年下男子の仙道くん
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葉子さんが付き合ってくれることになりました、というと、おじさんは、よく頑張ったもんねえ、粘り勝ちだ、と笑って晩御飯のおかずをひとつふやしてくれた。
葉子さんは、喋るのが早い!でれでれすんな!と全然効かないパンチを打ち込んできたけど、そんなに怒っている風でもない。
俺はバスケに打ち込んで、葉子さんは相変わらず、鎌倉時代のドロドロ史跡を回っている。最近は和歌に興味があると楽しそうに話していたけどまったく意味がわからない。
土曜日に店で会えたら、日曜日の約束をするけど、もっぱら部屋での晩御飯だ。かなり気を許されている、というか、大きい弟くらいにしか思われてないのか、そのへんに下着がぶらんと干してあったりもする。俺はそれを自主的に、あまり見ないように目を逸らしているんだけど、葉子さんの方はたぶんそんなの気にも留めていない。今までは言い寄られて付き合ったことしかないから、どうやってキスとかできそうな雰囲気に持ち込めるのかもわからない。まあ飄々として見えるのが俺のいいところなんだけど、頭のなかではこんなに悶々といろんなことを考えてしまっている。おかげでなぜかバスケに身が入ってしまい、田岡先生からもお試しで練習に参加させてくれた大学の監督からもけっこう褒められて不思議な気分だ。俺は今それどころじゃないんだってば。
世の中は共通一次試験がおわり、3年生は午前中でお役御免だ。同じ大学に決まっている福田と練習して、はやめに切り上げる。夕方の緩く長い坂道をゆっくりのぼっていくと、入ったことのない建物から葉子さんが出てくる。また喫茶店発掘したのかな、と看板を見て俺はびっくり、そこには産婦人科の文字が。葉子さんはというと、立ち尽くす俺を見つけて、彰くん早いねえ、一緒に帰ろうと駆け寄ってきた。
「えっと、」
「どしたの?わたし今からバイトだから一緒に行こ」
「せ、せきにんはとります…」
「は?何言ってんの?」
次の言葉を見つけられずに、看板と葉子さんを見比べている視線に気づいたらしく、彼女は笑って高校生が何言ってんの、と歩き出した。
「誤解です、誤解」
「へ?」
「大体そんなことしてないじゃん」
「う、」
「まあ彰くんには話してもいいけど、外でするような話じゃないんだよね。お店閉めたら行くからこの袋もってて」
「袋?」
葉子さんは、薬が入ってるらしい白い紙袋を俺に渡すと、鞄にしまうように言った。お店につくといつも通り、奥に入ってエプロンをつけてしまった。おじさんが山盛りにしてくれた肉野菜炒めで、ごはんを大盛り二杯食べて俺は店をあとにした。葉子さんは常連のおじさんと、野球の話で盛り上がっている。部屋に戻っても俺は、なんか怖くて預かった袋を取り出せずにいた。お店が終わるまでにあと2時間以上はある。シャワーを浴びながらたぶん俺はひどい顔をしている。寝転がってみたり、テレビをつけてみたり、水を飲んでみたりしたけど、時計を見ると20分くらいしか進んでなくて笑うしかない。テレビの内容も全然頭に入らないまま、ようやくやってきた葉子さんは俺を見て、なんか疲れてる?と笑った。
「あれ、見た?」
「見てません」
「うそ!まあでもそうだよね、高校生男子は産婦人科なんて縁ないよね」
「まあ、」
「わたし生理がめちゃめちゃ重くてね、高校生の時倒れちゃったことあるの。それですすめられて、ピルって知ってる?」
「ん…名前聞いたことあるくらい」
「だよね。それ、中身見て」
「………経口避妊薬」
「そう。それ飲むとね、生理すごく短くなるし軽くなるの」
「毎日飲むんですか?この感じだと」
「そうそう、3週間ね。なんか、体が妊娠したと勘違いして排卵が止まるんだって。そんで、1週間休んでる間に生理が来る」
「なるほど…正直実感はないですけど…女の人は大変なんですね」
「まあでも、わたしの目的はもともと違うけど文字通りの効果もあるから。」
「経口ひ、」
「ひにん」
「待って」
「誰よ昼間よくわかんないで責任とるとか言ってたのは」
「待ってって、」
ダイニングテーブルの向かいから、俺の左手を両手で握りながら、葉子さんは袋の中身について教えてくれた。
「生々しいよね。聞きたくなかった?」
「俺、葉子さんの、めんどくさがらないでちゃんと説明してくれるとこ、好きだよ。鎌倉幕府の話はよくわかんないけど、今日はわかった」
「そんならよかった」
「俺、でっかい弟くらいに思われてるのかと思ってた」
「わたしが仕方なく付き合ってると思った?わたしこれでも彰くんのこと好きだって思ってるんだけどな、盲目になってないだけで」
「確かに地に足ついてますね」
「彰くんがなんか物欲しそうな顔で考え込んでるのも気付いてるよ。でもわたし本当に経験ないからどうしたらいいかもわかんなくて、ごめんね」
「ばれて、ました」
「でも話した通りだから。流されるとかじゃなくて、大丈夫だから」
「うん」
「わたし、恥ずかしながらイメージ沸かないんだけど。彰くんしたことある?」
「……」
「うそ、まじ?いつ?」
「……中3」
「うそ…シティーボーイこわ……早熟……」
「待って、待って、あの、……はー、かっこつかないなあ~」
「なんだよ、今更じゃん」
「中学の頃は…付き合ってって言われて…なんとなく、まあいっかって適当に…最低ですよね、ほんとに、葉子さんのこと好きになっちゃって、嫌われたくないし、傷つけたくないし、もっと踏み込みたいけどどうしたらいいかわかんなくて」
「泣かないでよ」
「泣いてないです」
「そう?」
「ほんとでも、自分のことしか考えてなかったんだな」
「そんなことないよ、彰くんはいつもわたしのこと見ててくれるじゃん」
「葉子さんは人がよすぎるんですよ」
「彰くんは自分のこと、悪いやつだと思いすぎだよ。わたしは今の話わかってくれたんなら、共犯だと思ってるけど?」
「俺はもうなんか、自分がクソガキすぎて…」
「はは、しょんぼりしてる。かわいい」
「かわいい?」
情けないやら恥ずかしいやらで頭を抱えるおれをみて、楽しそうにしている彼女にいったい何を言ったらいいだろう。どうやらがっかりされたというリアクションではない、と信じたい。
「帰らないでって言ってくれないんだ」
「ええ~!?それはさぁ~」
「彰くんちってさあ、ほんとなにもないよねえ」
「…手当たり次第文句言ってる?」
「今からわたしんち来たら、明日朝ごはん作ってあげるよ」
ちら、と見上げて、まだにっこりしている葉子さんの掌を握った。
「いいの?」
「いいよ」
「葉子さんもしたいの」
「…うんって言ったらがっかりする?」
「しない……しないよ、嬉しくて頭変になりそう」
「それは困ったなあ」