大平くんの同僚
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「おはよう、具合悪いのか?」
(…あんたのせいだよ)
「あ!飲み会どうだった?もしかして嫌なことあった?」
「ないですよ。楽しかったですよ」
「それならよかった。宮原先輩からも連絡あってさ」
「大平さん」
「ん?」
訊いたら怒る?
わたしのこと嫌いになる?
迷惑?
半年なんて短い。
でも私の知ってる大平さんは。
「なんで嘘ついたんですか」
「は?」
「わたし、最寄が高野橋なんです」
「…もしかして金曜、見た?」
「はい」
「……もう始まるし…俺今日外に出るんだ。晩、一緒にどう?」
「…いいですけど」
「でも先に言っておく。嘘はついてないよ」
うわ。うそでしょ。
ほっとした自分がいる。
期待した自分がいる。
わたし、ばかなの?
終業後に会社の最寄り駅前の居酒屋で
大平さんと落ち合う。
この店を指定したのは大平さんだけど
毎日前を通りながら、一度来てみたいと思っていた店だった。
「ここ、一度来てみたかったんだよね」
「…おいしそうですよね」
「苗字さんさ」
「…はい」
「声かけてくれればよかったのに」
「金曜?できるわけないじゃないですか。あの後無事に送り狼になったんですか?」
「送り狼?……ちょっと、やめてくれよ」
「声なんかかけられないですよ、あんなに仲良さそうにしてたら」
「だから勘違いだって。あの人は白川幸子さん。高校時代のひとつ上の先輩で、マネージャーなんだ。今近くにいるんだけどちょっと話があって飲んでたんだ」
「彼女じゃないってことは、大平さんの片思い?」
「まさか!ずっと一緒にいすぎてなんというか…俺たちは寮生活だったし、母親みたいなもんなんだよ。しかも白川さん、鬼監督の孫娘なんだから手なんか出す気にならないって」
「え?本当になんでもないの?」
「なんでもないって言い方があってるのかわからないけど…」
「なーんだ!びっくりして損したじゃないですか」
「そんなこと言われてもな!」
なーんだ、と
一息つくと一気におなかがすいてきた。
「俺もちょっと話したかったんだよな、聞いてくれる?」
「はあ」
「誰がどうみても両想いなのに付き合わないんだ!家まで行き来してるのに!おかしいだろ」
「…誰の話ですか?」
「こいつだよ…」
「…は?」
大平さんが指さしたのは
メニューの中に挟まれた
ビールのメーカーのキャンペーン
バレーワールドカップ応援、
…牛島若利…?
「若利な、俺の元チームメート」
「…は!?」
「と、白川さん。高校時代から白川さんに懐いてたからな…まさかとは思ってたけど最近偶然再会したらしくてさ…」
「え!?待って、ちょっと、話が…えっと…大平さんって何者!?」
「いや俺は何者でもないよ。白鳥沢学園高校って聞いたことあるかな、宮城なんだけど。」
「え、スポーツで有名な学校ですよね」
「うん。あと進学クラスとかもあって大きい学校だったんだけど」
「そんな強豪だったんですね。しかもあのウシワカのチームメイトなんて」
「…まあ俺が自慢することじゃないんだと思うけど…でもあいつのことは本当に誇りに思うよ」
「それでその白川さんとウシワカが?」
「そう…そうなんだけどあいつら…若利がちょっと前にケガしてたんだけど、復帰できたからお祝いがてら飲みに行ったら幸子さんの話聞いちゃって…ストレートに言ってやったんだ、白川さんが好きなんだなって。そしたらあいつなんて言ったと思う?お前も同じだろ!って!いやそうだけどそうじゃないだろって!」
初めて見る切れ気味の大平さん
そこまで話すとネギマを平らげ
レモンサワーをグイっと飲む
ネクタイをゆるめた首元に
ついつい目線を送ってしまう。
「でさ、俺もヤケで金曜白川さんにも聞いたの。若利のことが好きですよねって。そしたら白川さんまで、そんなの大平も一緒じゃんとか言うんだ…俺はもう心の中でお前ら小学生か幼稚園児かって叫んだよね!これなんか俺がおかしいみたいになってるけど絶対将来そうなるって!自信あるぞ!」
「大平さんもしかしなくても酔ってるよね」
「そりゃそうかもしれないな」
「大平さんはどうなの?」
「俺は…そういうのは難しい…」
「え?小学生か!」
「…はは、確かに」
大平さんが大きな声で笑う。
新しい大平さんだ。
私が今まで知らなかった
新しい大平さん。
昔の仲間の話をすると
こんな顔になるのか。
私はそれなのに自分のことばかり
「大平さんって全国大会とか何回も出てるんでしょ」
「まあね」
「今までで一番すごかった試合っていつ?」
「…高3の春高の県予選かな…」
「え?予選?」
「決勝で負けたんだ、3年間であのときだけだよ。でもあの時の若利は最高だったし…自分のプレーも一番良かった。相手もすごくて…ああ、影山飛雄ってわかるかな、代表のセッターなんだけど」
「あ、見たことあるかも。高校の時に試合してたの?」
「それまでは決勝にも上がってこないようなチームだったよ。でもあの試合が…あの試合を思い出すとなんかこう、腹の底から力が湧いてくる感じがするんだ」
「わたし、大平さんのこと…」
「ん?」
「わたし、何も知らなかったんですね」
「そんなことないよ。今日はちょっとしゃべりすぎてる気がするな。苗字さんが聞いてくれるからついね。」
「いつも私ばかりしゃべってるからね」
とうとうネクタイを外した大平さんは
レモンサワーをぐいぐい飲みながら
バレーボールのことをたくさん話してくれた。
マネージャーの白川さんが
祖父である監督と怒鳴りあいの喧嘩をしていたこと
あのウシワカがマネージャーの手伝いを好んでいたこと
寮でジャンプを回し読みしたこと
人事の宮原さんにうちの会社に誘われたこと
「今日は楽しかったよ。苗字さんこんなに強いなんて知らなかった。また飲もう」
「こっちこそ、なんか誤解しちゃっててごめんね。楽しかった」
「いや、俺のほうが誤解は解いておきたかったから」
「え?」
「じゃあまた明日な」