赤木と恋が始まらない
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「えっ木暮?木暮じゃん久しぶり!元気?」
「おー、草野!変わってないなあ!」
本棚の裏から押さえきれず弾んだらしい声が響き、俺はそっと顔を出す。俺と目が合うとそいつは口を押さえて、でかっ!と言った。図書館というのは静かにすることを求められる反面音が響きやすいつくりになっている。木暮があわてて外に出ようと言って、それに続いた。
ポニーテールを揺らして口をあんぐりあけているのは、北村中の同級生で女子バスケ部のキャプテンだった草野だった。妹の晴子の先輩にあたり、それはそれは可愛がってもらったという、さっぱりした奴だった、と記憶をたどりながら、静かに図書館を出て、ひんやりしたコンクリートが続く軒下の日陰のベンチに腰を下ろす。
「赤木………でかくない………?」
「お前他に言うことないのか」
「いやでかいって。もともとでかかったけど、背ものびた?筋肉も髪型もやばくない?」
「はは、なんたって後輩からゴリって呼ばれてるくらいだからね」
「ゴリってゴリラのゴリ?」
「そうそう」
「おい!」
「いって!やめろよ~」
「てゆーか!そうだよね、インターハイ出たんでしょ?すごいよね、よく頑張ったよね!晴子も喜んだでしょ」
「今年は良いメンバーが揃ったからなあ。そうだ、赤木の妹最近マネージャーになったんだよ」
「マネージャー!なるほど、向いてるかも!あのほら、中学の頃キャーキャー言ってたあの子どうなったんだろう、名前なんだっけ」
「もしかして流川のことか」
「そうそう!ルカワ!どこに行ったんだろう」
「流川は、うちのエースだ」
「え、うちって、湘北の!?」
「赤木の妹も春からずっとみに来てたもんなあ」
「流川があんなんじゃどうにもならん」
「それは言えてる」
「それよりお前、いつぶりだ。他に言うことあるだろ、久しぶりとか」
「ごめん、あんまりでかくて。卒業式ぶり?木暮は前に駅で会ったよね」
「あれ、いつだ?去年の冬?」
「おととしじゃないっけ」
「そうだっけ」
「草野も勉強か」
「そうなの。帰宅部でみっちり勉強したのにさ、ここにきて数学がもう一越伸び悩んでて」
「赤木に教えてもらえよ、成績良いぞ。どこ受けるんだ?」
「センターの結果にもよるけど、国立の獣医学部にいきたいの。だからまあ北海道か鹿児島か」
「極端だなあ」
「あとまあ、鳥取とか、山口とか?」
「それでも遠いなあ」
「2次でいるのか」
「そう、3Cまで。2人も勉強?」
「…やるか、一緒に」
木暮は温厚だけど度胸もあるし、俺を平気でゴリラといじってくるような失礼さを、久々に会う同級生にも発揮している。志望の大学なんか突然よく聞くものだしこいつもよく答えるな。とはいえ国立で獣医となれば、医学部ほどではないが理系でまあまあ上位に違いはあるまい。
勉強?と聞かれれば頷くしかなかった。週末は必ず来ているというので、来れるときに一緒に勉強することになった。木暮と草野があまりテンポよく話すもので、俺はただうん、と言っただけだ。屈託なく嬉しそうにした顔が、以前と変わっていないな、と思いながら。
家に帰って晴子に、草野に会ったと話すと、それはそれは嬉しそうな声をあげた。
「顔見に行きたいけど…私なんかが行っても勉強の邪魔よね。お兄ちゃんよろしく言っておいて」
「テスト週間ならいいんじゃないか?あいつもお前のこと気にしてたし喜ぶだろ」
「そうかしら。草野先輩は本当に親切でいじわるなとこがなくてね、憧れてたの」
「ああ、知ってる」
知ってる。中学生の女子にしてはまっすぐすぎるあいつは、キャプテンでありながら一時部内で孤立していた。へそを曲げず、機嫌を損ねずがんばり続ける姿に、まわりの方が根負けして最終的には良い雰囲気だったと、隣で練習しながら思っていた。高校のバスケ部の同級生が次々と去り、とうとう木暮とふたりになったとき、あいつの一人で立つ姿の、圧を放つほどの清涼感を思い出していた。そんなことを言ったらあいつはどんな顔をするだろうか。
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