ふかつの恋
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ほこほこの料理でお腹いっぱいになって、わたしはお酒をのみたくなった。河田家はなんだか実家のようなあったかい雰囲気だったな。深津の腕をつかんで駅前のチェーンの居酒屋を指さすと、ため息ひとつ落として進行方向を合わせてくれた。
「水に飛び込むって前に言ってたピョン」
「んー、いつもはプールなら、今は断崖絶壁って感じ。下でザブーンと波が砕けて足が止まる」
「俺はお前と同じコートにたつことはないけど」
「あたりまえじゃん」
「水生生物だからな、いつも水の中にいるピョン」
「深津なりに励ましてくれてる?」
「そーだピョン」
軟骨の唐揚げをつつきながら、深津は静かに、でもいつもより饒舌に語った。伏し目がちに、だけどわたしの目線は全部気付いてそうだな。一生こいつには敵わない気がする。一生…?
「こまちちゃん喜んでたピョン、連れていって良かった」
「女の子の友達いないって言ってたね」
「卒業してすぐからだひとつで飛んで来たんだからそりゃそうピョン。秋田のむさい男が遊びにくるの心待ちにしてるような子だピョン」
「愛がでかいね」
「あんなの側で見てたら中途半端なこともできないピョン」
「そりゃそーだ、同情する」
「俺は修羅場はごめんピョン、男ができたらちゃんと教えろよ」
「は?」
こいつ意外と睫長いんだって。ぱちぱちとまばたきをして、深津は立ち上がった、その腕をつかんでひっぱると、また座った。
「こっちの台詞なんだけど」
「俺はお前以外の女を背中にのせる予定はない」
「こまちちゃんは」
「そこは別枠ピョン」
「今日も酔っぱらったって言ったらのせてくれるの」
「ピョン」
肯定とも否定ともとれる言葉を投げつけて、今度こそ深津は伝票をもって立ち上がった。2人あわせて2375円、おごってくれるつもりらしい。
店をでると深津は黙ってわたしに背中を向けた。わたしは躊躇わず大きな背中にくっつく。筋肉で適度に柔らかくて安定したこの背中、わたしのものになればいいのに。
「深津も大概わたしに甘いよね」
「何を今さらピョン」
「もう一声甘やかしてほしいなー」
「調子にのるなピョン」
「こわっ」
「まあこの際だからわかりやすく甘やかしてやるピョン」
「へえ」
「俺から見たら今の女子のスタメンのガードよりお前の方がよっぽどうめえピョン。うじうじしてないで蹴散らしてもぎとれ」
「お、お」
「それから」
「うっす」
「お前がすきだ」
「…………はあ?」
「お前の家も、かばんのどこに鍵が入ってるかも、シーツの色も知ってる、けどお前が今日まで無事にいられたのはお前のことが好きだからだピョン」
「………正直なこといっこ言う」
「ん」
「今日ヨシくんやこまちちゃんに優しいかおしてる深津見て、羨ましかった」
「バカピョン、背中に乗ってるやつに俺の顔が見えてたまるか」
「っ、!!」
「お前はバカだから甘やかしてやったピョン」
「わたしさっきから、深津のこのあったかい背中、わたしのものにしたいと思ってた」
「それは、よかったな」
深津の言葉尻がやさしく夜の空気に溶ける。なんだあ、深津、義務感とか惰性とかそうじゃなかったのかあ。うれしいのとかほっとしたのとかぶわっと溢れて深津の背中に大きな涙のシミをつくってしまった。気付いているはずなのに深津は、なにも言わずに歩き続けた。
「ふかつ」
「ピョン」
「もうちょっと一緒にいたい」
「は?」
深津は立ち止まってながーいため息をついた。せっかくの日なのでもったいぶりたい。このままいつものように投げて帰られるんだろうか、もう少し話したりさあ、
「それはだめピョン」
「けち」
「今度こそ手え出すピョン」
「…うそお、ほんとに?少なくともわたし一般的な女子よりでかいし薄いし硬いよ、」
「知ってる、何回背中に乗せてやったと思ってるピョン、役得ピョン。俺の理性に感謝しろピョン」
「もう一声甘やかしてほしい、今しか言えない」
「それは手を出されても文句ないってことピョン」
「まあ、そうなるかな」
「後悔してもしらねーピョン」
コンビニの前でわたしをおろすと、深津は何やら必要なものを買い込んだらしい。全然いつも通りの顔ででてきた深津は、コンビニ袋を持ってない方の手を差し出してきた。
「大して酔ってねえのはばれてるピョン。歩けピョン」
大きくて分厚い掌に、女子にしちゃあ大きめの自分のそれを重ねる。今引っ込んだらもうダメな気がして、断崖絶壁から助走をつけて飛び込んだ。