赤木と恋が始まらない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ブフォ」
「ゴフッ」
「おい!笑うなよゴリラ!」
「ブハ、お前なんだそのかっこう」
「うっさいな、美容院でいい感じにしてって頼んだらパーマかけられちゃったのよ!あんたこそなによその中間管理職みたいなかっこ」
「仕方ないだろスーツ なんて滅多に着ないんだ」
「しっかしすごいサイズだね」
「うるせえ」
梅雨もあけた7月のおわり、久しぶりに帰ってくる赤木と、互いの実家に挨拶に行くのにうちの近くで待ち合わせる。きれいな服など持ち合わせていないので、駅前で花柄のワンピースとパンプスを買い、近所の美容院に駆け込んだ。
「赤木って覚えてる?」
と言うとうちの親は、
「ミニバスで一緒だった?」
「えっ、全日本の垂れ幕でてるあの赤木くん?」
というリアクションだったので、結婚しようと思ってるからこんど連れてくるというと、同じようにあんぐり口を開けて黙り込んでしまった。めいっぱいきちんとしてきたらしい赤木は、いつもより迫力が増しててもう笑うしかないけど、うちの両親は予想通り、頭をぶつけないよう少しかがんで入ってきた赤木をみて、玄関先ででかい…とつぶやいたきり黙ってしまった。
「あっ…かぎくん…小学生の頃から見上げる程大きかったもんねえ」
「2メートルよ2メートル」
「2メートル…」
「ま、まあ!とにかく上がって!」
「あの、今日は、結婚のお願いに参りました」
「ブハハ!すごいド直球!」
「うんうん、娘から聞いてるから、とりあえず上がってください」
「失礼します」
もう結婚はしないんだろうと思われていたわたしが男を連れてくるというので集まっていた兄や姉の家族は、リビングに現れた大男に言葉を失っている。兄の息子がゴリラ…と呟いて、姉の夫が吹き出しかけたのを我慢している。とどめにわたしが、仕事は獣医で夫はゴリラっておもしろくない?と言うと、一同大爆笑になってしまった。このギャグはいいな。
「全日本?バスケの?すごいなあ」
「北村中なんて万年弱小なのになあ」
「うちの子は動物と酒が大好きでねえ」
「知ってます」
「良妻賢母って感じとはほど遠いんだけど大丈夫かなあ」
「それはよく、わかってます」
「本当にいいの?なんか無茶苦茶なこと言ったんでしょどうせ」
「赤木が見合い結婚の危機に瀕してたから、そんなら私のものにしちゃおうと思って」
「ひどい言い方」
「あんまりだろ」
「学生の頃からやりとりしていた手紙を、遠征に行くときいつも持って歩いてます」
「うそ!初耳!」
「言ってないからな」
「なにそれ、赤木わたしのことめっちゃ好きじゃん」
「悪いか」
「まあ悪い気はしないね」
「なるほど、真面目な人って聞いてたし心配はしてなかったけど思ったよりお似合いみたいだな」
「ゴリラと獣医だからね」
「お前それ何回言うつもりだ」
「まあ本当に、うまくいってるみたいで安心した。まあ俺も母さんももともと賛成だし、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「お昼は?」
「赤木んちで食べる」
「母というより、妹が是非と」
「そうそう、とっても可愛い妹さんだったわよね、全然似てなくて」
「は、はい…」
滞在時間30分ほどであっさり終わった挨拶も、赤木はやはり真面目に緊張していたようで、ドアをくぐりそびれて頭をぶつけている。甥や姪がゴリラもう帰っちゃうのーと残念がっている声が聞こえて全然しまらないけど、一応真面目に頭を下げた赤木が面白くて吹き出したらどつかれた。
少しだけ回り道して、新しくできたお菓子やさんでおいしいと評判のベルギーワッフルをお土産にして、赤木家を目指す。そんなに高いヒールではないけど、普段スニーカーしか履かない分甲が痛む。ちょっと待ってと言っても手も差し出せない婚約者の背中にパンチを決めると、さっさと歩き出した。
