こまちちゃんと沢北くん
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こまちちゃんは、こまちちゃんは、と何かと聞いてくる沢北に腹が立ってプロレス技をかける。インターハイ見に来ないんですか?と曇りなき眼で訊かれてため息で返す。
「農家に休みはねーからな。夏はずっと草刈りだべ」
「えっ、こまちちゃんが?」
「あいつも最近はなんでもできるでな。年上のきょうだいはみんな出ていくから」
「…こまちちゃんは出ていかないんですか」
「あいつは今そんなこと思ってないよ。母ちゃんはインターハイ見に行けって言ってくれてるらしいけど」
「ふーん」
「ああ見えて頑固なんだよ」
「ふーん?」
どうやら母ちゃんが米を持ってくるのは月末と気付いた沢北は、7月のおわりをそわそわしながら待っている。1年生のスーパーエースがとうとう全国にデビューする。どうやら応援の言葉の1つでももらいたいらしく、いつも通り金曜の夜になったチャイムに飛び出していった。
「こまちちゃん!」
「ヒッ!おこめ!おこめ運んでください!」
「こまちちゃん!俺インターハイ出るから!応援して!できれば見にきて!」
「ヒッ!あっ!まさしくん!助けて!」
「えっ!ヒドイ!俺がなにしたって言うんだよう」
「おい、米運ぶからひっつくな」
「だって…」
「イチノ、ちょっとそいつ沢北から守っといて」
「ええ~?沢北~?」
「さ、さわきたくんが悪い人じゃあないのはわかるんですけど……」
「ですけど?」
「その、圧が……つよくて……なんてゆうか、こわいです………」
「うそお!かわっさんの方がぜってー怖いじゃんか!」
「おい沢北こいつの下敷きになるか」
「やめっ、うわあ、重い!重いってば!!うわあ!」
「うるさいベシ」
一通りのものを運び終えて、夏は馴染みの部員たちに、インターハイ頑張ってくださいね、などと言葉をかわしている。目敏い沢北が俺にも~とせがみに言ったもんで、夏は3年生のうしろに隠れてしまった。
「河田、こまちちゃん助けてやれ」
「夏おまえ、同い年なんだしちっとは近寄ったらどうだ。そんな悪いことはせんで
な」
「まさしくんにわかるもんか、ちょっと前までちっちゃかったくせに」
「はいはい」
「こまちちゃん、絶対おれ河田さんより幸せにできると思うんだけどなあ」
「やだ、わたしは大きくなったらまさしくんのお嫁さんになるの」
「えっ!?お前ら付き合ってたのか!?」
「ちがいますよ、こいつ4歳からずっとこれしか言わないんで」
「ほんとだもん…まさしくんが家開けてるから外堀埋め放題だもん…」
「お前なあ、泣きながら怖いこと言うなぁ」
監督とおしゃべりして戻ってきた母ちゃんが軽トラのエンジンをかける。助手席の方に向かいながらこっちを振り返った夏は、みなさんインターハイ頑張ってくださいね、また来月、と言って頭を下げた。しつこく食い下がる沢北の顔をようやく見て、沢北くんもしっかりね、と言って行ってしまった。ガッツポーズをしている沢北、なにか言ってほしそうだけど言ってやらない。