ふかつの恋
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もういつ生まれてもおかしくない時期なのに河田は遠征がある、美紀男も1年生で休みづらいというので俺に白羽の矢が立った。2日ばかり泊まりにきてくんねーか、と電話を寄越した河田に俺はは?としか言えなかった。
こまちちゃんのお腹は大きいけど体調は悪くない。だけど突然陣痛がきたらひとりじゃ心配なので泊まってほしい。夜に生まれそうになったらタクシー呼んで荷物もって一緒に病院行って俺に連絡くれってそんなの俺がこまちちゃんの旦那みてえだピョン、と思いつつ、こまちちゃんには色々恩があるので快諾した。
「駅まで来なくて良かったピョン」
「運動しないとね」
「そーゆーもんなのかピョン」
「お産は体力いるらしいから」
「ピョン」
俺の知ってる限り、こまちちゃんは一度も河田から目をそらさずに、河田が根負けして正直になるような形で結婚した。沢北もぶっとんだやつだったので、散々ド直球にすきすきすきとぶち当たって振られ続けて最終的には謎の友情を築いてアメリカに旅立った。こまちちゃん、只者ではない。深津先輩が来てくれるから、と山盛り作ってくれたおかずに遠慮なく口をつける。
「体調いいピョン」
「さっきも言いました」
「河田は心配性だピョン」
「前駆陣痛があるんです」
「なんだそれ」
「夜になるとお腹がきゅっとなるんです。中の人が出ていく練習をしてるらしいです。これが10分間隔とかになるといよいよ生まれるらしいんだけど。それで雅史くんが心配しちゃってすみません」
「いいピョン、いざとなったら俺が立ち会うピョン」
「ふはは、産声がピョンだったら完璧ですね」
「俺の息子にするピョン」
たのしく食卓を囲んで、どうぞといわれた一番風呂はこまちちゃんに譲って、自分ちのようにテレビをつけてごろごろしつつ同じ時間に床につく。こまちちゃんはいつも2人で寝ているらしい大きな布団のはしっこに丸くなった。俺はふすま一枚隔てた居間に布団を広げる。よかった、こまちちゃん元気そうじゃねえか。
「っん~、は、ふぅ~」
荒い呼吸の音に目を覚ます。時計は2時をさしている。こまちちゃんだ。
「こまちちゃん、入るピョン」
「ん、ふかつせんぱ、い」
「うまれる?」
「たぶん、ん、ちがう、」
「痛いピョン?さわるピョン」
「ん~…は、は、」
「がんばれピョン」
横になって丸まったこまちちゃんの腰のあたりに手を当ててさすった。痛みが和らぐと、こまちちゃんはゆっくり息をしてそのまま眠りについた。なるほどこの様子では河田が心配になるのも無理はない。2晩目も同じようにして、幸いその痛みが頻回になることはなく無事に俺は役目を終えた。
こまちちゃんが第一子を無事に出産したという連絡を美紀男からうけたのはその一週間後のことだった。