「夏希先輩っ!ご無沙汰してます!」
「晴子!ひさしぶり、変わんないね」
「先輩はなんかすごいおしゃれ!どうしたんですか?」
「も~そうなのよ~聞いて!」
「いいから入れおまえら!」
「はーい」
いらっしゃい、と出迎えてくれたのは、歳こそ重ねたものの紛れもなく赤木のおばさん。
「まあ、きれいになって夏希ちゃん。ミニバスの頃は脚が速かったわよねえ」
「あの頃は赤木より速かったんですけどね」
「懐かしいわね。ごめんね、晴子が是非って言うから食事まで」
「いーえ、いつもお弁当美味しそうだったんで楽しみにしてきました。おじゃまします」
「剛憲の父です。はじめまして」
「はじめまして、草野夏希です」
「それが、その…見合いをすすめたら途端にこんな話なので、タケが無理いったんではと思って心配してたんだけど」
「いえ、まあ、あの日会えたのは偶然だったけど、話を聞いたら他の人にとられたくないなって思っちゃって、いっそわたしの夫になってもらおうと思って」
「な、」
「今日はおしゃれしてきたんでアレですけど、いつも動物の匂いまみれの泥まみれでぼろぼろの行き遅れですけど、どうぞよろしくお願いします」
「それは、もちろん、こちらこそ。実のところこんな感じの息子なので、見合いをしても怖がられるだろうと思って弱ってたんだよ」
「ふふ、仕事は獣医で夫はゴリラってのもいいでしょ」
「お前それ今日1日で何回言う気だ!」
「いって!ゴリラのチョップ!」
「誰がゴリラだ!小学生か!」
「でも木暮もゴリラって言ってたじゃん!」
「あいつはまあそういうとこがあるんだ」
「わたしもそうなんです~」
「ぬぅ……」
「それで?そのおしゃれな髪型はどうしたの?」
「そうなんです、中学校の近くのマキっていう美容院でね!」
「うそぉ、私もマキに行ってるのよ!」
「えっそうなんですかあ?」
「マキの奥さんパーマが好きなのよ!私はずっとショートなんだけど、伸ばしてパーマかけない?っていつも言われるの」
「そーだったのかぁ…いやまあ結べる長さなんで、仕事に支障はないんですけど」
「そうよね、獣医さんなんて力仕事よね」
「そうそう。それにうちはじいさんと息子とわたしの3人体制なんで、牛とか馬の仕事も受けるんですよ。ほとんど作業着です」
「へえ、格好いいな」
「今日、木暮さんと飲みに行くんですって?」
「そうそう、久しぶりに三人でね。晴子も来る?」
「えーっ!本当は行きたいけど実は今日お誘いがあって」
「なによ、晴子も出るの?お父さんと2人じゃない、私たちも食事に行く」
「うん、悪くないな」
赤木家、おばさんが美人なのは知ってたから、お父さんがゴリラなのかと思ったら、全然ゴリラの成分を感じなくて驚いた。似てない兄妹に挟まれて座って、なんだか変な気持ちだ。今日は木暮とも約束をしているもんで、赤木家をでたあと一度アパートに戻って、化粧もおとしてシャワーを浴びてひとねむり。動きにくい服なんて着るもんじゃないな。扱いのわからないパーマヘアをゴムでひとまとめにして、いいわけ程度の日焼け止めに眉毛だけかいて、ジーパンに白いシャツで玄関にぺたんこのサンダルを出しておいた。
約束の2分前にベルがなって、こちらもジャージ姿の赤木が姿を現す。なんだかおかしくなって、腕を絡めると赤木がわざとらしく視線をそらす。
「木暮もパパだもんねぇ、いい話聞きたいなあ」
「む、そうだな」
「晴子も出掛けるって言ってたね。彼氏?」
「いや、何も言ってなかったが…そういえば妙にしゃれこんでたな」
「悪かったねしゃれこんでなくて」
「そういう意味じゃない」
楽しみだね、などと言いながら1駅先の木暮の最寄りで降りると、駅前の居酒屋に入る。
「あっ!きた赤木さん」
「おーゴリ!遅いぞ!」
「こ、木暮、これは…」
「ごめん赤木、一昨日駅でマネージャーに会ってな、赤木と会うって言ったらみんな来ちゃって」
