大平くんの同僚
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「えっ、短パン?」
「えっ?」
社内の親睦球技大会、といっても
スポーツ用品の会社なので
大平さんほどでないにしても
私程度かもうちょっとくらいの
運動経験者が多い。
今回はバレーボールということで
企画課の面々は「今年は大平がいるから優勝だ」と
始める前から勝った気になっている。
「サポーターまでするの?」
「いや、まあ、どんな雰囲気かわからないし、宮原さんのほかにも何人か社内に経験者いるらしいし」
「そうなんだ」
「やるからには勝ちたいからね」
ハーフパンツ、どころじゃない
太ももの筋肉が丸見えの短パン
膝にはサポーター
半そでシャツになると
腕や背中の筋肉が存在感を放つ
スポーツマンの体だ。
「大平!殺人サーブいったれ!」
「いやあ…」
「ジャンプサーブ打てるのか?」
「じゃあ、まあ」
軽くボールをついた後
宙に放つ
助走、踏切、ジャンプ!
当然のようにノータッチエースを奪うと
大平さんは恥ずかしそうに笑った。
あれだ、テレビとかで
日本代表の試合とかでやるような。
何本ものエースもネットで切れてしまい
相手にサーブ権が移ると
大平さんはセッター役になって
みんなに上手くボールを回してくれる。
ブロック跳んだりできるレベルではないので
企画課は順調に勝ち上がっていく。
迎えた決勝戦、相手は人事課
(あ、宮原さん)
「宮原さんのサーブはジャンフロです。手元で曲がるので気を付けてなんとかあげましょう」
宮原さんが中心となった人事との対決は
大平さんに火をつけたらしく
大平さんはブロックに跳んだりして
これまでの試合より熱くなっているようだ
「やべーあいつのサーブなんとかしろ」
「体当たりしてでも上げろ!」
「バカそんなことしたら死ぬぞ」
向こうのサーブを私がレシーブ
弾かれて大きな放物線
「オーライ」
ライトの後ろ側から
大きく跳ね上がる
弓なりに反った体から
放たれるスパイクに
反応できるわけもなく
「いや~今日は大平のおかげでビールがうめえわ」
「久々に体動かしたねえ」
「でも優勝なんだから気持ちいいって!」
優勝賞金3万円、足りない分は課長のおごりで
みんなで焼肉に来ている
たまに飲むことはあったけど
休日の夕方早めの時間に
私服で集まっているから変な感じ。
「苗字ちゃんは?バドミントンやってたんだっけ」
「そうですそうです。まあ県大会出れるか出れないかくらいだったんで大したことないですけど」
「みんなそんなもんだって。大平みたいなのがレアなんだよ」
「かっこよかったねえ、ジャンプサーブ」
「ほんとほんと!あたし10歳若かったら惚れてたなあ~」
「脚の筋肉すげえよな!普段スーツだからわからなかったよ」
大平さんが慕われるのはいつものことだけど。
お父さんのようなどっしりした安定感もあり
こうして先輩にもみくちゃにされて
可愛がられるところもあり
うらやましい。ぜーたくだ。
なんて、腹が立つのは新しい。
どこか私は他人のような気持ちで
大平さんと周りの人たちの
絡み方を観察している。
しかしこの焼き肉屋はおいしい。
ネギ塩牛タンがうまい。
いくらでも食べれる。
網の隅でひそかに炙っていたホルモンも食べごろだ。
「じゃあな!また来週」
「おつかれース」
「次行きたいところだけど、今日はお疲れだろうしまた今度な」
駅でみんなと別れて
私と同じ路線は大平さんだけ。
大平さんとも逆方向なのでホームで別れる、はずだった。
「苗字さん、疲れてなければ次行かない?」
「え?」
「ちょっと飲み足りなくて。高野橋だっけ、いいお店知らない?」
「え、あ、ああ、」
「こないだの話の続きがあるんだ、苗字さんにしか話せないから」
ちょっと悪い顔で微笑んだ
くそ、このやろう、
あれ私こんなに口が悪かったっけ
私は今がけっぷちにいる。
落っこちそうだ、この男に、なんて
昭和か!
