神さんになびかないマネージャー
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清田が連れてきたマネージャーのまどかちゃんは、正式に入部する前から、俺の自主練につきあってくれてもう1か月になる。今までのマネージャーも、自主練に付き合うと言ってくれた人はいたけど、あまりに単調だし時間もかかるのですぐに嫌になってしまう人ばかりだった。まどかちゃんには、はじめ何度か早めに帰ったら?と声をかけたけど、どうやら没頭するタイプらしく、無理に付き合ってくれているという風でもない。最初こそ遠慮していたものの、すっかり俺の後ろを指定席のようにしている。
テスト週間に入ってからは俺も自主練を控えているので、まどかちゃんは信長と歩いて帰っていく。先に出ていった二人に自転車で追い付いて、速度を落として声をかけた。
「まどかちゃん、明日一緒に勉強しない」
「えっ、いいんですか」
「去年の問題見せるよ、いつも付き合ってもらってるお礼」
「ちょっっっと神さん!この清田信長もいますよ!!俺にも過去問見せてください!」
「お前はそれ以前の問題じゃないの?」
「あんたがいると集中できないんだけど」
「大体お前、部活ないのに朝起きれるのか?」
「えっ、なんか二人仲良くないですか…!?」
「なんたって毎日ここに乗せてるからね」
「えっ!ずりー!神さんの後ろはおれの特等席なのに!」
「まあ、朝起きれたら仲間にいれてあげる」
「なんすかそれ~」
わーわー言ってる信長をほったらかして、まどかちゃんを振り返ってまた明日、と言うと、めんたまをぱちくりさせて小さく会釈をしてくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
約束の朝10時、まどかちゃんは、家の前でかばんを抱えて待っていた。元陸上部というだけあって、ショートパンツから筋肉質の細長い脚がのびている。
「おはようございます」
「信長は? 」
「さあ、寝てるんじゃないですか?起こしにいきます?」
「いや、いいや。図書館でもいく?」
「そーですねえ、」
「ちょだとまったあーーー!!!!」
上から声がしたと思ったら、2階の窓から信長が身を乗り出している。なかなかのボリュームが住宅街にこだまする。近所迷惑すぎないか。
「どーだ!おきたぞ!」
「ばーか、寝巻きじゃん」
「俺もいれてくださいよ!」
「本気?」
「じゃあ神さん、散らかってるけどノブの部屋で。いきましょ」
「えっ、勝手に決めた?」
「すぐ上がるからせめて着替えときなさいよ」
「うっせー!かってにしろ!」
「おばちゃーん!おはよー!聞こえたー?あっ神さんどうぞ」
「えっ、どうぞって?」
「まどか?あのバカなに叫んでるの、ほんと恥ずかしいんだけど!」
「一緒に勉強したいんだって!バスケ部の先輩連れてきたから。ほら神さん上がって!」
「え、あ、おじゃまします…えーと、2年の神宗一郎です」
「あら!あらあらあら!えー!美男子じゃなあい!んまあ~信長の母です!いつもうちのバカがお世話になっております!」
「いえ、こちらこそ…」
自分ちのように信長の家にずけずけ上がり込んだまどかちゃんは、信長のお母さんに雑に俺を紹介すると、冷蔵庫を開けてお茶をいれはじめた。お盆の上にグラスが3つならんでいる。
「どーせ今起きたんでしょ」
「そうよ、朝練ないから起こさなくていいって言うから放っておいたらこんな時間よ、あーはずかしい!すみませんね先輩、散らかってるんだけどゆっくりしていってくださいね。あっまどか、そこにあるチョコレートもって上がっていいよ。父ちゃんが職場の人におみやげで貰ってきたの」
「やったー、ありがとう!よし神さんいきますよ。」
「あ、うん」
ほぼ自分ちのトーンでここまできたまどかちゃんは、階段をまたずけずけ上がっていって、ノックもせずに信長の部屋のドアのノブを肘ではじいて、爪先をひっかけて扉をあけた。信長は惜しくも寝巻きを脱ぎ捨てたところで、パンツ一丁でクローゼットの前にたたずんでいる。まどかちゃんは顔色ひとつ変えずに信長に蹴りをいれる。
