ふかつの恋
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その日も深津は黙ってわたしに背中を差し出した。わたしも黙って大きい筋肉質の背中に体を預ける。ショルダーバッグの外ポケットに鍵をいれているのはとっくの前に知られている。なんて言おうか考えていたらあっという間に部屋についていた。深津は器用に私のスニーカーを脱がせると、いつものように私をベッドに転がした。台所でコップに水を入れてくれて、ベッドの横のテーブルにおいて、出ていく。いつもの流れだ。
「ねぇ」
「なんだピョン」
「あんたほんとよくわかんない奴だけど、隠し子は斜め上すぎない?」
「は……?」
玄関に向かおうとして、振り返った深津はこちらに踵を返してきた。
「妊婦さんと歩いてた、にこにこして」
「見てたのか?」
「友達とお茶してて」
「あれはこまちちゃんだピョン。まあ、なんだろーな、お米の妖精だピョン」
「は?」
「そんで河田の奥さんピョン」
「………かわた?」
「河田雅史、俺の高校のチームメイトの、」
「あの河田くん!?結婚してんの!?」
「こまちちゃんは寮にお米持ってきてくれてたからみんなよく知ってるピョン、松本も。もういつ生まれてもおかしくないってのに河田が試合で留守にするから泊まってくれって頼まれたピョン。こっちに親戚もないしこまちちゃんの友達もいねえピョン」
「……なんだあ、てっきり深津結婚してんのかと……」
「無事に生まれたから会ってきたピョン、河田より弟の美紀男にそっくりで爆笑だピョン」
「あー、河田美紀男くん」
「俺に結婚なんかできるわけねえピョン。そもそも女子も苦手だしどうやったら特定の男女間で交際が始まるのかもまったくわからんピョン」
びっくりした勢いで飛び起きた私は、テーブルとマグカップを挟んで向かい合っていた。
こういうのは初めてなので次の言葉を慌てて探す。よっぱらった私の慌てた挙動なんて全部お見通しなんだろうな。
「それはわたしも同じじゃん」
「だからずっとお前を送るのは俺の仕事のままピョン」
「それは毎度、すみません」
「どう見てもそんなにひどく酔ってる訳じゃないピョン。それでも背中向けたらお前は乗ってくるピョン。お前に男ができない限り卒業するまではこの役目は保証されてるピョン」
「……ん?」
「その先はなんにもなくなるって、わかっててもどうしたらいいかわかんないピョン」
「…ん?あの、ふかつ?」
「喋りすぎた、帰るピョン」
「ふかつ!?」
「陸の上からしっかり考えるピョン」
いや、酔い覚めるどころじゃないってば。