神さんになびかないマネージャー
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(母の遭遇)
まきさん、という名前は、娘からもノブからもしょっちゅう聞いている。同じバスケ部の先輩といっても、のんきでフラットな雰囲気の神くんとはどうやら全然違う感じの人だ。一度ウィンターカップを見に行ったときには、娘が迷惑かけてないかと心配するわたしたちに丁寧に挨拶をしてくれた、まるで顧問のような子だ。結局大学でも引き続きお世話になって、その牧くんの学年が出る最後の全国レベルの大会が今度あるというので、見に行こうと清田家から誘われた。前も両家の夫婦が揃って、清田パパの運転で行ったので今回もそうなるんだろうな。
「え?来るの?」
「うん、準決勝の日がみんな都合よくて」
「忙しいから相手できないかもしんないけどまあどーせ四人で来るんでしょ?」
軽い会話だけど、それは私にとっては嬉しい反応だった。中学生のときはどうも人間関係がうまくいかなかったようで、来ないでほしいと言われてわたしも素直に頷いた。娘の性格が思春期の女の子のなかで受け入れられない場合もありそうということは感じていたし、幸いにもノブが最後は決してひとりにはしてくれないことをわかっていたので深追いこそしなかったが、気にはかけていたの、親として。
進学校としても有名な海南にはいると、早々にクラスの友達と気があったと話を聞いて安心していたが、それどころではなかった。バスケ部に入ってからは、どんどん本来の娘らしさが戻ってきた。男の子ばかりと言ってもノブがついてるし、学校の友達も離れずにいてくれるというので安心して喜んでいたら、2年がたったころ彼氏だと言ってさわやかな好青年をつれてきたもんでもうひっくり返るしかなかった。その神くんもたぶん出るんだよね、と少しとは言えない期待をしている。おとといもうちの居間でマリカーに勤しんでたけどどんな顔で試合にでるんだろう。
見に来ていい、というのは、困ったことはありませんオールグリーンの意味を含んでいるように思えて、それでわたしは嬉しくなったのだ。
ーーーーーーーーー
見慣れた海南の、紫と黄色のジャージの集団が2階席に見えた。同じサイドの少し離れた真ん中あたりを目指して階段を降りていくと、近くに座っているひとりの女性が目についた。若々しいけどたぶん私ぐらいの歳。小顔で色白で大きな目。わたしの視線に気付いた彼女も何かを言いたげにこっちをみている。思いきって声かけるために席を立った。夫や清田夫妻は不思議そうに様子を見ている。
「あの……もしかして神くんの………」
「そうです!もしかしてまどかちゃんの…!」
ほら!だって顔同じだもん。神くんというワードが耳に入ったらしく、夫も慌ててこっちに向かってくる。
「いつも本当に娘がお世話になっております!」
「いえいえこちらこそ、いつもお邪魔させてもらってるようで申し訳ありません」
「とんでもない!どうしてあんなに素敵な子がまどかなんかと不思議で不思議で」
「まどかちゃん、うちの末っ子が今年高校受験なんですけどしょっちゅう勉強見てくれてね、成績が上がってきて志望校に届きそうなんですよ。ぜひお礼を言いたいと思っていたところなんです」
「ご迷惑になっていないんだったらよかった、安心しました」
「ご迷惑もなにも、下の子達が宗ちゃん絶対まどかちゃんと結婚してって言ってますけどわたしもそうなってくれないかしらと思ってるんですよぉ、」
「こちらこそあんなマイペースな子を拾ってくれるのは神くんくらいしか見つからなさそうでなんとかうまく続いてくれないかと…」
お互いに捲し立てて、息のあがった顔を見合わせたところで試合開始に向けてのアナウンスが流れてコートに目をやる。夫は席に戻ったけど、わたしは神さんの横に腰を下ろした。
「今日はわたし、いちばんは神くんが見たくて来たんです」
「そんなあ、お世話になった先輩がもうじき引退なんですよねえ」
「そうそう、聞いてます」
「牧さんもまどかちゃんのことすごく買ってるって、そ、息子が」
「いやあ、ご迷惑かけてると思うんですよ……」