それで結局私の最寄で
これまたやっぱり気になってたけど
1人じゃ入りづらかった可愛いバー
タピオカ入りのカクテルとか出してくれるらしい、に
2人で乗り込む。
薄暗い店内では映える写真を撮りまくっている女子会や
甘い雰囲気のカップルなど、
私たちはたぶんそんな風には見えてないけど。
「可愛らしい酒だな、写真でも撮る?」
「そんなキャラじゃないでしょ。で、話って?ウシワカさんのことでしょ?」
「結婚するんだって」
「…は?」
「若利から電話があって、これからどうすればいいかとか助言求められても知るかっつーの俺は結婚なんかしたことないんだから」
「え、待って、早くないですか?いつから付き合ってたんですか?」
「いや、そういうのすっとばして突然プロポーズしたらしい」
「前話聞いて半年くらいじゃないです?その間何もなくて突然結婚?」
「そう。俺びっくりしてるけどおかしくないよね」
「そりゃびっくりですわ」
ボサノバ調のおしゃれなBGM
女子たちのきゃっきゃした声
ちょっとテンション高めの私たち。
隣の女子会のテーブルに
映えるパンケーキが届いたらしく
女子たちがまた
ひときわ大きな歓声を上げ
慌てて私たちはボリュームを落とす。
「結婚式とか呼ばれたんですか」
「いや、若利が忙しいからやらないらしい。でももう籍は入れたんだと」
「…展開が速いですね…紆余曲折とかないんですか…」
「うん、ほんと。新卒2年目で仕事のことしか考えてない俺にはついていけないよ」
「世の中の大半の人はそうでしょ」
「ほんと、改めて、すげえ奴と一緒にいたんだなあと思ったよ」
「そこで?てゆーか大平さん、ショックとかないんですか?」
「ショック?」
珍しく甘いお酒を飲んでいる
大平さんがグラスに目を向ける
少し笑ってる?
「そんなこと考えたこともなかったけど、そうかも、3ミリくらいは」
「3ミリ?」
「白川さんのことはすごく慕ってたし、でも若利のファン仲間みたいなもんだったからね」
「悪かったな、付き合わせて」
「いえ、楽しかったんで」
「迷惑じゃなければ送ってくよ」
あ、出た。
そうやってセンパイのことも
送っていったんだよね。
どうすればいい?
遠慮する?断る?
だってわたしたち何でもないよ。
ただの、同僚、
色々難しいこと考えてるのは
私だけだよ
でも私はもう少し、
「あの、じゃあ、お言葉に甘えて」
夜の冷たい空気
薄明るい都会の空
車道のほうをゆっくり歩く大平さん
「大平さんはさ、いいなって思う人いないの?」
「え?」
「好きな人ってほどでなくてもさ、」
「うん、そうだな」
「え?センパイじゃなくて?」
「苗字さんのことは最初の日からかわいいなって思っ…あ!すまん!えっと!」
「え!?いまなんて!?」
「いや…ごめん…つい口がすべって、」
「…大平さん、けっこう酔ってる?」
「…かもしれん…酔った勢いなんかで言うはずじゃなかったんだ…ごめんな、嫌な思いさせて」
狼狽えて
目を泳がせて
頬が赤いのはお酒だけのせい?
このまま逃げる?
はぐらかそうとする彼を
そのままにしたらきっと
月曜から元通りになる。
「うれしいですよ、私は」
「え?」
「わたしも思ってましたよ、初めの日から、素敵な人だって」
「…参ったな…」
「まさか、そんなこととは思ってなかったから…どうすればいいのかわからないな、若利と同じだ」
「…大平さん、本当に彼女いたことないの?」
「まあね。なかなかいないでしょこんな面倒な男」
「今、チャンスだと思うけど?今度こそ送り狼になっちゃえば?」
「な…!!」
稲妻に打たれるような
衝撃なんかない。
毎日少しずつ顔を合わせて
学生時代とは違う、仕事の仲間
でも思ってしまった、すてきだなって、
だめかな、そんなかとないよね、
何が、悪い。
立ち止まった大平さんは
目を見開いた。
こっちを見て、ゆっくり歩み寄ってきて。
背が高い。大きな人。
「……これで、精いっぱいだ」
大きくて分厚い左の掌が
私の右掌をさらう
「…許して、くれるか」
「…許す」
「ありがとう」