大平くんの同僚
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学生活、終わってしまった
友達と過ごした楽しい日々もあり
長く険しい就活期間もあり。
早めにもらった内定ふたつ、よく調べてみれば
両方ともブラック企業ということがわかり
辞退した上に改めて就活をしたので
ちょっと回り道してしまった感もあるが
スポーツ用具のメーカーに無事就職が決まった。
私なんかはスポーツったって
中学と高校でちょっとバドミントンをしていたくらいだ。
ちゃんとやっていけるか心配はあるが
圧迫面接や入社前の研修もなくおだやかな雰囲気で
今度こそはと安心している。
今日、入社。
あっという間に社会人になってしまった。
就活ですっかり着慣れたリクルートスーツ
髪の毛は紺色のシュシュで一つにまとめた。
ゼミの後輩が卒業祝いにくれた
淡いピンクのハンカチをポケットに入れて
少し慣れてきたアパートの鍵を閉める。
おとなになったし、と
朝一番に飲んだコーヒーの香りが
鼻の奥にうっすら残っている。
入社式というほどのものでもなく
10名ほどの新入社員が
会議室に一堂に集められる。
後ろの控えているのは各課の課長らしい。
社長から簡単な挨拶のあと
配属のフロアに案内される。
私と同じ企画課には、もう一人
長身の男性が就くようだ。
「あの、」
「大平獅音です。よろしく」
「あ、苗字名前です。よろしくお願いします。」
「あ、苗字さんと大平くんだね。企画課長の山崎です。今から案内するからどうぞ」
「よろしくお願いします。」
大きな人だ。
スーツを着ていてもわかるがっしりした体。
何かスポーツをやっていたに違いない。
そういう人が向いてる会社なのかな
私やっていけるだろうか。
すり減ったパンプスの靴音が
薄暗い廊下を反響する。
「うちの課は、会社の内外から情報を集めて商品や販売戦略、イベントなんかを企画するんだ。まあしばらくは先輩社員について仕事してもらうし、わからないことばかりだと思うけど頼れるやつばかりだから、がんばろうな」
「はい、よろしくお願いします」
「あと、金曜の晩は歓迎会をしたいんだけど。2人はお金はいいから、予定だけあけておいてほしいんだけど大丈夫かな」
「はい、大丈夫です」
「苗字さんは?」
「あ、はい、わたしも」
デスクは大平さんと向かい合わせ、
それぞれサポートの先輩と隣になった。
先輩がせっかくランチに誘ってくれたのに
お弁当を持ってきてしまったので
デスクで昼食をとることになる。
じゃあ明日は一緒にいこうね、と
先輩は外へ行ってしまった。
「苗字さん」
「は、い!」
「大丈夫ですか?体調悪い?」
「大丈夫ですけど」
「緊張してる?」
「お互い様じゃないんですか」
向かい側でも同じことが起きていたようで
ちょっと困った顔した大平さんが
きんちゃく袋の中から大きなおにぎりを出しながら
こちらに声をかけてくる
「俺はあまり緊張とかしないんですよ」
「うらやましい…入社初日でなぜそんなにリラックスできるんですか」
「うーん…なぜと言われても困るんだけどな」
「とりあえず明日はお弁当持ってこないことにします」
「この辺はオフィス街ですからね、安くてうまい飯屋がたくさんあるみたいですね」
「大平さん、おにぎり自分で握ったんですか?」
「そうそう。大学時代から一人暮らしだからね、弁当なんて立派なもんじゃないけど」
ラップに包まれた
拳ほどの2つのおにぎり
大きな口だ
梅干しだか昆布だかが埋め込んであるらしい。
使い込んだ風のタンブラーから
持参の飲み物を飲んでいる。
時計を気にしながらわたしも
早起きして作った弁当をかきこむ
顔を上げると大平さんの姿はなく
歯磨きをしにいっていたようで
戻ってきた彼の手には
コーヒーが2本握られている。
「どっちがいい?」
「え?」
「カフェオレと微糖」
「か、カフェオレ…いくらですか?」
「いいって、ついでだから」
「じゃ、ありがとうございます。」
「苗字さんさ」
「はい?」
「深呼吸して」
大きく吸って、
長く吐いて。
思わず3回も
明るいオフィスだ。
窓が大きい。
ビルの壁や先っちょに切り取られた
ギザギザの、でも優しい春の空
「やっと外見ただろ。けっこういいところですよね」
「…ほんとだ」
向かいの席から
落ち着いたトーンで
大平さんはにこりと笑った。
なんだこいつ。
イケメンだったら絶対好きになっちゃうじゃん
…弁慶でよかった…仕事にならないところだった
1/5ページ