高砂くんの表情筋
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高校生の頃高嶺の花だと思い込んでいた女の子が、30すぎて再会したらなかなかひねくれて拗れた女になっていて、俺はがっかりするというより寧ろ、同じ人間だったんだなあとわかって安心すらした。完璧な人間なんてなかなかいるもんじゃない。あの牧がプロポーズのサプライズをうっかり本人の前で喋ってしまったとマネージャーから聞いたときは、うんうんそういうとこあるんだよな、と頷いてしまったのを思い出す。
笹原とは仕事の関係でちょくちょく顔をあわせている。午前に出向けばランチを、直帰のときは晩飯を一緒に食べて、帰りは送っていく。帰らないでとかそういうことを、あれから一度も言わなくなった。鍵がかかる音のあとにドアの内側からおやすみ、と聞こえる柔らかい声に、あたたかな思いを募らせる。
異性に対する好意を伝えるという経験がないまま30を過ぎてしまった。俺は一体どうすればいいのか、身動きの取り方がわからない。顔をあわせるたびに、元気はあるか、無理してないか、気に掛けて顔色を見るけどたぶん、笹原の方が何枚も上手だろうから本当のところはわからない。同じ好きでもマネージャーに向けるのとは違う、なにかうまく言葉にできない生ぬるくてむず痒いものが胸をしめる。こういう自分の気持ちと、向き合うことにも慣れていない。自分でもよくわかっていないこの気持ちを、そのままぶつけることもできない。笹原が距離を保ってくれていることに甘えて、俺はこわくて目を背ける。