「わ、木暮!変わんないねー」
「草野!久しぶり、元気そうだな!まさか2人が結婚なんて俺はもう泣きそうだよ」
「木暮、もう飲んでる?」
「いや、」
「草野先生?」
「あら、桑田さん?えっ、まさか赤木の後輩?」
「えっ、赤木キャプテンの婚約者って、草野先生!?」
「なんだお前ら知り合いか」
「実家の犬が歳なので、ふたつきに一度は診てもらってるんです。いやあ驚いた…」
「ハルちゃんその後どうですか?先月来たときは元気でしたよねえ」
「ええ、お陰さまで。去年ご飯食べなくなっちゃったときはどうしようかと思って」
「もうおばあちゃんだからね。ほらー私だって30前にして揚げ物とか食べるともたれるもん」
「そそそそんなぁ、」
なんとなんと。後ろの方でどの口がとか言ってるゴリラ、聞こえてるぞ!背中にごんとパンチを入れると鼻をつままれる。くそ、子供扱いしやがって。
「犬ってことは、 お姉さん、ジューイか?」
「そうそう、ジューイ!仕事がジューイで夫はゴリラって面白くていいでしょ」
けっこううけてる、いいぞとにんまりしたわたしの両脇で、赤木はため息をついて、木暮は噎せて死にかけている。ジューイか?と話しかけてくれた赤髪くんは真剣な顔でなにかを考え込んでいるらしい。
「木暮だけだと思ってたから眉毛しか書いてないんだけど」
「慣れないことせんでいい」
「わるいね、普段動物の相手ばっかしてるんで。いいねバスケ部、みんなおっきいワンちゃんみたい」
「ワンちゃん……」
「遅れてすみませーん!あれ?お兄ちゃんと草野先輩?」
「なるほど、そういうことか」
「晴子ちゃんとも親しいんですか?」
「中学のバスケ部の後輩でね」
「なるほどぉ」
「ふふ、大好きな先輩が私の姉になるなんて、最高です~お買い物とかお食事とか行きましょうね」
「ひぇ~かわいい~目がつぶれる~!赤木の妹とは思えん~」
「ほんと似てねぇよな」
「やっぱりみんなそう、」
「あ、草野、覚えてるかな、前に話した三井だよ」
「三井……」
「三井寿」
「武石中の!」
「おい木暮!もう30になんだぞ!いつまでその話すんだ!」
「えっ?三井くんってなんかこう、この世の全ては俺のものと信じて疑わない系のうるさいイケメンじゃなかった?わたし別の人イメージしてんのかな」
「いや、たぶんそれで合ってる」
「へー、そりゃ随分色々あったんだろうねえ」
「やめてくれ…」
楽しい飲み会はあっという間にお開きになり、お酒が回ってやはりアホになってきた三井くんをタクシーに押し込んで、美人マネージャーの彩子ちゃんは家が近いというルカワくんが送っていくらしい。晴子も一緒に帰ろうと誘っていたら、桜木くんがぷるぷるしながらハルコさん送ります!と申し出たので、赤木を押してその場を離れる。
「あの二人いい感じなの?」
「いい感じも何も晴子が気にも留めてないからどうともならん。高校の頃からずっとあの調子だ」
「えーそうなの?あんなかわいい弟だったら大歓迎なのに。おっきいわんちゃん」
「それは晴子に言ってやれ」
「ほんとね」
休日とはいえ夜の10時を回ると人通りも少ない。当然のように送ってくれるつもりらしい赤木は一緒に電車にのって、一緒に降りた。
「あんなに飲んでたとは思えないな」
「赤木もまあまあ酔ってる?三井くんわかりやすく酔っぱらってて笑っちゃった」
「お前が強すぎるんだ」
「そう?彩子ちゃんもなかなかね」
「あいつはまあ、まさにそうだろ」
「赤木ぃ」
「なんだ」
「泊まってく?」
「な!!」
5歩くらい歩いて、フリーズした赤木を振り返る。夜道の赤木、めっちゃ怖いな。
「着替えがない」
「洗って干しとけば乾くよ。パンツくらいコンビニに売ってるし」
「その…」
「いいよいいよ、酔ってるのに真剣に考えなくて。また今度にしよう」
「や、待て」
「なんだい」
「コンビニ寄るから、待っててくれ」
「…わお」