スタメンの選手がコートに入ってくる。たぶんいつか見たウィンターカップのときと同じ子達だと思う。いつも家で元気よく笑ってゲームしたりおやつを食べたりしている神くんは、コートの上ではすごく静かに見える。先輩らしいマネージャーがノートを広げて座っていて、まどかはちょろちょろと出たり入ったりしながら仕事をしている。いつもあんなに仲良しの神くんや、きょうだい同然のノブとも話さないどころか目も合わせないのが、まるでみんな別人のようにみえる。
はじめてちゃんと意識して見る試合中の神くんに、わたしは釘付けになった。息を飲むほどの綺麗なシュートはもちろんのこと、それはもう、走る走る。走っては止まり、跳んでは走り。派手に相手を引き付ける牧くんやノブからうまくパスを受けるタイミングと場所を探すように、素早く細かく動き回る神くんにもう釘付けになった。ハーフタイムに神さんから、まどかちゃん働き者ですね、とおほめの言葉を頂戴したけどごめん、娘のことは全然見てなかったわ。
ーーーーーーーーーーーーー
ちょっとお茶してくる!と神くんママと妻はすぐそこにあった喫茶店の名前を告げて行ってしまった。清田家とロビーで試合のことをあれこれ話していると、海南の選手がぞろぞろ出てくる。ノブが俺たちを見つけて、おばちゃんいねーの!?と声をかけてきた。
「母さんね、神くんママと出会っちゃってお茶しに行った」
「………へ?」
大柄な男子の皆さんがぶっと一斉に吹き出すのが見えた。
「ごめん神くん、止めた方がよかった?」
「あ、いやあ…………」
色白な神くんの顔がぶわあと赤くなる。娘の彼氏をこんな風に思うのも変なのかもしれないけど本当にかわいらしい子だと思う。後ろの方から走って追い付いてきたまどかがノブと同じようにかーさんは!?とでかい声で尋ねたもんでまわりはもう躊躇わず笑っている。
「えっ!?なに!?わたし変なこと言いました?」
「おい、おまえ、結婚式呼べよ」
「は?むとーさん頭おかしくなりました?」
何がなんだかときょろきょろするムスメと、真っ赤な神くんと、それから楽しげなみんなを見比べて、俺もとうとう吹き出した。
まきさん、という名前は、娘からもノブからもしょっちゅう聞いている。同じバスケ部の先輩といっても、のんきでフラットな雰囲気の神くんとはどうやら全然違う感じの人だ。一度ウィンターカップを見に行ったときには、娘が迷惑かけてないかと心配するわたしたちに丁寧に挨拶をしてくれた、まるで顧問のような子だ。結局大学でも引き続きお世話になって、その牧くんの学年が出る最後の全国レベルの大会が今度あるというので、見に行こうと清田家から誘われた。前も両家の夫婦が揃って、清田パパの運転で行ったので今回もそうなるんだろうな。
「え?来るの?」
「うん、準決勝の日がみんな都合よくて」
「忙しいから相手できないかもしんないけどまあどーせ四人で来るんでしょ?」
軽い会話だけど、それは私にとっては嬉しい反応だった。中学生のときはどうも人間関係がうまくいかなかったようで、来ないでほしいと言われてわたしも素直に頷いた。娘の性格が思春期の女の子のなかで受け入れられない場合もありそうということは感じていたし、幸いにもノブが最後は決してひとりにはしてくれないことをわかっていたので深追いこそしなかったが、気にはかけていたの、親として。
進学校としても有名な海南にはいると、早々にクラスの友達と気があったと話を聞いて安心していたが、それどころではなかった。バスケ部に入ってからは、どんどん本来の娘らしさが戻ってきた。男の子ばかりと言ってもノブがついてるし、学校の友達も離れずにいてくれるというので安心して喜んでいたら、2年がたったころ彼氏だと言ってさわやかな好青年をつれてきたもんでもうひっくり返るしかなかった。その神くんもたぶん出るんだよね、と少しとは言えない期待をしている。おとといもうちの居間でマリカーに勤しんでたけどどんな顔で試合にでるんだろう。
見に来ていい、というのは、困ったことはありませんオールグリーンの意味を含んでいるように思えて、それでわたしは嬉しくなったのだ。
