赤木と恋が始まらない
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剛憲は大きくてね、晴子が生まれたとき小さくてびっくりしてたらこれが普通ですって言われちゃったのよ、と母は、昔のことになると必ずそのくだりをはさむ。幼稚園の年少か、年中のときだったと思う。喧嘩などではなく、一緒に遊んでいた子を怪我させてしまったことがあった。遊びの中で体がぶつかっただけだったが、相手は転んであちこち擦りむいてしまった。母親が相手の親に平謝りしている姿が目に焼きついた。
俺はでかいから、気を付けないといけない。幼心にそう、強く思った。小学2年のとき、同じ学校の2つ歳上の子達とドッヂボールをしたことがあった。お前でかいなあ、土曜日にバスケやってるからこいよ!そう言われて学校の体育館に行ったのがミニバスとの出会いだった。でかいことを喜ばれる。ぶつかった相手がふっとんでも責められない。思い切り動き回れて、自分の特徴をよさにすることができる。俺はのめり込んだ。その分、日常生活では気を遣った。不注意でけがなどさせないように。人に触れるときには、力を抑えて。
「叩いて」
「は?」
「気合いいれてよ。背中叩いて」
「なんだ、そういうことか」
センター試験の結果をうけ、前期試験は山口、後期試験は鹿児島に出願したという。2次試験の会場にむけて、明日の朝出発するというのにわざわざ訪ねてきたのでなんの用かと思ったら、草野はくるりと背中を見せた。手を当てて、1発叩くと、違う違う!と怒りはじめた。
「ドキドキしちゃって」
「あれだけやっただろ」
「うん」
「自信がないのか」
「わかんない、そんなはずないと思うんだけどなんか手が冷たくて」
ポケットから出して見せた、細い指の、小さな手のひらを、自分のそれで包み込む。あまりの冷たさに、言葉がでなくなってしまった。
「いつでも思い出せるように、背骨折れてもいいから」
お願い、と、またくるりと背中を向けた草野の、肩甲骨の間あたりに手を当てた。がんばれ、と心の中で呟いて、思い切り背中を叩いた。ばん、という音と同時に、ぐっ、と声がして、草野は勢いよく、大きく一歩ふっとんだ。
「いったー!やば、さすがゴリラ」
「お前がやれって言ったんだ」
「ふ、はは、まじで痛い!はは、」
「おい、おかしくなったか」
「はは、痛い、なんかもう、大丈夫。ほんとありがとね、赤木」
「明日見送り、いるか」
「いい、今ので十分」
ありがとう、と、いつものように笑って、走って出ていってしまった。草野が曲がっていった方にむかって、がんばれ!と叫んだ。