こまちちゃんと沢北くん
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少しはなれたところから、ひょっこり飛び出たかわいらしい顔が見えた。向こうからもこっちはよく見えているらしい。河田が結婚して以来はじめて美紀男と待ち合わせたのは、半月前にこまちちゃんが無事に男子を出産したからだった。めずらしくこまちちゃんが直接電話をかけてきて、深津先輩も見たら笑うと思う、と謎をひっかけらたら行くしかない。ひさしぶりっす、と笑った美紀男は入院中に会いに行ったらしく、深津さんも見たら笑うと思うっす、とにこにこしている。あれから背は5センチのびて体重が5キロ減った美紀男は、ずいぶんスポーツマンらしい体つきになっている。
「よく知らないけど、産後は実家に帰ったりしないのかピョン」
「夏、実家にいると毎日畑に出そうだから帰ってくるなっておっちゃんたちが。来週までうちの母ちゃんが来てます」
「ピョン」
慣れたベルを鳴らすと、まきこさんが顔を出す。深津くん、と両手で肩をばしばし叩かれて、ごぶさたですと頭を下げる。
「おー深津」
「おめでとうピョン」
「おう、ありがとよ」
「あー深津先輩、今おっぱいあげてるから待ってー」
「ピョン」
夏が好きだからよ、と手作りらしいおはぎと番茶を出してくれたまきこさんや美紀男と昔話をしていると、そーっと近づいてくる気配。立ち上がってその腕に抱かれた生命体を覗き込み、不意をくらってフ、と笑ってしまった。
「美紀男だピョン」
「でしょ」
「俺も自分の顔見てるのかと思いましたよお」
「まさしくん立ち会ったんですけど、お父さん産まれましたよって言われて、は?って言うからどうしたのかと思ってね、わたしも朦朧としてたんだけど、顔見て美紀男だ…って言ったのは覚えてる」
「まあ兄弟だからな。美紀男の子どもが河田そっくりってこともありえるピョン」
「えー、それはちょっと可愛くないなあ」
「おい」
「それで、みきおのみの字をもらって美大(よしひろ)になりました」
「いいでしょう」
とてつもなく大きい美紀男が、とてつもなく小さい赤ん坊を大事そうに抱き上げる。大好きな兄夫婦のはじめての子供で更に自分にそっくりとあってかわいくてかわいくてたまらないらしい。深津さんも抱っこしてくださいとなぜか美紀男に言われて、河田とこまちちゃんの方を振り返る。だまってにこにこしている2人にため息をついて、肘の下のあたりにちいさな頭をのせる。
「軽いピョン」
「これでよく臓器そろってるよな」
「頭小さいピョン」
「だべ」
「かわいい…」
大人しく知らない男に抱かれている赤ん坊は、目玉を動かしたり、てを動かしたり、顔をくしゃっとしたり、この世に産まれてきたことを確かめるように動いている。
腹のなかで動いていた、あの時の掌の感覚を思い出す。お前だったのか、会えてうれしいよ。