ふかつの恋
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深津は、それはそれは丁寧に、時間と手間をかけてわたしを抱いた。真っ暗な部屋の中で、深津と目が合うたびに息が止まるようだった。もうなにも考えられなくなるほどくちびるを重ね、 圧迫感こそあったものの、痛いと一度も思わないほど、ゆっくり、ゆっくり。低く掠れた声ですきだ、と言われると、心も体もぐずぐずに溶けてしまうようだった。嘘みたいで夢みたいで、でも慈しむように触れてくる深津のくちびるの柔らかさは確かにほんとうで、羞恥心と混乱でどうにかなってしまいそうな朝を迎えた。
「ふ、か、つ」
「ん、はよ、」
「え、あ、あの、えっと、」
「忘れたって言ったらもっかい1からやるピョン」
「…ウッス…おぼえてるっす…」
「ピョン」
ゆっくり目を開けた深津は、ゆっくり瞬きをしてわたしの鼻筋にくちびるを寄せた。顔に熱が集まって、たぶん真っ赤になってると思う。カーテンの隙間からまぶしい朝日が差し込んで全部丸見えだ。はっとして布団の中で身をよじる。なるほど全裸だ、たぶん深津も。
「下に落ちてるのは昨日のやつだピョン。シャワー浴びて着替えて来いピョン」
「ぴょんて、あんたさあ、」
「心配しなくても昨日全部見た」
「だからよお………」
まあそうだよね、と気を取り直して、気持ちほど背中を向けながら風呂場に向かう。平均的な女性より大きめの肩幅とがっちりした筋肉が目立ち丸みは少なめだ。そんな私を容赦なくたっぷり女扱いした深津は、こんなので本当によかったんだろうか。
2コマあるから、と深津はシャワーを浴びると荷物をまとめて帰っていった。わたしは5コマと夜練の予定だったので、急にぽつんと取り残される。部屋にはまだ深津のにおいやぬくもりが残って、昨日の、そう、いろんな諸々が蘇って発狂しそうだったので、家から出ることにした。股関節のずっしり感は薄らいできている。
電車にのって、駅で降りて。昨日はじめてあったばかりの、かわいい女の子の家のベルをおした。
「水野さん!」
「ごめん、来ちゃった」
「嬉しい!あがって!」
「あの、こまちちゃん、その………」
「…深津先輩と何かありましたか?」
「え、なんで?」
「お茶いれるね、どうぞ!」
窓から入る外の光を浴びてころころ転がっているごきげんなヨシくんを眺めながら、大家さんにもらったという羊羮を頬張る。
「深津先輩ったら、友達なんてわざわざ念押しするくせに顔に大好きって書いてあるんだもん。うまく行くといいと思ってたけど案外とんとん拍子だったべなあ?」
「それが、その、とんとんもとんとんで、混乱してる………こまちちゃんの顔を見て落ち着こうと、いやごめん急に迷惑だよね、ちがうのちがうのこっちの話だから、」
「まって水野さん。迷惑じゃないよ、とっても嬉しい。あとまあ話はなんとなく、でも大丈夫、ヨシくんだってこうのとりが連れてきた訳じゃないから。人選は合ってるとおもうべよ。わたしはまさしくんとくっつくの好きだべ」
「既婚者~つよい~」
洗濯機が止まる音がしてこまちちゃんは立ち上がった。縁側から下りたところの小さな庭におかれた物干し竿には布団も揺れている。絵に描いたような幸せな家庭だ。ヨシくんはこうのとりが連れてきた訳じゃなく、河田くんとこまちちゃんが、その、
「まさしくんはね」
「ん、」
「普段より全然余裕ないかんじする。でもわたしもそれでドキドキしちゃうの。裸になるのも慣れたけど恥ずかしいし、でもぎゅってくっつくと気持ちよくて安心する」
「…慣れる?」
「まあ、もう、2年近いし…」
「そうだよね、初心者だもんねわたし」
「そうそう。好きなんでしょ、深津先輩のこと」
「ん、うん」
「深津先輩だって一回きりじゃなくてずっと一緒にいるつもりだと思うけど。私はともかくまさしくんに会わせるくらいだし」
「うん」
「大丈夫、今からもうまくいくよ」
「こまちちゃん……つよい…かっこいい…弟子にして…」
「ふふ、わたしのお友達がね、まさしくんとこの沢北くんっていうんだけど、」
「沢北ってサワキタエイジ!?」
「そうそう。わたしにいつも好きって言ってくれてね、でもこまちちゃんは河田さんが好きなんだろって、気持ち伝えなってすごく背中押してくれて。思いきって東京これたのも、そのこと覚えてたから」
「あの、あのさわきたが…!」
「水野さんと深津先輩は両思いだったんだから心配ないよ。うまく行かなくて困ったときは話してよ、深津先輩とならわたしもまさしくんも話せるし」
「うん」
「びっくりしたね、落ち着くまでうちいていいよ?深津先輩よぶ?」
「いい、いい!ありがとう!もう帰る」
勢いよくなったお腹の音を聴いて、こまちとゃんは笑った。お昼ごはんをごちそうになって、わたしは河田家をあとにした。なんかもう、深津の顔を見ても大丈夫な気がする。
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