年下男子の仙道くん
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葉子さんは週末たまにカレーを作ると、晩御飯に誘ってくれるようになった。付き合って、と何度か言ったけど、高校生に手を出すほど飢えてません、ときっぱり断られることに、俺も甘えているのかもしれない。3年の夏にはいくつか推薦がきて、その多くは地元東京の学校だったけど、気が向いたら釣りに出掛けられるこの家が、俺はすっかり気に入っている。声をかけてくれた神奈川の大学のうち、ここから通える場所にきめたけど、葉子さんにはまだ話してない。
練習試合があって午後7時頃駅に戻ると、大丈夫ですから、ありがとうございます、と聞きなれた声がして声の主を探すと、改札の中の売店の前で男性に頭を下げているようだった。
「葉子さん?」
「あ、彰くん!」
「どうかしました?大丈夫?」
「あ、あの、こちら、ゼミの先輩の広本さん。広本さん、えーと、なんだろ、ご近所さんの彰くんです」
「広本です、どうも」
「先輩って、」
葉子さんは、俺の顔を見ると気まずそうに目を逸らした。
「ああ!あのすごくお似合いの彼女さんがいるって前に話してた?」
「そ、そう」
「羨ましいなぁ、うまくいって。俺ね、1年以上この人のこと口説いてるんです。邪魔しないでくださいね、お兄さん。ほらほら行きますよ」
「わ、ちょっと彰くん!広本さんおつかれさまです!さよなら!」
葉子さんの腕を引っ張って、無理矢理駅をでた。さすがに改札の外まではついてこなかった。途中信号で立ち止まったときに、腕をつかんでいた手を離して、掌と掌をつないだけど、文句は聞こえてこない。どんどん歩いて、俺の部屋の鍵を開けて、そのまま引っ張りこんだ。律儀におじゃまします、と言った葉子さんの手をようやく離す。小さなダイニングテーブルに麦茶のグラスを2つ置くと、向かいに葉子さんがちょんと座る。
「悪いことしました?追い払っちゃった」
「今日ゼミのみんなで鶴岡八幡宮にフィールドワークに行ったんだけど、電車で最後ふたりになっちゃって、最寄りがここだって言ったら降りてきちゃって」
「下心まんまんだな。別れたの?」
「別れてない。家まで送るって言われて、断ってたの。先輩のことは兄のように思ってるけど、どちらかというと彼女さんにお世話になってるからわけわかんなくて」
「なんだ、化けの皮はげてたのか」
「ごめん彰くん、助けてもらっちゃった」
「なんで?本当のことですよね、俺が葉子さんを1年以上口説いてるって」
「…だから、高校生に手は出しません」
「ね、言ってなかったんだけど俺、大学もここから通いますから」
「…は?」
「釣り楽しいんですよ。推薦もらった中に、近くのとこあったから」
「推薦って、バスケ?」
「そ。勉強はさっぱりなんでね。どうします?あと半年もしないうちに俺、大学生になっちゃいますよ」
「ま、じ、」
「まじ。もう年下だからってのは使えなくなりますよ。そろそろ覚悟きめてくださいね」
「なんと…」
「それとも繰り上げで彼氏にしてくれてもいいですけど」
「繰り上げって、こんなときに使う?」
「えっ、間違ってるかなあ」
すっかりいつも通りの様子の葉子さんをじっとみつめる。
「ま、ちょっとフェアじゃないかな、今日のところは諦めよう」
「何言ってんだか」
「あのねえ、俺は葉子さんのこと好きってずっと言ってるでしょ。一人暮らしの部屋にのこのこ上がり込んじゃだめですよ」
「…でも彰くんは、わたしが嫌がることはしないよ」
「うん、そう思っててほしいから。だから今日は解散」
なるべく優しく見えそうな顔をつくって、葉子さんを立ち上がらせたところで、俺の腹の虫が盛大に音をたてる。そーだよ俺は、腹ペコのクソガキだ。
「彰くんほんとに食いしん坊だよね」
「返す言葉もないです」
「駅前にさあ、焼肉食べ放題のお店できたの知ってる?」
「知ってます」
「今日は助けてもらっちゃったし、お姉さんがごちそうしちゃう」
「えっ、」
「それでさあ彰くん」
「はい?」
「付き合おっか、もう負けた」
「………まじ?」
「………まじ」
善は急げだ、と玄関に向かう葉子さんを慌てておいかける。くそ、もう、全然かっこつかないけどそんなの構ってられない、好きだ。