大平くんの同僚
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…つまり合コン?」
「しっ!静かに!」
飲み会があるんだけど、と
大平さんに声をかけられたのは
入社半年のある日。
「俺実は人事に大学の先輩がいてさ…ここも先輩が誘ってくれて決まったんだ。それで頭上がらなくて…一応聞いてみてくれって頼まれたんだ」
「大平さんも行くの?」
「俺はパス、というか男は割と多いし、苗字さん誘ってくれって使われてるだけなんだ。正直こういうの苦手だしね。苗字さんもいやならはっきり言ってね、断るから」
「いや、ちょっと興味あるので行ってみようかな」
「そう?それは先輩が喜ぶよ。早速連絡しておく」
「…大平さんってさ」
「ん?」
「もしかして彼女がいるの?」
「っは!?」
「静かにって言ったのそっちじゃないですか」
「いや、あまりにも予想外のことを言うから」
入社したころは
イケメンなら…などと思っていたが
正直最近大平さん素敵…と思っている自分がいる。
十代のころのような
目が合うだけで胸ときめく
「恋」というのとは違う気がするけど
なんといっても大平獅音は
善人な上仕事ができる
新入社員のくせにフォローの先輩が
「げ!助かった大平サンキュー」なんてのを
しょっちゅう聞かされている。
毎日謝り倒しの私とは大違いだ
学生時代にバレーボールに打ち込んだらしく
周りへの気配りを欠かさない。
部のお母さん的存在だったのが目に浮かぶ…
いやしかし恋というほどの
そういう気持ちじゃないけど
なんて素敵な人なんだ、くらい
思っていたって罰は当たらないよね。
「俺は恥ずかしい話だけど、彼女なんかできたことないよ。ずっと部活ばかりやっていてそれどころじゃなかったから。親しく話をするなんてマネージャーくらいのもので…あーだから苗字さん、俺変なこと言ったらはっきり言ってね。苗字さん優しいから話しやすくて…」
「…ちょう意外」
「え?」
「いや、大平さんって常にどっしり構えてるイメージだから。不安そうなところ初めて見たかも」
「そうか?それはちょっと恥ずかしいかも」
***
「企画課の苗字です。よろしくお願いします」
「俺は営業の…」
「俺は人事の…」
金曜の夜、会社の近くの居酒屋の個室で
10人ほどの男女が集まり
親睦会という名の合コンが開かれた。
とは言え同じ社内の人間なので
羽目を外すこともなく
明るく親切な社風にぴったりな人ばかり
新入社員は私と営業の男の子、
総務の女の子の3人で
色んな人と連絡先を交換したり
最近のことについて話したりした。
「苗字さん企画だっけ?」
「そうです」
「俺、人事の宮原。大平が声かけたろ?」
「ああ、大学の先輩って!宮原さんもバレーボールされてたんですか?」
「うん、まあ俺はそこまで活躍してないけどね。あいつはマジですごいよ、話聞いたことある?」
「いえ、詳しくは…高校から寮に入っていたというのは聞いたことありますけど」
「マジ?来週会ったら聞いてみなよ、チームメートのこととか聞いたらびっくりするよ」
「え、そうなんですか?」
そういえば。
いつも話題を作って振ってくれるのは
大平さんばかりだった。
私、大平さんのこと何も知らない。
大平さん、大平さん。
宮原さんのせいですっかり頭の中は
大平さんの過去のことでいっぱいになってしまったけど
まあ社内に知り合いが増えたということで
今日はよかったことにする。
(…モッツァレラ揚げ出しおいしかった…)
(でもごめん…大平さんが一番すてきだよ…)
(ん?)
稲妻に打たれるような
そういうきっかけでなく
煮物のジャガイモにじわじわ味が染みるように
そういう恋があるんだろうか。
就活から入社期間までを
共に過ごしたパンプスと別れて
歩きやすいベージュのパンプスを買った。
リクルートスーツをタンスにしまって
グレーのスーツやブルーのシャツを買った。
それらがだんだん肌になじんで
美味しいものも色々覚えて。
私という人間が劇的に変わったわけじゃないけど
少しずつ大人になっていくような。
最寄りの駅を出て
駅前の明るい通りを家に向かって歩く。
週が明けたら大平さんに
昔の話を聞いてみよう。
なんだか心が弾むのは
なんだか頬が熱いのは
5杯も飲んだカルーアミルクのせいだろうか。
と、そこに。
(え?)
長身の。
見慣れたスーツの後ろ姿。
(大平さん?)
(なんでうちの最寄りに?)
(いつも反対の電車に、)
「大平さー!やっと年齢が見た目に追いついたよねー」
「まだ追いついてないやつもいると思いますけど」
「確かに」
「幸子さん家近いんですか?」
「うん、歩いて10分くらい」
「そんなら暗いし送ります」
「えー?大丈夫なのに!ちゃんと帰れる!」
「いやなんか赤いしふらふらしてるじゃないですか」
「早く帰れよあした寝坊するぞ」
「明日は土曜だからいいんですよ」
いや私!!なんで隠れた!!
大平さんは駅前のチェーンの飲み屋から
小柄な女のこと一緒に出てきた。
その子が大きく揺れるたびに
大平さんが腕を引っ張ったり
肩を抱いたりして帰っていく。
(っか!かのじょじゃん!!)
(いないっていった!!)
(うそついた!?)