このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

a/i/k/oのうた

(ストロー 木暮)



おはよぉ~と間の抜けた声で起きてきた公延くんは、卵焼きとお味噌汁の乗ったテーブルを、あくびしながら、ついでに頭をぼりぼりしながらじーっと見た。

「朝から豪華だなあ」
「早めに目が覚めたから。ごはんに明太子のせてあげるよ、顔洗っておいで」
「うん、ありがとなあ」




ここ3日くらい、公延くんは珍しく連日帰りが遅い。ああみえてバスケ部だったし体力はある方なのに、過去にみたことないほどのよれよれ具合である。
私も仕事をしているし、良妻賢母なんてキャラじゃない。普段の朝御飯はトーストにコーヒーくらいのもんだけど、夫婦ともに朝は戦争なので食べてるだけでも許してほしい。どちらかというと私がよれよれになってることが多く、その気配を察知すると公延くんは家事一切をさっさと済ましてくれたり、肩を揉んでくれたり、料理は得意でないけどお総菜を買ってきてくれたりとうまいこと労ってくれるのだ。たまには私も、と頑張って早起きしてみたのだ。
洗面所から電動シェーバーの音が聞こえる。毎日同じ白い無地のワイシャツ、だけどこんなによく似合う人もなかなかいないのではないだろうか。無理しないでねと言っても、大丈夫だよと笑って無理をきかせてしまうところが、大好きですだいきらいだ。いつも蓋をはがして直接飲んでるだけの乳酸菌飲料の蓋に、赤いストローを短く切ってつきさした。


「おいしそうだなあ」
「なによ、その気になればこんくらい朝飯前なんだからね、やる気にならないだけで」
「うん、知ってるよ」
「仕事、落ち着くといいね」
「うん、明日くらいにはいつもの時間に戻れると思うけど、」


ぴたりと言葉を止めた公延くんは、乳酸菌飲料を手に取る。

「お子さまランチみたい」
「でしょ」
「ふは」




基本的に波の少ない人だと思う。 まわりの影響を受けにくい。起きたことに対応できる、その瞬発力がある。心から尊敬できる人なので、私なんかにできるのは、ちょっとした、こんな、しょーもないことなんだけど、このへにゃりとした笑顔をみると、柔らかい公延くんのことが大好きだなあと思う。その気持ちをこめて、うん、自己満足だけどさ。

さっさと食べ終わって食器を流しに運ぶ彼の背中に、洗っておくから置いといて、と声をかける。ありがとう、とやさしい声にまた心がじんわりする。電動歯ブラシやうがいの音に耳を澄ませながら皿洗いをしていると、後ろからぎゅーっと抱き締められる。

「ちょっと、泡つくよ」
「うん、ちょっとだけ」
「も~~!」




首もとに柔らかい髪の毛が押し当てられる。朝のやさしいにおいがする。簡単に手を流して、エプロンでぱっぱと拭いて、ぐるんと体を反転させた。

「ほんとに私に甘いよねえ」
「んん、ちがうよ、充電」
「ふふ、わたしの大好きな公延くん」




元気が出ますように。うまくいきますように。念をこめて、思い切り抱き締め返すと、ヴッと情けない声が響いた。


(おわり)




運とかなんとか関係なさそうな人に赤いストローさしてあげたい。
1/1ページ
    スキ