「なにやってんの」
「…ジャージ以外って、なに着ればいいんだっけ」
「えっ、バカなの」
「いや、休みの日にバスケしないの久々すぎて」
「勉強なんだしジャージでもいいんじゃない?」
「たしかに!神さん冴えてる!」
俺が冴えてるんじゃなくてお前がとぼけてるんだろ、と突っ込むのも面倒だ。さっきから突っ込みどころしかない。まどかちゃんは、ローテーブルの上を占拠するバスケやグラビアの雑誌をがさっと床の上に追いやってからっぽにすると、クッションを拾ってきてお尻のしたに敷いてしまった。飯食ってきます、と寝巻きを抱えて出ていった信長がいない間に、俺も慌てて問題集をひろげる。
「本当に幼馴染みって感じだね」
「物心つく前から一緒なんで、おばちゃんも親と変わんないし、家族みたいなもんです」
「ふーん」
「神さん数学得意です?二次関数の、グラフで面積だすやつ、めっちゃ時間かかるんですけど」
「ああそれ、いけると思う見せて」
「わー、助かります」
「ああ、これは引き算でもいいけど、こっちの軸からの高さがわかれば一発でいける」
「なるほど、1問目にしてはボリューミーだと思って」
「たしかに」
「ここがいければあとは…でも数学、提出課題多くてきついですね」
「まあでもその分、そのままテストに出るから」
「やっぱそうなんですか?じゃあちゃんとやろう」
「まどかちゃんってさ」
「はい?」
「なんか、こつこつしてるよね」
「へ?」
「なんかこう、目の前のことをこつこつやるの、好きなの?」
「んー、好きっていうか、なんだろう、やらずにいられない?放っておけない?ってかんじかな…」
「なるほど、それでマネージャーも」
「そうです、あんな汚い洗濯物と部屋見せられたら、放っておけなくて」
「でもまあなんか、気持ちはわかるかも。潔癖ってのとは違うもんねえ」
「潔癖だったらこんな汚い部屋来れないでしょ」
「たしかに」
おい今おれの悪口言っただろ!とでっかいおにぎりを片手に信長が戻ってきた。さあどこまで勉強になるか。
「ノブ、数学の課題どんくらいやった?」
「は?今からだけど?」
「やば、間に合うかな…まあやるか」
「おい、それよりなんの話してたんだよ、おれの悪口言ってただろ、」
「信長が小学生になっても注射で泣いてた話をきいてたんだ」
「おいてめー!ゆるさん!お前なんか自転車で溝に落ちて前歯欠けてたじゃねーかノロマ」
「は!最近でも私のお皿に野菜乗っけてくるのどこの赤ちゃんよ!」
「なんだとこのまな板!」
まどかちゃんは信長の鼻と耳をつねりあげ、信長はまどかちゃんの襟元をひねりあげて足が浮いてしまっている。俺はもうどうにもできなくてあわあわ、なんといえばいいのかもわからない。まどかちゃんって、と言うと、ふたりは手を離してこっちを見た。
「信長がいると、なに考えてるかよくわかるようになるね」
「えっ、わたし普段そんなにミステリアスですか?」
「なんてゆーか、動機が見えづらいというか」
「まあ、わたしがいくら洗濯や部室の掃除してもメリット特にないですからね」
「そうでしょ。ほら、牧さんに好かれたいとかそういうやつじゃないじゃん」
「まあ、それはそうです」
「なにが好きかとかも、なかなかわからないし。でも信長といるのみると安心する」
「うーん、それはあんまり喜ばしい話じゃないですけど」
問題集をひらいた信長が、平方完成ってなんだ?と首をかしげている。ためいきをついたまどかちゃんは、根気よく平方完成のやり方を教えはじめた。結局公式を覚えることが大事なんだ。5問目くらいをときはじめたあたりで、信長が、ん?なんかわかってきたぞ?と嬉しそうな顔をし始めた。勉強も体で覚えるタイプか、いやいやお前授業中なにしてんだよ。お昼になるとまどかちゃんがお腹空いたー!と下におりていき、やっぱり我が物のように台所を使って作ったらしい焼きそばを、3人でたらふくたべた。