゃって、洗濯に手が回らなくてみんな困り果ててノブが頼みに来たので仕方なく行ってそのままです。でもまあ案外性にあってます」
「ふーん、おもしろいね」
「おもしろいですか?」
「海南の人がみんなお前のことたまらなく可愛がってるから」
「うーん?んー、うーん。まあ、うん、わんちゃんの可愛がりかたですけどね」
「さあどうだか」
うーんとのびをして、仙道さんは中に戻っていった。流川くんがセンドーショーブ、と道場破りみたいなことをぼそっと言うのが聞こえた、ので昼間での分で、いくらかドリンクをつめてかごを持ち上げた。
うんとこしょ、と体育館に足を踏み入れると、あー!!!と大きな声が響いて頭に衝撃が走った。