年下男子の仙道くん
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インターハイの予選があるというので、最近の彰くんは妙に静かだ。陵南高校というのは県でベスト4の強豪で、スーパーシードというので決勝リーグのひとつ前から登場するらしい。
いよいよ大一番、とおじさんが言っていた土曜日、彰くんは夕方のれんをくぐって、眉毛を下げて負けちゃいました、と言った。お水を出した私の手を捕まえると、ゆっくり息をして、それから、明日見にきてください、と言った。
「わたしバスケなんか見たことないけど」
「うん、でも、お願い」
「どこであるの」
「湘南運動公園の体育館、朝10時から」
「うーん、朝起きれるかなあ」
「そんなこと言わないで。勝ったらインターハイいけるから」
「まあ、気が向いたらね」
彰くんのために今日はカツ丼だよ、とおじさんが声をかけると、彰くんはありがとうございます、と笑った。
翌朝わたしは、9時過ぎに自転車で家をでた。バスケの観戦なんて初めてだし、高校生の大会を大学生が私服で見に行くなんて場違いじゃないかな、そもそもわたし運動部と縁なかったし、というモヤモヤが、杞憂であることを思い知る。高校生のバスケ部員だけでなく、制服や私服やスーツや、色んな服装の人が入り乱れている。蒸し暑いのでお茶を買って、スタンドの後ろのほうにそっと座った。
既に試合は始まっていて、彰くんのことを大きいと思ってきたけど、同じくらいの子やもっと大きい子もたくさんいるのに驚いた。彰くんがボールをもつと、センドー!と歓声があがる。にこにこしておっとりしていると思っていた彰くんがシュンシュン走っては、軽やかにシュートを決めるのが嘘みたいに思える。ダンクが決まったときにはもう、開いた口がふさがらなくなってしまった。スタンドにまで響いてくる、なにやら仲間に指示する声は、いつもわたしのことを葉子さん、と呼ぶのと同じ声だ。ベスト4の試合だけあってどの選手もすごい動きをしているだろうけど、わたしはもう彰くんから目が逸らせない。
「あ」
「葉子さん、おかえり」
「彰くん、すごかったね」
「負けちゃったけどね」
店休日と書かれた札の下に座り込んでいた彰くんは、わたしの姿を見つけて立ち上がった。あんたさっきまでスーパースターだったじゃん。
「お店休みだよ」
「待ってたら葉子さんに会えると思って」
「なにそれ、スーパースターのくせに。うち今日カレーだけど食べに来る?」
「…いく」
座ってて、と言ったのに、彰くんはスポーツを玄関先にどさっと置いて、カレーをあたためている私の様子を斜め後ろで見ている。なるべくいつもお店で食べてるのに近くなるように、キャベツをきざんで、トマトを並べてサラダにして、きゅうりの浅漬けも出して、そのへんにあった人参とかとろろこぶとかを放り込んでお味噌汁も作った。できたから座ってて、と言おうとして振り返ると、190センチの大男と目が合う。彰くんが泣きそうな顔で腕を伸ばしてきたので、思わず身をこわばらせる。
「ごめん、今だけ」
「ん、」
彰くんの体からは、ほかほかした汗の匂いがする。飄々としてるんだと思ってた。ずっしり体重をかけられて、思わず座り込んだら彰くんもくっついてきた。大丈夫だよって気持ちを込めて、大きな背中をとんとん叩いた。
ぐう、と音をたてたのは彰くんのお腹だった。目があって、わはは、と笑った。
「おかえり彰くん、ご飯食べよう」
「お言葉に甘えて」