こまちちゃんと沢北くん
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
山王のTシャツを着た保護者の中に、まきこさんを見つける。慌てて河田さんにこまちちゃんは、と小声で声をかける。
「母ちゃんも来ねえ予定だったんだけどな。俺と美紀男一緒に出るかもしんねーんだからって、あいつが」
「じゃあこまちちゃんは」
「今頃草刈りして野菜収穫してんべ」
「そっかあ」
「なんだ、がっかりしたのか?」
「んにゃ、俺も頑張ります」
その意気だべ、と河田さんに肩を叩かれて、意気揚々と控え室を出た。およそ1時間後、俺達は崩れ落ちる。インターハイで優勝してアメリカに飛ぶはずだった。先輩たちを優勝させられずに、決められた飛行機の日程が迫ってくる。明日寮をでて実家に戻るという日の夕方、玄関の方で先輩たちががやがやしている。
「お米はまだだろピョン」
「あの、今日はバスで来ました。きゅうりがいっぱいとれて、浅漬けにしたので、冷やして食べてください」
「すごい量だピョン」
「あとこれ、あの、沢北くんがアメリカに行くってまきちゃんに聞いて、わたしが漬けた梅干しとお味噌なんで渡してもらえませんか」
「おめ、そりゃ本人に渡してやれ、元気でっから」
「沢北バレてるピョン。出てくるピョン」
「うっ、こ、こまちちゃん」
「荷物増やしてごめんね、アメリカなんて私には想像もつかないけど…頑張ってね。またいつか稲刈り手伝いにきて」
「こまちちゃん、」
「なあに」
「…次会ったとき河田さんとまだ付き合ってなかったら、アメリカ連れてくから」
「うぐ…うん、でも、がんばる。ありがとう」
「なんな友情芽生えてるピョン」
「稲刈りパワーだべ」
「じゃあ、バスだから戻るね」
「あっ、こまちちゃん」
「なあに」
「っ、握手」
「うわあ!わ、大きい手」
「河田さんには負けるけどね」
「だべ」
にっこり笑ったこまちちゃんの笑顔を、目の奥に焼き付ける。あー、かわいいなあ。
バス停まで送ってくれと言ってくれた河田さんに首をふる。
「これ以上こまちちゃんと話したら、アメリカ行けなくなっちゃうんで。かわっさんが行かないなら俺がアメリカに連れてくっすよ」
「バカ言うな」
俺の頭を後ろから雑にはたいて、急いでサンダルをひっかけた河田さんはこまちちゃんを追いかけていってしまった。先輩たちから泣くなとどつかれたけどもうどうしようもない。
ーーーーーーーーーーーー
気配を感じて振り向いたら、むっすりした顔のまさしくんが追いかけてきたところだった。インターハイのことも、アメリカに行く沢北くんのこともわたしは気持ちを共有できるような位置ではない。名前を呼ぶと、ん、と返事だかなんだかわかんない声をあげた。
「ありがとな」
「え?」
「あいつのこと、優勝で送ってやれなかったからな」
「うん、聞いた。お疲れ様」
「元気もなかったしよ、俺らも何て言えばいいかわかんなくて困ってたんだべ」
「そっか」
「また冬に向けてやってくしかねえ。あいつはいねえけど」
「まさしくん」
「ん」
「まさしくんは、卒業したら、どうするの」
「へ?」
「あ、いや、ごめん。そんな話今じゃないね、ごめんごめん、忘れて」
「…いくつか誘いはきてるけど」
「すご」
「実業団もわるくねーと思ってる」
「働くってこと?」
「だべ。俺は勉強も好きって訳じゃねえし、現役引退したら田んぼがあるしよ」
「遠くに行くの」
「アメリカほどじゃないべ」
「…たしかに、そうだべな」
「バス、何時だ」
「54分だからあと10分くらいだべ」
「どーせ遅れるけどな」
「時間通り来ることないべなぁ。いいよ、大丈夫だから戻りなよ」
「んや、待っとく」
「まさしくん」
「ん」
「だいすきだぺ」
「おお」