同期の武藤とハナキン
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「これはやはりとてもいいですね」
「でしょ!不明だった点も今回説明してもらえてよくわかりましたよ。ありがとう」
「恐れ入ります」
「ぜひ、前向きに考えていただければ」
「うん、うちのエンジニアにも聞いてもらいたいからもう一度約束できるかな、来週末あたりで」
お時間頂戴してありがとうございました、と深く頭を下げて退室する。エレベーターに向かう足取りも軽い。
「助かったわ、エンジニア連れてこいって言われてあの汗くさいじじいかと思ったときには絶望したけど」
「あんたの考えてることはよくわかったのでいつもより深めのVネック着てきたことに感謝しなさい」
「ハン、ふつーにプレゼンよかったくせに」
「わかってればよろしいよ」
二人きりのエレベーターの中で軽口を叩いて肘でどつきあう。同期入社の武藤とは当初は社内研修でしょっちゅう顔をあわせ、8年たった今では課は違ってもいざとなったら力になれるくらいの能力や立場をお互いにもっている。飄々とした雰囲気で、アクシデントにも動じない武藤のことをわたしは少なからず頼もしく思っている。
「はーおつかれ、かえろかえろ!」
「は?直帰でいいって言われたろ」
「いやだから、会社じゃなくて家に」
「は!?バッカおまえ!金曜の夜がもったいねーだろ!よし、今日は助かったからおごったる、付き合え」
「あ、ごはん?飲み行く?」
「おう、こっからだとそーだな、10分くらい歩けるか?」
「うん、いいよ」
取引先の会社をでて少し歩くと、武藤はジャケットを脱いで、ネクタイを緩めて、シャツのそでも雑に捲った。私もジャケットを脱いで腕に抱える。タイトスカートで着てしまったので大股では歩けないわたしの歩調に、いかにもちんたら合わせてくれる武藤の左の肘のあたりにぶら下がると、ちょっと足が速くなったきがする。
「えっ、ここなに?」
「今日金Jの日だからな。土日よりは少ないけど…ビールもあんぞ、俺は焼きそばと焼き鳥とな~あ、先行ってろチケット買ってくるから」
「わ、太っ腹じゃん」
「バーカ、割れてるわ」
武藤が選んだのは1階席の1番後ろ。人がまばらなのは平日のアウェー席だかららしい。試合開始前の選手たちを眺めながらプラカップで乾杯する。
「うまい!よくくるの?」
「出先が近いときとかはな。野球もいくぞ」
「サッカーやってた?」
「や、俺はバスケ。インターハイで準優勝だったこともあんだぞ」
「え!?本気のやつじゃん!腹筋割れてるってまじだったの」
「ハン、たりめーだろ。」
ボールもってねえ選手の動きがおもしれーんだよ。フィールドから視線をはずさずに呟いた武藤にふーんと相槌を打ちながら、捲ったシャツの袖からのぞく、血管の浮き出たがっしりした腕にちらりと目をやる。
「じゃあインターハイで準優勝したときが人生でいちばんうれしかった?」
「は?んー…そーだな、あんな、優勝以外は負けて終わるんだから悔しいに決まってんだろ。むしろ人生でいちばん悔しかったね」
「ごめん、浅はか」
「や、いーよ。おっ、お?おー!入ったな」
開始17分、ホーム側のゴールでサポーターが沸いている。私たちは焼鳥をほおばる。明るいナイター照明に照らされて、夜のピクニックだ。たれついてる、と頬を指差されて、慌ててハンカチでぬぐう。
「武藤はさ」
「んー」
「バスケやめたくならなかった?」
「ならなかった。大学では優勝もした」
「へー、すげー」
「雑だな、酔った?」
「酔ってない」
結局ふたりで焼鳥12本と焼そば1パックを平らげた。ハーフタイムにおかわりして、ビールは2杯ずつ。
「たのしかった!金曜がもったいないってこーゆーことね!」
「おー、次は野球な」
「いいねえ」
「飲み直す?」
「甘いの飲みたい、駅前まで戻ろう」
「おー、乗った」
さっきと同じように腕のあたりにてのひらを回して掴まっても、武藤はびくともしない。もうちょっと弾みつけて、もしも腕組んだらどんな顔する?時刻は9時を回ったところ、金曜の夜ははじまったばかりだ。