ふかつの恋
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はじめて全日本に選ばれた。憧れの舞台だけどなれないチームで短期間でどうやっていけばいいのかわからない。不安に刈られてがたがたに調子を落とした私を、チームメイトは深津に放り投げた。
「どーゆーことだピョン」
「緊張してるみたいでなんか変なのよね。深津は全日本も常連なんだしなんかアドバイスしてやってよ」
「はぁ………」
先日のこともあって二人きりにならないように気を付けていたのにこの様だ。深津はわたしの顔をじーっと見ると表情ひとつ変えずにちょうどいい、と言った。
「この後暇か」
「うん」
「付き合えピョン」
「へ?」
深津は駅に向かってあるいた。わたしは後ろをついてあるいた。降り立ったのは深津があの妊婦さんと歩いていた、あの、駅だ。
慣れた様子で進んでいく深津についていく。深津は駅から少し離れたケーキやさんでプリンを5つ買った。それをわたしはじーっと見ていた。しばらくいくと、静かな住宅地のアパートの一階の一番奥の部屋のベルをならした。ばたばたと裸足の足音が聞こえてきて、ドアを開けたのはあの時の妊婦さんだった。
「深津先輩、と、」
「すまんこまちちゃん、友達」
「おともだち!」
「水野です」
「ええっ!とにかく上がって!もー深津先輩たら、聞いてたらもうちょっと綺麗にしておいたのに」
「うん、プリン冷蔵庫にいれるピョン」
「わーい!ありがとうございます!雅史くんはたぶんもうすぐ戻ると思います!ヨシくん頼みます」
「ピョン」
ほら手洗えと言われて、念入りに石鹸で手を洗う。水野さんも抱っこしてくださいね、とこまちちゃんに言われて、そおっと腕に赤ちゃんをのせる。
「ほやほやだ……かわいい………」
「俺は今完全にヨシを中心に生きてるピョン。こんなにかわいい生き物他にいないピョン」
「美紀男に似てるからよけいかわいいんでしょ?」
「美紀男も可愛いやつだからな」
じゃあ、ごはん仕上げるから、と腰をあげたこまちちゃんに続く。既にテーブルの上にある肉じゃがを深津がつまみ食いしたのを見逃さなかったこまちちゃんはこら!と叱って深津は笑った。
そうこうしているうちに、玄関が空いて、ドアをくぐってあの河田雅史が現れた。台所にいるわたしを見てぽかんとした顔をしている。
「お帰り雅史くん、深津先輩のお友達だって」
「水野です」
「……おめえ、どっかで……」
「バスケ部の同級生ピョン。全日本に選ばれてびびって調子落として落ち込んでるピョン。アドバイスしろって言われたけどこういうのはお前の方が得意ピョン」
「得意ってなあ……」
まあ飯にしようぜ、と河田くんは山盛りご飯を盛った。
「おいひぃ……」
「こまちちゃんの飯が一番うめえピョン。東京のかあちゃんだピョン」
「えー、息子にしてはでかいなー」
「ほんとにおいしいです、ごめんね、急に来たのに」
「いいの!嬉しいです、女の子の友達東京にいないからすごく嬉しい!時々遊びに来てくださいね、深津先輩は2週間にいっぺんは来てますから」
「すごいよほんとに、あんなに小さい赤ちゃんがいるのにこんなに色々」
ヨシくんが泣き始めると、おっぱいあげてくるねー、とさっさと立ち上がって行ってしまった。
「すごい、強い」
「昔からああでよ。働き者で痛いとか疲れたとか言ったことねえ」
「ヨシが生まれる前泊まり込んだときほんとにこまちちゃんうなってて死んじゃうかと思ったピョン。男は無力ピョン」
「おお、一生頭あがんねえべ」
「そりゃあいいピョン」
「そんで水野はどうした。全日本たっていつもの自分のプレーするだけだぞ」
「う、それはわかってるけど」
「まああれだな、気の合うやつを早めに見つけるこったな。同部屋のやつとか、対戦経験のあるやつとか、俺らの年代ならぜってえ居るからよ。」
「なるほど…」
「あとはまあ、ぶつかり合いすぎないことかな。スクラップからビルドアップすんには期間がみじけーからな。なるべく建設的にいくつもりでいるといい」
「すごい、わかりやすい」
「だからいったピョン、俺より得意だって」
「深津が女の子連れてくるなんてびっくりしたけどよ、夏も喜んでるし時々顔見せに来てくれよ」
「ありがとう、河田くん」
河田くんはおう!と笑ってイシシと歯を見せた。
「河田くんは、すごいねえ、同い年でパパなんて信じられない」
「こまちちゃんずっと言ってたピョン、大きくなったらまさしくんのお嫁さんになるって」
「4歳からな。でもまあ、あいつがいねえと困るのは俺の方ってわかっちまったからよ。東京きてまで勉強するほどでもねえし、細々とでも一緒にやってけたらいいと思ってな」
「河田はかっこよくてずるいピョン」
「うるせー技かけんぞ」
深津は冷蔵庫からプリンを出した。ひとりいっこ配って、残った一個はこまちちゃんのあしたのおやつピョン、としまい直した。そして自分の分は2口くらい食べると、これもまたこまちちゃんにあげてしまった。こまちちゃんはふっくらした真っ白い頬を持ち上げて笑った。深津はあのときと同じように、目元と口元を緩めている。
8時前にアパートを出ると、駅に向かって今度は並んで歩き始めた。
「参考になったかピョン」
「なった、ありがとう」
「良かったピョン」
「河田くんもこまちちゃんもいい人だね」
「まあでもあれがまともな男女交際のサンプルじゃないことは俺でも一応わかるピョン」
「そうなの?」
「生まれたときから兄妹同然で他のやつには見向きもせずにお付き合いとかすっ飛ばして二十歳で突然結婚するやつが普通とは思えないピョン。でも他のサンプルがないピョン」
「なるほど」