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見慣れた海南の、紫と黄色のジャージの集団が2階席に見えた。同じサイドの少し離れた真ん中あたりを目指して階段を降りていくと、近くに座っているひとりの女性が目についた。若々しいけどたぶん私ぐらいの歳。小顔で色白で大きな目。わたしの視線に気付いた彼女も何かを言いたげにこっちをみている。思いきって声かけるために席を立った。夫や清田夫妻は不思議そうに様子を見ている。
「あの……もしかして神くんの………」
「そうです!もしかしてまどかちゃんの…!」
ほら!だって顔同じだもん。神くんというワードが耳に入ったらしく、夫も慌ててこっちに向かってくる。
「いつも本当に娘がお世話になっております!」
「いえいえこちらこそ、いつもお邪魔させてもらってるようで申し訳ありません」
「とんでもない!どうしてあんなに素敵な子がまどかなんかと不思議で不思議で」
「まどかちゃん、うちの末っ子が今年高校受験なんですけどしょっちゅう勉強見てくれてね、成績が上がってきて志望校に届きそうなんですよ。ぜひお礼を言いたいと思っていたところなんです」
「ご迷惑になっていないんだったらよかった、安心しました」
「ご迷惑もなにも、下の子達が宗ちゃん絶対まどかちゃんと結婚してって言ってますけどわたしもそうなってくれないかしらと思ってるんですよぉ、」
「こちらこそあんなマイペースな子を拾ってくれるのは神くんくらいしか見つからなさそうでなんとかうまく続いてくれないかと…」
お互いに捲し立てて、息のあがった顔を見合わせたところで試合開始に向けてのアナウンスが流れてコートに目をやる。夫は席に戻ったけど、わたしは神さんの横に腰を下ろした。
「今日はわたし、いちばんは神くんが見たくて来たんです」
「そんなあ、お世話になった先輩がもうじき引退なんですよねえ」
「そうそう、聞いてます」
「牧さんもまどかちゃんのことすごく買ってるって、そ、息子が」
「いやあ、ご迷惑かけてると思うんですよ……」
スタメンの選手がコートに入ってくる。たぶんいつか見たウィンターカップのときと同じ子達だと思う。いつも家で元気よく笑ってゲームしたりおやつを食べたりしている神くんは、コートの上ではすごく静かに見える。先輩らしいマネージャーがノートを広げて座っていて、まどかはちょろちょろと出たり入ったりしながら仕事をしている。いつもあんなに仲良しの神くんや、きょうだい同然のノブとも話さないどころか目も合わせないのが、まるでみんな別人のようにみえる。
はじめてちゃんと意識して見る試合中の神くんに、わたしは釘付けになった。息を飲むほどの綺麗なシュートはもちろんのこと、それはもう、走る走る。走っては止まり、跳んでは走り。派手に相手を引き付ける牧くんやノブからうまくパスを受けるタイミングと場所を探すように、素早く細かく動き回る神くんにもう釘付けになった。ハーフタイムに神さんから、まどかちゃん働き者ですね、とおほめの言葉を頂戴したけどごめん、娘のことは全然見てなかったわ。
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ちょっとお茶してくる!と神くんママと妻はすぐそこにあった喫茶店の名前を告げて行ってしまった。清田家とロビーで試合のことをあれこれ話していると、海南の選手がぞろぞろ出てくる。ノブが俺たちを見つけて、おばちゃんいねーの!?と声をかけてきた。
「母さんね、神くんママと出会っちゃってお茶しに行った」
「………へ?」
大柄な男子の皆さんがぶっと一斉に吹き出すのが見えた。
「ごめん神くん、止めた方がよかった?」
「あ、いやあ…………」
色白な神くんの顔がぶわあと赤くなる。娘の彼氏をこんな風に思うのも変なのかもしれないけど本当にかわいらしい子だと思う。後ろの方から走って追い付いてきたまどかがノブと同じようにかーさんは!?とでかい声で尋ねたもんでまわりはもう躊躇わず笑っている。
「えっ!?なに!?わたし変なこと言いました?」
「おい、おまえ、結婚式呼べよ」
「は?むとーさん頭おかしくなりました?」
何がなんだかときょろきょろするムスメと、真っ赤な神くんと、それから楽しげなみんなを見比べて、俺もとうとう吹き出した。